文献情報
文献番号
201204006A
報告書区分
総括
研究課題名
環境中の疾病要因の検索とその作用機構の解明に関する研究
課題番号
H24-国医-指定-006
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
中釜 斉(独立行政法人国立がん研究センター 研究所)
研究分担者(所属機関)
- 渡辺 徹志(京都薬科大学)
- 鈴木 孝昌(国立医薬品食品衛生研究所)
- 續 輝久(九州大学大学院 医学研究院)
- 椙村 春彦(浜松医科大学 腫瘍病理学講座)
- 若林 敬二(静岡県立大学 環境科学研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 地球規模保健課題推進研究(国際医学協力研究)
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
9,091,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
アジア地域は、著しい経済発展やそれに伴うライフスタイルの変化により、がんや糖尿病を含む生活習慣病が増加している。これらの疾病の中でも主にがんに焦点を当て、アジアに特徴的な病因を解明し、罹患率の減少を目指す。そのために、環境中に存在する変異原や発がん物質の、ヒトのがん発生との関連を解明すると共に、新規のがん原性物質を探索する。アジア地域特有のがん発生の原因やアジア人に特徴的な遺伝的素因の同定、及びその分子機構を解明し、高危険度群の掌握に基づくより具体的ながん予防策を構築する。
研究方法
主に胃がん、肺がん及び糖尿病患者のがん発生の原因となる、アジアに特徴的な環境要因を同定し、疫学研究による検証を行うと共に、候補要因の発がんへの影響を解析する。又、遺伝的要因の影響も解析する。本年度は下記項目を検討した。
環境要因の同定として(1)~(3)を行った。(1)日中の胃がん患者の胃がんの変異spectrumを解析した。新たに、DNA付加体をカラム精製後、LC-MS解析する簡便な検出法も試みた。(2) 黄砂を含む長距離輸送性大気汚染に関しては、2011年2月~5月にかけて、中国、韓国各1箇所、西日本の5箇所で、PM2.5を含む大気粉塵を捕集した。大気粉塵中の化学成分及び遺伝毒性を測定し、後方流跡線解析により気塊の移動経路を検討した。(3) アジアで急増する糖尿病に関して、in vitroモデルで同定したABAQのin vivo変異原性及び動物モデルでの生体内生成を解析した。又、肥満モデルマウス肝臓での酸化損傷由来DNA付加体をLC/MS/MSで定量した。(4) 候補要因の発がんへの影響の解析系として、正常上皮由来3D培養細胞を用いるin vitro化学発がんモデルを構築する。小腸3D細胞にがん抑制遺伝子shRNAを導入(遺伝子再構成)し、発がん物質に暴露後、造腫瘍性を検討した。肺でも3D培養系を構築して、遺伝子再構成による発がんを検討した。(5) 遺伝的要因として修復因子に着目し、Ogg1[酸化DNA損傷修復関連遺伝子] 欠損及び野生型マウスに、X線を全身照射した。放射線感受性の高い臓器である小腸を用い、DNA損傷・損傷応答等を免疫組織学的に解析した。(6) 中国・台湾で使用される生薬に含まれるアリストロキア酸(AA)による腎障害のバイオマーカーを探索した。AA投与マウスの高感度尿プロテオーム解析を行い、更に、MS/MS測定結果を用いたデータベース検索でタンパク質の同定を行った。
環境要因の同定として(1)~(3)を行った。(1)日中の胃がん患者の胃がんの変異spectrumを解析した。新たに、DNA付加体をカラム精製後、LC-MS解析する簡便な検出法も試みた。(2) 黄砂を含む長距離輸送性大気汚染に関しては、2011年2月~5月にかけて、中国、韓国各1箇所、西日本の5箇所で、PM2.5を含む大気粉塵を捕集した。大気粉塵中の化学成分及び遺伝毒性を測定し、後方流跡線解析により気塊の移動経路を検討した。(3) アジアで急増する糖尿病に関して、in vitroモデルで同定したABAQのin vivo変異原性及び動物モデルでの生体内生成を解析した。又、肥満モデルマウス肝臓での酸化損傷由来DNA付加体をLC/MS/MSで定量した。(4) 候補要因の発がんへの影響の解析系として、正常上皮由来3D培養細胞を用いるin vitro化学発がんモデルを構築する。小腸3D細胞にがん抑制遺伝子shRNAを導入(遺伝子再構成)し、発がん物質に暴露後、造腫瘍性を検討した。肺でも3D培養系を構築して、遺伝子再構成による発がんを検討した。(5) 遺伝的要因として修復因子に着目し、Ogg1[酸化DNA損傷修復関連遺伝子] 欠損及び野生型マウスに、X線を全身照射した。放射線感受性の高い臓器である小腸を用い、DNA損傷・損傷応答等を免疫組織学的に解析した。(6) 中国・台湾で使用される生薬に含まれるアリストロキア酸(AA)による腎障害のバイオマーカーを探索した。AA投与マウスの高感度尿プロテオーム解析を行い、更に、MS/MS測定結果を用いたデータベース検索でタンパク質の同定を行った。
結果と考察
環境要因の外的要因としては、(1)日中の胃がんの変異スペクトラム解析から、酸化損傷由来DNA付加体の多い地域の検体は、炎症関連と推定される変異が多く、胃粘膜DNAの網羅的付加体解析の結果と一致した。又、酸化損傷由来DNA付加体を簡便な方法で検出可能であった。暴露指標であるDNA付加体profileからの環境要因の探索の可能性を示した。(2)日中韓で同時期に捕集したPM2.5を含む大気粉塵を解析した結果、粉塵濃度、粉塵中の金属・イオン類の濃度、総PAHs濃度及び大気粉塵抽出物の変異原性は、中国において最も高かった。又、後方流跡線解析から、中国での著しい大気汚染が日本の大気環境に影響することが示唆された。現在、日本での健康影響について調査中である。 (3)内的要因では、糖尿病に関して、ABAQがin vivo欠失変異も誘発し、かつI及びII型糖尿病モデルラット尿中から高値で検出されたので、糖尿病患者の生体内でも変異を誘発し、発がんの高リスクに関与する可能性が示された。又、肥満モデルマウスの肝臓では、酸化損傷由来DNA付加体が多く、肥満関連発がんへの関与が示唆された。(4)正常上皮由来3D培養細胞を用いるin vitro化学発がんモデルでは、種々のがん抑制遺伝子shRNAを導入した細胞を用いる発がん高感受性モデルを構築中である。この系を構築できれば、環境要因の候補の発がんへの影響を調べる、in vivo発がん性試験に先行するスクリーニングや用量の検討に応用可能となる。(5) X線照射による小腸絨毛領域での細胞死の誘発がOGG1欠損マウスで低頻度だが検出され、放射線によるDNA障害修復でのOGG1の重要性が示唆された。(6)疾病のバイオマーカー探索では、AA投与マウスの尿プロテオーム解析から、数種の特異的なバイオマーカー候補タンパク質を選定した。ヒトでの再現性を調べ、腎障害の予測や患者の予後予測に応用可能か検討する。
結論
アジア地域に特徴的な環境要因の同定を更に進めて、候補要因の発がんへの影響をin vitro発がんモデルで解析する。又、修復因子等の遺伝的要因との相互作用を解析し、バイオマーカーの開発・高危険度群の掌握による、より具体的ながん予防策の構築により、がん罹患率の減少を目指す。
公開日・更新日
公開日
2013-05-30
更新日
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