福島第一原子力発電所事故による避難者のソーシャルキャピタルと被害構造に関する実証的研究

文献情報

文献番号
201203028A
報告書区分
総括
研究課題名
福島第一原子力発電所事故による避難者のソーシャルキャピタルと被害構造に関する実証的研究
課題番号
H24-地球規模・一般(復興)-003
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
山下 祐介(首都大学東京 都市教養学部)
研究分担者(所属機関)
  • 松薗 祐子(淑徳大学 総合福祉学部)
  • 西城戸 誠(法政大学 人間環境学部)
  • 山本 薫子(首都大学東京 都市環境科学研究科)
  • 山本 早苗(富士常葉大学)
  • 菅 磨志保(関西大学 社会安全学部)
  • 後藤 範章(日本大学 文理学部)
  • 高木 竜輔(いわき明星大学 人文学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 地球規模保健課題推進研究(地球規模保健課題推進研究)
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
3,667,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 本研究は、平成23年3月に発生した福島第一原子力発電所事故によって居住地が「警戒区域」とされ、全国各地での避難生活を余儀なくされている住民たちをめぐる生活被害の実態および被害構造を、社会学におけるソーシャルキャピタル(以下、SC)論の観点から調査・解明し、またそこから生活再建•地域再生のあり方について提言を行うものである。
 すでに事故発生から1年半以上が経過したが、避難者はいまだ困難な生活状況に置かれている。政府による収束宣言はなされたものの、再建の行方は見えない。一方で、一部地域の区域指定解除、中間貯蔵施設の設置場所、仮の町問題などで、避難者がおかれている状況はますます複雑化しつつある。現在の補償問題は、賠償をめぐって経済的被害に焦点が当てられ、SCを含めた社会的文化的被害については十分に考慮されていない。しかし、実際には各地への離散による家族親族、友人、近隣、職場との絆の喪失、互助関係の破壊、地域社会・文化の破壊が被害の中核にある。しかもそれは現在進行中であり、こうした生活・社会被害の実態とその構造を明らかにすることが対策を考えるために急務である。
研究方法
 原発避難とソーシャルキャピタルに関わる本研究事業ではこれまで、(1)原発避難者のソーシャルキャピタルの、原発事故を起因とした破壊の実態、さらには事故後2年間の再編過程とそこで生じる人々の声のパネル調査を通じた検討、(2)こうした避難者たちを支える支援者たちのネットワーク形成と、そこで展開されるソーシャルキャピタルの活用/展開、そしてまたそこで生じる声の調査を通じた検討を行った。
結果と考察
 原発事故は、強制避難地の全員避難、そしてまた一部の高線量地域での自主避難を通じて、人々のソーシャルキャピタルを大きく破壊した。他方で、避難はそれぞれの親族や友人など、堅く信頼感のあるソーシャルキャピタルを活用しておこなれた。そうした資源は、活用することでより強くなった場合があるとともに、長期避難を通じて崩壊したり人々の関係を劣悪なものにした場合がある。
 2011年3月からの緊急避難を経て、2012年度にはさらに、町民たち自身の絆が、(すなわちいったん崩壊したネットワークが)新たにソーシャルキャピタルとして活用され、新しいネットワークの形成が試みられるようになった。しかしまだそれは端緒であって、今後の展開を見ていく必要がある。
結論
 現在進めている帰還政策は、そもそも断絶の中にいる避難者たちの関係をさらに大きく引き裂きつつある。このまま帰還政策のみを推進し、それ以外の避難者対策をせずに済ましてしまえば――帰還をいわば強制的に要請される役場職員や、帰還以外の選択肢のない社会的弱者のみが帰還することになり、多くの避難者が事実上帰還できないとすれば、こうしたネットワークの再形成といった努力は、町の再生につながるというよりは、町や国に対抗する勢力形成へとつながって行く可能性がある。その際、我々が関与しているネットワークは町の中間層であって基本的に穏健だが、避難している人々の中には今回の事故に対する恨みや、政府や専門家に対する不信を募らせているものもおり、また反社会的勢力とのつながりも皆無とはいえないのだから、避難者たちが徐々に再建しつつあるネットワークが、どんな形で反体制の動きにつながるかについては十分に注意する必要がある。研究を行った者としては、そうした形へと展開する前に、避難者たちの声を十分に拾い上げ、そこから、一部ではなく、より多くの人々が安心して生活再建にのぞめるような様々な選択肢づくりを構成することが望ましいと結論づけられる。また自治体に関しても、その長期的な存続の道を早く確保し、現在のような拙速なものではなく、長期的な観点で帰還が可能になるような道筋を描き出すことが必要であり、そのためにも住民票の二重登録のような実現可能な施策については早急に具体的に検討する必要がある。いうなれば、避難者たちのソーシャルキャピタルの長期的な保持政策が必要なのである。
 なお、現在のところ避難を通じた放射線被曝による健康被害は出ていないが、避難者対策を怠ると、今後被害が現実にあらわれた場合に、今の政府の政策は根底からひっくり返る可能性がある。これは過去の公害でも繰り返されてきたことであり、被害者のエンパワーメントこそが、結果として被害対応のもっとも適切かつ早期解決の道筋であることを強調しておきたい。

公開日・更新日

公開日
2013-06-21
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201203028Z