住民主導の集団移転におけるコミュニティの継承とソーシャル・キャピタルの再生・再構築

文献情報

文献番号
201203026A
報告書区分
総括
研究課題名
住民主導の集団移転におけるコミュニティの継承とソーシャル・キャピタルの再生・再構築
課題番号
H24-地球規模・一般(復興)-004
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
森 傑(北海道大学 大学院工学研究院 建築都市空間デザイン部門)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 地球規模保健課題推進研究(地球規模保健課題推進研究)
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
2,160,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 本研究は、東日本大震災の被災地において住民主導により高台への集団移転の計画が進められている先進事例に注目し、そこで挑戦されている住民主体の復興まちづくりにおける関係者の合意形成・意志決定のプロセスと内容と方法、それがもたらすコミュニティの継承における効果と課題を、社会・経済・組織・建設等の複合的視点から理論的・事例的に検討することを目的とする。
 具体的には、研究代表者がコミュニティ・アーキテクトとして参画している、宮城県気仙沼市小泉地区(以下、小泉地区)の集団移転協議会による高台移転への取り組みにに注目し、災害に対して復元力のあるコミュニティとソーシャル・キャピタルをいかに再構築するのか、我が国の喫緊の行政課題を解決すべく、現在進行形の先進事例の詳細なケーススタディと過去の事例および国内外の既往研究との比較分析を行い、今後の復興まちづくりにかかわる厚生労働政策の再設計へ繋がる発展的知見を得ることを目指すものである。
研究方法
 集団移転については、建築計画・都市計画の分野において、例えば田中正人らによる新潟県中越地震における長岡市西谷・小高地区を扱った集団移転事業による居住者の移転実態に関する研究などが見られるが、この度の東日本大震災は未曾有の大災害であり、今後の復興へ向けて直接的に参考となり得る研究の蓄積はほとんどないと言っても過言ではない。
 そのような中、本研究は、ソーシャル・キャピタルの観点から地域の相互扶助コミュニティの基盤となっている資源を発掘し、それを活用した新しい地域単位の捉え方による縮退時代の計画理論の実証的構築を目指すものとして位置づけられ、人口減少時代における地域コミュニティ計画に関する学術的成果のみならず、アクションリサーチとして被災地の復興に直接的に還元する取り組みとして有意義であると考える。
 平成24~26年度の3年間で、以下の3課題に取り組む。平成24年度は、課題(A)住民主導による高台への集団移転の計画プロセスの評価に重点を置き研究を実施した。
(A) 住民主導による高台への集団移転の計画プロセスの評価
(B) 集団移転計画にみる住民のコミュニティ意識の構造の解明
(C) ソーシャル・キャピタルの再生・再構築へ向けての復興支援方策の提言
結果と考察
 小泉地区は2011年3月11日に十数メートルの津波に襲われ、同地区の518世帯のうち266世帯が流出・全壊という被害を受けた。一方、そのような壊滅的な住家被害に対して、1,810人の住民のうち死者・行方不明者は43人にとどまった。約3%という人的被害は、隣町やその他の沿岸部集落に比べ奇跡的ともいえる低さである。このことは小泉地区の立ち上がりの早さと大きく関係している。
 小泉の人的被害3%は決して運任せの結果ではなく、コミュニティとしての必然として成し得たと考えられる。3月11日の直前、小泉地区では津波を想定した避難訓練を実施していた。避難先として公民館が指定されていたのであるが、訓練の際に「ここだと大きな津波が来ると危ないのではないか」という意見が出たという。それをきっかけにその場で議論し「次回に避難をするときは高台にある小学校へ」となったと聞いた。そして3月11日、公民館へは津波が押し寄せ、多くの人が高台の小学校へ避難し助かった。だが、避難場所を高台に設定しただけで人命を救えるわけではない。住民がその高台へ避難しなければまったく意味はなく、高台に避難場所を定めていても多くの被害者を出した地域も少なくない。小泉には、突然変更した避難場所を短期間でほとんどの住民へ周知できるコミュニケーション力と、誰がどこにいるのかを皆が認識し互いに助け合いながら避難できた結束力があったのである。
結論
 ワークショップを通じて、小泉の良いところとして再認識したこととして近隣との付き合いが理解できた。特に移転先の宅地の割り当て方法を検討する際、これまでの繋がりを踏まえて、今後どのようなコミュニティを形成するかといったことが丁寧に話し合われた。ワークショップを通じて、小泉地区の被災前の社会的繋がりや相互扶助が価値共有されたといえる。
 しかしながら、被災前の住民間の繋がりや相互扶助について価値認識が共有された一方で、被災後、各住民の居住地が分散したという大きな環境変化と関係しながら、様々な状況やライフスタイルの変化も生じている。例えば、津波被害により自宅を失った住民の避難居住地の拡散に伴う、自治組織である振興会の休止が挙げられる。また、地区外への転出者が増加し、将来の少子高齢化がさらに加速することが懸念されている。このような変化を受け、住民間の関係や集団移転へ向けた意識にも変化がみられる。

公開日・更新日

公開日
2013-05-31
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201203026Z