薬原性錐体外路症状の診断技術の確立およびその予防に関する疫学的・分子遺伝学的研究

文献情報

文献番号
199800035A
報告書区分
総括
研究課題名
薬原性錐体外路症状の診断技術の確立およびその予防に関する疫学的・分子遺伝学的研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
稲田 俊也(国立精神・神経センター精神保健研究所)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生科学特別研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
-
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
精神分裂病などの精神疾患の治療には広く抗精神病薬が使用されているが,それらを服用中の患者にはさまざまな副作用や有害事象の報告がみられ,なかにはその不快な症状や致死性あるいは難治性の経過をとることなどから服薬中断を余儀なくされるケースがしばしば認められ,精神疾患治療上における大きな問題点の一つとなっている。本研究では,抗精神病薬を服用中にみられる薬原性錐体外路症状の評価診断を正確におこなうために,稲田が開発した薬原性錐体外路症状評価尺度(以下,DIEPSS)を用いた診断評価技術を生かして,各患者の急性錐体外路症状(以下,EPS)または遅発性ジスキネジア(以下,TD)に対する脆弱性を判別し,それに加えて分子遺伝学的アプローチにより,それらの症状を引き起こしやすい遺伝的危険因子となりうる遺伝子座位を見いだすことを主たる目的としている。さらに,そのような遺伝子座位が見出された場合には,それらを実地の臨床検査として行うことが適正かどうかの技術的,経済的および倫理的妥当性についても検討することを目的としている。
研究方法
対象は東京近郊に位置する複数の精神病院に入院または通院しており,抗精神病薬を服用中の精神分裂病患者であり,このうちわれわれが以下に示すEPSあるいはTDについての脆弱性基準を満たす患者のみを選択して,それらの基準により2群に分けた。EPSの評価はDIEPSSを用いて行い,抗精神病薬服用開始後3ヶ月以内に総括重症度が3以上の患者をEPS脆弱群とし,またEPSの徴候が全くみられなかった患者をEPS非脆弱群とした。DIEPSSの開発前から既に入院していた患者については,抗精神病薬投与開始後3ヶ月以内に明らかに重篤なEPSの発症がカルテに記載されており,そのために抗パーキンソン薬の投与あるいは抗精神病薬の減量が行われていた患者もEPS脆弱群に加えた。一方,TDの評価は異常不随意運動評価尺度(AIMS)日本語版を用いて行い,SchoolerとKane(1982)の提唱したTDの診断基準にしたがってTDの有無を判定した。このTDの診断基準を満足し,さらにAIMS日本語版の「総合判定:異常運動の重症度」の項目で中等度以上のTDが1年以上持続してみられた患者,あるいは抗精神病薬服用開始後5年以内に同項目で軽度以上のTDの発症した患者をTD脆弱群とし,また抗精神病薬を服用開始後10年以上経過してもTDの徴候が全くみられない患者をTD非脆弱群とした。各マイクロサテライトのCAリピートの繰り返し配列回数判別手順は対象患者より採取した血液よりDNAを抽出し,第19,20,21,22番染色体上にある34のDNAマイクロサテライトマーカー(D19S209, D19S216, D19S221, D19S226, D19S414, D19S220, D19S420, D19S418, D19S210, D20S117, D20S95, D20S115, D20S189, D20S186, D20S118, D20S195, D20S107, D20S119, D20S178, D20S196, D20S100, D20S173, D20S171, D21S1256, D21S1253, D21S263, D21S1252, D21S266, D22S420, D22S315, D22S280, D22S283, D22S423, D22S274)について,それらを含む部位をそれぞれ特異的な蛍光プライマーを用いてPCR法により増幅し,Genetic Analyzer(ABI PRISM 310,PEアプライドバイオシステムズ)により各対象者のCAリピートの繰り返し配列回数を判定した。これらの各マイクロサテライトの出現頻度の分布について,EPSおよびTDの発症脆弱性の有無により2群に分け,両群間の比較を行った。統計解析はカイ二乗検定およびMonte Carloテストにより群間比較を行い,統計ソフトパッケージSPSS 8.0Jおよびインターネット上でCurtis博士のホームページからダウンロードしたプログラムにより計算されたp値を結果に表示した。
結果と考察
EPSおよびTDの発症脆弱性の有無により2群に分けた各群で,ヘテロ接合体の出現頻度がH
ardy-Weibergの平衡法則からの得られる理論値と有意に分布の異なっていた群はみられなかったものの,D19S209におけるTD脆弱性ありの患者群で観察されたヘテロ接合体の出現頻度はその理論的出現に算出された頻度よりも低い傾向にあった。
各DNAマイクロサテライトごとにCAリピート出現頻度の分布の群間比較を行った統計学的検定結果では,TD脆弱性の有無で分けた2群間の比較については,D22S283で有意差がみられ,D20S173およびD19S418では傾向差がみられた。また,EPS脆弱性の有無で分けた2群間の比較については,D 19S420,D20SS178で有意差がみられ,D22S423,D21S1253,D20S196,D19S418で傾向差がみられた。これらの結果は上記のDNAマーカーの近傍に薬原性錐体外路症状に脆弱性のある遺伝的危険因子の存在する可能性を示唆する所見であると考えられ,今後は更に症例数を増やして,これらの近傍のDNAマーカーを用いた検討や,これらの近傍に位置する遺伝子の機能が薬原性錐体外路症状の発症脆弱性に及ぼす影響について検討するなど,更に多角的な側面からの検討をすすめる必要があるものと考えられた。
結論
薬原性錐体外路症状の発症脆弱性に関連する遺伝子座位を探索することを目的として,抗精神病薬を服用中の精神分裂病患者から末梢血液を採取して,第19,20,21,22番染色体上にある34のDNAマイクロサテライトマーカーについてそのPCR増幅産物について調べ,EPSおよびTD脆弱性との関連について検討した。その結果,TD脆弱性の有無で分けた2群間の比較については,D22S283で有意差がみられ,D20S173およびD19S418では傾向差がみられた。一方,EPS脆弱性の有無で分けた2群間の比較については,D19S420,D20SS178で有意差がみられ, D22S423,D21S1253,D20S196,D19S418で傾向差がみられた。これらの結果は上記のDNAマーカーの近傍に薬原性錐体外路症状に脆弱性のある遺伝的危険因子の存在する可能性を示唆する所見であると考えられた。

公開日・更新日

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