医薬品の国際共同開発及び臨床データ共有の推進に向けた東アジアにおける民族的要因に関する研究

文献情報

文献番号
201203002A
報告書区分
総括
研究課題名
医薬品の国際共同開発及び臨床データ共有の推進に向けた東アジアにおける民族的要因に関する研究
課題番号
H23-地球規模-指定-001
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
川合 眞一(東邦大学医学部医学科 内科学講座膠原病学分野)
研究分担者(所属機関)
  • 頭金 正博(名古屋市立大学大学院薬学研究科・医薬品安全性評価学)
  • 竹内 正弘(北里大学薬学部・臨床医学)
  • 吉成 浩一(東北大学大学院薬学研究科・薬物動態学)
  • 渡邉 裕司(浜松医科大学・臨床薬理学、臨床薬理学)
  • 宇山 佳明(医薬品医療機器総合機構・レギュラトリーサイエンス推進部)
  • 斎藤 嘉朗(国立医薬品食品衛生研究所・医薬安全科学部・ゲノム薬剤疫)
  • 松本 宜明(日本大学薬学部臨床薬物動態学)
  • 田中 廣壽(東京大学医科学研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 地球規模保健課題推進研究(地球規模保健課題推進研究)
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
31,670,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
わが国における新薬の開発期間が長期化する要因の一つとしてあげられている国内治験の遅れを解消する有効な手段として、遺伝的な背景が類似している東アジア地域を一つの地域として症例を登録し、効率的に日本人を含む東アジア諸民族を国際共同治験に組み込む治験システムが考えられる。しかし、医薬品の応答性は、環境などの外的要因にも影響を受けることから、東アジア諸民族での医薬品の応答性に関する民族差についての科学的な検証を行う必要がある。そこで、薬物動態および薬力学的観点から民族差が生じる要因に関して検討することを本研究班の目的とした。
研究方法
【薬物動態における民族差が生じる要因に関する研究】
東アジア民族における薬物動態の特性を明らかにし、欧米系民族と東アジア民族との間で民族差がみられる要因、および東アジア内で民族差が生じる要因を臨床データおよび基礎的実験により検討した。
【薬力学における民族差が生じる要因に関する研究】
日中韓および米で市販されている医薬品医療での実使用量データを比較することによって、有効性や安全性に民族差がみられる可能性のある医薬品を選択し、東アジア内およびコケージアンとの民族差について比較した。また、抗体医薬や一部の低分子薬の薬効や副作用に関連した分子の遺伝子多型を検討し、日中と欧米などの成績と比較した。また、国際共同治験における民族差を評価する方法を検討した。さらに、国際共同治験の実態を調査し検討した。
結果と考察
【薬物動態における民族差が生じる要因に関する研究】
平成21-22年度に厚生労働科学研究費により日中韓で行った臨床試験データの追加解析について、母集団薬物動態解析を行った。また、CYP3A4は転写レベルで核内レセプターPXRによる発現調節を受ける。PXR過剰発現系構築、PXR応答性レポーターアッセイを確立した。また、食事性因子が肝薬物代謝酵素発現にコレステロール代謝物応答性転写因子のLXRαを介してCYP3A4遺伝子のヒト肝細胞における基本的発現に寄与することを明らかにした。
【薬力学における民族差が生じる要因に関する研究】
日韓および米国の処方データ用いて実診療における患者あたりの1日処方量を3カ国間で比較した。モキシフロキサシンは3カ国間で大きな差は認めらなかった。一方、シンバスタチンについては、我が国の患者あたりの1日処方量(加重平均値)は韓国および米国の約1/3であり、メロキシカムは韓国および米国の約2/3であることがわかった。その原因については詳細に検討中である。
抗体医薬品の代謝に関連するFCGR2Aの遺伝子多型では、日本人に比して中国人で頻度が高い傾向が認められた。ラパチニブによる肝障害発症に関連するHLA-DQA*0201ハプロタイプは、日本人に比して韓中で頻度の高い傾向が認められた。関節リウマチにおけるメトトレキサート(MTX)低用量週1-2日パルス療法は、日中韓および欧米で承認用量が大きく異なるが、MTX赤血球内濃度は我々の成績と欧米の報告とで大きな違いはなかった。その原因を明らかにするため、MTXの細胞内取り込みや代謝に関わるSLC19A1およびガンマグルタミルヒドロキシラーゼの遺伝子多型を検討したところ、後者の一部の多型が赤血球内濃度に影響を及ぼしており、民族差の原因の一部を説明する可能性が示唆された。カテキン高含有緑茶によるβ遮断薬ナドロールの体内薬物動態および薬効への影響を検討した。その結果、2週間の緑茶(カテキン640mg/日)飲用によりナドロールのCmaxおよびAUCは、ともに約75%低下し、ナドロールによる収縮期血圧低下作用はほとんど消失した。
国際共同試験では地域を併合した薬効に主たる興味があるが、民族的要因による薬効の違いに関しても詳細な吟味を必要とする。興味のある地域の薬効を評価するために、他の地域のデータを利用する経験ベイズ法は有用な手法であると考えられた。国際共同治験を主な臨床試験として承認された医薬品の割合は年々増加している。今後、東アジア地域等での国際共同治験の実施は、さらに増加するものと思われ、国際共同治験特に東アジア地域での国際共同治験を実施する際の留意点等を検討し整理した。
結論
これらの研究により、東アジア諸民族間の医薬品の国際共同開発および臨床データの共有を円滑に進めるシステムの構築を目指したい。

公開日・更新日

公開日
2013-05-31
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201203002Z