東日本大震災等による医療・保健分野の統計調査の影響に関する高度分析と評価・推計

文献情報

文献番号
201202009A
報告書区分
総括
研究課題名
東日本大震災等による医療・保健分野の統計調査の影響に関する高度分析と評価・推計
課題番号
H24-統計-一般(復興)-002
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
吉田 浩(東北大学 大学院経済学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 佃 良彦(東北大学)
  • 増田 聡(東北大学 大学院経済学研究科)
  • 山口 拓洋(東北大学 医学系研究科)
  • 目黒 謙一(東北大学 医学系研究科)
  • 赤沼 恭子(東北大学 医学系研究科)
  • 宣 賢奎(共栄大学 国際経営学部)
  • 日下 輝美(福島学院大学 福祉学部)
  • 小林 健太郎(明星大学 経済学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学総合研究(統計情報総合研究)
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
7,300,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は東日本大震災が、
(1) 保健・医療・福祉分野等に関する統計データに及ぼした影響の評価、
(2) 国民の健康・福祉および厚生自体に及ぼした影響に関し、
(3) エビデンスと統計を収集・分類・保存し、データベース化して国民に対しわかりやすい情報提供のための研究を行うことである。
研究方法
本研究は研究の趣旨と研究計画に基づき、
a) 実際の医療、保健、福祉、地域統計を扱うパートと
b) 震災の影響による欠損値問題を統計学的に検討するパートの2つの柱に分かれている。このうち、a) 実際の医療、福祉、地域統計を扱うパートでは、さらに2つのアプローチを行っている。
1) 既存の厚生統計等を検討することを通じてゆがみや現状を分析する方法によるアプローチ、
2)現地フィールド調査や独自アンケートなどの手法を用いて、統計値の情報不足を補完する方法によるアプローチ。
一方、b) 震災の影響による欠損値問題を統計学的に検討するパートでは、本年度は、欠損値の補完技法の情報収集と既存の統計手法に関するサーベイを行うという方法を用いて研究を実施した。
結果と考察
東日本大震災により非常に大きな被害のあった被災地での医療、福祉、保健に関する公式統計データで、「全国水準に比して利用実績が小さかった」、あるいは「健康の大きな悪化が見られない」等の直観や現地でのエピソードに反する数値が得られている。
しかし、この結果から「地域の医療需要は急増していない」、あるいはそこから「住民の健康状態もさほど悪化していない」と判断するのは早計であると考えられる。また、宮城においては平成24年に自殺率のリバウンドが起きている可能性も指摘できる。
これらの理由として例えば、
1)住民が被災によって健康状態を損ねて治療、福祉サービスを需要しても、十分に受けられなかった可能性、
2)軽度介護サービスや慢性疾患の治療を中断あるいは先送りした可能性
3)実際に医療・福祉サービスを受けていたとしても、制度上あるいは統計収集の技術的制約によって把握できない(情報欠損問題)がおきていた
こと等、統計と実態がストレートにリンクしない阻害要素が多発したと解釈される。
 また、現実的な問題として震災の影響により、調査未実施地域や報告集計欠損地域が生じた。これは、過去に例を見ない大規模な欠測値の発生とその分析の必要性の問題として解釈することができる。
結論
本年度の研究によって得られた主要な結論は以下の3つである。
1)被災地の実態と公式厚生統計の乖離
 現時点で一般に公表されている公式の厚生統計の数値は、その集計方法に手続き的な瑕疵はないものの、結果数値が被災地における医療、福祉、健康の実態やサービスへの実需と必ずしもストレートにリンクできるものではないという問題を持っている。
2)政策判断の為の統計補正作業の必要性
 中長期の厚生政策の判断と今後の大規模災害の行動計画等の策定に用いる根拠資料を得るため、上述した公式統計の質的・量的な不完全性の問題を解決する必要がある。このため、従来の欠損値データの理論的な分析に加え、被災地の実情や被災当時の統計収集の状況、医療や福祉サービス特有の制度等を加味した分野横断型の知見の援用による統計の補正、解釈、インプリケーションの抽出という研究工程が必要である。
3)更なる補完的情報収集の必要性
 被災地における医療、福祉、健康の実態やサービスに対する実需について、制度の制約を可能な限り受けない形で知るためには、被災地住民の個人の状況やニーズから情報を確保するというアプローチも重要である。特に『国民生活基礎調査』の端境期に入ってしまった問題を克服するため、可能な限り早急の補完的調査、特別調査が必要であるといえる。

公開日・更新日

公開日
2013-08-02
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201202009Z