医師の地域別・診療科別分布及びキャリアパスに関する研究

文献情報

文献番号
201202004A
報告書区分
総括
研究課題名
医師の地域別・診療科別分布及びキャリアパスに関する研究
課題番号
H24-統計-一般-002
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
小池 創一(国立大学法人東京大学医学部附属病院 企画情報運営部)
研究分担者(所属機関)
  • 井出 博生(国立大学法人千葉大学医学部附属病院 千葉県寄附研究部門 高齢社会医療政策研究部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学総合研究(統計情報総合研究)
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
2,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 本研究の目的は、今後の我が国の医療提供体制を考えてゆく上で基礎となる医師等の医療資源の分布や動態について、医師・歯科医師・薬剤師調査等の既存の統計データを用いて詳細な検討を行い、医師をはじめとした医療資源の地域分布の状況や、動態について、文献調査を含め明らかにすることにある。2年計画の1年目にあたる本年度は、医師・歯科医師・薬剤師調査からみた医師の地域分布の状況、動態についての検討及び医師の地域分布に関する文献レビューを行った。
研究方法
 医籍登録年に勤務している都道府県を起点とし、性別・医籍登録年別・診療科別・都道府県別に医籍登録後20年目までに当該都道府県に勤務する割合を求めるとともに、直近の2年間の都道府県間の医師の流入・流出パターンを検証した。
 千葉県及び首都圏の医師供給状況の把握に当たっては、2020年における千葉県の市区町村別の医師数を推計し、人口10万人あたり医師数、65歳以上人口10万人あたり医師数を求め、千葉県内の市区町村の順位に関して調査年間の順位相関を求めた。さらに2000年、2010年、2020年の人口あたり医師数の十分位によるローレンツ曲線を描画し、ジニ係数を求めた。さらに市区町村別の人口あたり医師数およびその変化率を地図上に表現し、視覚的に評価した。
 医師の地域分布に関する因子を探る文献検索にあたっては、PubMedを用いて、医師の地域分布に関する因子を定量的に評価した文献を対象に、システマティックレビューを行った。
結果と考察
 医籍登録後20年間にわたって、医籍登録年に勤務した都道府県への勤務割合を男女別、医籍登録年代別、診療科別、当初勤務都道府県別に明らかにするとともに、都道府県から見た2年間の他都道府県との医師の移動状況を明らかにした本研究からは、医師の流動性は比較的高く、当初勤務都道府県には必ずしもその後も勤務するわけではないこと、医師の地域的な流動性は特に医籍登録後早い時点で高く、徐々に低くなってゆくこと、医師の都道府県を超えた流出入の状況を見ると、隣接する都道府県との行き来が多いものの、地理的な近接性だけでは説明できないパターンもみられることが明らかになった。
 首都圏の医師供給に関する検討の結果からは、人口10万人あたり医師数は増加するものの、高齢者数の増加に追い付かず、65歳以上人口10万人あたり医師数は今後むしろ減少すると考えられるとの結果が得られた。これまでの医療資源の地域分布を評価する観点は、医療ニーズが高くない年齢層をも含んだ考え方であった。しかしながら、高齢者の受療率は若年者よりも著しく高く、高齢者数も激増することから、医療ニーズが高い高齢者人口に対する分布の評価を進める必要性は高い。各市区町村の高齢化率、高齢者数は水準、動向共に異なっており、特に、高度成長期に人口が流入し、宅地開発されたような東京都区部の中心と首都圏周辺部の中間的な地域では高齢者数の増加に対して医師数の増加が追いつかないために、全人口10万人あたり医師数は増加するものの、65歳以上人口10万人あたり医師数は逆に減少する。今回の研究では2020年までの推計にとどめているが、団塊の世代が後期高齢者となる2025年~2030年にかけて状況は深刻さを増す可能性がある。
 医師の地域分布に関する文献的考察からは、医師の地域分布に関する因子には「地域出身である」「地域医療経験がある」「配偶者の状況」「労働量・時間が適切である」「医療施設が整っている」「ライフスタイルが合う」「人間関係が良好である」「収入が高い」「仕事内容が充実している」「保険・手当が手厚い」「精神面のケアが手厚い」「生涯教育が可能である」「子供の教育環境がよい」「地理的条件・公共施設の充実」「年齢が高い」といった因子が挙げられていることを明らかとした。
結論
 医師のキャリアパスを踏まえた医師の地域分布・診療科別分布が明らかになることは、厚生労働科学研究の推進に寄与するのみならず、国、都道府県における、根拠に基づく保健医療施策の推進に貢献できるものと考えられる。都道府県が策定する保健医療計画に見られるように医療資源の配分の議論ではへき地へのサービス提供が課題となっており、これは引き続き課題であるが、高齢人口が急激に増加する首都圏等の都市部における医師の供給は、今後も全国的に劣位であり続け、アクセスの不均等度が高まる可能性を示した。へき地と共に、首都圏等でのサービス水準の維持も政策課題であると認識されるべきできと考えられる。「地域枠」は、医師の地域偏在を解消する有用な政策である可能性が示唆された。今後はその政策内容・効果につき、医師の地域分布のメカニズムを考察しながら評価を行うことが必要であると考えられる。

公開日・更新日

公開日
2013-03-27
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201202004Z