縦断調査を用いた生活の質向上に資する少子化対策の研究

文献情報

文献番号
201201036A
報告書区分
総括
研究課題名
縦断調査を用いた生活の質向上に資する少子化対策の研究
課題番号
H24-政策-一般-009
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
吉田 崇(静岡大学 人文社会科学部)
研究分担者(所属機関)
  • 平澤和司(北海道大学 文学研究科)
  • 稲葉昭英(首都大学東京 人文科学研究科)
  • 有田 伸(東京大学 社会科学研究所)
  • 川口大司(一橋大学 経済学研究科)
  • 小川一夫(大阪大学 社会経済研究所)
  • 野口晴子(早稲田大学 政治経済学術院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学総合研究(政策科学推進研究)
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
4,750,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 少子化対策が喫緊の課題であることは論を待たないが、同時に、次世代育成の観点からは親子の生活の質(quality of life)を高めることで、安心して働き、子育てを行える社会の実現が求められている。本研究は、婚姻や出生といった現象に加えて、親子の生活の質も含めて研究対象とすることで、親子双方の厚生に資する少子化対策・子育て支援のための資料を提供することを目的としている。
 生活の質とは、親にとっての子育ての充実感や子育て負担の軽減などを意味する。一方、子にとっては生育環境の向上や心身の発達を考えることができる。こうした変数を、各種の家庭変数で分析する場合、横断データでは因果の方向を確定することができない。そのため、同一個人を対象とした縦断調査の利用が不可欠となる。
研究方法
 本研究では、厚生労働省が実施している「21世紀出生児縦断調査」と「21世紀成年者縦断調査」の個票(マイクロデータ)を利用した。前者は2001年の出生児を追跡調査したもので、子どもの発達状況を把握するとともに、回答者である同居者の子育て負担なども把握することができる。一方、2001年時点で20歳から34歳の男女を対象としたもので、若年層の就業状態と婚姻や出産といった家族イベントを同時に把握することが可能である。
結果と考察
 次の6つの研究成果が得られた。「低体重出生:原因と帰結」(川口大司・野口晴子)では、「21世紀出生児縦断調査」を用い、2500g未満で生まれる低体重出生がどのような社会的背景により発生するのか、さらに、その後の発達にどのような影響を及ぼすのかを明らかにした。「父親の雇用喪失は子育てに影響を及ぼすのか」(小川一夫)では、「21世紀出生児縦断調査」を用い、両親の子育ての関与が子どもの人的資本形成に及ぼす影響を明らかにした。「小学1・3年生の学校外学習時間と家庭環境」(平沢和司)では、「21世紀出生児縦断調査」を用い、子どもの発達を表す指標として学習時間を考え、家庭環境が子どもの学習時間に及ぼすことが示された。「社会階層と母子世帯の発生についてのパネルデータ分析」(稲葉昭英)では、「21世紀出生児縦断調査」を用い、子どもの教育達成に深刻な影響を及ぼすことが明らかとされている母子世帯の発生メカニズムを解明した。「21世紀成年者縦断調査の標本特性と基礎分析」(吉田崇)では、「21世紀成年者縦断調査」を用い、パネルデータとしての標本特性を検討した上で、時点間の就業状態、配偶状態の変化を確認した。また、コーホート分析による晩婚化・未婚化が進展していることが追認され、若年層の未婚化・晩婚化・晩産化を分析する基盤が整備された。「韓国の少子化現象と少子化研究・対応政策」(有田伸・新藤麻里)では、日本と同様に急速な少子化が進展している韓国について、少子化政策の整理と先行研究の包括的レビューを行った上で、韓国で実施されているパネル調査を用い、婚姻・出生について実証分析を行い、晩婚化・晩産化さらに、婚姻家庭の出生数減少の傾向が確認された。
結論
 本研究で得られた知見は多岐にわたるが、一言でまとめると、各種の不利益は出身階層や過去の状態に依存するものであり、長期観察が有用であることを示している。いずれの知見も、詳細かつ正確な履歴情報を積み重ねることによってしか得られなかったものであり、この意味で、縦断調査を蓄積することの意義は大きく、また、縦断調査の個票利用の機会を得たことは貴重なものだったといえる。今後は個々の研究を更に深めるとともに、研究者の協同を生かして、少子化や生活の質に影響を及ぼすさまざまな現象への理解を深め、得られた成果を社会還元していく必要がある。

公開日・更新日

公開日
2013-12-17
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201201036Z