新しい行動様式の変化等の分析・把握を目的とした縦断調査の利用方法の開発と厚生労働行政に対する提言に関する研究

文献情報

文献番号
201201033A
報告書区分
総括
研究課題名
新しい行動様式の変化等の分析・把握を目的とした縦断調査の利用方法の開発と厚生労働行政に対する提言に関する研究
課題番号
H24-政策-一般-006
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
駒村 康平(慶應義塾大学 経済学部)
研究分担者(所属機関)
  • 丸山 桂(成蹊大学 経済学部)
  • 山田 篤裕(慶應義塾大学 経済学部)
  • 岩永 理恵(神奈川県立保健福祉大学 保健福祉学部)
  • 四方 理人(関西大学 ソシオネットワーク戦略研究機構)
  • 田中 聡一郎(立教大学 経済学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学総合研究(政策科学推進研究)
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
3,750,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
研究目的は、労働市場で移動を繰り返しやすい女性、高齢者、若年を対象とした分析を行い、不安定な状況に陥りやすい人々が安心して働くことのできる社会を実現するために必要な社会政策を提言することである。
研究方法
『21世紀出生児縦断調査』、『21世紀成年者縦断調査』、『中高年者縦断調査』を用いた統計分析を行った。
結果と考察
1)少子社会対策班:「追加子ども数の決定に及ぼす要因分析」(丸山・駒村論文)は、『21世紀成年者縦断調査』を用いて、希望子ども数と実際の子ども数の乖離に着目した分析を行った。その結果、妻の育児休業制度の利用経験、認可保育所の利用経験はプラスの効果(乖離を縮小し、実現を近づける)ことが明らかとなった。一方で、妻の就労形態を考慮したモデルでは、妻が無職である世帯を基準とすると、妻が非正規労働者、正社員、その他などの有業世帯で、希望子ども数の実現にマイナスの効果があることがわかった。そして、世帯収入や子育て費用の多寡は影響を及ぼさないことがわかった。一般的に希望子ども数が持てない理由として、子育て費用の負担の重さと、妻の仕事の中断による機会費用の高さが指摘しているが、本分析からは直接的に前者の仮説は支持されず、妻の就業継続を支援する政策が少子化対策として有効であることが示唆された。
「仕事と家庭についての意識と結婚確率の分析」(四方論文)は、同じく『21世紀成年者縦断調査』を用いて、女性の就業の継続や家事・育児に対する意識が結婚確率に与える影響の分析を行った。分析結果から、「結婚時就業継続」の志向は、「結婚時退職」への志向より結婚確率が高い一方で、逆に「出産時就業継続」では、「出産時退職」を志向する場合より結婚確率が低くなることがわかった。また、世帯の収入について、「夫が主として責任をもつ」と考える場合と「夫婦いずれもが同様に責任をもつ」と考える場合で結婚確率に有意な差はなかったが、家事については、「妻が主として責任をもつ」より「夫婦いずれもが同様に責任をもつ」と考える場合において、結婚確率が低くなっていた。出産後の就業継続の困難さや家事・育児時間の男女での著しい不均衡という問題が、結婚を遅らせていることを示唆する結果となった。
2)高齢社会対策班:「特別支給の老齢厚生年金(定額部分)支給開始年齢引上げによる雇用と年金の接続の変化:予備的考察」(山田論文)は、 2010年度に特別支給の老齢厚生年金の支給開始年齢が63歳から64歳に引上げられたことにより、雇用と年金の接続がどのように変化したか、『中高年者縦断調査』を用い検討した。具体的には、支給開始年齢が63歳である1946年度生まれと64歳である1947年度生まれ、被用者職歴と支給開始年齢の引き上げの影響を受けにくい自営業職歴(いずれも男性)とを比較し検討した。分析の結果、特別支給の老齢厚生年金(定額部分)の支給開始年齢引き上げにより、被用者職歴では63歳時点の公的年金受給額が低くなっていたが、改正高年齢者雇用安定法による雇用確保措置の適用年齢引き上げによる就業率上昇、また一部には私的年金受給率上昇により、公的年金以外の本人収入はむしろ増大し、低所得層は減少していたことが示唆された。
3)格差社会対策:「シングルマザーにおける離別前後の所得と就労」(田中・四方論文)は、『21世紀成年者縦断調査』を用い、母子世帯の離別前後の所得や就労の変化についての分析を行った。シングルマザーの離別前年の夫婦合計所得は、平均的な夫婦の所得より低い。また、離別1年目の所得は、離別前の2分の1以下になってしまう。ただし、離別2年目は、離別1年目より収入は高くなる。これは、離別後無業の割合が、大幅に低下し、正規雇用および非正規雇用の割合が上昇することによる。「日本における外国人家族の子育て状況」(岩永・四方論文)」は、『21世紀出生時縦断調査』を用いて、在日外国人の家族の状況、特に子育ての状況を検討した。データの制約があって、本研究が在日外国人の家族の全体状況を明らかにしているとは言い難い。国籍による差が大きいのは、母親と父親の就労状況、そして収入など経済状況であるが、子育てと家事に対する母親のかかわり、子育てについての不安や悩みについては、国籍による大きな差はみられない、ということを明らかにした。
結論
社会保障制度は中長期にわたる人々の意思決定に影響を与えるため、その政策効果を識別するためにはパネルデータが必要である。この点で、利用した各パネル統計は社会保障制度の検証・評価を高次元にしていくことを可能とする。ただし、調査内容が年度によって異なること等、分析上の課題についての十分な把握も同時に必要である。

公開日・更新日

公開日
2013-12-17
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201201033Z