周産期女性の社会経済的地位(socioeconomic status)と女性の健康および胎児感情との関連について

文献情報

文献番号
201201017A
報告書区分
総括
研究課題名
周産期女性の社会経済的地位(socioeconomic status)と女性の健康および胎児感情との関連について
課題番号
H23-政策-一般-004
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
江守 陽子(筑波大学 医学医療系)
研究分担者(所属機関)
  • 村井文江(筑波大学 医学医療系)
  • 小泉仁子(筑波大学 医学医療系)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学総合研究(政策科学推進研究)
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
1,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
飛び込み分娩を扱ったこれまでの研究報告により、飛び込み分娩の定義、調査方法、分娩者の特徴、飛び込み分娩に至った理由、分娩およびその後の転帰について整理し、母子保健施策の課題と看護・支援方法について検討した。
研究方法
医学中央雑誌Web版Ver.4を用いて、“飛び込み分娩”OR“飛び込み出産”OR“飛び込み産”をキーワードとして検索した。163件が該当し、研究論文のみに絞り込み検索を行った結果、49文献が該当した。同一内容と思われる論文1件を除外し、48文献を分析対象とした。
結果と考察
1983~2011年の28年間において、近年ほど研究数は急増しており、その多くは後方視的に調査されたものだった。筆頭著者は医師が約7割を占め、飛び込み分娩の定義が明確に示されているものは9件のみであった。問題点として、医学的なリスクのみでなく社会的なリスクも高く、経済的理由による妊婦健診未受診、妊娠に気がつかないというセルフケア能力の不足、妊婦健診の重要性に対する認識の低さが48文献のうち、飛び込み分娩では医学的リスクの高いことから、その7割が医師による報告であった。しかし未受診理由を含め、飛び込み分娩者のリスクは、社会経済的理由、健康意識や知識の不足によるところも大きい。母子の健康を守る観点から、医療政策としては看護職の活用期待できる。なぜなら看護職は、医療施設内外において妊娠以前から退院後の支援を継続的に行うことが可能であることから、予防・健康教育を含め、10代のハイリスク女性をはじめ、飛び込み分娩事例を長期的に追跡し支援する役割が望まれる。今後は看護者による、妊娠以前や出産後の支援も視野に入れた研究が行われる必要があると考える。
結論
飛び込み分娩は、医学的なリスクのみでなく社会的なリスクも高く、年代とともに増加傾向にあった。飛び込み分娩の問題点として、経済的理由による妊婦健診未受診、妊娠に気がつかないというセルフケア能力の不足、妊婦健診の重要性に対する認識の低さがあった。母子保健施策としては、飛び込み分娩の予防に向けて、生活困窮者に対する医療費の完全支給、啓蒙的健康教育の推進が必要と考えられる。また、看護面では、10代の女性のセクシャリティに関連する健康教育をはじめ、妊娠以前から出産後の継続的な支援について連携強化を図る必要がある。

公開日・更新日

公開日
2013-10-15
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201201017B
報告書区分
総合
研究課題名
周産期女性の社会経済的地位(socioeconomic status)と女性の健康および胎児感情との関連について
課題番号
H23-政策-一般-004
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
江守 陽子(筑波大学 医学医療系)
研究分担者(所属機関)
  • 村井文江(筑波大学 医学医療系)
  • 小泉仁子(筑波大学 医学医療系)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学総合研究(政策科学推進研究)
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
社会経済的地位(socioeconomic status ; SES)と健康問題は常にリンクすると言われているが、妊娠期の健康行動や感情、対児感情との関連は明らかにされていない。よって、妊娠中の女性の受診行動、妊娠経過、抑うつならびに対児感情および周産期outcomeとの関連について検討し、妊娠や出産という女性のライフイベントがSESからどのような影響を受けているかを明らかにし、支援の方法を検討する。さらに、社会・経済的ハイリスクとされた飛び込み分娩事例の文献検討および若年産婦について、SESの視点から検討を進める。
研究方法
H23年度は、産科外来を受診した妊娠末期(妊娠35~40週)女性264名を対象とし、受診時に質問票調査を行った。さらに、妊娠時に調査に応じてくれた女性で分娩後、施設入院中の女性213名には、診療録・助産録から分娩データを得、さらに構造化面接調査を行い、SESの状況と妊娠・分娩に対する自己評価をインタビューした。
H24年度は、救急対応の周産期拠点医療施設において、産科領域で発生した社会・経済的ハイリスクとされる飛び込み分娩の文献検討とともに、若年妊娠・出産者の事例を医事課の協力を得て洗い出し、SES状況とともに健康状態、育児状況を分析し、周産期医療における課題を明らかにした。
結果と考察
対象者151名の平均年齢 (±SD) は、29.06±6.24歳であった。対象者とパートナーの学歴はどちらも高等学校卒業が多かった。夫婦の年収額は201万円以上が121名(80.1%)であり、困窮者とはいえなかった。SES は対象者の対児感情とは関連を認めなかったが、抑うつとは関連があった。また、対象者が妊婦健診目的に医療機関を訪れた週数が12週以降であったものは17名(13.3%)であった。妊娠診断時期別に対象者のSESを比較した結果、妊娠の診断時期が遅いものは、対象者とそのパートナーの学歴が中学校修了で、就労していないものが多かった。さらに、主観的経済的困難感を強く自覚し、抑うつ傾向にあるものが多かった。
一方、10代の若年産婦の出産後のインタビューからは、多くの対象者に学業の中断や放棄があり、それが育児との葛藤になっていた。しかし、出産を前向きに受け止め、喜びや楽しみを見出していた。この点に関しては、本研究に応じようと決断する時点で対象者は、若年産婦であっても全員が生活は安定しており、生活満足度が高く、研究対象としての偏りがあった可能性が考えられた。文献検討からは、飛び込み分娩の文献検討からは、経済的理由による妊婦健診の未受診、妊娠に気がつかないというセルフケア能力の不足、妊婦健診の重要性に対する認識の低さが考えられた。

結論
SESと妊娠中の抑うつは関連があり、パートナーの学歴が中学校修了であることと、経済的困難感の自覚があると、妊娠診断の時期が遅れるといえた。飛び込み分娩の予防としては、生活困窮者に対する医療費の完全支給、啓蒙的健康教育の推進と、妊娠以前から出産後の継続的な支援について連携強化を図る必要がある。若年で出産に至る女性の背景には、早期に性交渉を開始していること、避妊の必要性を理解しているが低い避妊率であること、保護者・教育者が対象者と同年代の妊娠の可能性を低く見積もっており、妊娠に気がつくのが遅れることなどの背景があった。したがって、思春期の子どもを持つ親と学校の教育者は、思春期の女性は常に妊娠する可能性があることを記憶にとどめ、心身の変化に注意をはらうことを心がけることが、少なくとも妊娠の早期の発見につながると思われる。また、若年出産者は、勉学の中断や放棄になりやすく、社会経済的に不安定であり、育児不安や負担感が一層大きくなる可能性もある。
 このことは、若年である女性への適切な情報の提供、サポート体制の確立が求められる。若年出産者が積極的に情報を得て、女性として母親として成長しながら育児ができる環境を整え、自分の選択により妊娠をし、安心して出産、育児を行うことのできる環境を確立していくことが期待される。
以上のことから、周産期の女性が感じる経済的困窮感やゆとりがないという自覚に注目することは、女性の置かれた生活背景や状況を把握する糸口になり、それによって母子保健施策の立案やサポート提供に繋げることが可能となると言える。しかし、対象者のSESに関連する情報の聴取は簡単ではなく、これらの情報をどのように収集するかが、研究およびその後の施策へ結び付けるための最大のカギと考えられる。さらに、SESのどの指標が健康との関連をより反映するかを検討する必要がある。

公開日・更新日

公開日
2013-10-15
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201201017C

成果

専門的・学術的観点からの成果
本邦において、1983~2011年の28年間の飛び込み分娩に関する報告および論文を分析した結果、飛び込み分娩に至る主要因として、経済的理由による妊婦健診の未受診、妊娠に気がつかないというセルフケア能力の不足、妊婦健診の重要性に対する認識の低さが明らかになった。飛び込み分娩の予防のためには、生活困窮者に対する医療費の完全支給、啓蒙的健康教育の推進、妊娠前から出産後の継続的な健康支援について連携強化の方策を練る必要がある。
臨床的観点からの成果
社会経済的地位(socioeconomic status :SES)と、産後うつ病評価表 (The Edinburgh Postnatal Depression Scale:EPDS)には関連があったが、胎児愛着とは関連がなかった。一方、周産期outcomeは、家計のゆとり感と出生時児体重、臍帯血pH、対象者の学歴と羊水混濁は関連が認められたが、それ以外はなかった。
本邦では周産期女性のSESと心理状態や妊娠・分娩状況との関連をみた研究はなく、本研究により両者の関連を検討した意義は大きい。
ガイドライン等の開発
本研究の目的ではないため、ガイドライン等の開発には着手していない。
その他行政的観点からの成果
所得、資産、職業、学歴、就業状況(失業、不安定雇用)、持ち家の有無などの社会経済的地位(SES)と、妊娠中の女性の受診行動、妊娠・分娩経過、抑うつならびに胎児感情との関連について検討することによって、妊娠や出産という女性のライフイベントをSESの観点でとらえなおし、女性の健康管理のための行政施策としてのアプローチの糸口を明らかにした。これらの成果は即効的に臨床および行政施策に活用されるものではないが、我が国の妊産婦と乳幼児の健康増進と安寧のための保健・医療行政施策の基礎資料となる。
その他のインパクト
国際行動医学会において成果の一部を発表し、各国の研究者とそれぞれ自国の貧困と健康との関係、実態、医療者としての取り組み等について議論するとともに今後の研究に有用な情報を交換した。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
0件
学会発表(国際学会等)
2件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2013-10-15
更新日
-

収支報告書

文献番号
201201017Z