貧困・格差の実態と貧困対策の効果に関する研究

文献情報

文献番号
201201013A
報告書区分
総括
研究課題名
貧困・格差の実態と貧困対策の効果に関する研究
課題番号
H22-政策-指定-032
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
阿部 彩(国立社会保障・人口問題研究所 社会保障応用分析研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 西村周三(国立社会保障・人口問題研究所 所長)
  • 岩田正美(日本女子大学 人間社会学部)
  • 西村幸満(国立社会保障・人口問題研究所 社会保障応用分析研究部)
  • 竹沢純子(国立社会保障・人口問題研究所 企画部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学総合研究(政策科学推進研究)
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
8,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究プロジェクトは、貧困と格差が社会に及ぼす諸コスト(経済的および社会的)についての理解を深め、日本における貧困の実態を把握した上で、最低生活費の算定手法を検討し、試算を行う。具体的には、以下の4つのサブ・プロジェクトを行う:①格差が及ぼす社会への影響の研究、②格差と貧困の経済コストの研究、③最低生活水準の算定手法の開発と試算、④貧困統計データベースの構築。これらを行うことにより、貧困や格差の影響についての理解の浸透、貧困などに対処する政策・プログラムの効果を計量的に把握、最低生活に関する国民意識を解明、政策立案の基礎資料の構築、貧困や格差の基礎統計を整備と統計の解釈について国民的理解を深める、などの効果が期待される。
研究方法
本年度は、平成22, 23年度から引き続き行っているMIS(Minimum Income Standard)法を用いた最低限の基礎的生活費(以下、最低生活費)の推計では、これまで行ってきた個人の最低生活費から、世帯の最低生活費を構築する作業を行った。具体的には、①二親世帯(父、母、子1)と母子世帯(母+子1)の最低生活費を推計し、それを、②グループ・インタビュー(二親世帯の親グループ、母子世帯の親グループ)にて提示し、議論を踏まえた上で、最終的な最低生活費を算出した。また、単身勤労世代(男性、女性)、単身高齢者(男女混合)のグループ・インタビューを行い、平成22、23年度に行った推計をアップデートした。
次に、「社会的必需品調査」(H23年度実施)の分析を行い、これを英国の社会的必需品調査と重回帰分析の手法を用いて比較した。
最後に、貧困統計に関する様々なデータを集積した貧困統計データベースを構築し、独自のホームページを立ち上げて公開した。貧困統計データベースには、本プロジェクトの成果物のみならず、これまでの貧困研究の蓄積による各種のデータを掲載する。また、その一環として、国際機関や他の先進諸国における貧困指標の開発と近年の動向について、現地調査を含めたレビューを行い、これを報告書の別冊としてまとめ、厚生労働省政策統括官室(社会保障担当)に提出した。
結果と考察
1 MIS手法にのっとって二親世帯および母子世帯の最低生活費(「最低必要な基礎的な生活」)は、以下と推計された:
二親世帯 473,309円(月額)(内 食費109,407円 家賃115,000円)
母子世帯 313,966円(月額)(内 食費67,701円、家賃67,000円)
単身世帯(32歳男性)205,550円(内住居費73,503円)
単身世帯(32歳女性)206,270円(同、73,503円)
単身世帯(71歳男性)187,813円(同、64,266円)
単身世帯(71歳女性)176,314円(同、81,391円)
2 社会的必需貧の日英比較からは、年齢、性別、家族タイプなどの個人の属性をコントロールした上でも、日本の人々は、何が(すべての人の)最低生活に必要かに関するニーズの意識が、イギリスの人々に比べて大幅に低いことがわかった。一方で、所得階層による違いを見ると、多くの項目において、イギリスの国ダミーと所得階層ダミーのクロス項が負で有意となっており、イギリスの高所得層と中間層の違いは、日本の高所得層と中間層の違いより大きいことがわかった。
3 先進諸国の貧困指標についてのサーベイからは、諸外国においては「貧困から社会的排除へ」という概念の下に、貧困概念の転換が行われており、指標においても「絶対的貧困」から「相対的貧困」へ、「一次元の指標」から「多次元の指標」へ(これは同時に金銭的な指標から非金銭的な指標へ視野を広げることを意味する)、「客観的指標」から「主観的指標」へ、「一時点の指標」から「多時点の指標」へ、「個人(世帯)ベースの指標」から「空間(地区・地域)ベースの指標」へ、「マクロ指標」から「ミクロ指標」へと理解することができる。これらの動きは1)剥奪アプローチを用いた剥奪指標と相対的貧困率を併用する方法、2)健康、教育、主観的貧困などのマクロ指標を列記・またはそれらを集約した複合指標の開発、の2つの流れに集約できることがわかった。
結論
MIS法による二親世帯の最低生活費と母子世帯の最低生活費を比較したところ、父親分の費用があるかないかのみならず、生活ライフ・スタイルやプライオリティの違いから起因する費用の差があることがわかった。
日本では貧困や格差を示すデータが他国に比べて圧倒的に少ない。EUやOECDなどで採用されており、政策の数値目標として用いられている「剥奪アプローチ」を用いた貧困指標の開発が急務である。

公開日・更新日

公開日
2013-10-15
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201201013B
報告書区分
総合
研究課題名
貧困・格差の実態と貧困対策の効果に関する研究
課題番号
H22-政策-指定-032
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
阿部 彩(国立社会保障・人口問題研究所 社会保障応用分析研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 岩田正美(日本女子大学 人間福祉学部)
  • 西村周三(国立社会保障・人口問題研究所 所長)
  • 西村幸満(国立社会保障・人口問題研究所 社会保障応用分析研究部)
  • 竹沢純子(国立社会保障・人口問題研究所 企画部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学総合研究(政策科学推進研究)
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究プロジェクトは、貧困と格差が社会に及ぼす諸コスト(経済的および社会的)についての理解を深め、日本における貧困の実態を把握した上で、最低生活費の算定手法を検討し、試算を行うことである。これらを行うことにより、貧困や格差の影響についての理解の浸透、貧困に対処する政策・プログラムの効果を計量的に把握、最低生活に関する国民意識を解明、政策立案の基礎資料の構築、貧困や格差の基礎統計を整備と統計の解釈について国民的理解を深める、などの効果が期待される。
研究方法
本プロジェクトは、以下の4つのサブ・プロジェクトから構成される:1格差が及ぼす社会への影響の研究、2格差と貧困の経済コストの研究、3最低生活費の算定手法の開発と試算、4貧困統計データベースの構築。3つめの最低生活費の算定については、イギリスで開発されたMinimum Income Standard法(MIS法)を用いた推計を行う。また、一般市民の「何が必要か」の意識を探る「社会的必需品調査」を行い、ナショナル・ミニマムに関する人々の意識に国民的コンセンサスがあるか否かを検討する。また、4においては先進諸国における貧困指標のサーベイを行い、それらを含めて、貧困統計データベースとしてインターネットに掲載する。
結果と考察
貧困・格差が社会に悪影響を与え、経済的コストも要するという研究は諸外国には多数存在する。本PJの推計により、税収と生活保護費を考慮しただけでも、貧困者のための就労支援プログラムが長期的には大きな収益となることがわかった。また、貧困の影響が子ども期においても既に健康に影響していることが示され、長期的には、貧困を放置すると国民医療費にも影響することが示唆された。
 最低生活費については、本プロジェクトでは、国民に「何が最低限許容範囲の生活か」という問いを投げかけることで答えを得ようとした。そのために、MIS法と社会的必需品調査という二つの手法を用いた。MIS法からは、おおむね、一般世帯の7割から8割の生活が「最低生活」として描き出された。必要とされるアイテムを一つ一つ積み上げる「マーケット・バスケット方式」において、異なる世帯類型においても一貫した結果となったことは、この手法の妥当性を示唆する一つの大きなエビデンスである。また、費目別の支出傾向からも、MIS法には一定の妥当性があるといえる。MIS法の大前提は、社会に共有される「常識(Common Sense)」が存在するというものであり、MIS法による結果の妥当性は、このような「常識」が日本においても存在することを示唆する。
 一方で、人々の「何が必要か」の考えは、時代や場所に影響されない「絶対的貧困」の概念ではなく、時代と共に変化する相対的な概念であることも明らかとなった。アンケート調査による社会的必需品としえて選定される項目は、2003年から2011年という8年間の間においても、大きい変化があった。
結論
興味深いのは、MISの結果による最低生活とアンケート調査による社会的必需品を比べると、後者の方が圧倒的に低いレベルの生活水準を支持することである。MIS法によって繰り返し一般市民が必要とした項目が、アンケート調査では「必要ではない」とされる。これは、MIS法は架空の人物設定を行うことにより、「最低限必要なものは何か」というような漠然とした問いよりも、より自分の生活に引き付けた想像力が働くからであると思われる。このことは、貧困対策の是非やナショナル・ミニマムはどこに設定すべきかといった議論を行うためには、より現実的な生活感を伴うプレゼンテーションが必要であることを意味する。
また、他の先進諸国の貧困指標のサーベイからは、諸外国においては、「貧困」の概念が、このような生活感を伴う(リアルな)概念として理解されていることがわかった。その結果として、所得データを用いた相対的貧困率(貧困線は中央値の60%-EU基準)と、剥奪アプローチを用いた相対的剥奪指標の2つが、EUを始めとする国々において、現実的な貧困指標として採択されていることは認識されるべきである。相対的貧困率の基準が、MIS法による最低生活費の結果とほぼ同じことも、MISが検出している(はず)である「(何が貧困であるかの)常識」が日本を含め現代社会において共有されていることを示唆する一つの論拠である。
しかし、日本においては、所得データを用いる相対的貧困率でさえも公表され始めたばかりであり、他の先進諸国が整備している剥奪アプローチや社会的排除の概念を取り入れた新しい貧困指標については全く整備が進んでいない。EUやOECDなどで採用しており、貧困削減の数値目標としても用いられている「剥奪アプローチ」と相対的貧困を合併させた貧困指標の開発が急務である。

公開日・更新日

公開日
2013-10-15
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2014-03-11
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201201013C

成果

専門的・学術的観点からの成果
①貧困・格差に起因する経済的損失の推計、②Minimum Income Standard法を用いた最低生活費の推計、③先進諸国および国際機関における貧困指標のサーベイ研究等
臨床的観点からの成果
なし
ガイドライン等の開発
なし
その他行政的観点からの成果
厚生労働省ナショナル・ミニマム研究会にて報告(2010.6.18)、「「貧困・格差に起因する経済的損失の推計」作業チーム中間報告書」として成果を提出。②社会保障審議会生活保護基準部会(2011年9月27日、第5回)にて報告。③「先進諸国の貧困指標報告書」として厚生労働省政策統括官室に提出。
その他のインパクト
新聞、雑誌等については多数の取材を引き受けた(数十回程度)。社会政策学会の学会誌「社会政策」においてMIS法による最低生活費推計の特集を組んだ。「日英における貧困と社会的排除測定の最先端」と題する国際シンポジウムを開催(2012.1.6-2012.1.9).結果の一部は英国の学術誌(JournalofSocial Policy&Society)にて特集として掲載予定(2015).

発表件数

原著論文(和文)
8件
原著論文(英文等)
2件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
5件
学会発表(国際学会等)
6件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Abe, Aya, Pantazis, Christina
Comparing Public Perceptions of the Necessities of Life in Japan and the United Kingdom
Journal of Social Policy & Society  (2013)
原著論文2
Uzuki, Y., Iwata, M., Yamada, A. et al.
Comparing the Minimum Income Standard in the UK and Japan: Methodology and Outcome
Journal of Social Policy and Society  (2013)
原著論文3
阿部彩
子どもの健康格差の要因:過去の健康悪化の回復力に違いはあるか
医療と社会 , 22 (3) , 255-269  (2013)
原著論文4
阿部彩
「「豊かさ」と「貧しさ」:相対的貧困と子ども」」
発達心理学研究 , 23 (4) , 362-374  (2013)
原著論文5
岩永理恵・岩田正美
MIS法を用いた日本の最低生活費試算――他の手法による試算および生活保護基準との比較
社会政策 , 4 (1)  (2012)
原著論文6
重川純子・山田篤裕
日本におけるMIS法の適用とその結果
社会政策 , 4 (1)  (2012)
原著論文7
卯月由佳
MIS最低生活費の日英比較
社会政策 , 4 (1)  (2012)

公開日・更新日

公開日
2016-08-03
更新日
-

収支報告書

文献番号
201201013Z