医療情報システムによる新しい管理会計と医療の最適化に関する研究

文献情報

文献番号
201201011A
報告書区分
総括
研究課題名
医療情報システムによる新しい管理会計と医療の最適化に関する研究
課題番号
H22-政策-一般-027
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
秋山 昌範(東京大学 政策ビジョン研究センター)
研究分担者(所属機関)
  • 清水 佐知子(大阪大学 大学院医学系研究科)
  • 日月 裕(日本福祉大学 社会福祉学部 社会福祉学科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学総合研究(政策科学推進研究)
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
3,600,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 本研究の目的は、医療情報システムのデータに基づき活動基準原価計算(Activity Based Costing; ABC)を行うことで、正確な原価を計算し、医療資源の最適配分に繋がるマネジメント手法を示すことである。
 DPCのような包括支払制度下においては、医療行為の正確な原価の把握は医療政策決定・病院決定の双方に重要なものである。特に活動基準原価計算は、活動量に応じて、費用を配賦する手法であり、現場の負担感覚に近い原価計算を行うことが出来る。発生源でデータ入力を行い、全数を補足する医療情報システムを用いることで、正確な活動基準原価計算が可能となることを示すものである。
 本研究においては、医療サービスを「財政」「資源」「活動」「サービス」の流れで捉え、活動基準原価計算を医療プロセスの最適化ツールとして捉えている。医療における活動基準原価計算のメリットを提示し、医療情報システムで自動的に計算が可能になることを検証したい。
研究方法
医療サービスは「費用」、「資源」、「活動」、「サービス」という流れを構築しており、原価計算は、この質の評価や収益評価と合わせて、プロセス全体の把握のもとに行う必要がある。
 このことを踏まえ、活動基準原価計算を正確に行うために必要なデータの補足に関する検討と、発生源入力と全数の把握につながるセンサー技術の検証と人・物のID管理に関しての検討をした。
 また、複雑系であることを前提とした原価計算手法である「病院原価計算・原価管理研究会」で検討されている、院内の合意形成を経た各部門の配賦方式原価計算手法を調査、先行事例を検証した。
 連続観測法によるタイムスタディデータを用い、一定間隔のワークサンプリングデータを生成し、連続観測法とワークサンプリング法、及びサンプリング感覚の違いによる業務量推計の制度について比較した。
 解析については、連続観測タイムスタディデータより、ワークサンプリングデータを仮想的に作成し、連続観測タイムスタディデータとの比較を行った。その上でワークサンプリングデータにおいて欠落しやすい業務の特徴を明確にした。また自計式調査によるワークサンプリングデータにて分析可能な調査目的や、欠落したデータを補うための手法を明らかにした。
 業務時間割合についてのワークサンプリング法と連続観測法の関連性については、Lin一致相関係数(concordance correlation coefficient; CCC)とその95%信頼区間(Confidence interval, CI)を算出した。
結果と考察
 正確な原価計算を行うことで、病院経営の最適化、特に人事評価・業績評価の重要なツールになるだけでなく、診療報酬改定のエビデンスも提供できることが明らかになった。
 病院原価計算手法は様々なものがあり、病院経営者、部門責任者、医療政策担当者等、立場によって目的が異なることが判明した。そのため原価計算の目的を整理・分類し直し、新たな原価計算手法が開発された。その診療区分方式ではこれらの問題点を解消する可能性があり、多様な病院原価計算を統合できることが判明した。
 また看護業務の作業時間測定手法として連続観測法によるタイムスタディデータを用い、一定間隔のワークサンプリング法、及びサンプリング間隔の違いによる業務量推計の制度について比較した結果、各業務の時間分布は正規分布を示すものはほとんど無く、減少性や二峰性など様々な形をとることが明らかになった。この例を用いて複雑な連携業務の類型化を行い、さらに原価計算手法を組み合わせることで、費用対効果の向上に最適な医療連携モデルの提供が期待できる。
結論
 本研究においては、医療サービスを「財政」「資源」「活動」「サービス」の流れで捉え、活動基準原価計算を医療プロセスの最適化のツールとして捉えている。欧米では医療情報システムの普及を受けて原価計算の進展に加え、患者単位や疾病単位での活動基準原価計算に基づいた原価の測定が実際に行われ始めている。わが国でも欧米の動向を踏まえつつ、必要な医療情報の利用や、個人情報の利活用に関しての具体化、多様化についてのさらなる議論を深めることが喫緊の課題である。
 また、本研究の成果は、正確な原価計算を行うことで今後の診療報酬改定のためのエビデンスを提供し、医療費の適正化などの議論のための基礎的な情報となることが期待される。よって本研究を通じて、新たな方式による活動基準原価計算をさらに検討し、より多くの病院において、活動基準原価計算が可能にするしくみを検討する予定である。

公開日・更新日

公開日
2018-06-05
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
201201011B
報告書区分
総合
研究課題名
医療情報システムによる新しい管理会計と医療の最適化に関する研究
課題番号
H22-政策-一般-027
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
秋山 昌範(東京大学 政策ビジョン研究センター)
研究分担者(所属機関)
  • 森川 富昭(徳島大学 医学部・歯学部附属病院)
  • 伊藤 孝行(名古屋工業大学 工学研究科)
  • 清水 佐知子(大阪大学 大学院医学系研究科)
  • 佐藤 智晶(東京大学 政策ビジョン研究センター)
  • 小塩 篤史(東京大学 政策ビジョン研究センター)
  • 日月 裕(日本福祉大学 社会福祉学部 社会福祉学科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学総合研究(政策科学推進研究)
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は、医療情報システムのデータに基づき活動基準原価計算(Activity Based Costing; ABC)を行うことで、正確な原価を計算し、医療資源の最適配分に繋がるマネジメント手法を示すことである。
 本研究においては、医療サービスを「財政」「資源」「活動」「サービス」の流れで捉え、活動基準原価計算を医療プロセスの最適化のツールとして捉えている。 医療における活動基準原価計算のメリットを提示し、医療情報システムで自動的に計算が可能になることを検証したい。
 また国内外の医療情報システムを用いた原価計算事例を参考に、医療における活動基準原価計算のモデル構築と利点を検証し、それを実現するためのデータ補足技術と人・物のID管理に関する制度枠組みを検証した上でのフィールドによる実証研究を試みる。
研究方法
医療サービスは「費用」、「資源」、「活動」、「サービス」という流れを構築しており、原価計算は、この質の評価や収益評価と合わせて、プロセス全体の把握のもとに行う必要がある。 活動基準原価計算を正確に行うために必要なデータの補足に関する検討と、発生源入力と全数の把握につながるセンサー技術の検証と人・物のID管理に関しての検討をした。
さらに、昨年度までの研究でこれらのデータの利用に関する法的課題等について合わせて検討した結果を踏まえ、データ利用方法を考えた。
医療情報システムを用いた原価計算について海外の先行事例を調査、検証し、日本の動向と比較して、課題点を明確にした。
 複雑系であることを前提とした原価計算手法である、院内の合意形成を経た各部門の配賦方式原価計算手法を調査、先行事例を検証した。
 連続観測法によるタイムスタディデータを用い、一定間隔のワークサンプリングデータを生成、連続観測法とワークサンプリング法、及びサンプリング感覚の違いによる業務量推計の制度について比較した。
 解析については、連続観測タイムスタディデータより、ワークサンプリングデータを仮想的に作成し、連続観測タイムスタディデータとの比較を行った。その上でワークサンプリングデータにおいて欠落しやすい業務の特徴を明確にした。また自計式調査によるワークサンプリングデータにて分析可能な調査目的や、欠落したデータを補うための手法を明らかにした。
 業務時間割合についてのワークサンプリング法と連続観測法の関連性については、Lin一致相関係数(concordance correlation coefficient; CCC)とその95%信頼区間(Confidence interval, CI)を算出した。
結果と考察
 正確な原価計算を行うことで、病院経営の最適化、特に人事評価・業績評価の重要なツールになるだけでなく、診療報酬改定のエビデンスも提供できることが明らかになった。
 また看護業務の作業時間測定手法として連続観測法によるタイムスタディデータを用い、一定間隔のワークサンプリング法、及びサンプリング間隔の違いによる業務量推計の制度について比較した結果、各業務の時間分布は正規分布を示すものはほとんど無く、減少性や二峰性など様々な形をとることが明らかになった。この例を用いて複雑な連携業務の類型化を行い、さらに原価計算手法を組み合わせることで、費用対効果の向上に最適な医療連携モデルの提供が期待できる。
一方で原価計算の導入にあたって、少人数でディスカッションするワークショップの作業負荷の軽減、必要な医療情報の利用、プライバシーの保護、匿名化手法のさらなる具体化、多様化についてなどの課題も残された。
結論
本研究においては、医療サービスを「財政」「資源」「活動」「サービス」の流れで捉え、活動基準原価計算を医療プロセスの最適化のツールとして捉えている。欧米では医療情報システムの普及を受けて原価計算の進展に加え、患者単位や疾病単位での活動基準原価計算に基づいた原価の測定が実際に行われ始めている。わが国でも欧米の動向を踏まえつつ、必要な医療情報の利用や、個人情報の利活用に関しての具体化、多様化についてのさらなる議論を深めることが喫緊の課題である。
 また、本研究の成果は、正確な原価計算を行うことで今後の診療報酬改定のためのエビデンスを提供し、医療費の適正化などの議論のための基礎的な情報となることが期待される。よって本研究を通じて、新たな方式による活動基準原価計算をさらに検討し、より多くの病院において、活動基準原価計算が可能にするしくみを検討する予定である。

公開日・更新日

公開日
2018-06-05
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201201011C

成果

専門的・学術的観点からの成果
活動基準原価計算を正確に行うために必要なデータの捕捉に関する検討と、発生源入力と全数の把握につながるセンサー技術の検証と人・物のID管理に関しての検討をし、全年度までのデータの利用に関する法的課題等について合わせて検討した結論を踏まえてのデータ利用方法を考えた結果、正確な原価計算を行うことで、病院経営の最適化、特に人事評価・業績評価の重要なツールになるだけでなく、診療報酬改定のエビデンスも提供できることが明らかになった。
臨床的観点からの成果
看護業務の作業時間測定手法として連続観測法によるタイムスタディデータを用い、一定間隔のワークサンプリング法を作成し、連続観測法とワークサンプリング法及びサンプリング間隔の違いによる業務量推計の制度について比較した結果、各業務の時間分布は正規分布を示すものはほとんど無く、減少性や二峰性など様々な形をとることが明らかとなった。また自計式調査によるワークサンプリングデータにて分析可能な調査目的や、欠落したデータを補うための手法を明らかにした。
ガイドライン等の開発
病院原価計算手法は様々なものがあり、病院経営者、部門責任者、医療政策担当者等、立場によって目的が異なることが判明した。そのため原価計算の目的を整理・分類し直し、新たな原価計算手法が開発された。活動基準原価計算は、活動量に応じて費用を配賦する手法であり、現場の負担感覚に近い原価計算を行うことが出来る。発生源でデータ入力を行い、全数を補足する医療情報システムを用いることで、正確な活動基準原価計算が可能となることを示すことが可能になる。
その他行政的観点からの成果
正確な原価計算を行うことで、診療報酬が病院側の生産性向上への努力に繋げることが可能になり、また原価を評価の軸として用いることで、診療報酬上は同じ評価であっても、原価構造の異なる医療サービスの存在などを明らかにすることが出来、より精密な診療報酬体系の設計に有効であるなどの診療報酬改定のエビデンスを提供できることとなり、病院経営の最適化、特に人事評価・業績評価の重要なツールになる。医療費の適正化などの議論のための基礎的な情報となることが期待される。
その他のインパクト
医療情報学連合大会において毎年ワークショップを開催し、また病院原価計算研究会等で、多くの聴衆に聴講いただき、フロアとディスカッションできた。MEDIFAXやRISFAX等のメディアで取り上げられた。

発表件数

原著論文(和文)
32件
原著論文(英文等)
33件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
72件
学会発表(国際学会等)
75件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
秋山昌範、鈴木正朝、佐藤慶浩 他
番号制度化における医療情報の活用と保護に関する検討
医療情報学 , 32 , 108-111  (2012)
原著論文2
Masanori Akiyama, Katsuhide Fujita, Ichiro Sakata et al.
Analyzing Medical Incident Reports for Patient Safety ~using natural language processing and network analysis~
IAMOT  (2012)
原著論文3
Katsuhide Fujita, Masanori Akiyama, Keunsik Park, et al.
Linguistic Analysis of Large-Scale Medical Incident Reports
IAMOT  (2012)
原著論文4
Masanori Akiyama, Futaba Kaneyasu
System Requirements for an Electronic Health Record System Using Smartphones for Homecare
Proceedings of PICMET'12 , 3059-3066  (2012)
原著論文5
Ichiro Sakata, Masanori Akiyama
Knowledge Structureing Tools for Technology Management: An Overview and Three Cases of Citation BAsed Approach
Proceedings of PICMET'12 , 2354-2358  (2012)
原著論文6
Katsuhide Fujita, Masanori Akiyama, Keunsik Park et al.
Detecting Effective Categories of Medical Incident Reports for Patient Safety Management
Proceedings of PICMET'12 , 3073-3082  (2012)
原著論文7
Masanori Akiyama, Ryozo Nagai
Information Technology in Health Care E-HEALTH FOR JAPANESE HEALTH SERVICE
A REPORT OF THE CSIS GLOBAL HEALTH POLICY CENTER  (2012)
原著論文8
Sachiko Shimizu, Rie Tomizawa, Maya Iwasa et al.
Nursing business modeling with UML
Modern Approaches To Quality Control , 405-414  (2011)
原著論文9
秋山昌範、金安双葉、小塩篤史
医療情報システムによる新しい管理会計と医療の最適化
医療情報学 , 31 , 823-828  (2011)
原著論文10
秋山昌範、中安一幸、鈴木正朝 他
社会保障・税番号制度と医療情報保護法案の動向と医療情報の利活用
医療情報学 , 31 , 49-50  (2011)
原著論文11
山本隆一、木村通男、秋山昌範 他
個人情報保護法の医療分野個別法を考える
医療情報学 , 31 , 89-92  (2011)
原著論文12
秋山昌範
診療データの利活用における問題点と将来展望
JAHMC , 5 , 16-20  (2011)
原著論文13
Akiyama M, Koshio A
IT can Improve Healthcare Management for Patient Safety-Minimizing risk of blood transfusion with Point-of-Act-System-
Proceedings of the 2011 IEEE International Conference on Industrial Engineering and Engineering Management , 978 (4) , 979-984  (2011)
原著論文14
Yamamoto S, Jin YZ, Akiyama M et al.
Detection of Precarious Situations in Medical Care with Mining Track record of Dosing
International Association for Management of Technology(IAMOT 2011) Proceedings , 7635 (7)  (2011)
原著論文15
Sakata I, Mori J, Akiyama M et al
Information Science Linkage of Service Innovation
International Association for Management of Technology(IAMOT 2011) Proceedings , 6797 (2)  (2011)
原著論文16
Sakata I, Sasaki H, Akiyama M et al.
Bibliometric Analysis of Service Innovation Research: Identifying Knowledge Domain and Global Network of Knowledge
2011 Proceedings of PICMET '11: Technology Management In The Energy-Smart World (PICMET) , 2974-2980  (2011)
原著論文17
Kawahara N, Akiyama M, Ibrahim A et al.
The 6th Asia Cancer Forum: What Should We Do to Place Cancer on the Global Health Agenda Sharing Information Leads to Human Security
Jpn J Clin Oncol , 41 (5) , 723-729  (2011)
原著論文18
Fujita K, Akiyama M, Park K et al.
Preliminary Linguistic Analysis of Large Number of Medical Incident Reports for Patient Safety
The 13th China-Japan-Korea Joint Symposium on Medical Informatics , 28-33  (2011)
原著論文19
大西昭郎、佐藤智明
医療機器に関わる規制の方向性について
医薬品医療機器レギュラトリサイエンス , 42 (12) , 1053-1057  (2011)
原著論文20
清水佐知子、大野ゆう子、岩佐真也 他
タイムスタディによる看護業務プロセスの可視化
生体医工学 , 48 (6) , 536-541  (2011)

公開日・更新日

公開日
2018-06-15
更新日
-

収支報告書

文献番号
201201011Z