要介護高齢者の生活機能向上に資する医療・介護連携システムの構築に関する研究

文献情報

文献番号
201201010A
報告書区分
総括
研究課題名
要介護高齢者の生活機能向上に資する医療・介護連携システムの構築に関する研究
課題番号
H22-政策-一般-026
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
川越 雅弘(国立社会保障・人口問題研究所 企画部)
研究分担者(所属機関)
  • 備酒 伸彦(神戸学院大学 総合リハビリテーション学部)
  • 篠田 道子(日本福祉大学 社会福祉学部)
  • 白瀬 由美香(国立社会保障・人口問題研究所 社会保障応用分析研究部)
  • 竹内 さをり(甲南女子大学 看護リハビリテーション学部)
  • 孔 相権(京都大学大学院 医学系研究科)
  • 泉田 信行(国立社会保障・人口問題研究所 社会保障応用分析研究部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学総合研究(政策科学推進研究)
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
5,100,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、医療・介護連携上の主要な3課題(課題1:退院時における医療・介護連携、課題2:認知症高齢者に対する医療・介護連携、課題3:終末期患者に対する医療・介護連携)別に、連携の実態とその阻害要因を調査分析した上で、制度面並びに報酬面からみた具体的な課題解決策を提言する事を目的とする。
研究方法
本年度は、課題1に対し、①退院事例調査に基づく退院後のケアプランへの訪問リハビリテーション(リハ)の新規導入要因の検討、②入院時連携強化のための入院時情報提供書の作成、③退院患者を対象とした地域ケア会議の運営方法の検討及び試行などを、課題2に対し、①認知症対策に対する海外動向調査、②北欧における認知症ケアの特徴抽出及び日本との比較検討、③退院/新規外来認知症患者に対する多職種協働方法の検討及び効果評価(事例ベース)、④主治医と介護支援専門員間の連携強化のための情報提供書の作成などを、課題3に対し、在宅看取り患者の特性及びサービス受給状況調査などを実施した。また、医療・介護連携強化策を検討するため、①ケアの質評価に関する考察、②ケースメソッド教育を用いた多職種連携教育の学習評価、③脳卒中患者に対する観察ポイントと医療連携方法に関するテキスト作成、④主治医と介護支援専門員間の連携状況に関するアンケート調査などを実施した。
結果と考察
課題1に関し、退院後のケアプランへの訪問リハ導入群(n=75)と非導入群(n=334)間の要因の差異を多変量解析した結果、①退院後の要介護度、②退院時の寝たきり度、③退院時の認知症自立度、④ケアプランへのリハ導入に対するリハ専門職の指導の実施の4項目が、訪問リハ新規導入の有無と有意な関係を示すことがわかった。4項目のうち、①~③は利用者特性である。したがって、退院後のケアプランへの適切なリハ導入を果たすためには、退院支援や退院後のケアマネジメントプロセスに、リハ職が適切に関与することが重要であると考えた。課題2に関し、退院及び新規外来の認知症患者に対し、外来での多職種ケア会議の開催、作業療法士による自宅訪問指導などを実施し、介入効果を事例ベースで検証した。その結果、活動性の向上、認知症に伴う行動・心理症状(BPSD)や介護負担が軽減した症例を認めた。また、外来場面での本人陳述や家族の評価と実際の生活状況の乖離が訪問により明らかとなり、適切に家族や介護保険サービスに連携し得た症例も認めた。家族や介護者に対する支援も含めた、包括的な生活行為向上を支援するためには、作業療法士による訪問支援を含め、介護支援専門員と他の専門職種との連携をより緊密にとることが不可欠であり、そのためには、情報共有を含めた連携システムの構築が重要と考えた。課題3に関し、在宅看取り患者のサービス受給状況を調査した結果、①訪問看護(92.9%)、福祉用具貸与(53.6%)、訪問診療(50.0%)の利用が多い、②訪問看護+訪問診療(17.9%)、訪問看護+福祉用具貸与+訪問診療(14.3%)の組み合わせが多いなどがわかった。連携強化策の検討のため、ケースメソッド教育受講者(n=86)を対象とした学習評価を行った結果、「視野の広がり」「実践への後押し」「内省の促進」「コミュニケーションの鍛錬」の領域での効果が確認されたことから、多職種連携教育プログラム・方法の開発及び実践強化が必要と考えた。また、実践レベルでのOJT教育も重要である。今回、多職種による事例検討を行った結果、課題の具体化、課題の原因追及、課題解決策の具体性に乏しい事例が多かった。ケアマネジメントプロセスの再教育を、地域ケア個別会議をベースに強化していく必要があると考えた。
結論
介護支援専門員という専門職として見立てた「解決すべき課題」を、医療系の専門職などとの連携や協働により解決する(改善につなげる、悪化しないようにする)のがケアマネジメントの本来の目的である。「何のサービスを入れるか」という発想から、「解決すべき課題をどのように解決するか」に発想を転換させる必要がある。そのためには、学生を対象とした大学教育、実践レベルでのOJT教育となる地域ケア個別会議などの強化を推進すべきである。

公開日・更新日

公開日
2013-10-15
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201201010B
報告書区分
総合
研究課題名
要介護高齢者の生活機能向上に資する医療・介護連携システムの構築に関する研究
課題番号
H22-政策-一般-026
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
川越 雅弘(国立社会保障・人口問題研究所 企画部)
研究分担者(所属機関)
  • 備酒 伸彦(神戸学院大学 総合リハビリテーション学部)
  • 篠田 道子(日本福祉大学 社会福祉学部)
  • 白瀬 由美香(国立社会保障・人口問題研究所 社会保障応用分析研究部)
  • 竹内 さをり(甲南女子大学 看護リハビリテーション学部)
  • 孔 相権(京都大学大学院 医学系研究科)
  • 泉田 信行(国立社会保障・人口問題研究所 社会保障応用分析研究部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学総合研究(政策科学推進研究)
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、医療・介護連携上の主要な3課題(課題1:退院時における医療・介護連携、課題2:認知症高齢者に対する医療・介護連携、課題3:終末期患者に対する医療・介護連携)別に、連携の実態とその阻害要因を調査分析した上で、制度面並びに報酬面からみた具体的な課題解決策を提言する事を目的とする。
研究方法
課題別にみた主な研究方法は以下の通り。【課題1】1. 退院支援/退院時ケアマネジメント実態調査、2. 国内外の先行研究調査、3. 退院時ケアカンファレンス(以下、退院時CC)の運営実態調査、4. ケアプランへのリハビリテーション(リハ)導入の要因分析、5. 介護支援専門員とリハ職による協働ケアマネジメントの効果評価、6. 退院事例を対象とした「地域ケア会議」の運営方法の検討及び試行など、【課題2】1. 認知症ケアマネジメント実態調査、2. 認知症高齢者の日常生活及びサービス受給実態調査、3. 自宅退院患者への多職種協働ケアマネジメントの実施とその効果評価など、【課題3】1. 終末期ケアマネジメント実態調査、2. 主な傷病における医療的な観察ポイントに関する解説書の作成などである。
結果と考察
【課題1】退院1週間後と3ヶ月後のADLやケアマネジメント内容の変化を、リハ職と介護支援専門員の協働マネジメント群(介入群)と介護支援専門員単独のケアマネジメント群(対照群)で比較した結果、①ADL得点や歩行の自立度、うつ得点が介入群で有意に改善していた、②介護サービスの受給状況に有意差はないが、内容別にみたリハ実施率は介入群で有意に増加していた。介護支援専門員の約7割が現在福祉系であるが、これら介護支援専門員がADLの予後をイメージすることは実質困難である。そのため、現状の機能が保たれていればケアマネジメント上の問題はないと判断し、ケアプラン内容もそのまま継続されている可能性が高い。対照群では、退院後のADLの変化もケアプラン内容の変更もほとんどなかったが、これは改善の可能性に言及せず、現状の状態を「あるべき姿」としたケアマネジメントの実情を表した結果であろう。一方、介入群では、リハ職が行ったADLの予後予測により、介護支援専門員がADL上の課題を認識でき、かつ、具体的な課題解決策の提示によりケアプラン内容に変化が生じた結果、ADL予後が改善されたと考えた。【課題2】認知症高齢者の日常生活実態調査から、1.ADLやIADLの各行為を行っておらず、また、近隣との関わりもほとんどない者が多かった、2.サービスも通所介護や訪問介護が中心で、看護やリハの導入率が低かったなどがわかった。その改善策として、退院及び新規外来の認知症患者に対し、外来での多職種ケア会議の開催、作業療法士による自宅訪問指導などを実施し、介入効果を事例ベースで検証した結果、活動性の向上、認知症に伴う行動・心理症状(BPSD)や介護負担が軽減した症例を認めた。また、外来場面での本人陳述や家族の評価と実際の生活状況の乖離が訪問により明らかとなり、適切に家族や介護保険サービスに連携し得た症例も認めた。家族や介護者に対する支援も含めた、包括的な生活行為向上を支援するためには、作業療法士による訪問支援を含め、介護支援専門員と他の専門職種との連携をより緊密にとることが不可欠であり、そのためには、情報共有を含めた連携システムの構築が重要と考えた。【課題3】死亡事例調査から、1. 非がん患者の場合、状態変化を介護支援専門員がイメージできていないため、訪問看護導入が不十分であった、2. 急変の可能性に対する介護支援専門員の認識状況をみると、「がん」では高いものの、脳卒中による死亡事例では半数が「あまり~全く予想していなかった」と回答していたなどがわかった。終末期ケアマネジメントの課題として、①症状や病状の予後のイメージがない、②観察すべきポイントが整理されていないことが考えられた。ケアマネジメントのレベルを上げるためにはアセスメント項目の標準化、ケアプラン原案作成時における看護職との連携(多職種によるアセスメント~課題分析~ケア方針決定)が必要と考えた。
結論
介護支援専門員という専門職として見立てた「解決すべき課題」を、医療系の専門職などとの連携や協働により解決する(改善につなげる、悪化しないようにする)のがケアマネジメントの本来の目的である。「何のサービスを入れるか」という発想から、「解決すべき課題をどのように解決するか」に発想を転換させる必要がある。そのためには、マネジメント論に関する大学教育や多職種による実践教育(地域ケア個別会議など)を強化し、課題解決型のケアマネジメントの実践力を高める必要がある。

公開日・更新日

公開日
2013-10-15
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201201010C

成果

専門的・学術的観点からの成果
多重ロジスティック回帰分析により、退院後のケアプランへの適切なリハビリテーション(リハ)導入を図るためには、退院支援プロセスにリハ職が適切に関与する必要があることが確認された。また、介入研究(リハ職と介護支援専門員による協働ケアマネジメント)を実施し、介入群で、1.退院後のADLやうつ傾向の改善、2.ケアプランへのバランス練習や立位動作訓練などの導入率の有意な増加が確認された。成果は、第47回日本理学療法士学術大会で報告し、大きな関心が寄せられた。
臨床的観点からの成果
本研究により、ケアマネジメント上の課題として、①病状や症状、ADLに対する予後のイメージがないため、課題が適切に認識できていない、②生活上困っていることを支援するという意識が強く、課題が生じた根本原因を追求できていないなどが明らかとなった。また、介入研究により、リハ職との協働マネジメントが有効であることが実証された。現在、多職種を交えた地域ケア個別会議を推進する方向にあるが、その根拠となる成果として意義のあるものといえる。
ガイドライン等の開発
医師と介護支援専門員の連携強化を目的としたテキスト「疾患の観察ポイントと医療連携-脳卒中-」を作成した。その後、虚血性心疾患、誤嚥性肺炎に関するテキストも作成した。これらテキストは、滋賀県のケアマネジャー養成課程で活用されている。
その他行政的観点からの成果
厚生労働省老健局の勉強会にて、「ケアマネジメントの現状と課題」に関する報告を実施した。また、地域ケア会議のモデル試行をもとに、地域ケア会議の進め方に関するマニュアルを作成し、老健局振興課に提供した。
その他のインパクト
医師と介護支援専門員の連携強化を目的としたテキスト「疾患の観察ポイントと医療連携-脳卒中-」の内容が、北海道新聞社の介護新聞(2013年4月18日)に掲載された。また、リハ職と介護支援専門員による協働マネジメントの効果に関しては、第47回日本理学療法士学術大会(2012年5月25日、神戸ポートピアホテル)の特別講演で報告した。

発表件数

原著論文(和文)
14件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
2件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
12件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
3件
厚労省老健局勉強会での報告、退院時ケアマネジメントの課題に関する論文の厚労省担当課への提供、地域ケア会議運営マニュアルの厚労省担当課への提供
その他成果(普及・啓発活動)
1件
医療連携のためのテキストの介護支援専門員への配布

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
川越雅弘,備酒伸彦,森山美知子
要介護高齢者に対する退院支援プロセスへのリハビリテーション職種の関与状況―急性期病床,回復期リハビリテーション病床,療養病床間の比較-
理学療法科学 , 26 (3) , 387-392  (2011)
原著論文2
川越雅弘
ケア提供論-多職種協働職種連携に焦点を当てた上で-
社会保障研究 , 1 (1) , 114-128  (2016)

公開日・更新日

公開日
2018-06-15
更新日
-

収支報告書

文献番号
201201010Z