文献情報
文献番号
201201008A
報告書区分
総括
研究課題名
貧困層の健康と社会的排除についての実態調査と地域の社会医療のあり方についての研究
課題番号
H22-政策-一般-024
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
福原 宏幸(公立大学法人大阪市立大学 大学院経済学研究科)
研究分担者(所属機関)
- 滋野 由紀子(公立大学法人大阪市立大学 大学院経済学研究科)
- 水内 俊雄(公立大学法人大阪市立大学 都市研究プラザ)
- 川野 英二(公立大学法人大阪市立大学 大学院文学研究科)
- 福島 若葉(公立大学法人大阪市立大学 大学院医学研究科)
- 松永 一朗(公立大学法人大阪市立大学 大学院医学研究科)
- 木村 義成(公立大学法人大阪市立大学 大学院文学研究科)
- 田淵 貴大(大阪府立成人病センター がん予防情報センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学総合研究(政策科学推進研究)
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
3,600,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
本調査研究の目的は、大阪市民、また特定地域の住民を対象に、社会経済状態(SES)と健康の関連を調査し、それぞれの地域特性と健康状態がどのような関連があるのかを明らかにするものである。あわせて、貧困や社会的排除が集中する都市の「社会的不利地区」に注目し、これらの地域がこの課題について抱える課題を明らかにしようとするものである。これらの調査を実施した背景の一つは大阪市民の健康状態が全国的にみてよい状態にないこと、もう一つは世界保健機構WHOやEUなどによって健康のあり方は医療だけでなく社会経済状況に規定されていることが明らかにされてきたことにある。このことから、大阪という都市圏におけるこの実態を明らかにするとともに、社会政策的な健康回復の施策について提起を行うことをめざした。
とりわけ、分析にあたっては、社会疫学と社会経済学の観点からの調査によって、これらを明らかにしようとするものである。またそれは、彼らの健康維持・回復には、社会政策的なアプローチによる新たな保健福祉施策が必要であるとともに、地域社会のソーシャル・キャピタルの創出と活用が必要であること明らかにしようとするものである。
とりわけ、分析にあたっては、社会疫学と社会経済学の観点からの調査によって、これらを明らかにしようとするものである。またそれは、彼らの健康維持・回復には、社会政策的なアプローチによる新たな保健福祉施策が必要であるとともに、地域社会のソーシャル・キャピタルの創出と活用が必要であること明らかにしようとするものである。
研究方法
研究においては、「西成区北西部住民健康調査」(平成21-23年)と「大阪市民の社会生活と健康に関する調査」(平成22-24年)の2つの社会生活と健康に関する調査が基本となっている。
前者の調査では、地域住民組織の協力のもと、西成区北西部に暮らす約18,000人のなかから20歳以上住民を対象に無作為に4, 320人を抽出し、アンケート用紙の各世帯留め置き後日回収と会場での一斉回答の2つの方法でアンケート調査を実施した。回収率は52.4%であった。後者の調査では、2005年国勢調査データをもとに11の地区類型を構築し、各地区類型から人口比例割当で第一次抽出単位100地点を抽出し、さらに第二次抽出単位である個人は、この100地点から住民基本台帳をもとに各地点約63名、合計6,228名を抽出した。調査票は郵送配布ののち郵送による回収を行い、未回収票については調査員による個別訪問によって追加回収を行なった。こちらも、同じく52.4%の回収率であった。
とくに調査最終年度である平成24年度においては、これらのデータの分析にあたって、若手研究者も加わった研究会を頻繁に開催するとともに、S.ポーガムなどフランス人研究者チームとの意見交換(川野・福原の渡仏)と、大阪における国際ワークショップの開催(フランスから3人の研究者の招聘)によって、そのデータ分析をいっそう精緻なものに仕上げるように努めた。
前者の調査では、地域住民組織の協力のもと、西成区北西部に暮らす約18,000人のなかから20歳以上住民を対象に無作為に4, 320人を抽出し、アンケート用紙の各世帯留め置き後日回収と会場での一斉回答の2つの方法でアンケート調査を実施した。回収率は52.4%であった。後者の調査では、2005年国勢調査データをもとに11の地区類型を構築し、各地区類型から人口比例割当で第一次抽出単位100地点を抽出し、さらに第二次抽出単位である個人は、この100地点から住民基本台帳をもとに各地点約63名、合計6,228名を抽出した。調査票は郵送配布ののち郵送による回収を行い、未回収票については調査員による個別訪問によって追加回収を行なった。こちらも、同じく52.4%の回収率であった。
とくに調査最終年度である平成24年度においては、これらのデータの分析にあたって、若手研究者も加わった研究会を頻繁に開催するとともに、S.ポーガムなどフランス人研究者チームとの意見交換(川野・福原の渡仏)と、大阪における国際ワークショップの開催(フランスから3人の研究者の招聘)によって、そのデータ分析をいっそう精緻なものに仕上げるように努めた。
結果と考察
この調査研究において、社会疫学的見地からの研究、ならびに社会経済学的見地からの研究と、多様性のある分析を行った。その結果、以下のようなことがわかった。①社会経済状態において多くの社会的不利をかかえた大阪市西成区北西部住民においてとくに健康状態がよくないことがわかった(福原報告)。②生活習慣病に注目すると、女性において居住地区類型と肥満のあいだに有意な負の関連がみられた(松永他報告)。③B型・C型肝炎ウイルス検査受診状況に社会経済状況が関連していること(福島他報告)がわかった。④居住地由来差別が健康に大きく影響していること(田淵報告)、⑤労働環境が労働者のメンタルヘルスに深く影響していること(川野報告)などが明らかとなった。⑥社会的ネットワークの構築の有無が不安定な雇用状況にある人の精神的健康に深く影響を与えている。⑦非自発的非正規労働者においては幸福度が低いことが明らかとなった。⑧生活保護受給者に注目し、彼らの社会的孤立の実態とその背景にある社会経済的要因を明らかにした。最後に、⑨地域における社会関係資本の蓄積がどういった地域でなされているのか、とくに高齢化率の高い地域、持ち家比率の高い地域で「助け合い」につながる社会関係資本が蓄積されていることがわかった。
結論
これらの調査研究の成果を総合すると、以下のような結論を得ることができた。一つは、地域社会と労働環境の領域における社会政策的なアプローチによる医療福祉政策の創出によって、市民の健康が維持・改善されることができる。もう一つは、地域社会における社会関関係資本の蓄積が進んでいる地域住民においては健康が比較的良好であることから、地域社会においてこうした社会関係資本の蓄積をいかに進めるかが課題である。最後に、高齢化が進みかつ持ち家比率の高い地区で社会関係資本の蓄積がみられたが、今後の分析ではなぜこうした地域特性が社会関係資本の蓄積に影響を及ぼしているのかを明らかにするとともに、他の地域での社会関係資本の蓄積にプラスとなる施策を検討する必要があるだろう。
公開日・更新日
公開日
2013-10-15
更新日
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