我が国におけるチャイルド・デス・レビューに関する研究

文献情報

文献番号
201201007A
報告書区分
総括
研究課題名
我が国におけるチャイルド・デス・レビューに関する研究
課題番号
H22-政策-一般-023
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
小林 美智子(地方独立行政法人大阪府立病院機構大阪府立母子保健総合医療センター 病院)
研究分担者(所属機関)
  • 奥山 眞紀子(独立行政法人国立成育医療研究センター)
  • 西澤 哲(山梨県立大学)
  • 佐藤 喜宣(杏林大学)
  • 山中 龍宏(緑園こどもクリニック)
  • 米本 直裕(国立精神・神経医療研究センター)
  • 森 臨太郎(国立成育医療研究センター)
  • 川崎 二三彦(社会福祉法人横浜博萌会子どもの虹情報研修センター)
  • 福永 龍繁(東京都監察医務院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学総合研究(政策科学推進研究)
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
7,100,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
我国の幼児・学童死亡率は先進国中では低くない。死因を見ると事故・虐待・自殺等の「予防できる死亡」対策が必要であると分かる。欧米ではチャイルド・デス・レビュー制度(以下CDRと略す)を作って、子どもの死亡減を図っている。当研究は、わが国のCDR創設に向けて、3年計画で検討する。
 2010年調査では、欧米諸国のCDRは、個々の事例を分析することで、予防策を見出し効果をあげている。それは、死亡実態・経緯・背景等の詳細な把握から始め、必要に応じて多職種チームで分析している。一方わが国では、医療・保健・福祉関係者とも死亡分析の必要性を強く感じているが、どの機関も分析に必要な情報収集が困難で、分析しきれていない。2011年度は、欧米のCDR実施方法を詳細に調べると共に、試行を準備した。
2012年度は、わが国の登録フォームを作成し、2つの試行を行い、CDR創設への具体的課題を見出し、提案する。
研究方法
本研究班自体を、CDRに不可欠な多職種し順次充実させた。2012年度は東京都と埼玉県で試行を開始し、班会議とメイリングリストで全班員で議論を重ね、さらに公開シンポジウムで広く意見を得て、わが国のCDRの実現に向けて検討した。そして、3年間の成果をガイドラインにまとめた。
結果と考察
2010年度研究では、海外のCDRは、その実施には、個々の死亡の詳細な登録フォームを作り、中心機関に集約し、法整備し、中心機関と専従スタッフをおき、地域システムを構築し、関係者の研修を行っている。一方我国では、いくつかの領域にテーマ別の死亡分析を散見するが、国全体の死亡分析は人口動態統計しかない。海外CDRに学んだ児童虐待死亡検証が始まっているが、暗数が推測され、検証に必要な情報を関係機関が持っているとは限らず、さらに情報を集約するのに個人情報保護が壁になっていることも推測される。ただ、我国でも、「予防できる子どもの死」を減らす対策が必要であると強く考える専門家は多く、CDR創設を望んでいる。2011年度は、わが国での創設に向けての策を見出すために、英米CDRが使用する登録フォームやマニュアルの翻訳を行い、創設には医療機関と行政が核になると判断したので小児医療機関と東京都の試行の体制準備を行った。
また、関係領域調査では、保健機関が持つ母子情報はCDRには重要であること、司法面の検討では、創設には立法を含めた制度整備が不可欠であると分かった。
 2012年度は、小児医療機関(群馬県)、と地域試行(東京都)を開始した。試行から見えてきたのは、医療機関で死亡時に救急隊情報と医療情報から基本情報収集して、予防の可能性の有無を大まかに判断し、可能性があるものは多機関での分析対象にすることが現実的である、死に至る経緯や背景の情報は把握されていないものが多く実施には関係者の理解が必要である、病院内多職種チーム組織化と地域委員会の設置が必要である、その実施には実務担当者や専門的性を有する中心機関が必要である、個人情報保護や守秘義務への対策が制度構築には必要である等が、明らかになった。また、監察医務院の分析や、児童虐待死亡の自治体検証や、保健師の経験から、子どもの全死亡のCDRが必要であることが分かった。
結論
我が国の子どもの死亡をさらに減らすには、医学医療の進歩だけでなく心理社会的側面への対策が不可欠だが、子どもの死亡の心理社会的側面の分析を行うことはどの機関でも現行では不可能であり、海外で広がりつつあるCDR創設が必要であることが分った。また、海外CDRで行っているようなCDR創設には法整備・制度整備が必要であると思われた。
3年間の研究から「子どもの死亡予防のためのチャイルド・デス・レビュー創設のためのガイドライン」を作成した。

公開日・更新日

公開日
2013-10-15
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201201007B
報告書区分
総合
研究課題名
我が国におけるチャイルド・デス・レビューに関する研究
課題番号
H22-政策-一般-023
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
小林 美智子(地方独立行政法人大阪府立病院機構大阪府立母子保健総合医療センター 病院)
研究分担者(所属機関)
  • 奥山 眞紀子(独立行政法人国立成育医療研究センター)
  • 西澤 哲(山梨県立大学)
  • 佐藤 喜宣(杏林大学)
  • 山中 龍宏(緑園こどもクリニック)
  • 米本 直裕(国立精神・神経医療研究センター)
  • 森 臨太郎(国立成育医療研究センター)
  • 川崎 二三彦(社会福祉法人横浜博萌会子どもの虹情報研修センター)
  • 福永 龍繁(東京都監察医務院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学総合研究(政策科学推進研究)
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
わが国の乳児死亡率は世界一低率だが、幼児・学童死亡率はそうではない。諸外国では、「予防できる子どもの死亡」を無くす策を見出すために、子どもが死亡した場合に詳細に検討して、チャイルド・デス・レビュー(Chilld Death Review、以下CDRと略す)を行って、成果を上げている。わが国のCDR創設に向けて、海外調査し、我が国のCDRのあり方を検討する。
研究方法
本研究班自体を、CDRに不可欠な多職種で組織した。海外の実態調査をすると共に、わが国の死亡分析の実態を調査し、試行して実現可能なCDRのあり方を検討した。2010年度は、海外調査し、わが国の死亡分析実態を調査し、試行の準備を行った。2011年度は、海外のCDRの詳細を調べ、試行に向けて関係機関の協力体制を準備し、登録フォームや記入マニュアルを準備した。2012年度は東京都と埼玉県で試行を開始し、3年間の成果をガイドラインにまとめた。
結果と考察
CDR実施国では、事例毎に、医学的側面以外にも経緯・受療状況・生活背景・育児実態・剖検等について、詳細な登録フォームで収集し、多機関チームで分析し、報告書を公表し、死亡を減らすための提言を行い、施策につなげている。それを行うには、国の制度とし・多機関情報の収集のために法制定し、調査・分析・制度構築・研修のための機関を設けている。わが国でも虐待死亡検証が始まったが、潜在する虐待死の把握も不可欠で、それには子どもの全死亡の検証が必要である。他の「予防できる死亡」である不慮の事故・自殺他殺・受診の遅れ等の死亡を減らすにも多面的分析が必要である。その分析に必要な情報は、どの機関も単独では収集しきれないため、多機関からの収集が必要だが、個人情報保護等の制約のために収集はできない。
わが国の「予防できる死亡」を減らすにはCDRが必要である。その実現への具体的課題を見出すための試行は、英米CDRが使用している登録フォームやマニュアルの翻訳を行い、CDR制度の核機関である医療と行政を中心に、群馬県と東京都で開始した。この2試行からは、個人情報保護や守秘義務への対策が制度構築には必要であること、死に至る経緯や背景の情報把握には関係者の理解が必要であること、実施には実務担当者や中心機関が必要であること等が明確になった。
また、監察医務院の分析からは、子どもの全死亡の分析が必要であること、保健機関分析からは母子保健情報はCDRに有用だが、情報利用には制度化が不可欠であると分かった。司法関係者の検討でも立法化と制度整備の必要性が論じられた。これらの結果からわが国に「創設するためのガイドライン」を作成した。
結論
基本的考え方は、CDRは 1.子どもの予防できる死をなくすには必要、1.子どもの未来に寄与するものである、1.個人の責任を追及するものではない、1.国が体制整備し実施するものである、1.地方自治体(都道府県)が主体的に実行する必要がある、1.医療機関と福祉機関と行政機関の連携が必要、1.医療職種以外に司法職種を含め多職種が参画する体制とする、1.すべての国民に還元されなければならない。
具体的方法は、①個々の子どものCDRの始動は子どもの死亡に関与する医療機関からである ②米国のCDRのような登録用紙・入力ソフトが不可欠 ③医療現場で医療内多職種から情報収集し、家族に面接し、救急情報を収集し、登録用紙に記入する ④自然死は医療機関情報のみで分析し、外因死や予期せぬ死亡等は関係機関チーム分析にする ⑤自然死以外は、警察・福祉・保健・教育等の情報を収集し、必要に応じて検証会議を行う ⑥その情報を中心機関で分析する ⑦情報の集約には個人情報保護等の制約がある ⑧中心機関には統計と子どもの死亡についての専門性が不可欠で、関係機関との調整力、関係者への教育機能が不可欠 ⑨中心機関には、情報の精度管理、個別の詳細分析を関係機関の検証会議で行い、統計結果を専門家チームで検討する専従者が必要 ⑩多機関からの情報を収集分析するには、個人情報保護や守秘義務違反に問わないこと、刑事訴訟法、警察官職務執行法等に抵触しないこと等を保障する法制定が不可欠 ⑪死亡情報収集には遺族の心情への配慮が不可欠であり、家族への問診には関係者の躊躇が大きいので、米英のようにグリーフケアを同時に行う必要がある ⑫CDR実施には国主導の制度構築と新機関の創設が不可欠 ⑬このようにCDR創設には多くの課題があるが、CDRが子どもや国の未来にとって不可欠であることを行政や社会や関係者や当事者が認識する必要がある。

公開日・更新日

公開日
2013-10-15
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201201007C

成果

専門的・学術的観点からの成果
わが国の高幼児死亡率の原因である事故・自殺心中・虐待・受診の遅れ等を減らすために、欧米諸国はチャイルド・デス・レビュー制度(以下CDRと略す)を造っている。多機関多職種で個々の子どもの死についての死に至る経緯・育児・生活の詳細分析のために情報収集し、登録フォームを作り、集約分析機関で専門家が分析し、具体策を次々に発信し、施策に反映し、啓発を行っている。本研究では関係機関調査や試行によって、我国の創設に向けて実現可能な道筋の検討を行った。我国に創設には新法が不可欠である。
臨床的観点からの成果
①CDR制度で「予防できる死亡」の具体的減少策を多々見出しうることが分かった ②
欧米のCDRで使用している情報や登録を翻訳し、わが国で実施可能なモデルを作成したことで、「予防できる子どもの死」を減らすための方策を明らかにした ③子どもの死亡時に詳細に分析することが重要であると再認識された ④医療・保健・福祉の子ども支援には心理社会的側面も重要であるとの認識が広がり、今後の各臨床の変革が期待される ⑤わが国の子どもの検死・剖検制度の充実の必要性が認識された。
ガイドライン等の開発
①わが国の関係機関・関係者の実態に基づいたCDR創設に向け「子どもの死亡予防のためのチャイルド・デス・レビュー創設のためのガイドライン」作成② 米国National Center for Child Death Reviewの「 CHILD DEATH REVIEWのためのプログラムマニュアル」を翻訳③米国で使用されている「突然の説明困難な乳児死亡事例調査に対する専門性養成のための体系的トレーニング・プログラム」を翻訳④毎年行った公開シンポジウム報告書を作成
その他行政的観点からの成果
チャイルド・デス・レビューを造ると子どもの命を守る具体策が見つかることが推測された。その方法は、医療機関が対象を把握した時にCDRに必要な情報収集して情報登録を行い、予期せぬ突然死については関係機関情報も収集して分析するものである。ここ実現には、国が制度構築・法整備を行う必要があることが明らかになった。大掛かりな国家的事業であるが、そのことで乳児死亡に比して高率なわが国の幼児学童死亡を下げられる可能性は大きく、貴重な子どもの命を無駄にすることを減らすができる。
その他のインパクト
①チャイルド・デス・レビュー制度の必要性を系統的に検討したわが国初の研究である 
②公開シンポジウム「ひとりの死から学び、多くの子どもを守るには」を毎年行った。2010
年「ひとりの子どもの死から最大限に学ぶ社会をつくる」、2011年「各領域で始まっている死因究明制度から子どもの死亡検証制度を考える」、2012年「チャイルド・デス・レヴューは何をなしうるか?」を行った。各会にマスコミ取材があり新聞報道された。  ③日本小児科学会は2011年に「小児の死亡登録・検証委員会」をつくった。

発表件数

原著論文(和文)
7件
原著論文(英文等)
6件
その他論文(和文)
1件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
7件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
4件
2015年度中はマスメディアにおける公演、取材等が行われた。

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
溝口 史剛
小児の死亡登録・検証システムの構築に向けて
日本SIDS学会雑誌 , 13 (1)  (2013)
原著論文2
溝口 史剛
小児の死亡登録・検証システムの構築に向けて
日本SIDS・乳幼児突然死予防学会雑誌 , 12 (1)  (2012)
原著論文3
溝口 史剛
Ai実施のケーススタディチーム医療としての関連部署の見解と役割 小児医学の立場から
INNERVISION , 27 (1) , 24-25  (2012)
原著論文4
山中 龍宏、溝口 史剛、森 臨太郎
子どもの死に関する我が国の情報収集システムの確立に向けた提言
日本小児科学会雑誌 , 116 (6) , 1027-1035  (2012)
原著論文5
森崎菜穂 山岡結衣 溝口史剛
チャイルド・デス・レビュー~日本での実現に向けて~
周産期医学 ,  (5) , 283-286  (2016)

公開日・更新日

公開日
2016-06-10
更新日
-

収支報告書

文献番号
201201007Z