先進諸国の社会保障政策の転換に関する調査研究

文献情報

文献番号
199800028A
報告書区分
総括
研究課題名
先進諸国の社会保障政策の転換に関する調査研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
塩野谷 祐一(国立社会保障・人口問題研究所)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学推進研究事業
研究開始年度
平成8(1996)年度
研究終了予定年度
平成10(1998)年度
研究費
3,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
近年、先進諸国は少子高齢化、高失業率、低経済成長率などの共通する経済的・社会的問題状況の中で、様々な社会保障改革に着手している。本研究は、それらの社会保障改革の本質的な特徴・問題点ならびに福祉国家の展望に関して、規範的に分析することを目的とする。平成10年度は、とりわけ、近年の先進諸国の社会保障改革の動向・意義に関する国別・制度別分析を踏まえて、先進諸国の社会保障制度の経済的・倫理的な存立基盤を解明することに焦点があてられた。
研究方法
経済的基盤の解明に関しては、異なる社会保障制度の中に混在している目的と機能を、再分配に関する2つの異なる概念、すなわち「個人内再分配」と「個人間再分配」という2つの概念によって切り分けるというアプローチがとられた。また、倫理的基盤の解明に関しては、「手続きの保証と帰結の保障」あるいは「機会の保障と結果の保障」などの対概念をもとに、先進諸国の福祉改革にみられる社会的価値(自由の諸観念の他、家族の絆、decentな社会等)を抽出し、福祉国家システム体系を構造的に分析するというアプローチがとられた。
結果と考察
①社会保障の有する再分配機能は、その基本的性質において大きく2つに分けられる。
一つは、個人内再分配、すなわち個々人のライフサイクルの異なる時点間で行われる再分配(例えば、就労期に稼得した所得の一部を、退職期の消費のために保留すること)である。他の一つは、個人間再分配、すなわち異なる個人の間でなされる所得移転(例えば、個人の予測する危険確率とは異なる保険料が一律に課されることによるリスクの再分配、あるいは、所得に応じて保険料を調整することによる所得の再分配)である。各国の年金、医療、公的扶助等の社会保障制度には、いずれもこのような2つの機能が併存しているが、どちらの機能により比重をおくかに関しては、制度別に、また国別に異なる特徴を持っている。さらに、近年の社会保障改革の主要な争点は、はたして2つの機能のいずれに対してより大きな比重をおくべきかという問題に関する規範的判断の相違に求められる。②福祉国家において社会的にコミットすべき「福祉」とは、個々人の自律的な活動の帰結ではなく、活動のプロセスあるいは機会に深く関連するものであり、また、福祉を改善する「社会的コミットメント」とは、個々人の自律的な活動を支える条件を保証するための諸条件を包括的に提供するものでなければならない。そのような諸条件としては、選択の自由、公正な機会、参加の権利、ならびに最小限の基礎的潜在能力の保障を挙げられる。また、これらの諸条件を具体化する制度として、競争メカニズムをメイン・システムとし、競争政策、コーディネーション・システム、社会保障システムをサブシステムとする社会体系が構想される。福祉国家とはこれらのシステムを体系化する複合的なシステムに他ならない。
結論
福祉国家システム全体の多層性と各々のシステム・サブシステムの多層性を捉える統一的なフレームワークが構想されたこと、また、先進諸国の社会保障改革の動向を総括しつつも、それらを乗り越える視点、すなわち福祉国家の向かうべき将来的な展望を指し示すような経済的・倫理的観点が提出されたことが本年度の研究の最大の収穫である。そのような成果は、本研究所主催の「厚生政策セミナー」として、本年3月に広く公開された。

公開日・更新日

公開日
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更新日
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