住民主体のソーシャルキャピタル形成活動プロセスと支援体制に関する介入実証研究

文献情報

文献番号
201201005A
報告書区分
総括
研究課題名
住民主体のソーシャルキャピタル形成活動プロセスと支援体制に関する介入実証研究
課題番号
H22-政策-一般-021
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
福島 富士子(国立保健医療科学院 生涯健康研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 待鳥美光(NPO法人こども・みらい・わこう)
  • 齋藤泰子(武蔵野大学看護学部)
  • 信友浩一(九州大学医学研究院 医療システム学)
  • 野口真貴子(北海道大学大学院保健科学研究院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学総合研究(政策科学推進研究)
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
8,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
この研究は、地域課題の解決のために、住民が主体的にソーシャル・キャピタル(SC)形成活動を行うプロセスを把握し、行政や住民による地域づくりへ向けた提言を行うことである。
この研究は、住民の参加型研究であること、ソーシャル・キャピタルに基づく世代間交流事業として新たに地域の課題である妊産婦ケアセンターの設立を行政と住民の協働により創設を図る経過について準備段階から介入研究を行い、実際にモデル事業を創設することである。 さらに最終年度の24年度は、SCの拠点となりうる産後ケアセンターでの産後のケアの定義を明らかにするとともに、各国の産後ケアへの取り組みについてその政策や対策について情報収集を行い、国内情勢の改善に資するものとした。
研究方法
①1年目にモデル事業として立ち上げたW市ケアセンターの2年間の実績についてスタッフへのヒアリングとセンターを活用した母親へのグループインタビューを行った。②全国および海外、特にアジアに着目し、台湾、韓国の妊産婦ケアセンター類似施設(産後ケアセンター)に対して、センターが持つSC形成の可能性についてスッタフへのヒアリング調査及び視察調査を実施した。③全国の市町村の母子保健担当者を対象として、SC醸成の拠点となりうる産後ケア事業(産後1年までの母親を対象としたもの)の実態把握のためのアンケート調査を実施した。④WHOをはじめとする国際機関のガイドラインや各国行政の指針、報告書等でWeb上に情報公開されている文献からの情報収集を行った。⑤ソーシャル・キャピタル形成の可能性としての産後ケアに関する国際比較⑥SCを推奨していく行政の視点から考える地域住民の組織化について、山梨県の保健師活動、保健師教育について保健師管理者に対するヒアリング調査と資料収集を実施した。⑦NPO、地縁組織のSC活用先進事例およびコーディネーターに対するヒアリング調査を実施した。
結果と考察
①W市ケアセンターでは、地域の住民をつなげるためのヨガ教室やセルフ・カウンセリング教室などのほか、住民同士が支え合うことができる環境づくりをサポートしている。また、W市から新生児訪問事業の委託、災害時妊産婦の受け入れ福祉避難所としての指定をうけるなど、事業の中で行政とのつながりもみられた。1年半における実績は、乳房ケア外来 280件、入院ケア25件、和光市からの家庭訪問事業の委託訪問数 443件であり、毎月の母親たちのイベント開催、子育てNPO・行政保健師との共同勉強会を行うなど実績を上げ、出入りした総人数は約4000人となっており、SC形成に向けて効果を上げている。②国および海外の妊産婦ケアセンター類似施設(韓国、台湾)、鹿児島の助産師会運営の産後ケアセンター、沖縄県の母子未来センターのヒアリング調査では施設はケアを提供するだけでなく、人が集う場になりうることが明らかになった。しかし施設はSC形成を意識するまでには至っておらず、関係性の構築を含めた妊産婦ケアの提供が今後の課題である。③国の市町村を対象に、SC醸成の拠点となりうる産後ケア事業への質問紙調査では宿泊型産後ケアの提供自治体は約2%のみであった。しかし、産後ケア施設に関する情報提供希望は多く、関心が高いことが分かった。④各国産後ケアの在り様は分娩を扱う医療体制と密接に関連しており、分娩入院日数の短い諸国では民間サービスの導入や在宅訪問・ケアをより推進する方向性があると考えられた。地域社会における住民の結びつきが希薄化する中で、出産を契機としたソーシャル・キャピタルの確立を実行するためには、産後ケアサービスを完全に民間化し個人負担にするのではなく、行政や専門家組織、地域社会がその方針を明確にしつつ補助やサポートを行う必要があると考えられる。⑤Y県の保健師活動、教育についてヒアリング調査、資料収集を実施。保健師が最も必要な力は、住民の生活と保健統計を結び付けて地区診断をする力が必要であり、広域的に地域をとらえ、地域住民の声を拾い、課題解決のために組織をつなぎ、仕組みづくりをすることが、行政の役割だと言える。⑥NPO、地縁組織のSC活用の先進事例調査を実施した。SC形成を意識して活動しているNPO、地縁組織は必ず行政と連携をとり活動を進めていることが明らかになった。
結論
本研究結果からは、妊産婦ケアセンターはソーシャル・キャピタル醸成の拠点となりうる可能性があることが示唆された。SCの醸成を促すためには、人がつながる場づくり、活動継続のためのシステムづくり、人材育成が重要な要素である。既存の事業に意識的にSCという視点を加え、地域活動が地域づくりの場として機能を強化していく必要性が示唆された。そして地域づくりに関して、住民が主体的に判断し決定することができるような環境整備は、地方自治体の責任であるといえる。

公開日・更新日

公開日
2013-12-17
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201201005B
報告書区分
総合
研究課題名
住民主体のソーシャルキャピタル形成活動プロセスと支援体制に関する介入実証研究
課題番号
H22-政策-一般-021
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
福島 富士子(国立保健医療科学院 生涯健康研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 中板 育美(日本看護協会)
  • 杉田 由加里(千葉大学)
  • 藤原 佳典(東京都健康長寿医療センター研究所)
  • 宮里 和子(武蔵野大学)
  • 齋藤 泰子(武蔵野大学)
  • 加藤 尚美(日本赤十字秋田看護大学)
  • 待鳥 美光(NPO法人こども・みらい・わこう)
  • 尾島 俊之(国立大学法人 浜松医科大学)
  • 信友 浩一(九州大学大学院名誉教授)
  • 野口 真貴子(北海道大学大学院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学総合研究(政策科学推進研究)
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
この研究は、地域課題の解決のために、住民が主体的にソーシャル・キャピタル(SC)形成活動を行うプロセスを把握し、行政や住民による地域づくりへ向けた提言を行うことである。
研究方法
第一に、Community Based Participatory Research(CBPR)の方法を用い、ソーシャル・キャピタルに基づく世代間交流事業として新たに地域の課題である妊産婦ケアセンターの設立を行政と住民の協働により創設を図る経過について準備段階から介入研究を実施した。第二に、ソーシャル・キャピタル形成の拠点になりうる妊産婦ケアセンターについて、定性的調査として施設に対してヒアリング調査、定量的調査として市町村を対象にソーシャル・キャピタル醸成の拠点となりうる妊産婦ケアセンターについての調査を行った。第三に、CBPRを用いた人材育成の可能性について、保健師人材育成プログラムに関するヒアリング調査、NPO、地縁組織のソーシャル・キャピタル活用の先進事例調査を実施した。
結果と考察
CBPR手法を用いた介入研究では、研究班による住民参加型プロジェクトを結成し、地域課題・目的の共有化によるステークホルダー間でのソーシャル・キャピタルが形成され、課題解決に向けて介入結果により妊産婦ケアセンターの立ちあげまでに至った。住民、市保健センター、専門職団体、研究機関のすべてが、研究分担・協力者となり、開設までのプロセスに関わり、妊産婦ケアセンターの開設となった。開設された妊産婦ケアセンターでは、母親の勉強会、地域の勉強会、孫育て、高齢者とのふれあいなどが行われ、新たなソーシャル・キャピタルの形成の場となった。第二の定性的・定量的調査では、妊産婦ケアセンターの設立・運営は、官主導、民主導と様々であった。しかし、既存の妊産婦ケアセンターでは、ソーシャル・キャピタル醸成を意識するまでには至っていなかった。特に、韓国、台湾では、施設内の個のケアにとどまり、地域におけるソーシャル・キャピタル醸成、関係性の構築などの、公衆衛生の視点はほとんどみられなかった。全国市町村への調査でも、回収された786の市町村のうち宿泊型産後ケア(妊産婦ケア)事業が実施されているのは17市町村と少なく、実施内容の中に、母親(住民)のネットワークづくりには焦点があてられていなかった。上記2つの研究より、ソーシャル・キャピタル形成の拠点としての妊産婦ケアセンターの必要性が示唆された。
第三の保健師人材育成プログラムに関するヒアリング調査では、地区組織活動を展開する保健師の能力として、《地域のアセットを特定する能力》、《関係者(機関)の専門性・役割機能をオーガナイズする能力》、《将来の地域をイメージし持続的なシステムを志向する能力》、《住民のニーズによって支持される前向きな態度》および《活動のベースとなる保健師のコア能力》の5つの資質が特定された。《活動のベースとなる保健師のコア能力》の内容は【組織管理・人材育成能力】や、セクターや地域を超えた関係者との【コミュニケーション能力】と【PDCA展開能力】など、中堅期から管理期の保健師に期待されるコア能力であった。NPO、地縁組織のソーシャル・キャピタル活用の事例では、ソーシャル・キャピタル形成を意識して活動している組織は、必ず行政と連携をとり活動を進め、ステークホルダー間のコーディネーターとなる可能性があることがわかった。第三の研究結果から、ソーシャル・キャピタル形成のためのCBPR手法の獲得のための人材育成が重要になることがわかった。
結論
本研究結果からは、妊産婦ケアセンターはソーシャル・キャピタル醸成の拠点となりうる可能性があることが示唆された。また、住民、行政、専門職団体、研究機関、民間企業などの様々なステークホルダーによって、地域課題・目的の共有化を図ることにより、課題解決に向けたソーシャル・キャピタルの醸成が可能である。そのためには、同じ課題に向かって目的を共有するステークホルダーが、一同を介してソーシャル・キャピタル形成のためのプロセスを学べるような環境を創ることが重要となる。
 最後に、本研究の結果から、①人と人とのかかわりのきっかけをつくる行政医療施策の充実、②関係性に基づいた地域づくりの支援を政策提言とする。

公開日・更新日

公開日
2013-12-17
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201201005C

成果

専門的・学術的観点からの成果
本研究は、地域課題解決のために住民が主題的にソーシャルキャピタル形成活動を行うプロセスを把握し、行政や住民による地域づくりへ向けた提言を行うことである。特に、妊産婦ケアセンター設立にあたり準備段階から介入研究を行い、その他自治体へのヒアリング、アンケート調査より、ソーシャルキャピタル醸成を促すために、人がつながる場づくり、人材育成、既存の事業に意識的にソーシャルキャピタルという視点を加え、地域活動が地域づくりの場として機能を強化していく必要性を示唆した。
臨床的観点からの成果
和光市に、先駆的モデル事業として、妊娠・出産をきかっけとした世代間交流と地域づくりの拠点となる産前産後ケアセンターを立ち上げ、開設、展開した。センターは、和光市の乳児家庭全戸訪問事業の委託を受け、地域へのソーシャル・キャピタル醸成の推進を図る拠点となった。(H22.3~H23.10)乳房ケア外来 280、入院 ケア25件、家庭訪問事業の委託443件(H24.4~H24.10)毎月の母親たちのイベント開催、子育てNPO・行政保健師との共同勉強会、災害時福祉避難所の指定。
ガイドライン等の開発
(平成23年度)地域特性に応じた妊産婦ケアセンター事例集
その他行政的観点からの成果
少子化社会対策会議の少子化問題に関する緊急対策において、出産直後の母子が助産師の支援を受けられる「産後ケアセンター」の整備・拡充が柱とされ、経済財政運営の基本方針「骨太の方針」に今後反映される。平成26年11月に全国町村会から出された「地方創生の推進に関する提言」に取り入れられた。
その他のインパクト
平成24年8月18日共同通信による地方紙(室蘭、高知、埼玉、福島他)への掲載
平成25年3月NHKラジオ第一「土曜あさいちばん」産後ケアに関するインタビュー
平成25年3月NHK総合テレビ「NHKニュース おはよう日本」産後ケアの必要性と今後の方向性平成25年4月3日産経朝刊掲載,同4月22日読売新聞掲載 産後ケア特集 
平成27年5月1日月刊「母子保健」(公益財団法人母子衛生研究会による機関紙)産後ケアインタビュー
平成27年5月14日FNN欧発の子育ての仕組み「ネウボラ」について(取材)

発表件数

原著論文(和文)
1件
産科施設における看護職の共感性に関する研究 : 出生直後から退院までの育児支援と虐待予防に重点をおいて,日本母子看護学会
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
9件
健康なくに.医療文化社 NPO等地域住民との連携.日本助産師会出版,世代間交流学の創造.あけび書房 住民主体のSC形成活動.医学書院 産後支援の新しい形と考え方の提案.医学書院 他
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
6件
日本世代間交流学会;2010年8月,日本公衆衛生学会総会;2010年10月, 日本公衆衛生学会総会;2011年-2015年
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
1件
少子化社会対策会議の少子化問題に関する緊急対策において、出産直後の母子が助産師の支援を受けられる「産後ケアセンター」の整備・拡充が柱とされ、経済財政運営の基本方針「骨太の方針」に今後反映される。
その他成果(普及・啓発活動)
20件
平成23年11月児童虐待に関するシンポジウム シンポジスト,平成24年乳幼児保健学会学術集会シンポジスト,平成25年5月日本トラウマ学会シンポジスト

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2016-06-27
更新日
-

収支報告書

文献番号
201201005Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
8,500,000円
(2)補助金確定額
8,500,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 306,587円
人件費・謝金 2,647,162円
旅費 2,136,381円
その他 3,409,870円
間接経費 0円
合計 8,500,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2014-05-26
更新日
-