社会保障給付の人的側面と社会保障財政の在り方に関する研究

文献情報

文献番号
201201004A
報告書区分
総括
研究課題名
社会保障給付の人的側面と社会保障財政の在り方に関する研究
課題番号
H22-政策-一般-018
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
金子 能宏(国立社会保障・人口問題研究所 社会保障基礎理論研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 西村 周三(国立社会保障・人口問題研究所 所長)
  • 稲垣 誠一(一橋大学 経済研究所)
  • 岩木 秀夫(日本女子大学 人間社会学部)
  • 岩本 康志(東京大学 大学院経済学研究科)
  • 音山 若穂(群馬大学 大学院教育学研究科)
  • 西山 裕(長崎国際大学 人間社会学部)
  • 森口 千晶(一橋大学 経済研究所)
  • 八塩 裕之(京都産業大学 経済学部)
  • 湯田 道生(中京大学 経済学部)
  • 東 修司(国立社会保障・人口問題研究所 企画部)
  • 山本 克也(国立社会保障・人口問題研究所 社会保障基礎理論研究部)
  • 暮石 渉(国立社会保障・人口問題研究所 社会保障基礎理論研究部)
  • 佐藤 格(国立社会保障・人口問題研究所 社会保障基礎理論研究部)
  • 酒井 正(国立社会保障・人口問題研究所 社会保障基礎理論研究部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学総合研究(政策科学推進研究)
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
6,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
医療介護福祉等の給付の提供に関わる人々(福祉マンパワー)の確保・定着に関連して、近年、地域別・分野別の人手不足や介護分野での離職問題などが明らかになり、対策が採られ始めている。しかし、高齢者の増加で医療介護に対するニーズが増え、これに応えるサービスを提供する医療介護従事者の不足が見られる一方、若年者の就職難など労働市場のミスマッチや待遇改善の課題が残されている。そのため、福祉マンパワーの確保定着には、働くインセンティブ(誘因)と適切な人材配置等を可能にする諸条件を、マンパワーの費用を支える社会保障財政とバランスを保ちながら整備・拡充していく制度横断的な取組みが必要である。特に、専門職に就く人々の社会的背景には多様な要素が関係するため、経済学、教育社会学、心理学、制度分析などを用いて多角的に分析する必要がある。従って、本研究では、福祉マンパワーの実態と動向に関するデータに基づく実証分析と福祉マンパワーの課題に関する制度分析・国際比較を行い、今後の社会保障政策に資するエビデンスを提供することを目的に研究を行う。
研究方法
社会保障給付の人的側面と社会保障財政に関連する分析には、医療介護福祉のニーズに対応する福祉マンパワーの実証分析(推計を含む)と福祉マンパワーになりうる若年者の就労と人材の専門性に関する制度分析が必要である。また、専門職に就く人々の社会的背景やインセンティブには多様な要素が関係するため、研究動向を把握する有識者からのヒアリングを行うと共に、経済学、教育社会学、心理学、国際比較などにより多角的に分析する。社会保障給付の人的側面については、雇用保険が人々の就業行動に及ぼす影響、若年者就労支援の新たな方向性に関わるグローバリズムの影響に対応した教育の雇用・労働インフラ再構築の課題、ドイツにおける医師不足等に対応した外来診療確保を図る改革、先進国の外国人介護労働者増加要因の国際比較などをテーマに分析を行う。社会保障財政の在り方については、人口の変化が経済・社会保障財政に与える影響のマイクロシミュレーションモデル・マクロ計量モデルによる分析、高齢者家計に対する医療・介護費用の影響の推計、介護給付と家族の関係に関する分析などを行う。
結果と考察
日本の社会保険は、先進国共通の課題(高齢化、就業構造変化、経済の不安定化等)に対して部分的な修正と公費負担で対応してきたため、脆弱性が顕在化し、皆保険維持のためには脆弱性に対処して持続可能性を高めていく必要がある。社会保険の例として失業保険をみると、失業給付が失業を長期化させるモラル・ハザードやマッチングの質の問題があり、日本でもこれらの問題や離職前行動への影響を解明し制度評価する必要性がある。若者の就労支援をグローバリズムの影響を踏まえて分析すると、地域人材育成策が教育制度の実質的複線化になり地方の限界集落問題と都市の若年不完全就業問題の解決につながる可能性がある。介護労働者の調査から働く誘因として職場環境と賃金など報酬が代替的な機能を発揮する場合と補完的な場合とがあること、医療従事者(勤務医)に関する調査から廃院・休院が起こると同じ医療圏の病院の勤務医の約50%で労働時間が増え、労働時間が増えた勤務医では看護師の高度専門家に賛同する割合は60%、医療事務スタッフ充実を望む割合が80%に達することがわかった。医師不足について、ドイツでは医師が確保できない場合は遠隔医療や医師から看護師等への実施権限の委譲を進めるなど医療供給システムの見直しが行われている。先進国各国の外国人介護労働者をどの程度受入れるかは、家族主義の強さ・高齢化と女性就業率の上昇・公的介護支出の程度・現金給付制度等の要因に加え治安維持など別途の観点も併せて総合的に判断されている。社会保障財政の在り方については、医療・介護の保険料負担引き上げは、年金給付の応能部分に関する限り就労する年金受給者への影響は小さいが、単身高齢男性は生活水準の低下が起きる可能性がある。
結論
社会保障給付の人的側面は、マンパワーの面と専門職性の両面から分析する必要がある。社会保障給付の人的側面を支える社会保障財政については、負担軽減のため給付を効率的にする条件とニーズに基づく給付を可能にする条件など、多角的な研究が必要である。本研究の成果のうち、介護労働者の調査から、働く誘因として職場環境と賃金など報酬それぞれが異なる機能を発揮する場合と共通する場合とがあることが、また医療従事者(勤務医)の調査から廃院・休院の医療圏内の病院への影響と病院勤務医の意識の変化及び医療スタッフに対する要望が示された。これらの成果は社会保障審議会医療部会医療提供体制の改革に関する意見及び医療分野の「雇用の質」向上プロジェクトチームが示した課題に対応する検討の基礎的情報となることが期待される。

公開日・更新日

公開日
2013-12-17
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201201004B
報告書区分
総合
研究課題名
社会保障給付の人的側面と社会保障財政の在り方に関する研究
課題番号
H22-政策-一般-018
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
金子 能宏(国立社会保障・人口問題研究所 社会保障基礎理論研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 西村 周三(国立社会保障・人口問題研究所 所長)
  • 稲垣 誠一(一橋大学経済研究所)
  • 岩木 秀夫(日本女子大学人間社会学部)
  • 岩本 康志(東京大学大学院経済学研究科)
  • 音山 若穂(群馬大学大学院教育学研究科)
  • 西山 裕(長崎国際大学人間社会学部)
  • 松本 勝明(北海道大学公共政策大学院)
  • 森口 千晶(一橋大学経済研究所)
  • 八塩 裕之(京都産業大学経済学部)
  • 湯田 道生(中京大学経済学部)
  • 東 修司(国立社会保障・人口問題研究所 企画部)
  • 山本 克也(国立社会保障・人口問題研究所 社会保障基礎理論研究部 )
  • 暮石 渉(国立社会保障・人口問題研究所 社会保障基礎理論研究部 )
  • 佐藤 格(国立社会保障・人口問題研究所 社会保障基礎理論研究部 )
  • 酒井 正(国立社会保障・人口問題研究所 社会保障基礎理論研究部 )
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学総合研究(政策科学推進研究)
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
医療介護福祉等の給付の提供に関わる人々(福祉マンパワー)の確保・定着に関連して、近年、地域別・分野別の人手不足や介護分野での離職問題などが明らかになり、対策が採られ始めている。しかし、高齢者の増加で医療介護に対するニーズが増え、これに応えるサービスを提供する医療介護従事者の不足が見られる一方、若年者の就職難など労働市場のミスマッチや待遇改善の課題が残されている。そのため、福祉マンパワーの確保定着には、働くインセンティブ(誘因)と適切な人材配置等を可能にする諸条件を、マンパワーの費用を支える社会保障財政とバランスを保ちながら整備・拡充していく制度横断的な取組みが必要である。特に、専門職に就く人々の社会的背景には多様な要素が関係するため、経済学、教育社会学、心理学、制度分析などを用いて多角的に分析する必要がある。従って、本研究では、福祉マンパワーの実態と動向に関するデータに基づく実証分析と福祉マンパワーの課題に関する制度分析・国際比較を行い、今後の社会保障政策に資するエビデンスを提供することを目的に研究を行う。
研究方法
社会保障給付の人的側面と社会保障財政に関する分析には、ニーズに対応する福祉マンパワーの実証分析(推計を含む)と福祉マンパワーになりうる若年者の就労と人材の専門性に関する制度分析が必要である。また、専門職に就く人々の社会的背景やインセンティブには多様な要素が関係するため、研究動向を把握する有識者からのヒアリングを行うと共に、経済学、教育社会学、心理学、国際比較などにより多角的に分析する。社会保障給付の人的側面については、介護ニーズに基づく介護マンパワーの推計、若年者の教育・入職経路と地域就労、失業給付と就業行動との関係、福祉専門職の資質向上、医療分野の専門職確保・医師不足に対するドイツの改革動向、外国人介護労働者増加要因の国際比較などをテーマに分析を行う。福祉マンパワーと社会保障財政との関係は、医療介護専門職者に対する就業環境と意識に関するアンケート調査を実施し分析すると共に、人口の変化が経済・社会保障財政に与える影響のマイクロシミュレーションとマクロ計量モデル分析、高齢者家計に対する医療・介護費用の影響、特定健康診査等を担う人材と財源の在り方、行政費用の効率性評価に関わる国民健康保険の実証分析、介護給付と家族の関係に関する分析などを行う。
結果と考察
日本の社会保険は、先進国共通の高齢化・就業構造変化・経済の不安定化等に対して部分的修正と公費負担で対応してきたため脆弱性が現れ、皆保険維持のためには脆弱性に対して持続可能性を高めていく必要がある。この問題を失業保険でみると、失業給付が失業を長期化させるモラル・ハザードとマッチングの質の問題や離職前行動への影響を解明し制度評価する必要性がある。若者の就労支援をグロール化の影響を踏まえて分析すると地域人材育成策が地方の限界集落問題と都市の若年不完全就業問題の解決につながる可能性がある。介護労働者調査からは働く誘因として職場環境と賃金など報酬が代替的な役割を果たす場合と補完的な場合があることが、医療従事者(勤務医)調査からは廃院・休院が起こると同じ医療圏の病院の勤務医の約50%で労働時間が増え、労働時間が増えた勤務医では看護師の高度専門家に賛同する割合は60%、医療事務スタッフ充実を望む割合が80%に達することがわかった。医師不足に対して、ドイツでは遠隔医療や医師から看護師等への実施権限の委譲を進めるなどの制度改革が行われている。先進国の外国人介護労働者受入れは家族主義の強さ・女性就業率・公的介護支出・現金給付等の要因に加え、治安維持などの観点も併せて総合的に判断されている。社会保障財政については、国保特会には規模の経済性があり国民健康保険の統合・再編にはメリットがあり、年金受給者の医療介護の保険料負担引上げは年金の応能部分があり就労する高齢者では影響は小さいが、単身高齢男性では生活水準低下の可能性がある。
結論
社会保障給付の人的側面は福祉マンパワーと専門職性の両面から分析する必要がある。人的側面を支える社会保障財政については、負担軽減のため給付を効率化する条件(国保の効率的規模)やニーズに基づく給付を可能にする条件(ニーズに基づく介護マンパワー推計)など多角的な研究が必要である。介護労働者調査からは働く誘因として職場環境と賃金など報酬とが代替的な役割を果たす場合と補完的な場合とがあることが、医療従事者(勤務医)調査からは廃院・休院が同じ医療圏内の病院に及ぼす影響とこれによる勤務医の意識の変化と医療スタッフに対する要望がわかった。これらの成果は社会保障審議会医療部会医療提供体制の改革に関する意見及び医療分野の「雇用の質」向上プロジェクトチームが示した課題に対応する検討の基礎的情報となることが期待される。

公開日・更新日

公開日
2013-12-17
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2014-03-11
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201201004C

収支報告書

文献番号
201201004Z