人口構造の変化を踏まえた医療提供体制の戦略的構築

文献情報

文献番号
201201002A
報告書区分
総括
研究課題名
人口構造の変化を踏まえた医療提供体制の戦略的構築
課題番号
H22-政策-一般-016
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
印南 一路(慶應義塾大学 総合政策学部)
研究分担者(所属機関)
  • 梶井英治(自治医科大学 地域医療学センター)
  • 小暮厚之(慶應義塾大学 総合政策学部)
  • 古谷知之(慶應義塾大学 総合政策学部)
  • 堀真奈美(東海大学 教養学部)
  • 神田健史(自治医科大学 地域医療学センター)
  • 古城隆雄(自治医科大学 地域医療学センター)
  • 阿江竜介(自治医科大学 地域医療学センター)
  • 原田昌範(自治医科大学 地域医療学センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学総合研究(政策科学推進研究)
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
6,200,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
日本社会の人口減少・少子高齢化は、地域の医療ニーズを激変させる。しかし、利用できる医療資源には限りがあるため、多くの地域で医療提供体制を再構築する必要が生じる。本研究の目的は、①住民の健康を守る観点から、医療提供体制を再構築すべき地域(重点支援地域)を特定するための実践的な方法を開発し、②実際に戦略的なプラン作成のための基礎的知見を得ることにある。
研究方法
 3年間にわたる研究の最終年度である本年度は、過去2年間の研究を発展させ、最終的な研究目的の達成に必要なテーマについて追究した。研究全体は、「地域医療の評価に関する研究」(GISを用いた医療アクセス評価、人口動態の予測分析)と「医療提供体制に関する研究」(医師の診療特性と人口動態を考慮した医療提供体制に関する分析に大別され、下記の3つの分担研究報告書から構成される。
 第一の「GISを用いた地域医療アクセス圏に関する研究」は、交通・医療施設の空間情報や医療統計を含めた空間情報データベースを構築し、山口県と千葉県の脳卒中と急性心筋梗塞の救急搬送アクセシビリティを分析し、さらに日常医療(内科診療所、200床未満の病院、産科診療所)のアクセシビリティも分析した。
 第二の「山口県二次医療圏における疾病別死亡数の将来予測-制約付きポアソンLee-Carter法によるアプローチ-」は、平成23年度研究を発展させたものである。ポアソンLee-Carterモデルを用いた死亡率の推計は、実績値と整合的な予測結果を得ることができなかった。そのため、この点を克服するために、通常のポアソンLee-Carterモデルに一定の制約を加えた「制約付きポアソンLee-Carter法」を用いた。
 第三の「人口構造の変化と医師の診療特性を踏まえた医療提供体制に関する考察」は、過去2年間に実施したカルテ調査とアンケート調査を基に、医師の診療特性と将来の人口構造の変化に対応した医療提供体制のあり方について考察した。
結果と考察
 「GISを用いた地域医療アクセス圏に関する研究」の結果、治療開始まで30分圏内の人口カバー率は、山口県では急性心筋梗塞97.2%、脳卒中97.8%であった。千葉県の人口カバー率は、急性心筋梗塞、脳卒中共に人口カバー率は100%であった。ただし、悪天時や夜間等ドクターヘリが運行できない時は、山口県の県東部、千葉県の県東部の沿岸地域で、搬送時間が延びることがわかった。
 日常医療のアクセス分析では、医療機関(診療所と200床未満の病院)から2キロ圏内にある人口カバー率は、山口県の場合、2010年時点で内科90.7%、産科43.4%であった。千葉県は、2010年時点で内科95.7%、産科61.7%であった。2005年と2010年の人口カバー率を比較したところ、両県とも人口カバー率が上昇していた。これは、病院が減少する一方で、診療所が増加している地域が増えているためであることがわかった。このことから、日常医療提供体制維持に診療所が重要な役割を果たしていることが示唆された。
 「山口県二次医療圏における疾病別死亡数の将来予測」研究の結果、一部の地域を除いて、過去の実績データと整合するような安定的な予測結果を得ることができ、疾患別死亡率について医療圏ごとに推定することができることを示した。
 第三の「人口構造の変化と医師の診療特性を踏まえた医療提供体制に関する考察」の結果、具体的には、(1)各専門科医および総合医の診療特性分析を行い、カルテ調査からモデル地域を設定し、(2)モデル地域における2010年と2035年の推計患者数を算出し、医療提供体制の3モデル(個別受診モデルAとB、連携受診モデル)を比較分析した。
 分析の結果、(1)の診療特性の分析からは、①「治療(診断)できる」と回答した割合が急激に下がる(落差が大きい)点をカットオフポイント(変曲点)と定義したところ、医師の診療特性を臨床的な観点も妥当に評価できる結果が得られた。②カットオフポイントを基に、9つの診療科の専門診療科医と総合医の診療特性を判断した結果、3つのタイプ(崖型、山型、丘型)に分類することができた。(2)のモデル地域における医療提供体制の比較分析から、医療提供体制の3モデルを比較したところ、連携受診モデルが地域医療のニーズに変化に対応した医療提供体制と考えられた。
結論
 総括すれば、特定の県についてではあるが、2次医療圏別、疾病別に、人口動態、医療アクセスの不足地域を明確にし、さらに、医師の診療特性と人口動態に伴う患者推移を考慮した医療提供体制の構築に関する分析を行った。住民の健康を守るという観点から、医療提供体制を再構築するプランに必要な分析と活用方法を具体的に例示することができたと思われる。

公開日・更新日

公開日
2013-10-09
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201201002B
報告書区分
総合
研究課題名
人口構造の変化を踏まえた医療提供体制の戦略的構築
課題番号
H22-政策-一般-016
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
印南 一路(慶應義塾大学 総合政策学部)
研究分担者(所属機関)
  • 梶井 英治(自治医科大学 地域医療学センター)
  • 小暮 厚之(慶應義塾大学 総合政策学部)
  • 古谷 知之(慶應義塾大学 総合政策学部)
  • 堀 真奈美(東海大学 教養学部)
  • 神田 健史(自治医科大学 地域医療学センター)
  • 古城 隆雄(自治医科大学 地域医療学センター)
  • 原田 昌範(自治医科大学 地域医療学センター)
  • 阿江 竜介(自治医科大学 地域医療学センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学総合研究(政策科学推進研究)
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は、①住民の健康を守る観点から、医療提供体制を再構築すべき地域(重点支援地域)を特定するための実践的な方法を開発し、②実際に戦略的なプラン作成のための基礎的知見を得ることにある。
研究方法
3か年にわたる研究は、合計13の分担研究報告書からなるが、これらは「Ⅰ地域医療の評価に関する研究」と「Ⅱ医療提供体制に関する研究」に大別することができる。
<Ⅰ地域医療の評価に関する研究>
「将来推計人口に基づく研究」では、通常のポアソンLee-Carterモデルに一定の制約を加えた「制約付きポアソンLee-Carter法」を用いた。この改良した手法に基づき、山口県二次医療圏別の死因別死亡率、死亡者数を推定することを試みた。
「GISを用いた地域医療アクセス圏に関する研究」は、千葉県と山口県の脳卒中と急性心筋梗塞の救急搬送アクセシビリティ、日常医療(内科診療所、200床未満の病院、産科診療所)のアクセシビリティも分析した。具体的にはGISを用いて脳卒中と急性心筋梗塞について、30分以内に治療開始できる人口カバーエリアとその割合(人口カバー率)を算出し、日常医療については、2キロ圏内にある人口カバーエリアと人口カバー率を算出した。
<Ⅱ医療提供体制に関する研究>
「地域医療ニーズの把握に関する研究」は、一つの診療所しかない2つの離島において、一年間のカルテ調査を実施し、性・年齢階層別の疾患・症候群の患者発生率、受診回数を記録した。さらに、将来の少子高齢化・人口減少の影響を分析するため、社会保障・人口問題研究所の将来推計人口を用いて、2035年の診療区分別診療項目別、年間実患者数、延べ入院日数、延べ外来日数等を推計した。
「医師の診療範囲と診療レベルに関する分析」では、専門医が多いと思われる自治医科大学附属病院と、総合診療医志向が高いと思われる地方病院に勤務する医師を対象に、診療範囲と診療レベルについてアンケート調査を行った。具体的には、自治医科大学附属病院に勤務する医師31科356人(病院助教以上)と、自治医科大学卒業医師が中心的に診療を行っている地方病院の常勤医30施設381人の合計747人である。
「医療機関開設に関する実態と法制度上の課題分析」では、診療所と病院の新規開設の状況と、医療機関開設に伴う政策上、実務上の課題を追究するため、過去6年間に実際に開設された病院の実態を調査し、インタビュー調査を行った。
結果と考察
<地域医療アクセスの評価に関する主要な研究結果>
山口県と千葉県の2県では、救急医療(急性心筋梗塞と脳卒中)の治療開始まで30分圏内の人口カバー率が、山口県で97%台、千葉県で100%であり、山口県の一部の地域を除き、救急医療への時間距離的アクセスは、確保されていた。山口県の死因別死亡率の推計の結果、概ね過去のデータと整合的である安定的な予想結果が得られ、脳血管疾患、悪性新生物、急性心筋梗塞については下落の傾向が予想されるが、肺炎については、医療圏により死亡数の推移はかなり異なると予想された。さらに、カルテ調査の結果と将来人口推計を組み合わせ、入院・外来患者数の推計した結果、島の人口は減少する一方で、高齢化は進むため、外来患者数は30%以上減少するものの、受診回数は15%程度しか減らず、入院については、患者数は3%しか減少せず、入院日数は21%増加した。
<地域医療提供体制に関する主要な結果>
カルテ調査の結果から、入院患者は全診療項目の53%、外来患者は85%に分類され、幅広い診療が提供されていることが明らかになった。特に、救急対応に関しては、受診患者が分類された救急対応の項目全てにおいて、治療レベルの診療が提供されていた。アンケート調査の結果から、専門医の診療レベルの高さと均質性、総合診療医の診療範囲の広範性と多様性といった、特徴が明らかになった。
カルテ調査とアンケート調査を組み合わせ、医療提供体制の3モデルを比較分析した連携受診モデルが、必要とされる医療資源が少なく、人口構造の変化に伴う地域医療ニーズに対応した医療提供体制であると思われた。
過去6年間の病院の開業状態を調査した結果、病院開設届出数は642と報告されているが、新規開設数は51に過ぎず、東京、大阪等特定の地域に偏っていることが判明した。
結論
本研究では、社会科学者と保健や地域医療を専門とする医師が一体的に共同研究を実施しGISを用いた分析、統計学に基づく死因別死亡率の推計、カルテ調査に基づく地域医療ニーズの把握を一体的に実施した。
本研究で開発した手法を活用すれば、人口構造の変化に対応して医療提供体制を検討するための重要な基礎資料を作成することができ、医療計画の内容が一層充実することになると期待される。

公開日・更新日

公開日
2013-10-09
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2014-03-11
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201201002C

成果

専門的・学術的観点からの成果
死因別死亡率の推計について、通常のポアソンLee-Carterモデルに一定の制約を加えた「制約付きポアソンLee-Carter法」を用い、二次医療圏別の死因別死亡率の推計方法を開発した点があげられる。また、救急アクセスや日常医療のアクセスを、医師の協力を得ながら分析することで、できる限り現実に近いアクセス評価に近づこうと評価した点が新しい。
臨床的観点からの成果
レセプトではなく、カルテから特定地域で提供された医療を可能な限り把握し、また診療範囲と診療レベルの双方の観点から、地域医療の実態を把握しようとした点がある。また、専門医と総合診療医の特徴を、診療範囲と診療レベルの双方の観点から把握し、両者の特徴を具体的にした点もあげられる。
ガイドライン等の開発
特になし
その他行政的観点からの成果
将来の人口減少と人口構造の変化に対応した医療提供体制を考えるため、GISを用いたアクセス評価、統計モデルに基づく死因別死亡率の推計、カルテ調査に基づく地域医療ニーズの把握と将来の患者数予測、専門医と総合医の特徴を踏まえた人口構造の変化に対応した医療提供体制の検討など、今後の医療提供体制を戦略的に構築するために必要となる分析手法を、医師と社会科学者が一体的となって考案した点。
その他のインパクト
対象とした、千葉県や山口県については、数回研究成果を発表し、分析結果の資料を提出するとともに、研究内容の深化に向けて意見交換を行った。
関東群医師会、京都府医師会にて研究成果を発表し、議論を行った。

発表件数

原著論文(和文)
2件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
4件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
2件
関東群医師会、京都府医師会にて研究成果を発表し、議論を行った。
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件
著作として2016年出版予定

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
大山隆史
医療提供体制確保のための医療機関の開設に関する研究
慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修士論文  (2013)
原著論文2
目黒大介
医療アクセシビリティの評価に関する研究
慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修士論  (2013)

公開日・更新日

公開日
2016-06-27
更新日
-

収支報告書

文献番号
201201002Z