公的年金の直面する要検討課題に対する理論・実証研究

文献情報

文献番号
201201001A
報告書区分
総括
研究課題名
公的年金の直面する要検討課題に対する理論・実証研究
課題番号
H22-政策-一般-015
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
竹原 均(早稲田大学 商学学術院(大学院ファイナンス研究科))
研究分担者(所属機関)
  • 森平爽一郎(早稲田大学 商学学術院(大学院ファイナンス研究科) )
  • 首藤 惠(早稲田大学 商学学術院(大学院ファイナンス研究科) )
  • 宇野 淳(早稲田大学 商学学術院(大学院ファイナンス研究科) )
  • 米澤康博(早稲田大学 商学学術院(大学院ファイナンス研究科) )
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学総合研究(政策科学推進研究)
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
3,240,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
公的年金制度の安定・持続が, 国民にとって最も重要な社会目標であることは言うまでもない. このため年金積立金管理運用独立行政法人は運用部運用管理課・評価分析課, ならびに調査室を担当部署として, リスク管理体制の整備と調査・研究を実施するとともに, 重要な意思決定に際しては, 有識者から構成される運用委員会の意見を十分に考慮している. しかしながら人的な制約条件等により, 公的年金積立金の運用に関する研究が十分に行われてきたとは言い難い. 本研究課題では年金積立金の市場運用とリスク管理に関する総合的研究を実施し, その研究成果を社会へと還元する. 同時に中立な第三者の立場から, 法人の資産運用方針について提言を行うことを最終的な目的とする.
研究方法
公的年金制度が直面する問題は, 基本ポートフォリオの策定など狭義の運用方針とリスク管理に限定されるものではなく, 年金投資家行動が企業のガバナンス, 持続性に与える影響, 市場運用とキャッシュアウトが資本市場に及ぼす影響等を含む広義のものであると認識している. このため平成24年度については, 平成22, 23年度での研究結果と, そこでの研究課題の抽出を考慮して,
(1) 年金積立金基本ポートフォリオの見直しにおける推定リスク, 制約条件の再検証
(2) Corporate Social Performanceと企業の収益性・リスクに関する分析
(3) 社会的責任投資に関する実証分析
(4) 高頻度取引の一般化が株価形成に与える影響
の4点について研究を終了した.
結果と考察
平成24年度の研究より得られた知見の中で, 特に重要なことは以下の3点である.
(1) 法人が各年度で実施を求められている基本ポートフォリオの見直し作業において, 平均分散モデルへの入力となるパラメータの推定リスクの評価, ならびに制約条件の妥当性の検証が十分ではないこと.
(2) 企業の雇用政策, 環境保護への対応等のCorporate Social Performance(CSP)をポートフォリオ選択において使用することにより, 企業と社会の持続性を重視し, かつ低リスクのアクティブ・ポートフォリオの構築が可能であること.
(3) 東証の次世代取引システムarrowheadの稼働後, 高頻度取引が一般化し, その影響によって取引コスト低下と情報の非対称性の拡大が起きており, 今後, 国内外の株式投資からのキャッシュアウトに際して, そうした市場の性質の変化について十分に配慮すべきであること.
結論
「結果と考察」に置いて述べている本研究において得られた3つ知見は, いずれも年金積立金管理運用独立行政法人の市場運用について,その将来の在り方を考えていく上で重要であるもの. しかし独立行政法人としての規制, あるいは人員的制約から, 現行の組織においては短期での対応は困難である. このため中長期的に視点で組織そのものの在り方, 改革の方向性を議論して行く上で, 組織の持つべき機能として検討されるべきであると考える.

公開日・更新日

公開日
2013-10-09
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201201001B
報告書区分
総合
研究課題名
公的年金の直面する要検討課題に対する理論・実証研究
課題番号
H22-政策-一般-015
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
竹原 均(早稲田大学 商学学術院(大学院ファイナンス研究科))
研究分担者(所属機関)
  • 森平爽一郎(早稲田大学 商学学術院(大学院ファイナンス研究科))
  • 首藤 惠(早稲田大学 商学学術院(大学院ファイナンス研究科) )
  • 宇野 淳(早稲田大学 商学学術院(大学院ファイナンス研究科))
  • 米澤康博(早稲田大学 商学学術院(大学院ファイナンス研究科))
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学総合研究(政策科学推進研究)
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
公的年金制度の安定・持続は, 国民にとって最も重要な社会目標である. このため年金積立金管理運用独立行政法人は運用部運用管理課・評価分析課, ならびに調査室を担当部署として, リスク管理体制の整備と調査・研究を実施し, 重要な意思決定に際して有識者から構成される運用委員会の意見を十分に考慮している. しかし人的な制約条件等により, 積立金のリスク管理に関して理論・実証研究が十分に行われてきたとは言い難く過去のの外部委託研究についても, 高齢化の急速な進行を考慮した政策提言に結びついていない. 我々は年金積立金の市場運用とリスク管理に関する総合的研究を実施し, その成果を社会へと還元し, 同時に中立な第三者の立場から, 年金積立金管理運用独立行政法人の資産運用方針について提言を行うことを, 本研究の目的とする.
研究方法
公的年金制度が直面する問題は, 基本ポートフォリオ策定など狭義の運用リスク管理に限定されるものではなく, 年金投資家行動が企業のガバナンス, 持続性に与える影響, 市場運用とキャッシュアウトが資本市場に及ぼす影響を含む広義のものであると認識している. そこで本研究課題では,以下の3つの研究ユニット
(1) 基本ポートフォリオと運用リスク管理
(2) 年金ガバナンス, コーポレート・ガバナンス, 社会的責任投資
(3) 年金投資家行動と株価形成
を配置し, 多面的・総合的な研究を実施した. また研究期間の後半では複数の領域にまたがる研究も実施し, 最終的に得られた研究成果と知見に基づいて年金投資家としてのGPIFの投資行動とその在り方について総合評価を行うことを目指した.
研究方法は実証分析を主体としながらも, 理論研究と文献調査によりそれを補強していく形式を採った.
結果と考察
(1) 年金積立金の運用における基本ポートフォリオに関して
積立金を国内・外国株式, 外国債券等のリスク資産に投資することは運用効率を高める. しかし基本ポートフォリオの決定においては金利や賃金上昇率に関して遠い将来まで予想が一律に変わるものと想定されており, リスク管理上は改善の余地が残されている. 特に法人が年度ごとに実施する基本ポートフォリオの再検証は, 平均分散モデルへの入力パラメータの再計算に終始しており, 基本ポートフォリオの決定方法, 資産収益率推定時の前提条件, および制約条件についての再検証も必須である.
(2) 株式アクティブ運用の是非
過去の運用実績から明らかなように, 株式アクティブ運用からパッシブ運用を上回るリターンは得られていない. この現状に対する研究結果からの提言は以下の2点である. 第1に国内株式アクティブ・ファンドの資産規模(1500~2000億円)は, 特定の投資ストラテジーのキャパシティーを超えている可能性が高く, 超過リターンを獲得することは困難である. 第2に現在の評価手法では, ファンドマネージャーの運用能力とその持続性を正しく測定することはできない.
(3) 市場運用が私企業の経営に与える影響に関連して
Corporate Social Performanceの高い企業の財務リスク, 株価変動リスクは相対的に低い. つまり良好な雇用関係, リスク管理, 環境保護意識は資本市場において投資家に評価されている. そうであるとすれば, 株式アクティブ運用にSRIファンドを含めることの是非, ガバナンス, 持続性, 雇用政策といった尺度を銘柄選択の基準とすべきかどうかについて検討することがGPIFには求められる.
(4) 年金投資家行動と株価形成について
年金投資家を含む機関投資家の売買行動, あるいは機関投資家による株式保有は, 株価形成に明確に影響を与えている. ただしその影響の度合いは, 国内機関投資家と海外機関投資家, 長期保有目的と短期保有目的の投資家, 富裕層などリスク回避度の低い投資家と年金投資家などリスク回避度の高い投資家で異なることが, 本研究課題では明らかとされている. 最良執行とそれに伴う運用コストの削減, キャッシュアウトが資本市場に与える影響の低減という観点から, 運用機関の選択において, 機関投資家としての行動について十分な定量・定性評価が必要である.
結論
年金積立金管理運用独立行政法人の資産規模, 運用組織として特徴と制約から, その市場運用においては, 他の年金投資家とは異なる運用方針, リスク管理体制が求められる. しかし現状での取り組みは十分ではない. 年金積立金管理運用独立行政法人の運用組織としての在り方, ならびに基本方針については, 早急な再検討が必要である.

公開日・更新日

公開日
2013-10-09
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201201001C

成果

専門的・学術的観点からの成果
研究期間内に実施した複数の実証分析の結果からの総合評価として, 基本ポートフォリオの策定, 株式アクティブ運用, 社会的責任投資への対応, 市場流動性への配慮といった複数の点で, 現在の年金積立金管理運用独立行政法人の運用体制とリスク管理には改善の余地が残されている. 指摘可能な問題点のいくつかは, 法人に課された組織的制約に起因するものも含まれ, その点で積立金の運用組織としての在り方, 基本方針について, 再検討が必要であることを示した.
臨床的観点からの成果
政策科学研究であるため臨床的観点からの成果については言及しない.
ガイドライン等の開発
ガイドラインの開発の事例は無い.
その他行政的観点からの成果
審議会での参考資料等の事例は無い.
その他のインパクト
AIJによる年金資産の消失問題後に, 早稲田大学ファイナンス研究センター, MPIジャパン共催で, 公開セミナー「ファンドパフォーマンス分析の新潮流」(2012/4/4)を開催した.

発表件数

原著論文(和文)
2件
原著論文(英文等)
6件
その他論文(和文)
3件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
8件
学会発表(国際学会等)
14件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Keiichi Kubota, Hitoshi Taskehara
Effects of tax rate cuts on equity valuation: Impacts offirms' profitability and variability
経営財務研究 , 32 (1) , 23-39  (2013)
NA
原著論文2
Megumi Suto and Hitoshi Takehara
Estimating the hidden corporate social performance of Japanese firms
Social Responsibility Journal , 12 (2) , 348-362  (2016)
10.1108/SRJ-08-2015-0106
原著論文3
Megumi Suto and Hitoshi Takehara
The link between corporate social performance and financial performance: empirical evidence from Japanese firms
International Journal of Corporate Strategy and Social Responsibility , 1 (1) , 4-25  (2016)
NA

公開日・更新日

公開日
2018-06-15
更新日
-

収支報告書

文献番号
201201001Z