安全・安心な医療の確保に関する基礎的研究

文献情報

文献番号
199800023A
報告書区分
総括
研究課題名
安全・安心な医療の確保に関する基礎的研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
萩原 明人(九州大学)
研究分担者(所属機関)
  • 信友浩一(九州大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学推進研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
-
研究費
1,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
医療過誤事件を系統的に解析・検討することによって、医療過誤や医事紛争の防止に役立つ知見を得られる可能性が高いにもかかわらず、膨大な作業量を要するため、今まで行なわれて来なかった。そこで、本研究においては、医療過誤・医事紛争を抑止する制度設計の基礎資料を得るため、過去数年間にわが国の裁判所に繋属した医療過誤関係の民事訴訟事件の判決を系統的に収集し、全体の医療過誤判決を解析することによってリスクを特定した。
研究方法
平成年間の判決文は司法共助として全国の地方裁判所へ依頼して、収集した。過去5年から10年の間に全国の地方裁判所が判決した損害賠償請求事件の中から医療過誤関係の判決を可能な限り収集した。結果として過去5年から10年ぐらいの範囲内をさかのぼり、現時点を基準に約1000件を目標とする。10年以上過去にさかのぼる昭和年間の判決は、司法共助として当該裁判所に依頼しても、裁判所の事務量の都合から応じてもらえない(事実上、司法共助による収集は出来ない)。そこで、刊行物等を利用して判決を収集した。解析した事件は、『医療過誤関係民事訴訟事件執務資料』(最高裁判所事務総局編)(法曹会刊)をもとに、「ジュリスト」、「判例時報」等の法律専門雑誌によって事件内容を把握した。データ・ベースは判決文(平成年間の判決)や判決要旨のコピー(昭和年間の判決)を当事者の基本属性や治療行為の種類等の要因を中心に読み込み、整理のうえ作成した。統計的解析は、離散変数の関連性の検定はカイ2乗検定、連続変数の平均値の差の検定はt検定または分散分析を行った。
結果と考察
とりあえず、本報告書ではデータ・ベース化が終了した、昭和51年から昭和62年までの間の主要医療過誤訴訟について、その解析結果の概要を報告する(平成年間の判例については、本報告書の中で、研究協力者がデータ・ベースの作成経過を報告している)。
医療過誤事件の判決内容別の内訳では、全体の60%は原告の請求が棄却され、残りの40%は請求が認容されていた。訴訟全体における原告の平均年齢は23.71才で、年齢幅は0才から92才であった。治療類型別の提訴から判決までの所用時間では、各治療類型の間に有意な差が見られた(p<0.05)。診断(4.50年)や投薬(4.04年)に関する訴訟は判決までの時間が短く、注射(6.57年)や手術(5.69年)に関する訴訟は長い時間を要していた。損害賠償および判決認容額も、各治療類型の間に非常に有意な差が見られた(p<0.0001)。特に注射に関する訴訟における損害賠償請求額および判決認容額が非常に有意に高額になっていた。患者の平均年齢も各治療類型の間に非常に有意な差が見られた(p<0.001)。治療に関する訴訟では患者患者の年齢が若く(15.59才)、逆に、手術に関する訴訟では患者原告の年齢が高齢であった(35.56才)。原告の種類別にみた医療過誤事件の各要因の差も、筆頭者が本人の場合は、本人以外の場合に比べて、提訴から判決までの所用時間が長く(p<0.05)、損害賠償請求額が有意に高額で(p<0.05)、受診した医療機関の数も多く(p<0.001)、患者原告の年齢が若かった(p<0.001)。被告の地位別では、被告が担当者の場合には、管理職者の場合に比べ、原告の請求認容率が有意に低く(p<0.05)、治療者の経験年数も短かった(p<0.05)。これは、主治医といった担当者を相手に訴訟をするよりも、医長、院長、理事長といった管理職者を相手に管理責任を問いながら訴訟する方が、勝訴する可能性が高いことを示唆していると考えられる。原告の法的主張別では、原告が不法行為責任を主張した場合には、債務不履行責任を主張した場合に比べ、原告の請求認容率が非常に高かった(p<0.0001)。
結論
以上のように、医療過誤訴訟を系統的に解析することにより、従来の法解釈中心のアプローチでは知り得なかった、医療過誤の防止に役立ちうる知見を得られる可能性が示唆された。

公開日・更新日

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