地域福祉におけるGISシステムの活用のあり方とその評価

文献情報

文献番号
199800019A
報告書区分
総括
研究課題名
地域福祉におけるGISシステムの活用のあり方とその評価
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
生田 正幸(龍谷大学)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学推進研究事業
研究開始年度
-
研究終了予定年度
-
研究費
2,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
GISシステムの導入による情報化が、地域福祉の領域にお
いて、どのような効果をあげるのか、また、その過程において、いかなる問題、あるいは課題が生じ、どのような対策が講じられたのか、などについて整理・分析・検討し、今後の福祉領域における情報化の推進に向けた基礎資料を得ることを目的とする。
研究方法
福祉情報化及び地域福祉を専門とする研究協力者数名とともに「地域福祉とGISシステムに関する研究会」を設置し、平成9年度「保健医療福祉GISモデル事業」(厚生省)の対象地域5か所のなかから、大分県津久見市(GISを活用した高齢者みまもり事業)を調査研究対象地域として設定した。同地域を継続的に訪問しヒアリング調査を実施することにより、システム導入にともなう問題点の整理、課題へ対応方法などをテーマに積極的な意見交換を重ねるとともに、運用・活用に関する各種の助言も行いモデル事業のフォローアップにも努めた。また、研究会メンバーによる合同ヒアリング調査を実施し、GISシステムと地域福祉の現状に関する評価をおこなった。さらに、システム及び事業に対する対象地域関係者の評価については、自由記述式のアンケートを併せて実施した。
結果と考察
ヒアリング調査等によってあきらかになったGISシステムの導入と活用にともなう問題点は下記の通りである。
①情報システムを用いた新規業務に根強い抵抗感を持つスタッフがいること。
GISシステムを用いた高齢者みまもり事業の実施にあたって、一部のスタッフに根強い抵抗感がみられた。理由としては、コンピュータに対する苦手意識と業務のあり方に対する認識の違いをあげることができる。つまり、従来からおこなっていた業務のあり方を整理し再編成することに強い抵抗感があり、コンピュータに対する苦手意識とも相まって、GISシステムの活用を敬遠する結果となった。
②GISシステムを用いた事業を新規業務として実施するために既存業務の見直しや組織の再編成が必要であり、とくに公的機関において組織的・人材的な困難が生じやすいこと。
①とも関係するが、とくに公的機関においては、人事や職務分担、組織のあり方について柔軟に対応することが難しく、見直しや再編成をおこなうためには、関係スタッフによる再三の問題提起と働きかけが必要であった。
関係者にとっては、人間関係の葛藤を含む無用なエネルギーを費やすこととなり、事業の実施そのものが危ぶまれることもあった。
③地域福祉の理念と動向を十分に把握・認識できていない関係スタッフが少なくないこと。
介護保険制度の導入などにより大きく動こうとしている社会福祉と地域福祉のあり方について、表面的な認識しか持たない関係スタッフが少なくない。とくに管理職については、重要な判断を誤る可能性があり、研修や情報提供を綿密におこなう必要がある。
④公・民の連携を具体的に推進するうえで多くの困難があること。
地域福祉のあり方について、公・民の認識に開きがあるうえ、対等な立場でオープンな連携をおこなった経験が乏しいことから、みまもり事業の実施にあたって、当初、信頼関係の構築に手間取る場面が見られた。
⑤医療サイドの協力がきわめて重要なカギを握ること。
医師を中心とする医療サイドの関係者は、行政に対しても、地域住民に対しても、大きな影響力を持っており、的確な問題意識のもとに、GISシステムの導入とみまもり事業の実施を強力に推進したことが、大きな推進力となった。
⑥地域福祉の改革を図るうえで、情報化の推進が重要な契機となり大きな力となること。
GISを活用した高齢者みまもり事業を実施するにあたり、地域の関係者が情報システムの構築のために、それぞれの業務を見直し、ノウハウを出し合い、問題意識の共有化を進めたことで、地域福祉推進のための人的基盤が形成され、地域全体の福祉のあり方を自分たちで見直そうとする姿勢が明確になった。情報化を糸口とするアプローチが、地域福祉の改革を進めるうえできわめて有効な方法であることがあきらかになったといえる。
⑦GISシステムは、情報共有の手段として有効であること。
地域社会における社会福祉問題の所在や動向は、地域で活動する関係者にとっても全体像を把握することが困難であり、全体と部分の関係に対する認識の不足や問題の見落としなどがおこりやすい。
GISシステムを用いることにより、相対的な位置関係や他情報との関連などが直感的に把握できるようになり、また関係者間の情報の共有も容易におこなえるようになった。ただし、必要な表示機能の絞り込みや表示方法など、改善すべき問題点も多く残されている。
地域における福祉サービス供給システムを構築し、そのマネジメントを進めていくうえで、情報の共有は重要な役割を果たす。GISシステムは、そうした機能を効果的に実現するために好適な存在であるといえるだろう。しかし、システムを具体的に開発・導入し運用するにあたっては、このように多様な問題が生じた。とくに、システムの利用をめぐる人と組織のあり方については深刻な状況に直面することとなった。
そうした問題に対処するうえで、ポイントとなったのは、まず第一にキーパーソンの存在であった。地域の関係スタッフの一員であることから対人関係を含む個人的な負担は相当なものであったと思われるが、推進役として全体の取りまとめを担い大きく貢献した。また、第二に、地域における公民の関係者のネットワーキングが円滑に進められ効果的に機能した点も重要である。みまもり事業以前には、面識がある程度であった各関係者が、システムの開発・導入を契機に共通の課題を担うことで強固な連携の基盤を作り上げ、それぞれの立場から一致して問題に対処することができた功績は大きいといわねばならない。第三に、外部からの支援を適切に受け入れ活用した点である。社会福祉に関する専門的な人材が不足している地方都市においては、第三者の立場に立ったアドバイスなど必要な支援を得ることが難しい。また、支援が得られた場合でも、地域の独自性が壁となり部分的な受け入れにとどまる場合が少なくない。この事業においては、われわれ研究会メンバーをはじめシステム開発担当企業関係者も、対等の立場で参画し「知恵を出し合う」体制を築くことができた。種々の問題があったとはいえ、津久見市サイドの姿勢が柔軟であったことの効果は、きわめて大きいといえるだろう。
津久見市におけるGISシステムは、関係スタッフのツールとして活用するにはまだ多くの課題を残している。しかし、その開発と導入の過程において、多くの成果をあげ、そのことが今後のシステム活用につながるものと考えられる。
結論
社会福祉の領域における情報システムの活用については本格化したばかりであり、とくに今回の研究対象としたような地域の福祉サービスをマネジメントするシステムについては、まだ実績がほとんど見られない。したがって、今回の研究によってあきらかになった問題点とその対応のあり方は、今後、他地域においても有効に活用されるものと考えられ、とくに関係者のネットワーキングと情報システムのネットワークを有機的に連携させた点、人と組織の環境整備に取り組んだ点が大きく評価される。

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