出生コホートによる難分解性有機汚染物質(POPs)ばく露の次世代影響の検証

文献情報

文献番号
201133007A
報告書区分
総括
研究課題名
出生コホートによる難分解性有機汚染物質(POPs)ばく露の次世代影響の検証
課題番号
H21-化学・一般-007
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
佐藤 洋(東北大学 大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 細川 徹(東北大学 大学院教育学研究科)
  • 村田 勝敬(秋田大学 大学院医学系研究科)
  • 奈良 隆寛(宮城県立こども病院)
  • 福土 審(東北大学 大学院医学系研究科)
  • 仲井 邦彦(東北大学 大学院医学系研究科)
  • 黒川 修行(宮城教育大学 教育学部)
  • 浅山 敬(東北大学 大学院薬学研究科)
  • 龍田 希(東北大学 大学院医学系研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 化学物質リスク研究
研究開始年度
平成21(2009)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究費
10,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 海外における先行研究により、ポリ塩化ビフェニール(PCB)などの難分解性有機汚染物質(POPs)やメチル水銀などの重金属による周産期ばく露が出生児の発達に影響をおよぼすことが報告されている。我が国におけるPOPsおよびメチル水銀ばく露に起因した健康影響を明らかにすることを目的とし、平成13年より出生コホート調査を進めてきた。
 出生コホートは、599組の母子より同意を得て調査を開始した。これまでに、臍帯血総PCBと、生後7ヶ月時に実施した新版K式発達検査で得られた発達指数や生後42ヶ月時に実施した知能検査で得られたIQとの間に負の関連性が確認されている。毛髪総水銀と生後3日目に実施した新生児行動評価の運動クラスターとの間に負の関連性が認められた。これらの健康影響がその後も観察されるかを調べるために、先行研究の知見を参考にしつつ、生後84ヶ月児を対象に調査を継続した。
研究方法
 継続した生後84ヶ月時の調査では、知能検査、語彙検査、注意集中機能検査、家庭血圧検査、脳波検査(聴性脳幹誘発電位、事象関連電位)等を実施し、子どもを総合的に評価した。
結果と考察
 調査では、8割を超える追跡率を維持できた。ばく露指標との関連性については、臍帯血総水銀へのばく露レベルが高い場合に語彙力が低下し、脳波検査の聴性脳幹誘発電位の左耳の潜時や頂点潜時が延長することが分かった。臍帯血総PCBについては、CPTのHit RTとの関連が認められ、PCBのばく露レベルが高い場合に反応時間が遅くなることが示された。臍帯血鉛については、交絡要因調整後に臍帯血鉛ばく露が高い場合にIQが低下することが分かった。脳波検査のERPの結果との関連も示されており、鉛ばく露レベルが高い場合に注意制御に関する能力が未成熟である可能性が示された。これらの結果は、海外の先行研究結果と一致するものであり、低濃度であっても出生児の発達に軽微ながら負の影響をおよぼすことが分かった。
結論
 以上より、PCBやメチル水銀の影響については、児童期に達しても周産期ばく露の影響が観察されることが示された。

公開日・更新日

公開日
2012-04-12
更新日
-

文献情報

文献番号
201133007B
報告書区分
総合
研究課題名
出生コホートによる難分解性有機汚染物質(POPs)ばく露の次世代影響の検証
課題番号
H21-化学・一般-007
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
佐藤 洋(東北大学 大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 細川 徹(東北大学 大学院教育学研究科)
  • 村田 勝敬(秋田大学 大学院医学系研究科)
  • 奈良 隆寛(宮城県立こども病院)
  • 福土 審(東北大学 大学院医学系研究科)
  • 仲井 邦彦(東北大学 大学院医学系研究科)
  • 黒川 修行(宮城教育大学 教育学部)
  • 浅山 敬(東北大学 大学院薬学研究科)
  • 龍田 希(東北大学 大学院医学系研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 化学物質リスク研究
研究開始年度
平成21(2009)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 胎児期および新生児期は、中枢神経系が発達する時期である。この神経系は、環境由来化学物質ばく露に対して感受性が高く、特に発生・発達の過程にある中枢神経系が影響を受けやすい。そのため、低濃度のばく露であっても、胎児および新生児の化学物質ばく露による健康影響が懸念される。我々は、我が国における難分解性有機汚染物質(POPs)およびメチル水銀ばく露に起因した健康影響を明らかにするために、出生コホート調査を進めてきた。
研究方法
 84ヶ月調査では、知能検査、語彙検査、注意集中機能検査、家庭血圧検査、脳波検査等の検査バッテリーから子どもを総合的に評価した。
結果と考察
コホート調査の追跡率は8割を超え、コホートとしての機能を維持できた。臍帯血PCBと84ヶ月調査結果の関連については、ばく露レベルが高い場合に反応が遅くなることが示された。臍帯血総水銀については、脳波検査の聴性脳幹誘発電位の左耳の潜時や頂点潜時が延長した。また、臍帯血鉛ばく露が高い場合に知能指数が低下すること、注意制御に関する能力が未成熟であることが示された。
 メチル水銀の周産期ばく露影響を調べるために、現在の水銀ばく露レベルを把握する必要がある。84ヶ月児の毛髪総水銀濃度の中央値は2.1μg/gであった。84ヶ月時毛髪総水銀濃度が高い場合にBAEPの左耳の頂点潜時で延長が確認された。
 PCBは経胎盤および母乳を介して子どもに移行しており、母乳を介した授乳期のばく露影響を考える上で重要な母乳中POPsの分析を進めてきた。生後1ヶ月目の母乳中総PCBの中央値は、45.8 ng/g-lipidであった。母乳中PCBの濃度が高い場合に84ヶ月時に測定した知能指数との間に正の関連が認められた。
結論
 これらの結果から、1)周産期におけるPCBやメチル水銀のばく露影響は、出生児が児童期に達しても観察されることが示された。2)メチル水銀については、出生後よりも胎児期および新生児期ばく露に対して感受性が高いことが示された。3)母乳中PCBと出生児の発達の関連を検討したが、移行するPCBによるリスクよりも母乳を与えることのベネフィットが子どもの発達に影響を与えると思われた。

公開日・更新日

公開日
2012-04-12
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201133007C

成果

専門的・学術的観点からの成果
周産期における環境由来化学物質ばく露が出生児の発達におよぼす影響を検討するために、出生コホート調査を進めてきた。生後84ヶ月時に実施した発達指標とPCBやメチル水銀、鉛などのばく露指標との関連性を検討したところ、低濃度であっても出生児の発達に軽微ながら負の影響をおよぼすことが示された。
臨床的観点からの成果
周産期における化学物質ばく露により、84ヶ月児の知的発達などに負の影響があることが示された。教育現場で問題となる学習困難などの問題解決には、化学物質ばく露という環境要因も軽度ながら関与することを意味しており、小児保健および予防医学的な観点からも環境整備、化学物質ばく露によるリスクの低減が必要と考えられた。
ガイドライン等の開発
メチル水銀、PCB、鉛についてのリスク情報を提供した。現在のばく露レベルでも健康影響が観察されることから、リスク回避の努力が必要であることが示唆された。このうち、特に鉛については、食品安全委員会で安全基準について議論がなされており、血中濃度4μg/dLが一つの目安として提案されている。しかし、臍帯血濃度ではあるが、その程度のばく露レベルでも子どものIQに負の影響があることが示された。
その他行政的観点からの成果
平成21年2月に開催された国連環境計画(UNEP)第25回管理理事会において、国際的な水銀規制に関する条約の制定に向けて、平成25年までに条約制定を目指すことが合意された。科学的根拠に基づいた情報として活用可能と期待される。また、リスクコミュニケーションにおけるリスク情報の提供という立場から、今後も社会貢献に向け積極的に取り組んで行く。
その他のインパクト
本コホート調査の調査内容および生後3日目に実施した新生児行動評価で得られた結果と水銀ばく露の関連性に関する研究結果について、NHK熊本で取り上げられ、平成23年1月に取材を受けた。これは、同年2月25日に九州沖縄インサイドNHK総合で放映された。

発表件数

原著論文(和文)
2件
原著論文(英文等)
6件
その他論文(和文)
8件
その他論文(英文等)
1件
学会発表(国内学会)
28件
学会発表(国際学会等)
5件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Yaginuma-Sakurai K., Shimada M., Ohba T., et al.
Assessment of exposure to methylmercury in pregnant Japanese women by FFQ
Public Health Nutrition , 12 , 2352-2358  (2009)
原著論文2
Suzuki K., Nakai K., Sugawara T., et al.
Neurobehavioral effects of prenatal exposure to methylmercury and PCBs, and seafood intake: neonatal behavioral assessment scale results of Tohoku study of child development.
Environmental Research , 110 , 699-704  (2010)
原著論文3
Tatsuta N., Nakai K., Shimada M., et al.
The Association of perinatal exposure to persistent environmental pollutants with child development: Tohoku Study of Child Development
Organohalogen Compounds , 72 , 224-227  (2010)
原著論文4
龍田希,仲井邦彦,鈴木恵太他
日本語版不適応行動尺度の作成の試み
日本衛生学雑誌 , 65 , 516-523  (2010)
原著論文5
龍田希,仲井邦彦,鈴木恵太他
日本語版不適応行動尺度の信頼性と妥当性の検討
医学のあゆみ , 234 , 1137-1138  (2010)
原著論文6
Asayama K., Staessen J.A., Hayashi, K., et al.
Mother-offspring aggregation in home versus conventional blood pressure in the Tohoku Study of Child Development (TSCD)
Acta Cardiologica  (2012)
原著論文7
Tatsuta N., Nakai K., Murata K., et al.
Prenatal exposures to environmental chemicals and birth order as risk factors for child behavior problems
Environmental Research , 114 , 47-52  (2012)
原著論文8
Seino S., Watanabe S., Ito N., et al.
Enhanced auditory brainstem response and parental bonding style in children with gastrointestinal symptoms
PLos ONE , 7  (2012)

公開日・更新日

公開日
2016-06-09
更新日
-

収支報告書

文献番号
201133007Z