医療への患者参加を促進する情報公開と従事者教育の基盤整備に関する研究

文献情報

文献番号
199800018A
報告書区分
総括
研究課題名
医療への患者参加を促進する情報公開と従事者教育の基盤整備に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
岩井 郁子(聖路加看護大学)
研究分担者(所属機関)
  • 石田昌宏(日本看護協会政策企画室)
  • 香春知永(聖路加看護大学)
  • 小谷野康子(聖路加看護大学)
  • 佐藤紀子(東京女子医科大学)
  • 辻本好子(ささえあい医療人権センターCOML)
  • 豊増佳子(聖路加看護大学)
  • 鳥羽克子(聖路加国際病院)
  • 中木高夫(名古屋大学)
  • 樋口範雄(東京大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学推進研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
インフォームド コンセント(以下IC)の理念に基づく医療の重要性が高まっている中で、医療法(第1条の4)の改正や、診療情報開示に関する提言がなされた。これらのわが国における革新的な政策がその本来の目的を達成するためには、国民・患者および医療従事者がこれらの目的・意義を共通認識することが必須の条件となる。そこで本研究では、診療情報の積極的な提供と、その一環としての診療記録の開示の目的が適切に運用・活用されるための基盤整備をすることを目的とする。初年度は、医療へ主体的に参加するために、国民・患者が求める診療情報は何か、どのような方法での診療情報提供を求めているか、さらに医療従事者が直面する現実的な問題などの実態を調査し、基盤整備の基礎資料を得ることを主目的として研究を行った。
研究方法
本調査は1999年2月~3月、自己記入式質問紙による郵送調査を行った。対象は、研究への同意が得られた一般企業の社員や地域住民、病院のボランティアなどの国民・患者および各都道府県における病床数の多い2~10病院を平成10年度版病院要覧から抽出し、そこで働く医師、薬剤師、診療情報管理士、看護婦・看護士さらに看護大学・短期大学の看護学生を対象に調査を実施した。調査項目は、①基本属性、②診療情報の提供に関する項目、③診療情報の開示に関する項目、④患者と医療従事者との関係に関する項目、⑤法制化に関する項目、⑥自由記載の6カテゴリー28項目からなる。質問紙は、「カルテ等の診療情報の活用に関する検討会」報告書を基にして国民・患者を代表する有識者および患者会、薬剤師、看護婦・看護士へのインタビュー調査を行い、その結果を質的に分析して作成し、国民・患者および医療従事者にプレテストを行って修正、精選をした。
結果と考察
調査対象者総数は4835人で、回収数は2915人で、回収率は60%であった。国民・患者は795人(27.3%)、医療従事者の総数は2108人(72.3%)であった。医療従事者の内訳は、医師468人(16.1%)、薬剤師473人(16.2%)、診療情報管理士126人(4.3%)、学生259人(8.9%)、看護婦・看護士691人(23.7%)、これら以外の医療従事者は91人(3.1%)であった。
情報提供への関心は高く、93%が関心をもっていた。記録開示賛成派は、情報提供に関し「とても関心がある」が84%と、反対派の16%よりかなり多い。また、記録開示への認識度も高く、開示する方向で進んでいることを「知っている人」は87.9%で、「知らない人」は12.1%と少なかった。医療従事者群の90%以上、国民・患者群の68.0%が知っていた。これらは情報提供に関する関心の高さと広報活動の効果を示している。開示の理由に60%以上の回答があったのは、「納得して治療を受ける」85.2%、「知る権利」80.1%、「治療方法を選択・拒否をする権利」73.7%、「信頼関係を深める」62.2%であった。ICに基づく医療を求めている実態が明らかにされた。
記録開示に関する賛否は、賛成派が77.0%で、医師も賛成派が多かった。ただ、法制化に対する賛否では、全体で「法制化賛成」は64.2%、「反対」は16.3%、「わからない」は18.9%で、国民・患者群の83.9%が「法制化に賛成」に対して、医師群は「法制化に賛成」35.0%、「反対」47.7%で反対派の方が多かった。法制化賛成の理由は、「知る権利を保証」68.1%、「記録開示を求めやすい」35.1%の順であった。法制化反対の理由は、「法の力によらず医療従事者が自ら決定」が73.8%で、医師に多かった。この結果から国民・患者と医師との法制化に関する認識のズレが明らかになった。法と倫理の両面から情報提供を考えるのではなく、医師個人の倫理規範にゆだねると考えるその背景と今後起こり得る課題を明らかにする必要がある。
情報提供の方法については、「口頭による説明とともに診療記録の提示」を希望する人は91.0%であった。「記録の提示」を適切と考える人は65.7%を占めていた。医師群では、「口頭の説明」、「説明と別文書」が多かった。開示賛成派は記録そのものを提示すると答える傾向があった。情報提供と開示を別枠でとらえるのではなく、記録を提示しての情報提供を求めていることが明らかになった。
提供すべき情報内容は、「患者によって内容を選択し提供する」が最も多く、質問項目にあげていた殆どの情報内容を70%以上の回答者が提供すべきとしていた。患者によって内容を選択・決定し提供するという意見は、患者主体と言うよりは専門家主体の判断基準をとっており、本来のICのあり方とは一致しない。この背景の詳細な分析が必要である。
実際に開示するべき記録については、「カルテ」83.3%、「検査記録」84.7%、「処方箋」67.4%、「レントゲン写真」67.1%であった。「看護記録」は、国民・患者群、医師群、薬剤師群の50%以上は開示の必要がないと回答していたが、診療情報管理士群、学生群、その他の医療従事者群、看護婦・士群の60%以上が開示するべきであるとしていた。そして、開示賛成派は反対派よりも多くの記録開示を希望していた。看護記録の公的位置づけが課題となる。
記録開示の対象者は、「患者本人にだけ」は9.1%のみで、「患者が許可した家族やその他の人も含む」が最も多く50.8%であった。このことは情報提供の目的の認識不足と情報漏洩の可能性を示唆している。開示の効果は、「治療を選択し決めることができる」60.5%、「信頼関係が深まる」57.2%、「セカンドオピニオンを得やすい」51.3%で、逆に30%以下の回答項目は、「治療効果に悪影響」7.5%、「医療従事者との関係悪化」12.6%、「記録が多くなる」19.2%、「情報をコントロールできる」19.7%、「情報があふれて収拾がつかなくなる」20.3%、「対等な関係になれる」21.9%であった。開示で患者に求められることは、「病気の知識を持つ」68.0%、「質問し説明を求める」66.8%、「治療方法を選び自分で決め、責任を持つ」61.6%であった。また、医療従事者に求められることは、「記録の書き方の検討」70.1%、「記録内容の説明」68.7%、「記録管理やシステムの検討」63.4%であった。今後の記録の標準化や管理に関する課題が示された。
最後に、「患者と医師関係」のあり方を調査した。求められていたのは「パートナーモデル」64.9%で、「代理モデル」22.9%、「特別なパートナーモデル」11.9%、「恩恵モデル」0.1%の順であった。現状は「恩恵モデル」51%と答えていたが、医師の多くは「特別なパートナーモデル」37.8%と答えていた。なお、国民・患者の64.8%が現状は「恩恵モデル」と答え、医師と患者関係のあり方が問われている。
結論
開示をめぐる課題と課題解決を提言した。課題は、1.医療への患者参加を促進する情報提供のあり方(コスト、アクセスの方法をめぐる課題、情報提供者の範囲と情報漏洩およびプライバシー保護の問題、IC・自己決定をめぐる課題)、2.国民が求める情報提供ならびに記録開示に関する課題(提供するべき情報内容の判断基準とガイドラインの必要性、提供方法に関する医師と国民・患者との乖離の解決、患者の自律、記録の標準化、看護記録の公的位置づけと管理のシステムの構築)、3.記録開示の法制化上の課題、4.ICに基づく医療の基盤となる医療従事者と患者との関係のあり方に関する課題であった。

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