胎児への食品汚染物質曝露による性未成熟のインプリンティングとその評価法開発

文献情報

文献番号
201133005A
報告書区分
総括
研究課題名
胎児への食品汚染物質曝露による性未成熟のインプリンティングとその評価法開発
課題番号
H21-化学・一般-005
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
山田 英之(九州大学 大学院 薬学研究院)
研究分担者(所属機関)
  • 石井 祐次(九州大学 大学院 薬学研究院)
  • 武田 知起(九州大学 大学院 薬学研究院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 化学物質リスク研究
研究開始年度
平成21(2009)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究費
20,020,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
2,3,7,8-Tetrachlorodibenzo-p-dioxin (TCDD)は胎児期後期から出生直後の一時期にかけて脳下垂体ゴナドトロピンのluteinizing hormone (LH) を低下させ、これを起点として障害を惹起することを明らかにしている。本年度はこの機構につき、脳下垂体での遺伝子発現および脳下垂体制御組織である視床下部での障害の両面から解析した。
研究方法
ダイオキシン等の被検物質を妊娠ラットに投与後、周産期児の遺伝子発現状況をマイクロアレイ法その他の方法で解析した。
結果と考察
TCDD 曝露母ラットの胎児脳下垂体をマイクロアレイ解析に付した結果、脳下垂体のヒストン脱アセチル化酵素 (HDAC) が増加することを見いだした。これと符合して、LHβ遺伝子に会合するヒストンの脱アセチル化亢進が観察され、これによって LHβ 遺伝子発現が抑制されることが推定された。TCDD 曝露胎児の視床下部についてメタボローム解析を行った結果、多くの組織成分が有意に変動することを明らかにした。変動成分の中には、トリカルボン酸 (TCA) サイクルの種々の成分も含まれ、TCDD は視床下部でのエネルギー生産を抑制することが明らかとなった。事実、胎児視床下部の ATP 含量は TCDD によって低下した。この機構は TCDD が TCA サイクル回転に必須な補酵素である α-リポ酸 (LA) を低下させるためであることも推定できた。TCDD 以外の食品汚染物質としてビスフェノール A (BPA) やトリブチルスズ (TBT) 等を新たに解析した。これらは TCDD とは異なる機構で胎児精巣のステロイドホルモン合成系を障害することが示唆された。
結論
1.TCDD は LA 抑制を起点として視床下部の活動活性を低下させ、これを介して脳下垂体ゴナドトロピンを障害するものと推定される。
2.BPA および TBT は TCDD とは異なる機構で胎児精巣のステロイド合成系を障害する。

公開日・更新日

公開日
2012-06-15
更新日
-

文献情報

文献番号
201133005B
報告書区分
総合
研究課題名
胎児への食品汚染物質曝露による性未成熟のインプリンティングとその評価法開発
課題番号
H21-化学・一般-005
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
山田 英之(九州大学 大学院 薬学研究院)
研究分担者(所属機関)
  • 石井 祐次(九州大学 大学院 薬学研究院)
  • 石田 卓巳(九州大学 大学院 薬学研究院)
  • 武田 知起(九州大学 大学院 薬学研究院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 化学物質リスク研究
研究開始年度
平成21(2009)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
食品汚染物質が胎児・新生児の脳下垂体ゴナドトロピンの障害を介して性未成熟を固着させる可能性や機構について研究を行った。
研究方法
妊娠ラットに被検物質を投与後、周産期の児を中心に脳遺伝子の発現状況、ならびに組織成分量等を解析した。
結果と考察
2,3,7,8-Tetrachlorodibenzo-p-dioxin (TCDD)を用いた解析から、本物質は胎児後期から出生後数日までの短期間に脳下垂体ゴナドトロピンを低下させ、これが性腺での性ステロイド合成抑制を介して性未成熟を惹起することが示唆された。脳下垂体ゴナドトロピン遺伝子の抑制は、histone deacetylase (HDAC) の誘導によって遺伝子-ヒストン会合が強化される機構が推定された。また、ゴナドトロピン発現抑制には脳下垂体制御組織である視床下部に対する影響も示唆された。すなわち、TCDDは胎児視床下部のトリカルボン酸 (TCA) サイクルを停滞させ、ATP生産を抑制することが見いだされた。TCAサイクル回転に必須な補酵素であるα-リポ酸 (LA) はこれらの変動の抑止のみならず、脳下垂体ゴナドトロピンや性腺ステロイド合成も完全に回復させた。これらの一連の成績から、TCDDは視床下部の活動や発達を抑制し、これがHDAC誘導の要因となって脳下垂体-性腺系の障害を引き起こす機構が推定された。ダイオキシン以外の内分泌撹乱物質9種について検討した結果、精巣ステロイド合成を抑制させる物質が幾つか見いだされたが、TCDDと同様にゴナドトロピン抑制を起点とするものは確認できなかった。これらの物質では、妊娠ラットへの単回処理条件では無効でも、低濃度水を継続飲水させた場合には有意な効果を示す物質が存在した。
結論
1.TCDDは脳下垂体制御組織である視床下部のLA抑制を起点として、TCAサイクルとATP生産を抑制する。この現象は脳下垂体HDACの誘導を介してLHβの発現を抑制する。
2.N-アセチルアスパラギン酸の蓄積は、性未成熟を予見するためのバイオマーカーとして有用である可能性が示唆される。
3. TCDD以外にも胎児精巣のステロイド合成系を障害する物質が存在し、それらはTCDDとは異なる機構で効果を示すと推定される。また、体内半減期の短い化学物質の評価では、飲水による長期投与法での解析が望まれる。

公開日・更新日

公開日
2012-06-15
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2013-02-18
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201133005C

成果

専門的・学術的観点からの成果
ラットを用いた基礎研究から、ダイオキシンが周産期児の脳下垂体・黄体形成ホルモン(LH)を障害を介して性ステロイドホルモンを低下させ、性未成熟を固着させることを見いだした。この機構には、1)脳下垂体のヒストン脱アセチル化の増加、並びに2)脳下垂体制御組織である視床下部のエネルギー生産抑制が寄与すると推定された。また、性未成熟に寄与する遺伝子(ゴナドトロピン遊離促進ホルモン)の変動や、障害回避に寄与する生体成分も明らかにすることができた。
臨床的観点からの成果
ダイオキシンによる性未成熟を、エネルギー生産に必須な生体成分であるリポ酸が完全に回復することを見いだした。この成果はヒトへの適用も可能と期待される。また、成長後の性未成熟を規定する周産期児の障害を推定するためのマーカー候補を発見した成果も今後の発展が期待される。
ガイドライン等の開発
特になし。
その他行政的観点からの成果
現在進行中のエコチル研究(環境化学物質が子供の成長に及ぼす疫学研究)の成果によっては、ダイオキシン類が子供の成長に無視できない影響を与える可能性が浮上する恐れもある。その場合には、本研究で得られた対処法案や障害予測法を具体化に向けて検討することが有用と思われる。
その他のインパクト
得られた成果は、高水準の国際学術雑誌に公表した。また、公表論文の1編は優秀研究賞(田邉賞、日本トキシコロジー学会;J. Toxicol. Sci., 35 (3), 365-373, 2012)を受賞した。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
4件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
16件
学会発表(国際学会等)
5件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
1件
ホームページ: http://eisei.phar.kyushu-u.ac.jp

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Takayuki Koga, Takumi Ishida, Tomoki Takeda, et al.
Restoration of dioxin-induced damage to fetal steroidogenesis and gonadotropin formation by maternal co-treatment with α-lipoic acid.
PLoS ONE (in press)  (2012)
原著論文2
Tomoki Takeda, Misaki Fujii, Junki Taura, et al.
Dioxin silences gonadotropin expression in perinatal pups by inducing histone deacetylases: a new insight into the mechanism for the imprinting of sexual immaturity by dioxin
J. Biol. Chem. , 287 (22) , 18440-18450  (2012)
原著論文3
Tomoki Takeda, Midori Yamamoto, Masaru Himeno, et al.
2,3,7,8-Tetrachlorodibenzo-p-dioxin potentially attenuates the gene expression of pituitary gonadotropin β-subunits in a fetal age-specific fashion: a comparative study using cultured pituitaries
J. Toxicol. Sci. , 36 (2) , 221-229  (2011)
原著論文4
Yuki Matsumoto, Takumi Ishida, Tomoki Takeda, et al.
Maternal exposure to dioxin reduces hypothalamic but not pituitary metabolome in fetal rats: a possible mechanism for a fetus-specific reduction in steroidogenesis
J. Toxicol. Sci. , 35 (3) , 365-373  (2010)

公開日・更新日

公開日
2016-06-09
更新日
-

収支報告書

文献番号
201133005Z