確率推論型アルゴリズムに対するヒト胚性幹細胞試験データ適用法の標準化に関する研究

文献情報

文献番号
201133003A
報告書区分
総括
研究課題名
確率推論型アルゴリズムに対するヒト胚性幹細胞試験データ適用法の標準化に関する研究
課題番号
H21-化学・一般-003
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
大迫 誠一郎(東京大学 大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 曽根 秀子(国立環境研究所 環境リスク研究センター)
  • 藤渕 航(産業技術総合研究所 生命情報工学研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 化学物質リスク研究
研究開始年度
平成21(2009)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究費
22,970,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ES細胞の分化培養系は受精卵から成熟個体に至るまでの過程を再現しており、発生影響試験の理想的モデルである。本研究ではヒト胚性幹細胞試験(EST)を利用、遺伝子発現や形態情報から数理工学理論に基づき、化学物質の安全性評価で重要な問題であるヒトへの生体影響を予測する方法の開発を試みた。そのために使用する確率推論アルゴリズムに適用するための実験系確立ならびにシステム標準化を目的とする。
研究方法
1)サリドマイドの神経系分化影響に関する表現型構成要素間ネットワーク作成:化学物質の各分化過程への影響評価のため、ヒトES細胞由来の神経細胞にサリドマイドを曝露し形態変化の解析を行った。胚様体または神経上皮細胞分化後にサリドマイド曝露した場合の遺伝子発現をマイクロアレイで解析、遺伝子オントロジー(GO)を自己組織化マップによって類型化し、アノテーション間のネットワーク解析を試みた。
2)限定ES細胞毒性試験における遺伝子発現情報からの一般化に関する研究:限られた数の既知の毒性化合物を用いたES細胞試験から、多数ある化合物の生体への影響を一度に予測する新しい手法を開発した。
3)ヒトES細胞の培養ステージの違いにダイオキシン(TCDD)曝露の晩発的影響:TCDDは個体発生過程で催奇形性等の様々な生体影響を引き起こす。ヒトES細胞を用い神経系細胞発生過程においてTCDDによる影響を調べた。
結果と考察
1)評価法として導入するベイズ推定モデルでは、サリドマイドの神経系分化影響に関する表現型構成要素間ネットワーク解析で、個々の遺伝子発現変動だけではなく、GO解析の有用性が認められた。
2)毒性既知の化合物のマイクロアレイ結果から多変量解析を用いて10遺伝子を選択、20種の毒性化合物の予測を行った。神経毒や変異原性のどのカテゴリーにおいても90%以上の高性能な予測率が得られ、全体を統合して予測するシステムも原型が完成した。
3)ダイオキシン受容体活性化のバイオマーカー誘導はES細胞や分化神経系細胞では起きなかったが胚様体に対する曝露で認められ、さらにその後のニューラルロゼッタ形成率が上昇、内中胚葉マーカーが低下することがわかった。TCDDはヒト神経系細胞の分化増殖を阻害せず、相対的に分化率を増加させると考えられた。
結論
開発したESTはヒトにおける特徴的影響を観察できることが実証され、評価法として用いるベイズ推定モデルも化合物影響の予測性に関して有効性を持つことがわかった。

公開日・更新日

公開日
2012-06-01
更新日
-

文献情報

文献番号
201133003B
報告書区分
総合
研究課題名
確率推論型アルゴリズムに対するヒト胚性幹細胞試験データ適用法の標準化に関する研究
課題番号
H21-化学・一般-003
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
大迫 誠一郎(東京大学 大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 曽根 秀子(国立環境研究所 環境リスク研究センター)
  • 藤渕 航(産業技術総合研究所 生命情報工学研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 化学物質リスク研究
研究開始年度
平成21(2009)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
化学物質の安全性評価で重要な問題であるヒトへの生体影響を予測するシステムを開発するため、ヒト胚性幹細胞試験(EST)を利用、影響評価のためのデータ適応法の標準化に関する研究開発を行った。特に確率推論の一種であるベイジアンネットワーク解析を用いて、化学物質影響を形態ネットワークとして捉え、複数の化学物質の影響をサポートベクターマシンで判別予測する際の確率推論の利用、化合物影響の種間差の評価への応用を試みた。
研究方法
1)ヒトES細胞実験における神経分化細胞のフェノタイプネットワーク解析の研究:化学物質の各分化過程への影響評価のため、ヒトES細胞由来の神経細胞にサリドマイドを曝露し形態変化の解析を行った。
2)ES細胞試験における遺伝子ネットワークを入力に用いた未知毒性化合物のサポートベクターマシン毒性解析:限られた数の既知の毒性化合物を用いたES細胞試験から、多数ある化合物の生体への影響を一度に予測する新しい手法を開発した。
3)ES細胞試験における化学物質影響の種間・細胞間比較に関する研究:ヒトおよびマウスES細胞のメチル水銀に対する影響解析を進め、形態と遺伝子の統合的ベイジアンネット解析を行った。
4)ヒトES細胞の培養ステージの違いにダイオキシン(TCDD)曝露の晩発的影響:TCDDは個体発生過程で催奇形性等の様々な生体影響を引き起こす。ヒトES細胞を用い神経系細胞発生過程においてTCDDによる影響を調べた。
結果と考察
1)評価法として導入するベイズ推定モデルでは、サリドマイドの神経系分化影響に関する表現型構成要素間ネットワーク解析で、個々の遺伝子発現変動だけではなく、遺伝子オントロジー(GO)解析の有用性が認められた。
2)毒性既知の化合物のマイクロアレイ結果から多変量解析を用いて10遺伝子を選択、20種の毒性化合物の予測を行った。神経毒や変異原性のどのカテゴリーにおいても90%以上の高性能な予測率が得られ、全体を統合して予測するシステムも原型が完成した。
3)ヒトES由来細胞のネットワークモデルでメチル水銀のノード(Node)が最上層に来ることがわり、評価法とする確率推論モデルは遺伝子発現変動とその結果である細胞表現型に予測性を持つことが示唆された。
4)TCDDはヒト神経系細胞の分化増殖を阻害せず、相対的に分化率を増加させると考えられた。
結論
開発したESTはヒトにおける特徴的影響を観察できることが実証された。評価法として用いるベイズ推定モデルも、化合物影響の予測性に関して有効性を持つことがわかった。

公開日・更新日

公開日
2012-06-01
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2013-02-18
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201133003C

成果

専門的・学術的観点からの成果
開発した遺伝子モジュール探索プログラムやベイジアンネットワーク推定プログラム等のシステムは毒性データを用いた確率推論モデル解析を行う際に重要なツールであり、今後さらなる有効活用が期待できる。評価法として導入する確率推論モデルのベイズ推定は遺伝子発現変動という細胞表現型に予測性を持つことが提示できた。目標とする化学物質影響予測システムのため、作成した判別装置であるSVMは化学物質の毒性影響を十分に判別することができ、なおかつ確立したヒトES細胞分化培養系の有効性も立証された。
臨床的観点からの成果
本研究は再生医療で期待されるヒトES細胞の神経系細胞分化培養系を利用しているが、分化させる細胞を臨床に応用する研究ではないものの、得られた成果は、培養条件や化学物質による細胞の分化レベルの変化を精度良く検討する試験系に応用できる。
ガイドライン等の開発
該当無し
その他行政的観点からの成果
該当無し
その他のインパクト
メチル水銀に関する論文は2012年4月Toxicology Letters誌に掲載され、ヒトES細胞の発達毒性試験への応用における有用性が初めて示されたため、プレスリリースして日刊工業新聞他いくつかのメディアに取り上げられた。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
23件
その他論文(和文)
3件
その他論文(英文等)
8件
学会発表(国内学会)
12件
学会発表(国際学会等)
6件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
1件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
He X, Imanishi S, Sone H, Nagano R, et al.
Effects of methylmercury exposure on neuronal differentiation of mouse and human embryonic stem cells.
Toxicol Lett  (2012)
原著論文2
Nagano R, Akanuma H, Qin X-Y, Imanishi S, et al.
Multi-parametric profiling network based on gene expression and phenotype data: A novel approach to developmental neurotoxicity testing.
Int J Mol Sci , 13 , 187-207  (2012)

公開日・更新日

公開日
2016-06-09
更新日
-

収支報告書

文献番号
201133003Z