看護婦の交代勤務制の改善に関する研究

文献情報

文献番号
199800017A
報告書区分
総括
研究課題名
看護婦の交代勤務制の改善に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
上畑 鉄之丞(国立公衆衛生院)
研究分担者(所属機関)
  • 斉藤良夫(中央大文学部心理学研究室)
  • 酒井一博(労働科学研究所)
  • 前原直樹(労働科学研究所)
  • 山崎慶子(東京女子医科大学看護部)
  • 宮越由紀子(茨城県立医療大学看護学部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学推進研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
-
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
わが国の看護病棟での交代勤務の約7割は三交代制であるものの、近年の医療技術の高度化や多様化のなかでは様々な改善が求められており、定型的な8時間分割の三交代制から、「中勤」を取り入れた変則三交代制や二交代制そのものが導入されるなど、種々な試みがされている。本研究は、病棟看護での交代勤務の改善の試みについて、主として、労働生理学や労働心理学、労働社会学の立場から、可能な限り看護婦が健康的に働き、かつ患者の安全が維持できる夜勤制度のあり方を見いだすことを目的にした。
研究方法
初年度に当たる本年度は、以下の3つの分担研究をおこなった。
1.看護婦のストレスとライフ・イベントに関する研究:看護婦の職業ストレスと健康状態の特徴を明らかにするため、質問紙票による他職種との比較調査を実施した。対象は、公立、民間、国立病院などに勤務する看護婦1,110人で、比較した職種は、民間企業に勤務する女性の一般事務職847人、および小中高校に勤務する女性教員779人である。質問項目は、勤務条件(通勤時間、月間休日、週実労働時間、月間夜勤回数)と職務ストレス、ライフ・イベント・ストレスの有無、extended Karasek modelによる仕事特徴、タイプA行動、自覚徴候(一般疲労感、焦燥感、不安感、意欲低下感、心身消耗感)と睡眠障害などの項目である。
2.種々の交代勤務が看護婦の生活時間に与える影響の研究:夜勤後の生活時間構造に及ぼす影響を明らかにするため、1カ月にわたる生活時間調査を実施した。対象は、東京、及び名古屋近郊の中規模病院に勤務する交代勤務に従事する独身・独居で30歳未満の看護婦31名である。夜勤時間では、8時間、12時間、16時間の3グル-プからなり、生活時間に関する調査項目では、生理的活動、労働、余暇などの17項目で、15日間にわたって継続記入できる簡易携帯型手帳を用いた。
3.看護病棟での2交代勤務のあり方のシミュレ-ション研究:深夜勤務で生体にかかる身体的負荷を、深夜勤務時間の長さに応じて変化させた場合の深夜及び早朝の覚醒水準の低下状況、および深夜勤務後の昼間睡眠の睡眠構造に及ぼす影響を明らかにすることを目的に、深夜勤務時間の長さを8時間、12時間、16時間の3水準を想定した負荷実験を3名の若年女性を対象におこなった。測定指標は、体温、4選択反応時間、ヴィジランス、フリッカ-値、産業衛生学会・産業疲労研究会が提案した「自覚疲労しらべ」、Stanford Sleepiness Scale、閉眼安静時脳波などで、歩行による運動負荷とコンピュ-タ-監視による精神的負荷をかけた。
結果と考察
看護労働は、教員と同様に、一般事務の労働と異なり、ヒトを対象とするいわゆるヒュ-マン・サ-ビス労働であり、職務ストレス、自覚徴候の訴え率が高く、精神的ストレスが大きい傾向が明らかに認められた。また、教員との比較では、職務ストレスや仕事の要求度は高かったが、一般疲労感はやや低い傾向がみられた。さらに、看護婦の睡眠障害スコアは、他の2職種に比較して高く、月の深夜夜勤回数の増加とともに強くなることが明らかになった。交代勤務に従事する看護婦の生活時間の検討では、16時間夜勤では3日以上の連続休暇の取得割合が、他の2条件よりも多かった.しかし、最も疲労が蓄積すると予想される夜勤明けに連続休日を挟むことはなく,1日だけの休日を挟んだ「(深)夜-休-日」パターンが多かった。他方、夜勤を挟んだ勤務パターンの睡眠調整では,16時間夜勤では「後仮眠」の時間が短かく、「中仮眠」の疲労回復力が影響していると考えられた.また、12時間夜勤では,対象者が独身独居の若年看護婦であることを反映して勤務間隔が12時間の連続夜勤がしばしばみられたが、睡眠力の弱い中年以降や子育て期の看護婦では,「後仮眠」が十分にとれないことから,疲労を蓄積させてしまう可能性があると推測された.2交代勤務のあり方のシミュレ-ション実験では、8時間条件の深夜・早朝時間帯の大脳の覚醒水準の変化を基準とすると、12時間条件ではより覚醒水準が低く、16時間条件ではさらに低下する傾向が示された。また、精神負荷条件と運動負荷条件とでは、16時間条件に関しては、運動負荷条件の方が精神負荷条件よりも大脳の覚醒水準が低くなる傾向が見られた。すなわち、夜勤時と同じエネルギー消費量で歩行負荷をかけた場合、16時間の運動負荷条件では、精神負荷条件と比較して午前0時以降の大脳の覚醒水準レベルが低くなる傾向が明らかであった。このことは、実際の勤務で、看護婦が16時間の長時間の深夜勤務に就く場合、準夜時間帯に行う業務での身体的負担が大きければ、00:00からの深夜時刻帯で行う諸業務の円滑な遂行がより困難になると推測された。そのため、二交代勤務での長時間深夜勤務では、深夜・早朝時刻帯での強い負担を軽減するための方策のひとつとして、深夜時刻帯に仮眠をとることが有効と考えられた。また、長時間深夜勤務のときに深夜時刻帯にとる仮眠のとり方によって、深夜・早朝時間帯の覚醒水準の低下がどのように改善されるかを明らかにする必要があり、、実際の病棟現場での看護婦の勤務負担とサ-カディアン・リズムとの関連を更に検討する必要があると考えられた。
結論
看護婦は、一般事務職と比較して職務ストレスや疲労自覚徴候が多かった。また、同じヒュ-マン・サ-ビス労働である教員と比較しても睡眠障害の訴えが多く、夜勤回数の多さとの関連が示された。独身・独居の若い看護婦の生活時間では、16時間の夜間勤務のような場合には、3日以上の連続休日の機会は増加するものの、夜勤明けの連続休日の機会は少なく、勤務前後の睡眠や勤務中「仮眠」のとり方からみると、中高年以上の看護婦では疲労の蓄積傾向が大きくなる可能性が示唆された。さらに、夜勤時間の長さに関するシミュレ-ション実験では、8時間条件に比較して12時間、16時間条件ともサ-カディアン・リズムは見られなくなり、深夜から明け方にかけてのパ-フォマンスの低下を防ぐうえから仮眠を導入する必要性が明らかになった。

公開日・更新日

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