少子高齢化が日本経済に与える影響についての経済人口学的研究

文献情報

文献番号
199800011A
報告書区分
総括
研究課題名
少子高齢化が日本経済に与える影響についての経済人口学的研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
大淵 寛(中央大学経済学部)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学推進研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
3,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
1970年代半ばから四半世紀にわたって進行している置換水準以下への出生率の低下は急速な高齢化をもたらし、多方面に深刻な影響を与えるであろうと懸念されている。少子化は第一に、労働力人口の減少を引き起こす。それは21世紀早々に始まり、とくに若年労働力が減少して、労働力人口の高齢化も進行する。それは技術進歩にも悪影響を与えるであろう。人口高齢化は貯蓄率を引き下げるといわれ、資本形成を阻害すると考えられる。他方、人口の減少は消費市場を縮小し、企業家の投資意欲を殺ぐであろう。このように、少子高齢化は需要、供給の両面から日本経済の成長力を低め、経済活力を衰えさせると懸念されるのである。しかし、これらの懸念は多くの場合、推論の域にとどまり、計量的にその影響の大きさを測定する試みはあまり行われてこなかった。本研究は、少子化の帰結である人口減少と高齢化がわが国の経済社会システムにもたらすさまざまな影響について、理論的に検討するとともに、出生率のありうべき複数のコースを想定し、その動向に対応する経済と社会保障のシナリオを比較分析して、少子化対策の必要性と有効性を明らかにする。
研究方法
本年度は、主に少子高齢化に関する経済学的および社会学的諸研究の文献サーベイを行い、理論仮説の検討を行った。これは実証研究にとって必要不可欠な準備作業である。取り上げられたテーマは、「少子高齢化の経済的影響」「少子高齢化の労働市場への影響」「少子高齢化の福祉への影響」および「少子高齢化の社会的影響」の4つである。
結果と考察
1.「少子高齢化の経済的影響」について、それが短期的な需要面の分析よりも長期的な供給面から見たほうが適切であるとの立場から、まず労働力人口と経済成長の関係を取り上げた。いま総生産を代数的に分解すれば、一人当たりの労働生産性、労働人口比率、生産年齢人口比率および総人口の積として表せる。したがって、高齢化は第3項、人口減少は第4項を通じて総生産に対してマイナスの効果をもつことが明白である。もっとも、労働力人口の質を考慮に入れた場合、高齢化が生産活動に負の影響を与えるとは即断できない。
長期的な経済成長を考える際には、生産関数を用いるのが便利である。関数を構成する要素のうち、就業者数は今後減少に向かうので、これは明らかに経済成長にマイナスの効果を持つ。資本ストックの源泉である国内貯蓄率については諸説があるが、高齢化はやはり資本ストックの蓄積を鈍化させるであろう。また、公的年金制度の態様によって高齢化が貯蓄率に与える影響の方向が異なることにも注意しなければならない。少子高齢化と技術進歩の関係については必ずしも明確ではなく、負の影響を強調する説と労働力人口の減少を相殺する労働節約的技術進歩の可能性を認める考え方の二つがある。
2.「少子高齢化の労働市場への影響」は、わが国における失業問題の特殊性を解明した後に、今後の少子高齢化が労働市場におよぼす影響を論じた。
バブル経済の崩壊後、失業率、とりわけ若年層と高齢者のそれが上昇している。生産調整に比べると、雇用調整はコストがかかるので、とくに日本の企業は残業の削減等のゆるやかな手段で対処し、解雇などの激しい手段はできるだけ避ける傾向がある。日本では企業規模間の賃金格差が大きく、労働市場が分断されているが、そのことが不況期の雇用を確保する機能を果たすという一面を持っている。労働市場における女性労働力の役割にも独特のものがある。すなわち、女性の高学歴化が進むとともに、社会進出も盛んになっているが、女性労働に対する需要は男性労働に比べてきわめて景気感応的である。
近年、少子・高齢化が進行しているが、これが労働力の減少につながるかどうかは労働力率の動向に依存している。一般的には労働供給制約が強まって、長期的に労働需給は 逼迫すると予想され、その緩和策が緊急の課題となっている。まず、女性の労働力率を引き上げるためには、種々の就業阻害要因の除去、税制や年金制度などの改変が必要である。高齢者の就労を促進する施策も、継続雇用制度や定年延長などいくつかの選択肢がありうる。さらに、女性と高齢者の能力開発についても、積極的に進めるべきである。
3.「少子高齢化の福祉への影響」では、医療、年金、介護および出産・育児支援の諸点から少子高齢化と社会保障の関係を分析している。
医療費の増大を招く一つの要因は人口の高齢化である。高齢になるほど羅病率が高く、長期の治療を必要とするが、このことがしばしば医療のための資源(医師、看護婦、施設、設備)を介護に転用され、結果的にその浪費につながるという問題がある。
次に老齢年金は、先進諸国において高齢者の生活維持に不可欠の制度として定着しているが、高齢化がその円滑な運営にとって最大の阻害要因となっている。年金の財源調達方式には医療と同様に、租税方式と社会保険法式の二つがあり、後者には積立方式と賦課方式とがある。多くの制度は積立方式からスタートしたが、インフレに弱いため、物価スライド制が導入されて制度の修正を余儀なくされ、ついには賦課方式に移行していく。この方式が円滑に機能するには、老年、壮年、幼年の3世代の人口比率が安定的に推移する必要があるが、人口高齢化はこの前提を崩す大変化なのである。
少子高齢化は高齢者の介護問題をも深刻化する。要介護の状態は多様なので、介護システムも複雑になるが、まず財源調達の方法としては本人負担、租税および社会保険料の三つがある。介護供給期間としては、公的機関、民間の非営利団体のほか、各種の機関が介護市場に参入する可能性がある。ボランティアや家族といったインフォーマルな要素も加わる。給付の種類としては、在宅介護、部分収容介護、施設介護の三つに大別され、後二者では現物給付となるが、在宅介護の場合には現金給付もありうる。
4.「少子高齢化の社会的影響」は教育、子どもの社会性および地域社会にかかわる問題を扱っている。まず教育への影響では、少子化による幼稚園や保育所の統廃合の実態が語られる。働く女性の増加により地域によって保育所はむしろ不足気味で、大量の待機児すら存在し、無認可保育所への補助制度を設けてその不足を補っている。空き室のあるところでは、高齢者福祉施設を併設して高齢化対策として活用するところが増えている。少子化の影響は小学校にも現れ、地域によっては統廃合や複式学級が進み、空き教室を生涯学習教育や高齢者福祉施設に転用するケースも出ている。中学、高校も同様であり、校区の見直し、男女共学化、統廃合、単位制の導入、入試方式の変容などが次々に試みられている。1990年代には少子化の波が大学にも押し寄せている。
子どもの社会性におよぼす少子化の影響も重要である。兄弟姉妹が少なくなり、地域に同世代の子どもが減り、クラスや学校の友達が少なくなっている。しかし、そうした事柄についての研究はさほど行われておらず、そのことの意味が十分に解明されているとはいえない。
結論
第1に、少子高齢化の経済的影響について、労働力人口を中心に経済成長との関係を取り上げたが、少子高齢化は経済成長にとって好ましい状況ではありえないと結論できる。第2に、少子高齢化が労働力の減少につながるかどうかは労働力率の動向に依存しているが、一般的には労働供給制約が強まって、長期的に労働需給は逼迫すると予想される。第3に、医療費の増大を招く要因の一つは人口の高齢化である。高齢になるほど羅病率が高く、長期の治療を必要とするが、このことがしばしば医療のための資源を介護に転用され、結果的にその浪費につながるという問題がある。一方、老齢年金は先進諸国において高齢者の生活維持に不可欠の制度として定着しているが、高齢化がその円滑な運営にとって最大の阻害要因となっている。少子高齢化は高齢者の介護問題をも深刻化する。第4に、幼稚園から大学にいたる学校教育や学校経営に影響を与える。また、少子化は子どもの社会性や地域社会に影響を及ぼす。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-