医薬品の環境影響評価ガイドラインに関する研究

文献情報

文献番号
201132003A
報告書区分
総括
研究課題名
医薬品の環境影響評価ガイドラインに関する研究
課題番号
H21-医薬・一般-003
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
西村 哲治(国立医薬品食品衛生研究所 生活衛生化学部)
研究分担者(所属機関)
  • 鑪迫 典久(国立環境研究所 環境リスク研究センター )
  • 鈴木 俊也(東京都健康安全研究センター 環境保健部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス総合研究
研究開始年度
平成21(2009)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究費
3,200,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
新規に承認されるヒト用新有効成分含有医薬品の有効成分原体又はプロドラッグの活性代謝物の、化学物質としての化学的、物理的、生物学的な性状に由来する直接及び間接的に生じる環境に対する負荷を推定し、影響を評価して、人の健康と生態系へのリスク軽減を図ることを目的とする環境影響評価ガイドラインの作成に必要な情報の収集と整理を行う。
研究方法
環境影響評価ガイドラインの作成に関する諸外国の情報を収集した。欧米で実用化されている農薬に関する地下水汚染を評価するためのシミュレーションモデルを使用して、医薬品の地下水汚染の可能性を評価した。藻類・甲殻類・魚類を用いて生態毒性試験を実施した。
結果と考察
環境影響評価ガイドラインの作成に関する諸外国の情報収集と整理を行い、集積した。
既に欧米で活用されている農薬よる地下水汚染のシミュレーションモデルを用い、土壌吸着平衡定数と土壌を用いた容器内分解試験による半減期の値を実験的に求め、地下水汚染の可能性を判定した結果、今回対象とした医薬品類は、いずれも地下水汚染の可能性は無いと判定できた。一方、既に活用されている農薬よる地下水汚染のシミュレーションモデル(GUS score、jury’s criteria、Cohen’s criteria)は、医薬品類の地下水への影響評価にも適用できることが示された。高濃度で多摩川流域から検出されたフェニトインは、藻類への影響のNOECが 1.63 mg/L、甲殻類の影響のNOEC が3.21 mg/Lであった。また、スリピリドは、藻類への影響のNOECが 50 mg/Lで、甲殻類では最高濃度100 mg/Lで影響がなかった。魚類においては、両物質とも影響を示さなかった。多摩川流域で検出濃度の高い上位14医薬品を混合し複合影響を評価した結果、藻類では影響が見られず、甲殻類と魚類においては、環境中の10000倍高い濃度で影響が認められた。
結論
収集した諸外国の情報に基づいて、環境リスク評価の各項目の整理と充実を進め、段階的な評価手法を提案した。医薬品類の地下水への影響評価手法として、農薬よる地下水汚染のシミュレーションモデルが適用できることが示された。多摩川流域から高濃度で検出されたフェニトイン及びスルピリドの予測無影響濃度は実測値を上回る値であった。複合影響を考慮しなくてはならないことが示された。

公開日・更新日

公開日
2013-05-31
更新日
-

文献情報

文献番号
201132003B
報告書区分
総合
研究課題名
医薬品の環境影響評価ガイドラインに関する研究
課題番号
H21-医薬・一般-003
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
西村 哲治(国立医薬品食品衛生研究所 生活衛生化学部)
研究分担者(所属機関)
  • 鑪迫 典久(国立環境研究所 環境リスク研究センター)
  • 鈴木 俊也(東京都健康安全研究センター 環境保健部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス総合研究
研究開始年度
平成21(2009)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
新規に承認されるヒト用新有効成分含有医薬品の有効成分原体又はプロドラッグの活性代謝物の、化学物質としての化学的、物理的、生物学的な性状に由来する直接及び間接的に生じる環境に対する負荷を推定し、影響を評価して、人の健康と生態系へのリスク軽減を図ることを目的とする環境影響評価ガイドラインの作成に必要な情報の収集と整理を行う。
研究方法
環境影響評価ガイドラインの作成に関する諸外国の情報を収集した。ヒト用の医薬品の成分として用いられる化学物質101成分の水環境中濃度レベルを測定可能な方法として、固相抽出-液体クロマトグラフ/質量分析計による方法または固相抽出-ガスクロマトグラフ/質量分析計による方法を確立し、河川環境水中の濃度を測定した。藻類、甲殻類及び魚類に対する化審法及びOECDの試験法で示されている生物毒性試験を実施した。
結果と考察
収集した諸外国の情報に基づいて、環境リスク評価の各項目の整理を実施し、段階的な評価手法を提案した。下水処理場における医薬品の流出負荷量の年間変動は小さいこと、流域人口が異なる下水処理場の間であっても濃度変動は少ないこと、実測環境濃度の値は予想環境濃度(表層水)の値を上回ることはないこと等が明らかになった。しかし、一日投与量が多く、かつ、代謝されずに排泄される割合の高い、医薬品の成分として用いられる化学物質や、下水処理場で除去性の悪い医薬品の成分として用いられる化学物質については、予想環境濃度(表層水)が実測環境濃度を下回る過小評価の可能性があることが示唆された。また、地下水汚染の可能性は低いという結果が得られた。環境中で存在が確認された医薬品を選択し、OECDテストガイドライン及び化審法に採用されている「藻類、甲殻類および魚類」に対する急性毒性試験法の適用を考慮しつつ、慢性毒性試験法の適用の可能性について検討した結果、医薬品への適用が可能であることが明らかとなった。魚類の急性毒性評価試験は、動物愛護の観点も考慮し、OECDで開発中の受精卵を用いる試験法の適用が可能であることが示された。
結論
環境影響リスク評価として、2段階の段階的な評価手法を提案した。予想環境濃度(表層水)を求める妥当な設定値を示した。生物試験法は、OECDのテストガイドラインにある既存の試験法、もしくは魚類の受精卵を用いる試験法を適用できることが示された。

公開日・更新日

公開日
2013-05-31
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201132003C

成果

専門的・学術的観点からの成果
ヒト用の医薬品の成分として用いられる化学物質は、医薬品が本来の目的に使用された後や、未使用の医薬品として廃棄されることにともない、環境中に排出されて、所有する生理作用に加えて、化学的、物理的、生物学的な性状に由来して、生態系に影響を及ぼすことが危惧されている。科学的な観点から、リスク評価に必要な要件の検討を実施し、これまで提示されていなかった医薬品の環境影響評価手法のガイドライン案作成のための情報の精査に貢献した。また、慢性毒性が推定できる受精卵を用いた魚類急性毒性試験法の設定に貢献した。
臨床的観点からの成果
新規に承認されるヒト用新有効成分含有医薬品の上市にともない、疾患の治療のために臨床的に使用された後に、ヒト用新有効成分含有医薬品の有効成分原体又はプロドラッグの活性代謝物が、直接及び間接的に生じる環境に対する負荷を推定し、影響を評価して、ヒトの健康と生態系へのリスク軽減を図ることを意図するガイドライン作成に利用できる成果が得られた。本研究のこれらの成果は、医薬品分野において、環境に負荷の少ない医薬品の規格・開発から使用に至るまで、より安心して使用できる医薬品の総合科学的な発展への寄与ができる。
ガイドライン等の開発
欧米加などの諸国では、すでに医薬品の環境影響評価ガイドラインが示され、新規に承認されるヒト用新有効成分含有医薬品に対する環境影響評価が実施もしくは試行されており、世界的に医薬品の環境への影響に対する関心は高い。本研究で得られた成果や情報は、世界的な調和を考慮しつつ、我が国の状況を反映したガイドラインの作成に大きく貢献できると期待される。さらに、ガイドラインを実施するための詳細内容についても検討成果を集積し、ガイドライン実施に向けた対応に貢献できると期待される。
その他行政的観点からの成果
直接及び間接的に生じる新規に承認されるヒト用新有効成分含有医薬品の環境に対する負荷を推定し、影響を評価して、人の健康と生態系へのリスク軽減を図ることは、安全で安心した生活を送れる現在の環境を維持し、担保していたいという国民意識に対して、科学的な情報と明確に提示した手法により判断を示すことである。化学物質や農薬で考慮が払われている環境への負荷については、医薬品についても、国民の安全で安心した生活を送れる環境の整備を進める厚生労働行政施策に貢献できる成果を上げた。
その他のインパクト
環境生物の多様性を考慮すると、環境生物の中にはヒトよりも感受性が高い生物種が存在する可能性がある。そのため、ヒトの健康リスクを対象とした現行の医薬品の審査法では、ヒトを含む生態系生物に対するリスク評価は十分であるとは言えない。本研究の成果を医薬品の環境影響評価ガイドライン作成の基礎資料として反映することにより、ヒトを含む生態系の保全とその維持を促進する行政施策が期待でき、ヒトの健康で豊かな生活を送る環境造りの厚生労働行政に貢献できる。

発表件数

原著論文(和文)
3件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
15件
学会発表(国際学会等)
6件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
鈴木俊成,矢口久美子,栗田雅行,他
河川水中の医薬品の分析法
東京都健康安全研究センター研究年報 , 60 , 253-258  (2009)
原著論文2
鈴木俊也,小杉有希,保坂三継,他
多摩川流域の下水処理場における医薬品の存在実態
東京都健康安全研究センター研究年報 , 61 , 333-339  (2010)
原著論文3
鈴木俊也,小杉有希,保坂三継,他
水環境中の抗インフルエンザウイルス剤の分析法
東京都健康安全研究センター研究年報 , 62 , 233-236  (2011)

公開日・更新日

公開日
2016-06-13
更新日
-

収支報告書

文献番号
201132003Z