分娩環境のあり方に関する研究

文献情報

文献番号
199800009A
報告書区分
総括
研究課題名
分娩環境のあり方に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
長屋 憲(埼玉県狭山保健所)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学推進研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
-
研究費
1,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
平成6年度に家庭・出生問題調査研究事業として施行した、「分娩施設別に見た、新生児集中治療施設(NICU)収容児の実態調査、及び、児の予后、長期予後の比較検討研究」によって明らかにされたように、我が国では、分娩時における種々の産科処置能力、或いは、随時出現する各種産科異常への対応状況が分娩施設によって大きく異なり、成熟新生児の仮死など、児の異常の発生率に差がみられる。
そして、これらは、マン・パワーを中心とした緊急時対応能力の違いによると考えられることから、分娩を取り扱う施設には、分娩管理におけるマン・パワー、及び、緊急時の検査機能等にある一定以上の能力が備わっていることが望ましいと考えられる。
分娩を集約して取り扱うことが最も合理的な方向と考えられるが、有床診療所における分娩が全分娩の40%以上を占める我が国では、医師、助産婦の意識の点でも、中核施設の設備、能力の点でも、分娩施設の集中化を進める上で大きな障壁がある。
平成7年度に家庭・出生問題調査研究事業として施行した「分娩システムのあり方に関する研究」では、この問題を解決する手段としてオープンシステムが非常に有用であることを明らかとした
。また、平成8年度に家庭・出生問題調査研究事業として施行した「分娩環境のあり方に関する研究」では、平成8年度より実施された周産期医療対策事業に基づく、総合周産期母子医療センターの指定を初年度に受けることになる4施設について、マンパワーや検査機能の詳細な調査を行い、マンパワーや検査機能の充実した施設こそが地域における周産期医療の中核病院と
して実際に機能し得ることを確認した。さらに、昨年度の研究では、オープンシステム導入を具体的にどう行うかを検討し、オープンシステム整備のためのマニュアルを作成した。本年度は、これらの結果をふまえて、実際に地域におけるシステム整備の導入を試み、その経過を分析した。
以上のように、オープンシステム導入を具体的にどう行うかを検討し、オープンシステム整備のための方法論と問題点の整理とを行って、政策立案に資することが本研究を含めた一連の研究の目的である。
研究方法
昨年度作成したオープンシステム導入のためのマニュアルに基き、埼玉県狭山保健所管内で導入を試みた。
結果と考察
結果的には分娩システムにおける直接的な導入はできず、小児科診療の領域でオープンシステムの導入手順を小児科診療に関して試みた。全く手掛かりの無い状態から必要な事項を調査しこれで医師会幹部および小児科専門の医師、市の当局者の問題意識を喚起した。さらに彼らの危機感を解く上で本システムが役立つこと、地域の医師がもつアイデアが本システムに他ならぬことを呈示した。そして、各組織の協調を得ることで具体的な検討の場としての検討会を設置できた。調整の経緯を詳細に記録した。尚、研究の過程で、オープンシステムを既に実施している地域を視察した。対象は、浜松市にある聖隷浜松病院及び県西部浜松医療センターを中核とし数施設の診療所と形成しているシステムである。ここでは、特に、大谷レディースクリニックという診療所が年間400例もの分娩例をこのシステムで扱っていた。新規にオープンシステムを作成しようとする地域の医師等にとって、非常に有用な具体例であることがわかった。
医療法の第一次改正より、医療連携の必要性が唱えられて久しい。しかし、連携とは患者を紹介することというのが現状であり、真の連携からは程遠い状態である。
一方で、24時間体制を確保することがスタンダードな診療を行なううえで不可欠という認識が、種々の分野で芽生えてきた。しかしながら、時間的には救急の最たる分野である周産期医療において、現状の医療システムから24時間体制を確保することは難しい現状である。
そうした中で、昨年までの検討により、セミ・オープンシステム、オープンシステムの採用が、最も効率的であり、有効性の高いシステムであることが判明した。しかし、移行に際しては、現状のシステムと大きく異なる点が散在するため、十分に手順を踏むことが必要である。そのためには、実際のフィールドで導入を試みる際の詳細な経過が、最も貴重な教科書となる。導入試行のフィールドを選べるのであればより容易となる可能性もあるが、当初に導入を試みる地域では所長以下職員の意欲と熱意が特に重要であり、主任研究者が勤務する保健所以外での試行は考えられなかった。
本年度の検討では、産婦人科を担う施設が対象地域にあまりにも少なく、直接分娩のシステムに関連する検討はできなかった。しかし、偶然に市の職員が抱いていた小児科診療に関する問題意識が、これを解決するための手段として本手法を応用する可能性を検討するきっかけとなった。
小児科を標榜する施設の調査、及び、医療需給の推計結果が判明した時点では、市の問題意識は正しいようだと保健所側も考えていた。しかし、夜間、休日における診療状況の調査結果を得て、当初、問題視されていた「夜間に子供を診てくれる所がない」というのは誤りであり、管内では、告示病院が小児について一次診療を提供しており実績もあること、むしろ、小児科専門医師や麻酔科医師、検査機能や手術機能の整った、小児に対して二次医療を提供し得る施設が欠落していることが明らかとなった。
二次医療は、医療圏全体の中で確保されるべきものである。当地域は、隣接する所沢保健所管域と併せてひとつの医療圏であるから、所沢保健所管内の状況も同様に調査する必要がある。その結果を踏まえて、整備の方向性を検討しなければならない。今回の検討では、隣接保健所の管域分についても協力して調査、分析を行ったが、こういった連携は問題意識を擦り合わせる過程の中でも重要な要素と考えられた。
今回の検討では、地域において3つの医師会が協調して検討会を設けるまでに終わったが、問題意識を地域の中で高めていく手法としては充分な成果が得られたと考える。圏域内の各医師がそれぞれに持つ危機感とアイデアを結び付けた結果がオープンシステムに酷似した医療提供体制を求める意識となり、最終的な方向性が変わらぬまま検討が進めば、オープンシステム導入の手法として本手法が有用であることが確信できる。そのためには、さらに注意深く経過を分析していく必要があろう。
結論

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研究報告書(紙媒体)

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