プラスチックから溶出する可塑剤DEHPのヒトPPARαトランスジェニックマウスを用いた肝発がんリスク評価

文献情報

文献番号
201131035A
報告書区分
総括
研究課題名
プラスチックから溶出する可塑剤DEHPのヒトPPARαトランスジェニックマウスを用いた肝発がんリスク評価
課題番号
H22-食品・若手-021
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
伊藤 由起(公立大学法人 名古屋市立大学 大学院医学研究科)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 ポリ塩化ビニル製プラスチックの可塑剤として用いられているフタル酸ジ-2-エチルヘキシル(DEHP)は、動物実験で発がん性が明らかとなっているが、IARCは2000年にPPARαの発現が極端に低いヒトでは発がんの可能性が低いとして発がんリスクを2bから3に引き下げた。しかし、近年PPARα非依存的な経路の存在が示唆されている。そこで、本研究では①肝腫瘍形成におけるPPARαの役割、②PPARαのヒトとげっ歯類間の機能差が肝腫瘍形成に与える影響を検討すること、③DEHPの肝発がん機序を明らかにすることを目的とした。
研究方法
 本研究ではヒトのPPARαを持ったノックインマウス(hPPARα)、PPARαノックアウトマウス(Pparα-null)、129/Sv野生型マウス(mPPARα)の3種類のマウスに0, 0.01, 0.05, 0.4% DEHPを6週齢から混餌投与した。今年度は一部のマウスを52週間後解剖し、血液と肝臓を採取した。
結果と考察
 全ての遺伝子型マウスにおいてDEHP曝露により肝腫瘍が形成されており、Pparα-nullマウスにおいても肝細胞腺腫発生率がDEHP曝露により上昇していた。したがって、DEHPによる肝腫瘍形成はPPARα依存的な経路とPPARα非依存的な経路の両方が関与している可能性が示唆された。DNAマイクロアレイの結果、腫瘍の有無に関連して幾つかの経路が動いていたが、その多くは代謝に関するもので、細胞周期等の腫瘍形成に直接結びつくものは抽出されてこなかった。
結論
DEHPによる肝腫瘍形成には、PPARα依存的な経路と非依存的な経路の両方が関与していると考えられる。PPARα非依存的な経路の同定は今後の課題である。

公開日・更新日

公開日
2012-05-29
更新日
-

文献情報

文献番号
201131035B
報告書区分
総合
研究課題名
プラスチックから溶出する可塑剤DEHPのヒトPPARαトランスジェニックマウスを用いた肝発がんリスク評価
課題番号
H22-食品・若手-021
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
伊藤 由起(公立大学法人 名古屋市立大学 大学院医学研究科)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ポリ塩化ビニル製プラスチックの可塑剤として用いられているフタル酸ジ-2-エチルヘキシル(DEHP)は、動物実験で発がん性が明らかとなっているが、IARCは2000年にPPARαの発現が極端に低いヒトでは発がんの可能性が低いとして発がんリスクを2bから3に引き下げた。しかし、近年PPARα非依存的な経路の存在が示唆されている。そこで、本研究では①肝腫瘍形成におけるPPARαの役割、②PPARαのヒトとげっ歯類間の機能差が肝腫瘍形成に与える影響を検討すること、③DEHPの肝発がん機序を明らかにすることを目的とした。
研究方法
本研究ではヒトのPPARαを持ったノックインマウス(hPPARα)、PPARαノックアウトマウス(Pparα-null)、129/Sv野生型マウス(mPPARα)の3種類のマウスに0, 0.01, 0.05, 0.4% DEHPを6週齢から混餌投与した。各遺伝子型マウスにおいて、DEHP投与による体重変化、摂餌量変化に影響は見られなかった。一部52週間で解剖した以外は78週間曝露後解剖し、肝臓の肉眼所見の記録と血液、肝臓の採取を行った。肝臓の一部はホルマリン固定を行った。
結果と考察
PPARα遺伝子型により生存曲線に違いが観察されたが、DEHP曝露による生存曲線への影響は見られなかった。78週曝露後の肝重量は個体差が大きく、DEHP濃度依存的な顕著な変化は見られなかったが、52週曝露後の肝重量はどの遺伝子型マウスでも増加していた。全ての遺伝子型マウスにおいてDEHP曝露により肝腫瘍が形成されており、Pparα-nullマウスにおいても肝細胞腺腫発生率がDEHP曝露により上昇していた。したがって、DEHPによる肝腫瘍形成はPPARα依存的な経路とPPARα非依存的な経路の両方が関与している可能性が示唆された。DNAマイクロアレイの結果、腫瘍の有無に関連して幾つかの経路が動いていたが、その多くは代謝に関するもので、細胞周期等の腫瘍形成に直接結びつくものは抽出されてこなかった。
結論
DEHPによる肝腫瘍形成にはPPARα依存的な経路と非依存的な経路の両方が関与していると考えられる。PPARα非依存的な経路の同定は今後の課題である。

公開日・更新日

公開日
2012-05-29
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201131035C

成果

専門的・学術的観点からの成果
DEHPによる肝腫瘍は長らくPPARα依存的に起こると考えられてきた。しかし、我々の前回の結果(Ito et al., 2007)や本研究の結果は、DEHPによる肝腫瘍形成はPPARα依存的な経路とPPARα非依存的な経路の両方が関与していることを示している。また、ヒトのPPARαはマウスのPPARαと肝腫瘍形成機能の差がある可能性も示唆されており、リスク評価をする上でPPARα非依存的な経路の同定が必須であるが、まだ同定できていない。
臨床的観点からの成果
PPARαのリガンドはDEHPに限らず、抗高脂血症薬として医薬品にも用いられている。したがって、本研究の発がん実験の結果は、このような他のPPARαのアゴニストにも当てはめることができる。
ガイドライン等の開発
我々の前回の発がん実験の結果(Ito et al., 2007)等を踏まえ、IARCは2011年末にDEHPの発がんリスクを3から2bに再度引き上げを行った。今回はヒトのPPARαの機能差も同時に評価しており、論文公表後はDEHPのリスク評価の重要な知見となると思われる。
その他行政的観点からの成果
現在内閣府においてDEHPの毒性再評価をしているが、前回の我々の発がん実験の結果が評価に引用されている。今回の結果はまだ論文公表に至っていないが、同様に行政のリスク評価に貢献できると思われる。
その他のインパクト
特になし。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
1件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
2件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Ito Y, Nakamura T, Yanagiba Y, et al.
Plasticizers may activate human hepatic peroxisome proliferator-activated receptor α less than that of a mouse but may activate constitutive androstane receptor in liver.
PPAR Research, in press  (2012)

公開日・更新日

公開日
2016-10-03
更新日
-

収支報告書

文献番号
201131035Z