社会保障政策が企業行動とアジアの人口・労働問題に及ぼす影響に関する研究

文献情報

文献番号
199800007A
報告書区分
総括
研究課題名
社会保障政策が企業行動とアジアの人口・労働問題に及ぼす影響に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
中兼 和津次(東京大学経済学部教授)
研究分担者(所属機関)
  • 金子能宏(国立社会保障・人口問題研究所)
  • 増淵勝彦(国立社会保障・人口問題研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学推進研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、経済のグローバル化の下でわが国企業が活力を維持することができる社会保障政策の条件を明らかにするとともに、わが国企業の直接投資額が特に多く成長の著しい中国経済を対象に調査を行い、わが国の社会保障政策がアジア諸国の人口・労働問題にどのような影響を及ぼすかを知ることを目的とする。これによって、わが国企業の活力を維持しつつアジア諸国の人口・労働問題の解決にも寄与することのできる社会保障政策のあり方を探る。
研究方法
本研究は、次のような方法で進められている。
(1) 高齢化に伴う社会保障負担の増加が企業の福利厚生費や人件費に及ぼす影響について、時系列データを用いた実態把握を行うとともに、先行研究の文献サーベイを行う。
(2) 社会保障負担の増加が企業の福利厚生内容にどのような影響を与えているのか、またこれに伴う人件費の上昇・発展途上国との賃金格差の拡大が、どの程度企業の海外進出の要因となっているのか、その実態について、製造業の企業を対象にアンケート調査を行う。
(3) わが国企業にとっての重要な海外進出先となっている中国経済の市場経済化の動向と人口・労働問題について文献サーベイを行う。また、中国企業の複利厚生制度や社会保障制度の改革に関する研究を行っている国内および中国の研究者からヒアリング調査を行う。
(4) 上記目的のために、中国社会科学院、北京大学経済研究センター、中国社会保障労働部労働科学研究所などに所属する研究者で本研究のテーマに即した研究を行っている者を招聘する。
(5) (1)から(4)を踏まえて、わが国の社会保障負担の動向が企業の福利厚生費や人件費負担をどのように変化させ、その結果、どのような条件下で企業の海外進出を引き起こすのか、経済学的なモデル分析を行う。その際、わが国の社会保障負担の動向と発展途上国との賃金格差要因のみならず、企業進出による相手国の労働市場への影響も考慮した分析を行う。
(6) わが国企業の海外進出先における人口・労働問題の実態を把握し、これに望ましい影響を与える形での企業進出を促進するような社会保障政策のあり方を検討するため、日中合弁企業と、これと競合する中国国営企業に対するアンケート調査を企画・実施する。
(7) アンケート調査の企画実施に当たっては、相手国の事情を十分配慮する。招聘する研究者の意見を尊重し、かつ調査に協力してくれる現地企業の労使関係の安定に配慮する。調査票の回収と解析に当たっても、回答者のプライバシーを侵害することのない調査方法、集計方法、解析方法を採用し、調査票の内容の秘匿に細心の注意を払う。
結果と考察
平成10年度の研究は、概ね次のスケジュールで実施された。(98年4月~7月)研究組織の発足準備、(98年8月~10月)先行研究の文献サーベイ、(98年11月~12月)国内研究者からのヒアリング調査と中国における企業アンケート調査の企画、(99年1月~3月)中国人研究者の招聘と企業アンケート調査の実施準備。
本研究の初年度における中心課題の一つは中国における企業アンケート調査を企画・実施することである。これは、経済改革が進展中の今日においてなお中国企業の基幹をなしている国有企業を対象に、売上げ高や収益にみる経営状態、租税や社会保障負担の程度、各種福利厚生の内容、雇用に関する考え方などを調査することを目的としている。この課題については、調査委託先としてこの分野の調査・研究に豊富な実績を持つ政府機関である中国社会科学院を選定し、99年4年に調査を実施する予定で具体的な準備が進んでいる。また調査の企画に当たっては、社会保障や労働分野を専門とする中国人研究者(鄭功成・武漢大学経済学院教授、夏積智・中国社会保障労働部労働科学研究所長)の招聘が実現し、講演や彼らを交えたワークショップでの議論を通じて中国経済の制度面・実態面の最新情報を得ることができ、アンケート調査票の質問内容にそれらを反映させることができた。質問分野は、①企業概況、②企業の社会保険の概況、③養老保険、④医療保険、⑤失業保険、⑥労務管理に分かれ、全体で83項目である。
また、国内研究者からのヒアリングなどによる先行研究の調査も進展した。現在までに、伊藤正一・大阪府立大学経済学部教授から「中国の失業問題と国有企業改革」、沙銀華・ニッセイ基礎研究所研究員から「中国のおける社会保障制度-医療保険を中心に-」などをテーマに、数人の研究者からヒアリングを行った。これらのうち例えば伊藤教授からのヒアリングなどは、中国経済のマクロ的な労働需給バランスを把握し、その上で国有企業の改革が最近の失業増加にどの程度影響しているのか考えるために有益であり、アンケート調査票の作成にも直接・間接役立った。これらの結果は、企業アンケート調査の結果とともに、最終報告書にとりまとめられる予定である。
結論
本研究は現在のところ具体的な結論を得るに到っていないが、中国における企業アンケート調査結果は99年6月中に回収され、分析作業が始まる予定である。平成11年度の研究課題としては、以下のものがあげられる。本研究会としてはこれらの課題を効率的に実施し、その成果を報告書に反映させていくことを目標とする。
(1) 社会保障負担が企業の対外投資行動に及ぼす理論分析のサーベイ
(2) 中国に進出した日系企業へのアンケート調査の企画・実施
(3) 中国への進出企業の国内本社へのヒアリングの企画・実施
(4) 研究成果のとりまとめと報告書の作成

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