薬剤耐性食中毒菌に係る解析技術の開発及びサーベイランスシステムの高度化に関する研究

文献情報

文献番号
201131013A
報告書区分
総括
研究課題名
薬剤耐性食中毒菌に係る解析技術の開発及びサーベイランスシステムの高度化に関する研究
課題番号
H21-食品・一般-013
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
渡辺 治雄(国立感染症研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 黒田誠(国立感染症研究所 病原体ゲノム解析研究センター)
  • 秋庭正人((独)農業・食品産業技術総合研究機構 動物衛生研究所(細菌・寄生虫研究領域))
  • 五十君靜信(国立医薬品食品衛生研究所(食品衛生管理部第一室))
  • 浅井鉄夫(農水省動物医薬品検査所(検査第二部))
  • 甲斐明美(東京都健康安全研究センター(微生物部))
  • 倉園貴至(埼玉県衛生研究所 (臨床微生物担当))
  • 泉谷秀昌(国立感染症研究所 細菌第一部)
  • 田口真澄(大阪府立公衆衛生研究所(感染症部細菌課))
  • 田村豊(酪農学園大学獣医学部(衛生・環境部門 獣医公衆衛生学教室))
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
平成21(2009)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究費
18,480,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
サルモネラ、カンピロバクターの多剤耐性化が我が国ばかりでなく世界的にも進んできている。本研究においては、家畜、食肉および食中毒患者から分離されるサルモネラ、カンピロバクターの薬剤耐性菌の現状及び動向について全国レベルの調査を行う。さらに得られた耐性菌のゲノムレベルの解析を行い、家畜―食品―ヒト間の伝播の流れを科学的に解明する。
研究方法
家畜,食品及び患者由来のサルモネラ,カンピロバクターの分離菌株の耐性型、遺伝型の経時変化を調査し、新たに出現した耐性菌の全ゲノム配列を決定する。それにより耐性菌がどのように進化してきているのかを明らかにする。
結果と考察
1)サルモネラの疫学、解析:2011年家畜由来サルモネラの薬剤感受性状況は鶏由来Infantisで特にCMY-2型産生株の分離率の増加であった。2)2011年国産鶏肉から分離されたC. jejuniの約40%フルオロキノロン耐性であった。患者由来株においてもC. jejuni の約50%がフルオロキノロン耐性であった。3)ブロイラーから分離されるE.coliでESBLやセファゾリン耐性菌の分離率が増加している。ESBLは全てCTX-M-型に属するβラクタマーゼで、CTX-M-9グループ、CTX-M-1 グループおよびCTX-M-2グループが多かった。CEZ耐性株ではCMY-2が最も多く、その多くは接合伝達株であった。4)患者からNDM-1耐性大腸菌が分離されているが、調べた限りにおいては動物、食品からはNDM-1耐性株は分離できなかった。全ゲノム配列及びプラスミド配列の決定から、わが国で分離されたNDM-1遺伝子は、その配列においては既存のNDM-1遺伝子と同一であったが、その隣接配列において多様性が認められた。IS配列による多様な遺伝子の獲得を繰り返し、進化してきたことが判明した。
結論
家畜に分布するサルモネラとカンピロバクターの薬剤感受性状況を調査した結果、医療上重要なセファロスポリンに対する耐性が増加してきていた。全ゲノム配列の解析の結果、耐性遺伝子獲得にIS配列やインテグロンの関与が明らかになった。

公開日・更新日

公開日
2012-05-01
更新日
-

文献情報

文献番号
201131013B
報告書区分
総合
研究課題名
薬剤耐性食中毒菌に係る解析技術の開発及びサーベイランスシステムの高度化に関する研究
課題番号
H21-食品・一般-013
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
渡辺 治雄(国立感染症研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 黒田誠(国立感染症研究所 病原体ゲノム解析研究センター)
  • 秋庭正人((独)農業・食品産業技術総合研究機構 動物衛生研究所(細菌・寄生虫研究領域))
  • 五十君靜信(国立医薬品食品衛生研究所(食品衛生管理部第一室))
  • 浅井鉄夫(農水省動物医薬品検査所(検査第二部))
  • 甲斐明美(東京都健康安全研究センター(微生物部))
  • 倉園貴至(埼玉県衛生研究所 (臨床微生物担当))
  • 泉谷秀昌(国立感染症研究所 細菌第一部)
  • 田口真澄(大阪府立公衆衛生研究所(感染症部細菌課))
  • 田村 豊(酪農学園大学獣医学部(衛生・環境部門 獣医公衆衛生学教室))
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
平成21(2009)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
食中毒細菌分離される耐性菌の耐性遺伝子の構成、その伝達様式等の解析、さらには全ゲノム配列の解読を含む高度の技術を用いての解析を加え、畜産、食品および食中毒患者から分離された耐性菌の連関を遺伝子レベルで明らかにする。
研究方法
家畜,食品及び患者由来のサルモネラ,キャンピロバクターの分離菌株の薬剤耐性型の動向を調査する。耐性菌の性状解析、全ゲノム配列を解析し、耐性遺伝子の移動を解明する。
結果と考察
ヒトおよび食品由来のSalmonella enterica serovar Enteritidis, Infantis, Typhimurium, およびその他血清型(タイ分離)の薬剤耐性株を中心に計20株の全ゲノム配列を解読し、血清型特有の1塩基多型(single nucleotide polymorphism: SNP)を抽出しデータベース化した。Typhimurium 薬剤耐性株T000240の全ゲノム解読を製品評価技術基盤機構との共同研究で行い、特徴的な薬剤耐性アイランド(Class I integron)を2 loci見いだし、耐性プロファイルに対応する耐性遺伝子マーカー全てを明らかにした。カルバペネム耐性を示すNDM-1保有大腸菌株のゲノム解読を行い、NDM-1遺伝子が腸内細菌科に幅広く同定されるIncA/Cプラスミドを介して水平伝播していることを明らかにした。NDM-1遺伝子の隣接配列の解析から、植物病原菌として知られるPseudoxanthomonas属等からNDM-1遺伝子を獲得している可能性が示唆された。
結論
サルモネラ、大腸菌の薬剤感受性状況を調査した結果、医療上重要なセファロスポリンに対する耐性が増加しており、特にブロイラー由来CMY-2において顕著であった。それらの耐性遺伝子が“動く遺伝子”を介してプラスミドに移動し、そのプラスミドが異なる菌株あるいは菌種間に伝播している可能性が強く示唆された。今後の耐性菌対策、リスク評価を考えていく上で重要である。

公開日・更新日

公開日
2012-05-01
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201131013C

成果

専門的・学術的観点からの成果
S.Typhimurium フルオロキノロン薬剤耐性株の全ゲノム解読を行い、特徴的な薬剤耐性アイランド(Class I integron)を見いだした。カルバペネム耐性を示すNDM-1保有大腸菌株のゲノム解読を行い、NDM-1遺伝子が腸内細菌科に幅広く同定されるIncA/Cプラスミドを介して水平伝播していることを明らかにし、耐性菌獲得の分子メカニズムを解明した。
臨床的観点からの成果
家畜、食材から分離される大腸菌、サルモネラの中でベータ-・ラクタム耐性菌の割合が増加しており、それのヒトへの侵入も起こっている。臨床上、治療に抵抗性になる可能性が高い。また、臨床的に問題となるMRSAが豚由来のMRSAから分離されている報告があるので、今後の動向の調査が重要である。
ガイドライン等の開発
肥料・飼料等(第51回)/微生物・ウイルス(28回)合同専門調査会(薬剤耐性菌に関するWG)平成24年1月17日の「鶏に使用するフルオロキノロン系抗菌性物質に関わる薬剤耐性菌に関する食品健康影響評価について」の審議で参考資料に使われる。
その他行政的観点からの成果
サルモネラ、カンピロバクターの動物および患者由来フルオロキノロンおよびベーター・ラクタム剤耐性菌の最近の傾向として本研究班のデーターが参考にされた。
その他のインパクト
家畜等から分離される大腸菌およびサルモネラ菌に、ベーター・ラクタム剤、フルオロキノロン系剤に耐性な菌が分離されることを朝日新聞が取り上げた。WHOは2011年を薬剤耐性の年として取り上げ、サーベイランスの重要性を力説した。

発表件数

原著論文(和文)
2件
原著論文(英文等)
25件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
12件
学会発表(国際学会等)
10件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
H. Izumiya, Y. Tada, K. Ito, et al
Characterization of Shigella sonnei isolates from travel-associated cases in Japan.
J. Med. Microbiol. , 58 (11) , 1486-1491  (2009)
原著論文2
Harada, K., Ozawa, M., Ishihara, K., et al
Prevalence of antimicrobial resistance among serotypes of Campylobacter jejuni isolates from cattle and poultry in Japan.
Microbiol. Immunol. , 53 , 107-111  (2009)
原著論文3
M. Taguchi, R. Kawahara, K. Seto, et al
Plasmid-mediated quinolone resistance in Salmonella isolated from patients with overseas travelers diarrhea in Japan.
Jpn. J. Infect. Dis. , 62 , 312-314  (2009)
原著論文4
Kojima A., Asai T., Ishihara K., et al
National monitoring for antimicrobial resistance among indicator bacteria isolated from food-producing animals in Japan.
J. Vet. Med. Sci. , 7 , 1301-1308  (2009)
原著論文5
M. Morita, N. Takai, J. Terajima, et al
Plasmid-mediated resistance to cephalosporins in Salmonella enterica serovar Typhi.
Antimicrob. Agents Chemother. , 54 (9) , 3991-3992  (2010)
原著論文6
Baba, K., Ishihara, K., Ozawa, M., et al
Isolation of meticillin-resistant Staphylococcus aureus (MRSA) from swine in Japan.
Int. J. Antimicrob. Agents. , 36 , 352-354  (2010)
原著論文7
Asai, T., Sato, C., Masani, K., et al
Epidemiology of plasmid-mediated quinolone resistance in Salmonella enterica serovar Typhimurium Isolates from Food-Producing Animals in Japan.
Gut Pathog. , 2 , 17-17  (2010)
原著論文8
Ishihara K., Shimokubo N., Sakagami A., et al
Occurrence and molecular characteristics of methicillin-resistant Staphylococcus aureus and methicillin-resistant Staphylococcus pseudintermedius in an academic veterinary hospital. 
Appl. Environ. Microbiol. , 76 (15) , 5165-5174  (2010)
原著論文9
H. Izumiya, T. Sekizuka, H. Nakaya, et al
Whole-genome analysis of Salmonella enterica serovar Typhimurium T000240 reveals the acquisition of a genomic island involved in multidrug resistance via IS1 derivatives on the chromosome.
Antimicrob. Agents Chemother. , 55 (2) , 623-630  (2011)
原著論文10
N. Sithivong, T. Morita-Ishihara, A. Vongdouangchanh, et al
Molecular subtyping in cholera outbreak, Laos, 2010.
Emerg. Infect. Dis. , 17 (11) , 2060-2062  (2011)
原著論文11
Pinto AF, Todorovic S, Hildebrandt P, et al
Desulforubrerythrin from Campylobacter jejuni, a novel multidomain protein.
J. Biol. Inorg. Chem. , 16 (3) , 501-510  (2011)
原著論文12
Okada Y, Okutani A, Suzuki H, et al
Antimicrobial susceptibilities of Listeria monocytogenes isolated in Japan.
J Vet Med Sci. , 73 (12) , 1681-1684  (2011)
原著論文13
Usui, M., Uchiyama, M., Baba, K., et al
Contribution of enhanced efflux to reduced Susceptibilities of Salmonella enterica serovar Choleraesuis to fluoroquinolone and other Antimicrobials.
J Vet Med Sci. , 73 , 279-282  (2011)
原著論文14
Asai, T., Masani, K., Sato, C., et al
Phylogenetic groups and cephalosporin resistance genes of Escherichia coli from diseased food-producing animals in Japan.
Acta Vet Scand. , 53 , 52-52  (2011)
原著論文15
M. Sugawara, J. Komori, M. Kawakami, et al
Molecular and phenotypic characteristics of CMY-2 β-lactamase-producing Salmonella enterica serovar Typhimurium isolated from cattle in Japan.
J. Vet. Med. Sci. , 73 , 345-349  (2011)
原著論文16
F. Shahada, T. Sekizuka, M. Kuroda, et al
Characterization of Salmonella enterica serovar Typhimurium isolates harboring a chromosomally encoded CMY-2 β-lactamase gene located on a multidrug resistance genomic island.
Antimicrob. Agents Chemother. , 55 , 4114-4121  (2011)
原著論文17
Sato T., Yokota S., Uchida I., et al
A floroquinolone-resistant Escherichia coli clinical isolate without quinolone resistant-determining rfegion mutations found in Japan.
Antimicrobiol Agents Chemothr. , 55 (8) , 3964-3965  (2011)
原著論文18
Ishihara K., Kanamori K., Asai T., et al
Antimicrobial susceptibility of Escherichia coli isolates from wild mice in a forest of a natural park in Hokkaido, Japan.
J Vet Med Sci. , 73 (9) , 1191-1193  (2011)
原著論文19
Sekizuka T, Matsui M, Yamane K, et al
Complete Sequencing of the bla(NDM-1)-Positive IncA/C Plasmid from Escherichia coli ST38 Isolate Suggests a Possible Origin from Plant Pathogens.
PloS one 2011. , 2011 (6) , 25334-25334  (2011)
原著論文20
M. Sugawara, F. Shahada, H. Izumiya, et al
Change in antimicrobial resistance pattern in Salmonella enterica serovar Typhimurium isolates detected in a beef cattle farm.
J. Vet. Med. Sci. , 74 , 93-97  (2012)

公開日・更新日

公開日
2016-10-03
更新日
-

収支報告書

文献番号
201131013Z