高齢者の医療・介護に関する日英比較研究

文献情報

文献番号
199800004A
報告書区分
総括
研究課題名
高齢者の医療・介護に関する日英比較研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
府川 哲夫(国立社会保障・人口問題研究所)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学推進研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
2,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
日本とイギリスの医療システムの大きな相違点としてプライマリー・ケアが挙げられるが、両国はともに医療費の対GDP比が主要国の中で最も低いグループに属している。1)その制度的要因、 2)それが医療サービスの効率性や質に与えている影響、3)国民の医療制度に対する評価、4)高齢者の介護サービスに対する政策的アプローチ、に関して日英共同で比較研究を行う。
急速に高齢化が進展している中で高齢者介護のあり方や医療と介護の関連について国民の関心が高まっている。高齢者の医療・介護においてどのような政策的 option があるかを考える上で、他の先進国との共同研究を行うことは大変有意義である。特にイギリスのプライマリー・ケアが医療全体の効率性に与えている影響や低医療費が医療サービスの質に与えている影響については、日本にとってもきわめて重要な情報であると考えられる。
研究方法
高齢者の医療・介護に関してLondon School of Economics(LSEと略す)をパートナーとして平成9年度から3年計画で比較研究を行う。
平成9年度は、日英両国における高齢者の医療・介護の現状について、高齢者の身体状況、living arrangement、医療・介護サービスの利用状況等を既存の調査から比較可能な範囲で把握し、主に高齢者の医療サービスに関して、プライマリー・ケア・システムの日英比較、医療サービスの効率性と質の日英比較など、今後掘り下げて比較研究を行うべき課題を抽出した。
平成10年度は平成9年度に抽出された重点課題についてLSEとの共同研究を実施した。さらに、主に高齢者の介護サービスに関して、日英比較研究を行うべき重点課題の抽出作業を行った。
平成11年度は平成10年度に抽出された重点課題について共同研究を実施するとともに、高齢者の医療・介護に関して日英両国の共通点、相違点を総括した上で、両国のこれまでの経験からお互いにどんなことが学べ、どのような政策のoptionがあるか、その評価を含めて考察する。
結果と考察
平成10年度の研究では高齢者の医療サービスに関する日英比較及び高齢者の介護サービスについての両国の取組みについての検討を行った。
高齢者の健康状態は概して日本の方が良いようにみえるが、高齢者の医療費は日英で大差なかった。しかし、その使い方には両国で大きな差があり、イギリスの方が入院サービスの比重が高く、年齢階級別1人当たり医療費のパターンも顕著な違いがあった。イギリスのNHS改革ではプライマリー・ケアの分野にも様々な戦略的アプローチがとられている。イギリスで医療費増加の抑制が他の先進国よりうまくいっている理由は、医療サービスの大部分が政府が支払うNHSによっているため支出をコントロールしやすいからである。今後も医療費の増加が予想されるが、現行の財源調達方式が政府にとってもイギリス全体にとっても最も経済的であるとみられている。
市場原理をどのように導入するかはそれぞれの国の制度的・思想的背景に大きく依存する。イギリスのNHSの効率化への道は運営の専門化、供給サイドでの競争、交渉による契約による。改革は管理者と医療従事者、医療サービスの購入者と供給者の間の力関係を変えるために使われたが、ユーザーの力は根本的には強くなっていない。イギリスではミクロ・レベルの効率性が向上したかどうかはっきりせず、マクロ・レベルの医療費は上昇した。
日英両国の高齢者介護に関する政策(特に在宅サービス)の展開をみると、類似点も多く興味深い。イギリスでは1999年3月にRoyal Commissionが介護サービスの将来の財政に関してレポートを発表したが、日本では1997年12月に介護保険法が成立して、日本の方が一歩進んでいるようにみえる。しかし、イギリスのコミュニティ・ケア改革は日本より先に実施され、日本の在宅福祉施策にも大きな影響を及ぼしており、高齢者介護の分野で両国がお互いの経験から学び合う意義は大きいと考えられる。
結論
医療サービス全体をマクロでみればイギリス、日本ともに少ない医療サービス(対GDP比)で高い健康水準を維持しているようにみえる。医療サービスの内容あるいは年齢別分配では日英は大きく異なっていた。また、イギリスの医療費では日本と比べて入院(病院)サービスの比重が高かった。GPの役割の違い、入院サービスの違い、費用負担の違い、などが両国の医療サービスのミクロ・レベル及びマクロ・レベルの効率性に影響を与えている。イギリスでは病床利用率が高く(85~95%)、これが片やウェイティング・リストの問題を引き起こしているが、一方で医療費を低く抑えることに貢献している。もし病床利用率をたとえば60~70%に下がるように病床を増やせばウェイティングリストの問題は解消するが、そのためのコストを負担する用意はイギリス国民にはないようである(府川・武村、1997)。日本では診療報酬点数表による価格コントロールのみで医療費増加を抑制してきたが、この方法はもう限界に達していると考えられており、医療保険における構造改革が求められている。医療サービスの質を向上させ、医療サービス提供を効率的に行うために、日本でもイギリスの例にならって戦略的なアプローチをとることが必要である。
今後の課題としては次のような点を明らかにすることが挙げられる。
1)日英両国とも医療サービス提供に関して政府のコントロールが強く、医療費の対GDP比が他の先進国より低いが、これが高齢者に対する医療サービスの質にどのような影響を与えているか。
2)本当に日本の高齢者の方が元気(disability-free)なのか。日英の高齢者のmorbidityを詳しく比較する必要がある。
3)イギリスのプライマリー・ケアは日本のプライマリー・ケアより効率がよいのか。患者のGP選択の実態と効果。患者の流れを是正するためにはGP制はどれほど有効か。
4)高齢者に振り向けられている医療サービスの総額(対GDP比)は日英で変わりがないように見えるが、そのサービス内容の内訳を詳しく比較する必要がある。日英両国において、高齢者に提供されている社会サービスの全体像をとらえると、医療サービスや福祉サービスの位置付けがより鮮明になる。
5)医療制度や高齢者介護制度に対する国民の信頼度・満足度

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