文献情報
文献番号
199800003A
報告書区分
総括
研究課題名
縦覧点検データによる医療受給の決定要因の分析
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
鴇田 忠彦(一橋大学経済学部)
研究分担者(所属機関)
- 山田武(千葉商科大学商経学部助教授)
- 山本克也(国立社会保障・人口問題研究所研究員)
- 泉田信行(国立社会保障・人口問題研究所研究員)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学推進研究事業
研究開始年度
平成7(1995)年度
研究終了予定年度
平成9(1997)年度
研究費
10,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
本研究では、患者の医療サービスを受診する行動について、その実態を統計的に捉えることを目的としている。従来この種の研究は、適切な統計データが存在しないために、満足のいく成果をあげた例は少ない。今回4都道府県の国民健康保険における個人の1年間にわたる個票レセプトが、国民健康保険団体連合会をはじめとする関係各方面のご厚意によって入手可能となり、患者の受診行動を直接分析することがはじめて可能になった。
医療保険の加入者は、医療保険によって医療費の不意の出費を免れられるため、リスク低減の恩恵を受けることが可能となるが、他方では保険診療によって医療費の患者負担が大幅に軽減され、そのために医療サービスを過剰に消費しやすい。さらに診療報酬が出来高払い制の場合には、モラルハザードが起こりやすく、一層の深刻な厚生損失を発生させやすいことは、医療経済学では一般によく指摘されている。
昭和30年代半ばに国民皆保険を実現した日本では、それが日本の福祉の中核となり、低い患者負担で医療サービスを提供することで多大の恩恵を国民に与えたが、その代償も小さくはなく、深刻な事態を招いている。現在少子高齢社会への進行過程にあり、急速に増大している老人医療費を中心とする国民医療費の増加と、現役世代への過酷な負担が焦眉の問題となっており、いかにして効率的かつ質の高い医療サービスを提供するシステムを設計するかが、重要な課題になっている。
今回提供された個票レセプトをパネルデータに変換して統計的に解析することにより、公的な医療保険に加入している人々の受診行動が、おそらくはじめて系統的に明らかにされよう。そのこと自体アカデミックな視点からは、きわめて独創的でしかも尽きることのない多数の貢献が可能になると予想されるが、同時に現在の医療制度の抜本改革をすすめる政策的な要請にも十分に答えられる貢献が期待されよう。
医療保険の加入者は、医療保険によって医療費の不意の出費を免れられるため、リスク低減の恩恵を受けることが可能となるが、他方では保険診療によって医療費の患者負担が大幅に軽減され、そのために医療サービスを過剰に消費しやすい。さらに診療報酬が出来高払い制の場合には、モラルハザードが起こりやすく、一層の深刻な厚生損失を発生させやすいことは、医療経済学では一般によく指摘されている。
昭和30年代半ばに国民皆保険を実現した日本では、それが日本の福祉の中核となり、低い患者負担で医療サービスを提供することで多大の恩恵を国民に与えたが、その代償も小さくはなく、深刻な事態を招いている。現在少子高齢社会への進行過程にあり、急速に増大している老人医療費を中心とする国民医療費の増加と、現役世代への過酷な負担が焦眉の問題となっており、いかにして効率的かつ質の高い医療サービスを提供するシステムを設計するかが、重要な課題になっている。
今回提供された個票レセプトをパネルデータに変換して統計的に解析することにより、公的な医療保険に加入している人々の受診行動が、おそらくはじめて系統的に明らかにされよう。そのこと自体アカデミックな視点からは、きわめて独創的でしかも尽きることのない多数の貢献が可能になると予想されるが、同時に現在の医療制度の抜本改革をすすめる政策的な要請にも十分に答えられる貢献が期待されよう。
研究方法
今回は研究全体を3つの段階に分類して分担することとにした。まず、先行研究を展望することによって、患者の受診行動の分析が、どのような理論的かつ計量的な分析段階が進んでいるかを検討した。既述のようにパネルデータを使用した先行研究は、ごく僅かであるので、ここではより一般的な集計的データを使用した研究まで含めることとした。
次に本格的なパネルデータを使用する分析に入る前の準備的な作業として、同じ国民健康保険の10年間の集計的なデータを使用して、全体的な受診構造や医療費の推移を把握することを試みた。また、その際に国民健康保険制度の加入者特有の医療受給構造が存在する可能性をチェックするために、比較対象として政府管掌健康保険の被保険者と被扶養者に対する診療についても、同様の分析を行った。
最後に個票データをパネルデータ化して、統計データにするための技術的な作業を行った。1000万を超えるレセプトデータを個人のプライバシーを最優先にしながら、操作可能なインデックス・ファイルを作成する試みである。この試みは別添-3(3)を参照されたい。この分析では、パネルデータ作成のプロトコルをいかにして組み上げていくかに焦点が絞られているため、インデックス・ファイルをいくつか作成することを最優先に考えた。そのためソートキーになり得る変数毎に便宜的な集計をおこなっている。
次に本格的なパネルデータを使用する分析に入る前の準備的な作業として、同じ国民健康保険の10年間の集計的なデータを使用して、全体的な受診構造や医療費の推移を把握することを試みた。また、その際に国民健康保険制度の加入者特有の医療受給構造が存在する可能性をチェックするために、比較対象として政府管掌健康保険の被保険者と被扶養者に対する診療についても、同様の分析を行った。
最後に個票データをパネルデータ化して、統計データにするための技術的な作業を行った。1000万を超えるレセプトデータを個人のプライバシーを最優先にしながら、操作可能なインデックス・ファイルを作成する試みである。この試みは別添-3(3)を参照されたい。この分析では、パネルデータ作成のプロトコルをいかにして組み上げていくかに焦点が絞られているため、インデックス・ファイルをいくつか作成することを最優先に考えた。そのためソートキーになり得る変数毎に便宜的な集計をおこなっている。
結果と考察
まずこれまでの先行研究の展望では、パネルデータにせよ集計データにせよ、分析に難点があることが指摘されている。集計データについてはミクロレベルの個別の行動が、集計的なデータによる平均値で推測されるために、本来とは逆の行動様式が推測されてしまう、パラドキシカルな事態の起こる可能性がある。一方、これまでのレセプトを用いた研究については、ほとんどがある1か月のレセプトのみを用いている。その際には次のような問題が生じる。第一に、一枚のレセプトは必ずしも治療全体を網羅していないということがあげられる。レセプトがとらえている治療期間についてみてみると、①治療の全期間を含む、②治療の開始を含む、③治療の終了を含む、④治療の開始も終了も含まないの四通りが考えられる。よって一般的には一枚のレセプトには全治療期間の一部分の情報しか記載されていない可能性が高い。このことがレセプトデータの最大の問題点である。第二に、レセプトは患者一名につき一か月に一医療機関で一枚発行されるため、同じ医療機関で複数の病気を治療している場合でもレセプト単位では識別することができない。第三に、泉田報告では表立って現れていないが、クロスセクションデータの場合は、治療期間の長いケースを過剰に、治療期間の短いケースを過小にカウントする可能性は否定できない。以上のようなことから一枚のレセプトが患者の受診行動を分析するための資料としては必ずしも合理的な資料ではないことは明らかである。
次に、国民健康保険の被保険者について、ある月のレセプトを診療期間ごとに分類し、レセプトの総枚数に対して各診療期間ごとのレセプトの構成割合を具体的に算出した。その結果、入院については診療開始から長期間経っているレセプトほどその構成割合が低下する傾向にあることが観察された。しかし、国民健康保険の被保険者の入院外診療についてはこのような傾向がそのままあてはまらなかった。70才以上の被保険者については診療開始から期間を経ているレセプトの枚数が全体に占める割合が大きくなる傾向が観察された。また、被保険者の医療費構造についても確認を行った。全受診者については、入院診療は診療期間が経過するごとに一件当たり医療費は徐々に低下していく傾向にあった。逆に、入院外診療については診療期間が経過するごとに一件当たり医療費は徐々に高くなっていく傾向にあった。
この結果から次のことがいえる。まず、70才以上の国民健康保険被保険者の受診構造、特に、入院外診療については、かなり特徴的なものであることが推測される。70才以上の被保険者が医療機関を受診した場合、診療期間は比較的長期にわたることが予想されるため、一月のレセプトを用いるだけでは老人入院外診療費の分析には不都合が生じる可能性が高い。
最後に今回入手したレセプト・データのパネル化に伴う予備的分析の結果であるが、70歳以上グループの受診頻度が高いこと、10日を超える入院が多いことなど、一般に指摘されることは十分観察された。その他に得られた暫定的な結果としては、1)患者の行動を連続的に捉える、すなわち、一定期間内の入院・通院の概要をとらえることで医療費の地域差の要因を探索することが可能となること、2)A県とB県の暫定比較のように、薬剤費一部負担に大きな違いがある場合、処方箋薬は受けるが診察は受けないという受診行動が予想でき、医療費の発生には様々な態様のある可能性が示唆されることがあげられる。
そこで、以上の問題点を回避するために、レセプトの個票データを利用し、かつそれをパネル化する必要がある。これにより、集計値の問題の解消のみならず、具体的に、特定個人の受診行動の差異を捉え、疾病によってどのように診療期間が決定されるのかを観察することも可能になる。
このようにパネルデータ化の予備的分析については、診療実日数がインデックス・ファイルを作成する一要素であることが判明した。A県とB県ともに、診療実日数毎に決定点数、薬剤費一部負担金を集計するだけで、地域毎の医療費構造の同質性および差異を示唆する結果を導くことになった。このことは、地域内での医療費構造の比較、たとえば医療機関や保険者毎の比較を行う際にも診療実日数をインデックス・ファイルキーにすることが有用であることを示唆しよう。
次に、国民健康保険の被保険者について、ある月のレセプトを診療期間ごとに分類し、レセプトの総枚数に対して各診療期間ごとのレセプトの構成割合を具体的に算出した。その結果、入院については診療開始から長期間経っているレセプトほどその構成割合が低下する傾向にあることが観察された。しかし、国民健康保険の被保険者の入院外診療についてはこのような傾向がそのままあてはまらなかった。70才以上の被保険者については診療開始から期間を経ているレセプトの枚数が全体に占める割合が大きくなる傾向が観察された。また、被保険者の医療費構造についても確認を行った。全受診者については、入院診療は診療期間が経過するごとに一件当たり医療費は徐々に低下していく傾向にあった。逆に、入院外診療については診療期間が経過するごとに一件当たり医療費は徐々に高くなっていく傾向にあった。
この結果から次のことがいえる。まず、70才以上の国民健康保険被保険者の受診構造、特に、入院外診療については、かなり特徴的なものであることが推測される。70才以上の被保険者が医療機関を受診した場合、診療期間は比較的長期にわたることが予想されるため、一月のレセプトを用いるだけでは老人入院外診療費の分析には不都合が生じる可能性が高い。
最後に今回入手したレセプト・データのパネル化に伴う予備的分析の結果であるが、70歳以上グループの受診頻度が高いこと、10日を超える入院が多いことなど、一般に指摘されることは十分観察された。その他に得られた暫定的な結果としては、1)患者の行動を連続的に捉える、すなわち、一定期間内の入院・通院の概要をとらえることで医療費の地域差の要因を探索することが可能となること、2)A県とB県の暫定比較のように、薬剤費一部負担に大きな違いがある場合、処方箋薬は受けるが診察は受けないという受診行動が予想でき、医療費の発生には様々な態様のある可能性が示唆されることがあげられる。
そこで、以上の問題点を回避するために、レセプトの個票データを利用し、かつそれをパネル化する必要がある。これにより、集計値の問題の解消のみならず、具体的に、特定個人の受診行動の差異を捉え、疾病によってどのように診療期間が決定されるのかを観察することも可能になる。
このようにパネルデータ化の予備的分析については、診療実日数がインデックス・ファイルを作成する一要素であることが判明した。A県とB県ともに、診療実日数毎に決定点数、薬剤費一部負担金を集計するだけで、地域毎の医療費構造の同質性および差異を示唆する結果を導くことになった。このことは、地域内での医療費構造の比較、たとえば医療機関や保険者毎の比較を行う際にも診療実日数をインデックス・ファイルキーにすることが有用であることを示唆しよう。
結論
患者の受診行動の系統的な研究は、実証的な研究に必要なパネルデータがほとんど入手できなかったために、理論的にも政策的にも重要であるにも関わらず、これまで僅かな例外を除いては試みられなかった。今回の予備的な研究によって、まず先行研究の展望からは、これまでの多くの実証研究では、レセプトの集計量やマイクロデータが使用されてきたが、どちらも問題を免れないことが明らかとなった。患者の受診行動を十分に分析するには、パネルデータを適切に使用することが望ましいと考えられる。
次にやはり今回の予備的な集計データによる分析では、70歳以上の国民健康保険被保険者の受診構造や医療費構造がかなり特徴的であることが明らかになった。同時に、集計データを用いた分析の限界点・問題点も示された。よって集計データから得られた結果が本当に老人医療の特殊性を示すものであるかどうかは、1カ月分のレセプトではなく、より長期にわたるパネルデータによる分析で確認すべきであるといえる。
最後に、診療実日数がインデックス・ファイルを作成する一要素であることが判明した。A県とB県ともに、診療実日数毎に決定点数、薬剤費一部負担金を集計するだけで、地域毎の医療費構造の同質性および差異を示唆する結果を導くことになった。このことは、地域内での医療費構造の比較、たとえば医療機関や保険者毎の比較を行う際にも診療実日数をインデックス・ファイルキーにすることが有用であることを示唆しよう。
次にやはり今回の予備的な集計データによる分析では、70歳以上の国民健康保険被保険者の受診構造や医療費構造がかなり特徴的であることが明らかになった。同時に、集計データを用いた分析の限界点・問題点も示された。よって集計データから得られた結果が本当に老人医療の特殊性を示すものであるかどうかは、1カ月分のレセプトではなく、より長期にわたるパネルデータによる分析で確認すべきであるといえる。
最後に、診療実日数がインデックス・ファイルを作成する一要素であることが判明した。A県とB県ともに、診療実日数毎に決定点数、薬剤費一部負担金を集計するだけで、地域毎の医療費構造の同質性および差異を示唆する結果を導くことになった。このことは、地域内での医療費構造の比較、たとえば医療機関や保険者毎の比較を行う際にも診療実日数をインデックス・ファイルキーにすることが有用であることを示唆しよう。
公開日・更新日
公開日
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更新日
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