地域別人口性比と結婚・出生、人口移動との関連研究

文献情報

文献番号
199800002A
報告書区分
総括
研究課題名
地域別人口性比と結婚・出生、人口移動との関連研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
山口 喜一(東京家政学院大学)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学推進研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成10(1998)年度
研究費
1,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
人口性比は、出生性比、死亡性比、移動性比によって決まるが、地域別人口性比は移動性比の地域差の影響を最もうける。何故なら、人口の移動性は、男子の方が高く、また若年人口の方が高い。その結果、地域別にみると、人口性比に大きな差異が生じることになる。特に結婚適齢期人口の性比に差がみられる。このことは、地域の結婚、出生の動向に影響を及ぼすと考えられる。そこで本研究では、地域別人口性比と結婚及び人口移動との関係がどの程度あるかを明らかにする。
研究方法
都道府県別に市部・郡部別人口性比の動向を総人口及び移動性の高い若年齢人口について観察、次いで、人口移動が人口性比に与える影響、逆に、人口性比が人口移動及び結婚に与える影響について明らかにする。人口移動の指標としては、年齢別人口のコーホート変化率を、結婚の指標としては、普通婚姻率及び有配偶率を使用する。
結果と考察
総人口の性比を市部・郡部別に比較すると、市部人口の性比の方が高いが、都道府県別に比較すると、必ずしも、全都道府県で市部人口の性比の方が高いわけではなく、大都市を有する都府県と東京周辺県のみ、常に市部人口の性比の方が高い。これは人口の移動性の高い20~34歳若年齢の人口性比でも同様である。
また人口性比の都道府県間格差は、市部・郡部とも20~34歳人口性比の方が人口総数の性比よりも大きくなる。人口移動の中心がこの年齢層であり、しかも男子の移動性の方が高い結果が表れている。人口性比の都道府県間格差を市部・郡部別に、時系列で観察すると、市部人口性比の動向には大きな変化はなく、郡部人口性比のそれも近年は大きな変化はみられない。
若年齢層の人口性比を年齢5歳階級別に比較すると、14歳までは、出生性比がそのまま表れ、人口性比は100を超えているが、15~19歳になると、1960年で、市部・郡部とも、100を下回る県が現れる。人口移動の影響がでている。しかし、15~19歳人口性比が100を下回る県は、年々減少しており、また都道府県間格差は年々縮小している。これは高等学校への進学率が影響している。高等学校への進学率は、年々上昇し、しかも地元の高校への進学が中心となることから、進学率の上昇に伴って、県外への移動は少なくなる。また就職者の減少に伴って、県外就職者の割合も低下している。
20~24歳人口性比の都道府県間格差は、市部では全ての年次で、郡部では1960年を除いて、15~19歳よりも大きくなる。就学あるいは就職のための地方から都市圏への人口移動の結果であるが、1960年のみ、郡部の15~19歳人口性比の都道府県間格差が20~24歳のそれより大きいことは、1960年当時、農村から中学を卒業し、都市へ移動した若者が多かったことを表している。20~24歳人口性比の都道府県間格差を時系列で観察すると、市部・郡部とも年々縮小している。また市部の方が郡部よりも常に都道府県間格差は大きい。25~29歳人口性比の都道府県間格差は、市部・郡部とも、1960~90年までは、25~29歳人口性比の方が20~24歳人口性比よりも小さいが、1995年になると、市部では25~29歳の都道府県間格差の方が20~24歳よりも大きくなり、郡部では同じ水準となる。
次に、人口性比と人口移動との関係であるが、年齢別コーホート変化率を一つの人口移動の指標として、それと年齢別人口性比との相関をみると、まず年齢別人口移動が人口性比に影響を与えるかであるが、市部では、20~24歳人口性比と5年前15~19歳であった男子が20~24歳に移行する時の変化率とは、どの年次も高いプラスの有意な相関を示す。また20~24歳人口性比と5年前15~19歳であった女子が20~24歳に移行する時の変化率もどの年次も高いプラスの有意な相関を示す。すなわち、コーホート変化率が高い地域の人口性比は高いことになり、それが低い地域の人口性比は低いことになる。20歳代前半の人口移動が人口性比に大きく影響していることになる。
25~29歳人口性比と5年前20~24歳であった男子が25~29歳に移行する時の変化率とは、1965年は有意なプラスの相関が認められるが、1970~85年までは有意なマイナスの相関となり、1990年以降は相関が認められない。また25~29歳人口性比と5年前20~24歳であった女子が25~29歳に移行する時の変化率とは、1965、70年はプラスの有意な相関が認められるが、1980年はマイナスの有意な相関がみとめられ、その他の年次は相関が認められない。これは20~24歳人口性比の都道府県間格差が最も大きく、20~24歳人口性比と25~29歳人口性比の相関係数も極めて高いことから、20~24歳で生じた人口性比の差がそのまま25~29歳でも引き継がれている結果であると考えられる。このことから20歳代前半の人口移動が若年齢層の人口性比に大きな影響を与えていることになる。また、30~34歳人口性比も25~29歳人口性比とほぼ同様の結果である。
郡部では、20~24歳人口性比と5年前15~19歳であった男子が20~24歳に移行する時の変化率とは、高いプラスの有意な相関を示す。しかし、女子では1960年のみ、20~24歳人口性比と5年前15~19歳であった女子が20~24歳に移行する時の変化率と高いプラスの有意な相関を示す。男子は市部と同じであるが、女子は異なった結果となっている。25~29歳人口性比と30~34歳人口性比は、ともに市部とほぼ同じ結果である。
逆に、年齢別人口性比が年齢別人口移動に影響しているかであるが、市部では、15~19歳人口性比と15~19歳人口が5年後、20~24歳人口に移行する時の変化率とは、男女ともどの年次もプラスの有意な相関を示す。人口性比が高い地域ほどその後の変化率が大きいことになる。また20~24歳人口性比と男子20~24歳が5年後、25~29歳に移行する時の変化率とは、1960年はプラスの有意な相関を示し、1965年以降、マイナスの有意な相関を示す。20~24歳人口性比と女子20~24歳が5年後、25~29歳に移行する時の変化率とは、1960年から1970年までは、プラスの有意な相関を示し、その後、相関は認められなくなる。1960年では、人口性比の高い地域ほどその後の変化率が高くなっているが、最近は、人口性比の低い地域ほどその後の変化率が高いことになる。25~29歳人口性比と男子25~29歳が5年後、30~34歳に移行する時の変化率とは、1970~80年、1990年はマイナスの有意な相関を示す。25~29歳人口性比と女子25~29歳が5年後、30~34歳に移行する時の変化率とは、1960、65、85年ではプラスの相関であり、1975年はマイナスの相関、1970、80、90年では、相関が認められなくなるなど、結果が年次によって異なる。したがって、年齢別人口性比が年齢別人口移動に影響を与えると言えるのは15~19歳人口性比だけとなる。しかし、これも郡部では、年齢あるいは年次により、相関が認められたり、認められなかったり異なった結果となり、当てはまらない。
人口性比と結婚との関係であるが、人口性比と同じ年齢の男女別有配偶率との相関をみると、市部男子の場合、マイナスの有意な相関を示す。すなわち、市部人口性比が高いほど有配偶率が低いことになる。また郡部男子の場合、30~34歳人口性比とは常にマイナスの有意な相関を示し、最近では、20歳代がマイナスの有意な相関を示す。女子の場合、市部・郡部とも有意な相関を示す年次もあるが小さく、ほとんど相関は認められない。
結論
都道府県別人口性比の動向、そして、人口性比と人口移動及び結婚との関係をみた結果、農村から都市への人口移動を反映して、大都市を有する都府県の人口性比が高い。また人口性比の都道府県間格差を年齢別にみた場合、1990年までは、20~24歳が最大であり、1995年では25~29歳が最大となる。これは20歳代の人口移動が都道府県の人口性比の格差を生じさせるためである。しかし、人口性比の都道府県間格差は、市部・郡部あるいはどの年齢でも年々縮小している。
人口性比と男女別有配偶率との相関分析から、市部ではどの年齢も人口性比が高いほど男子の有配偶率低いことになり、若年齢層男子の結婚難とは言い切れないが、関係があることは確かである。また郡部では30~34歳において、人口性比が高いほど男子の有配偶率低いことになり、最近では、20歳代も人口性比が高いほど男子の有配偶率低いことになる。女子の場合、市部・郡部とも有配偶率とは関係は認められない。

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