諸外国における成長ホルモン分泌不全性低身長症等の診断と治療に関する研究

文献情報

文献番号
199701022A
報告書区分
総括
研究課題名
諸外国における成長ホルモン分泌不全性低身長症等の診断と治療に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
奥野 晃正(旭川医科大学小児科学)
研究分担者(所属機関)
研究区分
心身障害研究費補助金 分野名なし 事業名なし
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
0円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
成長ホルモン(GH)治療の適応疾患の診断・治療適応・公費負担等の判定基準については議論が多い。そこで本研究班は、GH治療について、適応疾患、診断基準、治療内容、および医療費等に関する諸外国の実態を調査して、わが国の成長ホルモン治療の現況と比較することを目的とした。
研究方法
本報告書では、GH治療の適応疾患とその診断基準、治療内容および医療費の実態等に関する諸外国の事情を小児内分泌領域の専門家へのアンケート調査、および文献調査(論文、報告書、勧告等)により明らかにする。
結果と考察
GH治療が最終身長の増加に有効であることが確認されている疾患として、GHD低身長症、Turner症候群、慢性腎不全があげられている。軟骨異栄養症では、GHは成長速度を増加するが、最終身長まで長期観察した報告がない。その他の疾患群にもGH療法が試みられているが、最終的な結論は得られていない。
GHD低身長症の診断にはGH分泌低下と低身長の双方を考慮することが求められるため、診断基準は国によって多少の違いがある。
オーストラリアでは身長3ハ゜ーセンタイル未満を治療の対象としていたが、1994年から次のように基準を変更した。低身長の程度を1ハ゜ーセンタイル未満とし、さらに成長率が低いこと、および骨年齢が男子では15.5歳未満、女子では13.5歳未満であることを付帯条件としている。2種のGH分泌能の検査で血漿GHの頂値が10 mu/l未満で、低身長の程度が1~10ハ゜ーセンタイルの患児については、諮問委員会の判定により適応とすることがある。
治療終了または中止の基準は、? 適切な量のGHを6カ月使用しても患者の成長率が骨年齢相当の50パーセンタイルに達しなかったとき、? 骨年齢が男子では15.5歳、女子では13.5歳に達したとき、?身長が成人身長の10パーセンタイル(男子169cm、女子156cm)に達したときである。GH治療の対象と判定された場合の治療費は原則として全額国費補助の対象である。
アメリカ小児内分泌学会の勧告では、GHD典型例はGH治療の適応であるとし、GHD疑い例にはGH療法を試みて良いが、明らかな効果があった時にのみ治療を継続するとしている。しかし、具体的な基準は提示されていない。GH治療を医療保険の給付対象とするか否かは個々保険会社の判定に任されている。
ドイツで治療対象となるのは、?すでに低身長を認め、?成長速度が年齢別・骨年齢別標準値の25ハ゜ーセンタイル未満であり、?予想される最終身長が、遺伝的な目標身長を著しく下回り、?2つの刺激試験でGHの頂値が10ng/ml以上に増加しない小児である。上記の条件が満たされれば、GHを処方できる。治療終了の基準は、適切な治療を行っても成長速度が年間2cm以下に低下した場合である。
その他にフランス、台湾では低身長の程度を-2SDとしている、イスラエルでは身長そのものではなく、成長速度を判定の条件にしている。
生化学的な検査によるGH分泌不全の診断は二つ以上のGH分泌刺激試験で低値を示すとしている点でほぼ一致しているが、具体的なGHの頂値は8~10 ng/mlとしている国が多い。アメリカ、イギリスでは具体的な数値を示していない。
Turner症候群に対するGH療法は染色体分析によって診断の確定したものとする。GH分泌能は考慮に入れていない。但し、オーストラリアでは身長がTurner症候群の成長曲線上95パーセンタイル以下であり、キャッチアップが認められない場合に限定している。
慢性腎不全による低身長を治療する場合効果を得るためには、患児が良好な代謝状態にあり、栄養摂取量も適切であることが必要条件である。
腎移植前の慢性腎不全の小児で成長障害を呈していることが基本条件である。アメリカ、ドイツではこれ以上に特別の規定はない。オーストラリアは身長25ハ゜ーセンタイル以下、成長率も骨年齢相当の25ハ゜ーセンタイル以下と規定し、腎不全をGFR 30 ml/min/1.73m2未満と定義している。
上記以外の疾患では諸外国の足並みはそろっていない。オーストラリアでは身体計測値で適応を決めているので、軟骨異栄養症、子宮内発育遅滞も適応疾患に含まれるが、除外規定として悪性疾患のリスクがあるもの、および染色体異常を指定している。ドイツでは成人GHDを治療対象として明記しているが、1995年の公式文書に軟骨異栄養症は含まれていない。
GH投与量は諸外国でほぼ同等である。すなわち、GHD低身長症については0.5~0.7 U/kg/週と幅を持たせている国が多い(オーストラリア、カナダ、イギリス、)。ドイツでは0.5 U/kg/週で開始し、効果不十分の例には増量するとしている。アメリカでは0.5~1.0 U/kg/週で使用する研究者が多い。Turner症候群でも同様であるが、ドイツ、カナダ、イギリス、フランスでは1.0 U/kg/週までの使用を認めている。慢性腎不全についてはオーストラリア、ドイツ、カナダ、イギリスで1.0 U/kg/週までの使用を認めている。
治療担当医については医師であればGH療法を行って差し支えないとされている。しかし、小児内分泌専門医自身、あるいはその指示を受けて一般医が治療を行う。
GH 1単位当たりの価格は国により大きな違いがある。日本円換算でみると、オーストラリアは1,622円で最も安く、ドイツは3,345円で最も高い。わが国では4,657円とドイツよりもさらに高値である。
適応と判定されたものに対する医療保険または医療給付についてオーストラリアではGH製剤にかかる費用は全額政府が、ドイツでは健康保険組合が負担し、アメリカでは医療保険会社が判断している。
GHD低身長症の診断と適応判定について、わが国では厚生省研究班による診断の手引きが標準的診断基準である。これは諸外国と比べてとくに異なるものではない。Turner症候群の診断については問題にするべき点はない。ただしGH分泌不全を付帯条件とはしていないことが日本とは異なる点である。また軟骨異栄養症および慢性腎不全については諸外国と比べてとくに問題となる点はない。
オーストラリアのWerther GAはGH治療を受けている患者数について国際比較を行っている。すなわち、20歳未満人口千人当たり患者数は、スウェーデン1.000、日本0.710、アメリカ0.617、フランス0.616、オーストラリア0.424、以下イギリス、ニュージーランド、カナダの順に少なくなっている。わが国の頻度はスウェーデンに次いで多いものである。
日本国内の頻度を都道府県で比較すると、20歳未満人口千人当たり患者数は、最も少ない県で0.23、最も多い県で1.55と約7倍の違いがある。GH治療の適応判定が一定していないことが原因と思われる。
結論
GH分泌不全性低身長症の診断については大筋で一致しているが、低身長の程度の設定、GH分泌不全の定義には多少の差異がある。GH分泌不全を2種以上の検査を行うことについては一致しているが、頂値を10 ng/mlとすることの正当性を示すものはない。
診断基準は身体計測値とGH分泌能の両面から再検討されてしかるべきである。
GH治療に要する医療費が高額になることは、諸外国で共通の問題である。オーストラリアではこの問題に積極的に取り組み、1994年に治療の適用基準を詳細に定め効果をあげている。軟骨異栄養症および慢性腎不全では世界的にも長期間にわたる資料の収集と解析を行うことが望まれる。
GH製剤が高価であることは各国共通の問題ではあるが、国際間で薬価に大きな開きがある。わが国の薬価は飛び抜けて高額である。薬価を下げる努力が望まれる。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-

研究報告書(紙媒体)