臍帯血等のダイオキシン類濃度に関する研究

文献情報

文献番号
199701020A
報告書区分
総括
研究課題名
臍帯血等のダイオキシン類濃度に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
森田 昌敏(国立環境研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 多田裕(東邦大学医学部)
  • 飯田隆雄(福岡県保健環境研究所)
  • 中村好一(自治医科大学医学部)
研究区分
心身障害研究費補助金 分野名なし 事業名なし
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
0円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
近年、ダイオキシン類の人体に及ぼす影響について社会的関心が高まっており、中でも、選考する研究で明らかになっていることから、ダイオキシン類が乳児に与える影響が心配されている。
母乳中のダイオキシン類による乳児への影響の検討と並んで、胎盤を通して母体から胎児へのダイオキシン類の移行について考察を加えるため、同一妊産婦由来の臍帯血、母乳を採取し、各々におけるダイオキシン類の測定を行い、両者の相関等について検討する。また、臍帯血と併せて胎盤中のダイオキシン類を測定、比較することにより、胎盤が、母体・胎児関門としてダイオキシン類の移行の際にどの程度の役割を果たしているかの検討を行う。その他、脂肪含有量が微量であるため測定検体として比較的多量を溶し、かつ採取の困難な臍帯血に代わり、胎盤が、胎児におけるダイオキシン類移行の程度を推定する指標になりうるかの検討も併せて行う。
このように、今後、母子それぞれのダイオキシン類の含有状況を推定する上で、同一症例で臍帯血、胎盤、および母乳中のダイオキシン類濃度を測定することの意義は極めて大きいと考えられる。
研究方法
1.新生児・乳児の健康状況の調査に必要なリストを作成し、それに基づいて対象児の調査を行う。(胎児週数、出生児体重、体重増加の状況等)
2.母親の健康状況、生育のバックグラウンドを把握するために必要なチェックリストを作成し、それに基づいて対象者の調査を行う。
3.計20名の妊産婦を対象として選定し、それぞれの対象者から臍帯血、胎盤及び生後5~6日後の母乳を採取、ガスクロマトグラフ・二重収束型質量分析計を用いてダイオキシン類の含有量を測定する。
4.臍帯血、胎盤および母乳中に含まれるダイオキシン類の濃度の間の相関等について考察する。
結果と考察
全PCDD濃度は、それぞれ平均1.72(±0.61)pg/胎盤1gあたり、6.8(±3.4)pg/母乳1gあたり、0.23(±0.35)pg/臍帯血1gあたり、全PCDF濃度は、それぞれ平均0.53(±0.17)pg/胎盤1gあたり、0.87(±0.36)pg/母乳1gあたり、0.016(±0.013)pg/臍帯血1gあたりであった。それぞれの試料の脂肪割合は、胎盤が1.2(±0.12)%、母乳が2.5(±1.0)%であった。
今回測定した試料は、妊産婦からしか得ることのできない、特殊なものといえる。母乳の分析の結果を過去の報告例と比較することが可能である。PCDDとPCDFを合計した母乳中TEQは平均19(±5.9)pg/脂肪1gあたりで、この値はOgakiら(1987)の9.0~19pg/脂肪1gあたり、飯田ら(1998)の報告値25.0(±8.7、n=125)pg/脂肪1gあたり、あるいは厚生省による平成7、8年度の心身障害研究報告(1996、1997)にある16.5(±13.7、n=26)pg/脂肪1gあたり、20.9(±7.0、n=22)pg/脂肪1gあたりとほぼ同じレベルであるといえる。
一方、臍帯血については分析方法が異なるため、一概に今回の結果を他のデータと比較することはできない。特に、一般人の全血の分析例はほとんど見あたらず、したがって、松枝ら(1998)による一般人の血液の分析報告は貴重であるといえる。彼らの報告によると、18~81歳の男女52人の血液中のTEQレベルは、PCDDとPCDFでそれぞれ平均0.037、0.033pgTEQ/血液1gあたりであった。今回の臍帯血のTEQレベルは、PCDDとPCDFがそれぞれ0.0031、0.0072pgTEQ/血液1gあたりであり、松枝らの分析値より、およそ一桁低く値を示した。臍帯血中のダイオキシン類は、検出下限付近でしか検出できなかったために、実値よりも過少見積りしていること。また、分析の精度が余り良くないことが可能性として考えられる。しかしながら、そのことを考慮したとしても、臍帯血中のダイオキシン濃度は、日本人成人について予想される濃度よりかなり低い。母体血が分析されていないため厳密な比較が困難であるが、臍帯血中のダイオキシン濃度は母体血よりも低いこと、そしてそれは胎盤透過性と関連していることが推測される。
ダイオキシン類は生物体中では、脂肪中に多く分布していると考えられており、今回の測定値からも、それらの濃度は、試料中の脂肪濃度の高い試料で高いことがわかる。Pattersonら(1988)が、人体の脂肪組織(腹腔内脂肪)と血液中のダイオキシン類レベルの間には、極めて良好な相関があることを報告しているように、一般的には体脂肪と血液脂質中のダイオキシン類濃度は、比例関係にある。しかしながら、それぞれの試料中のダイオキシン類濃度を脂肪重あたりで表わしても、必ずしも同じ値にはならない。(胎盤38.8pgTEQ/脂肪1gあたり、母乳19.0pgTEQ/脂肪1gあたり)この理由についてはいくつか考えられる。この原因のひとつとして、今回の分析では試料ごとに異なる抽出法によって得られた抽出物量を脂肪量とみなしているため、分母となる脂肪の定義が胎盤と母乳で異なることが考えられる。もう一つは、母乳の採取日は、胎盤や臍帯血を採取した日と異なることが考えられる。しかし、これらを無視するならば、分析結果は、妊産婦の体中においてダイオキシン類は、単純に脂肪含量に依存した分布をしていないことを示していることになる。
今回測定した胎盤、母乳および臍帯血中相互のダイオキシン類濃度の関係をまとめると、次のようになる。臍帯血については脂肪含量を測定していないため、試料1gあたりの濃度をもとにTEQ値を比較した。図から、母乳と胎盤、胎盤と臍帯血中のTEQ値間には、それぞれ相関係数(r)が0.711、0.783と、比較的よい相関が認められた。
しかしながら、母乳と臍帯血中TEQ値の間の相関係数は0.429と、他と比較して弱い相関であった。このようなことから、出産時に棄てられる胎盤試料を分析して、母体中のダイオキシン負荷量を推定することは適当と考えられる。また今後は臍帯の分析も意味があるかもしれない。
結論
以上のような結果からまとめると以下のような推論が得られる。
?胎盤組織、母乳、臍帯血の間には相関が認められる。
?胎盤組織は母親の体内ダイオキシンを推定する試料として適当である。試料採取が容易であり、また多量に分析に供することが出来るので分析の比較的容易な試料である。
?臍帯血中のダイオキシン濃度は低く、分析は容易ではない。
?得られたデータから推論するならば、ダイオキシンはかなり胎盤でトラップされており、臍帯血を通しての胎児への移行は限定的であろう。

公開日・更新日

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