文献情報
文献番号
199701019A
報告書区分
総括
研究課題名
我が国の小児保健医療体制の在り方に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
松尾 宣武(慶應義塾大学医学部小児科)
研究分担者(所属機関)
- 松尾宣武(慶應義塾大学医学部小児科)
- 西田勝(大阪府立母子保健総合医療センター)
- 湯沢布矢子(宮城大学看護学部)
研究区分
心身障害研究費補助金 分野名なし 事業名なし
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成10(1998)年度
研究費
0円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
少産少子化の急速な進展はようやく社会各層の関心を集めることとなった。しかし、わが国の小児医療の危機的状況は一般社会は勿論、医療行政レベルにおいても十分認識されていない。特に病院小児科は困難な状況に置かれている。1日24時間勤務を必要とする労働集約的、不採算医療が病院に集中し、救急医療、新生児・未熟児医療、精神保健医療、高度先進医療、難病医療を少数の勤務医が一人数役でこなしている。本研究の目的は現在及び近未来の小児科医及び小児保健・医療従事者のworkforce、経済と医療のtrade-offを考慮に入れた小児医療体制の在り方を検討することである。
研究方法
松尾班、西田班の調査研究は、日本小児科学会理事会の活動と連動して両班の密接な協力の下に行われ、湯沢班の調査研究は別個に独立した形で行われた。
小児医療供給体制に関する研究
日本小児科学会事務局に1987年度468名、1990年度435名、合計903名の小児科研修開始届けが提出された。この903名を対象に、1997年10月、氏名、性別、生年月日、既・未婚、卒業大学名、卒業年度、国試合格年度、研修施設名、日本小児科学会認定資格の有無、現在の勤務状況、連絡先を調査した。これら903名中、研修開始年度と研修開始届年度が不一致である医師が多数認められた。1987年度463名、1990年度379名、計842名がそれぞれの該当年に小児科医を志した医師と認定された。回収率は98.8%であった。
また、小児精神保健・心身医学に係わる医療体制に関する調査研究、わが国の小児科医のworkforceを諸外国と比較する調査研究を行った。
小児救急医療体制の在り方に関する研究
小児科休日夜間診療体制の現状を定量的に評価するために、鳥取・香川・大阪・和歌山・神奈川・東京・青森の7都道府県の医療機関および市町村に調査用紙を配布した。小児科標榜ありの745病院、小児科標榜なしの997病院の回答率は96.6%、68.6%であった。また、343市町村の、回答率は96.8%であった。更に、大阪府北摂地域及び泉州地域の小児科休日・夜間診療担当医療機関について、1997年10月、1カ月間の受診者数、住所、年齢、重症度をアンケート調査した。対象医療機関の内訳は、北摂地域3病院、4診療所、泉州地域6病院、6診療所である。
地域母子関連スタッフに関する研究
地域母子保健における保健婦、助産婦、栄養士の役割を取り上げ、現状分析と今後の方向性を検討した。保健婦の役割に関する調査は、1997年8月~9月、706保健所母子保健担当一般保健婦1412名、706保健所の母子保健担当の保健婦長(相当職)706名、都道府県指定都市、中核市、特別区の母子保健担当者108名を対象に行った。助産婦の役割に関する調査は助産婦(調査1)及び保健婦(調査2)を対象とした。それぞれの内訳は、14保健所、23市町保健センター、7政令市の助産婦88名(調査1)、2都道府県及び94市町村の保健婦376名(調査2)で、回収率はそれぞれ54.5%、64.9%であった。調査期間は1997年10月~11月である。栄養士の役割に関する調査は47都道府県栄養士47名、131市町村栄養士131名、市町村栄養士未配置の65市町村母子保健担当者65名を対象に行った。回収率はそれぞれ、100%、82.4%、69.2%である。
小児医療供給体制に関する研究
日本小児科学会事務局に1987年度468名、1990年度435名、合計903名の小児科研修開始届けが提出された。この903名を対象に、1997年10月、氏名、性別、生年月日、既・未婚、卒業大学名、卒業年度、国試合格年度、研修施設名、日本小児科学会認定資格の有無、現在の勤務状況、連絡先を調査した。これら903名中、研修開始年度と研修開始届年度が不一致である医師が多数認められた。1987年度463名、1990年度379名、計842名がそれぞれの該当年に小児科医を志した医師と認定された。回収率は98.8%であった。
また、小児精神保健・心身医学に係わる医療体制に関する調査研究、わが国の小児科医のworkforceを諸外国と比較する調査研究を行った。
小児救急医療体制の在り方に関する研究
小児科休日夜間診療体制の現状を定量的に評価するために、鳥取・香川・大阪・和歌山・神奈川・東京・青森の7都道府県の医療機関および市町村に調査用紙を配布した。小児科標榜ありの745病院、小児科標榜なしの997病院の回答率は96.6%、68.6%であった。また、343市町村の、回答率は96.8%であった。更に、大阪府北摂地域及び泉州地域の小児科休日・夜間診療担当医療機関について、1997年10月、1カ月間の受診者数、住所、年齢、重症度をアンケート調査した。対象医療機関の内訳は、北摂地域3病院、4診療所、泉州地域6病院、6診療所である。
地域母子関連スタッフに関する研究
地域母子保健における保健婦、助産婦、栄養士の役割を取り上げ、現状分析と今後の方向性を検討した。保健婦の役割に関する調査は、1997年8月~9月、706保健所母子保健担当一般保健婦1412名、706保健所の母子保健担当の保健婦長(相当職)706名、都道府県指定都市、中核市、特別区の母子保健担当者108名を対象に行った。助産婦の役割に関する調査は助産婦(調査1)及び保健婦(調査2)を対象とした。それぞれの内訳は、14保健所、23市町保健センター、7政令市の助産婦88名(調査1)、2都道府県及び94市町村の保健婦376名(調査2)で、回収率はそれぞれ54.5%、64.9%であった。調査期間は1997年10月~11月である。栄養士の役割に関する調査は47都道府県栄養士47名、131市町村栄養士131名、市町村栄養士未配置の65市町村母子保健担当者65名を対象に行った。回収率はそれぞれ、100%、82.4%、69.2%である。
結果と考察
小児医療供給体制に関する研究
1) 小児科医のworkforce
新たに小児科医を志した医師は1987年463名(男304、女159)、1990年379名(男255、女124)であった。新たに医師免許証が与えられた全医師中、小児科医の占める割合は、1987年5.4%、1990年4.8%、通算5.1%である。また、男女比はおおむね2:1であった。研修開始時、これらの医師の平均年齢は、男26.4歳、女25.6歳で、両者の間には統計的に有意差が存在した。1997年10月現在、これらの医師の婚姻率は両年通算男女合計77.4%、男性82.1%、女性68.2%で、両者の間には統計的に有意差が存在した。研修先は大学付属病院が約90%で、男女間に有意差は認められなかった。
2) 小児科医の勤務形態
1997年10月現在、842名の医師の勤務状況の内訳は、病院勤務医65-70%、小児科休・廃業、転科15-20%、研究職10%、開業医5%で、大部分の小児科医は病院勤務医である。現在主として小児夜間・休日診療、新生児・未熟児医療に対応している医師の集団(cohort)は、これら842名の65%、即ち270-280名/年と概算される。今回の調査で明らかされた重要な事実は、小児科医を志した医師842名中、76名(9.0%)が小児科を断念し他科へ転科すること、49名(5.8%)が休・退職に追い込まれることである。勤務形態には明らかな男女差が認められた。休退職する医師の全員は女性である。女性医師283名中、49名、17.3%が休退職し、49名中48名、98%が既婚者で、1名のみが未婚者であった。他科への転科は女性医師に有意に多く、12.4%に達した。
3) 精神保健・心身医学医療を担う小児科医のworkforce
71医科大学中、小児の精神保健・心身医学の専門外来を設けている大学は38大学(53.5%)、設けていない大学は33大学(46.5%)で、専門外来を設けている38大学において専門医の総数は64名であった。また、この38大学中、23大学(60.5%)において専門医数は1名であり、19大学(50%)において、入院治療に対応できない状況であった。北海道地区66小児医療施設(大学病院3、国立病院5、公立病院24、公的病院21、その他13)中、専門医師が勤務している施設は10施設(15%)であった。
小児救急医療体制の在り方に関する研究
1) 小児科標榜病院
7都道府県1742医療機関中、小児科標榜あり745病院(42.8%)、小児科標榜なし997病院(57.2%)で745病院中521病院(70%)から回答が得られ、一次救急実施(一次のみ実施、一次及び二次実施を含む)302病院(57.8%)、二次救急のみ実施65病院(12.6%)、救急実施せず154病院(29.5%)であった。即ち小児科標榜病院の約70%が地域における小児夜間・休日診療に参加し、小児科常勤医1人及び2人の小児科標榜病院中、それぞれ62.2%、78.8%の病院が小児救急医療を実施していた。
2) 小児科一次救急医療
大阪府北摂地域、泉州地域において1カ月間の総受診者数は小児人口1000人あたり、それぞれ15人、14.8人で、それぞれの地域における受診者総数は1日あたり70~100人であった。
3) 小児科二次救急医療
大阪府泉州地域においては、入院治療を必要とした患者数は1カ月あたり61人、小児人口1000人あたり0.4人であった。これは救急外来受診者の2.8%にあたる。
以上、病院小児科医の絶対数の不足は明らかであった。小児科救急医療における病院小児科勤務医の役割を再評価することが緊急の課題である。
地域母子関連スタッフに関する研究
1)小児保健医療における保健婦の役割
857名の保健婦中、小児科領域の臨床経験を有する保健婦は30名(3.5%)であった。また、過去5年間に担当した小児に対する業務内容は、家族訪問98.9%、来所相談66.9%、医療機関紹介66.9%、受診同行24.1%、福祉施設紹介47.8%、その他30.4%であった。
2)地域母子保健に関わる助産婦の役割
48名の助産婦が現在従事している活動は、保健所において、小児肥満教室71.4%、乳幼児健診64.3%、未熟児訪問指導57.1%、思春期相談42.9%、家族計画指導42.9%で、政令市において、新生児訪問指導89.5%、思春期相談78.9%、家族計画指導78.9%、乳幼児健診73.7%、母親・父親学級73.7%、市町村において母親学級86.7%、妊婦訪問指導80.0%、家族計画指導80.0%、授乳指導73.7%、新生児訪問指導66.7%であった。地域母子保健における助産婦の役割はなお確立していない。
3)地域母子保健における栄養士の役割
47都道府県の市町村栄養士の配置率は、平成8年33.6%であったが、地域保健法施行後の平成9年11月現在、市町村栄養士の配置率は40.5%、非常勤栄養士を含め51.2%であった。即ち、約半数の市町村で栄養士以外の職員によって母子栄養改善業務が実施されていた。市町村における栄養改善計画は、栄養士配置市町村の76.5%で作成されているが、栄養士未配置市町村の22.2%で作成されているに過ぎなかった。
1) 小児科医のworkforce
新たに小児科医を志した医師は1987年463名(男304、女159)、1990年379名(男255、女124)であった。新たに医師免許証が与えられた全医師中、小児科医の占める割合は、1987年5.4%、1990年4.8%、通算5.1%である。また、男女比はおおむね2:1であった。研修開始時、これらの医師の平均年齢は、男26.4歳、女25.6歳で、両者の間には統計的に有意差が存在した。1997年10月現在、これらの医師の婚姻率は両年通算男女合計77.4%、男性82.1%、女性68.2%で、両者の間には統計的に有意差が存在した。研修先は大学付属病院が約90%で、男女間に有意差は認められなかった。
2) 小児科医の勤務形態
1997年10月現在、842名の医師の勤務状況の内訳は、病院勤務医65-70%、小児科休・廃業、転科15-20%、研究職10%、開業医5%で、大部分の小児科医は病院勤務医である。現在主として小児夜間・休日診療、新生児・未熟児医療に対応している医師の集団(cohort)は、これら842名の65%、即ち270-280名/年と概算される。今回の調査で明らかされた重要な事実は、小児科医を志した医師842名中、76名(9.0%)が小児科を断念し他科へ転科すること、49名(5.8%)が休・退職に追い込まれることである。勤務形態には明らかな男女差が認められた。休退職する医師の全員は女性である。女性医師283名中、49名、17.3%が休退職し、49名中48名、98%が既婚者で、1名のみが未婚者であった。他科への転科は女性医師に有意に多く、12.4%に達した。
3) 精神保健・心身医学医療を担う小児科医のworkforce
71医科大学中、小児の精神保健・心身医学の専門外来を設けている大学は38大学(53.5%)、設けていない大学は33大学(46.5%)で、専門外来を設けている38大学において専門医の総数は64名であった。また、この38大学中、23大学(60.5%)において専門医数は1名であり、19大学(50%)において、入院治療に対応できない状況であった。北海道地区66小児医療施設(大学病院3、国立病院5、公立病院24、公的病院21、その他13)中、専門医師が勤務している施設は10施設(15%)であった。
小児救急医療体制の在り方に関する研究
1) 小児科標榜病院
7都道府県1742医療機関中、小児科標榜あり745病院(42.8%)、小児科標榜なし997病院(57.2%)で745病院中521病院(70%)から回答が得られ、一次救急実施(一次のみ実施、一次及び二次実施を含む)302病院(57.8%)、二次救急のみ実施65病院(12.6%)、救急実施せず154病院(29.5%)であった。即ち小児科標榜病院の約70%が地域における小児夜間・休日診療に参加し、小児科常勤医1人及び2人の小児科標榜病院中、それぞれ62.2%、78.8%の病院が小児救急医療を実施していた。
2) 小児科一次救急医療
大阪府北摂地域、泉州地域において1カ月間の総受診者数は小児人口1000人あたり、それぞれ15人、14.8人で、それぞれの地域における受診者総数は1日あたり70~100人であった。
3) 小児科二次救急医療
大阪府泉州地域においては、入院治療を必要とした患者数は1カ月あたり61人、小児人口1000人あたり0.4人であった。これは救急外来受診者の2.8%にあたる。
以上、病院小児科医の絶対数の不足は明らかであった。小児科救急医療における病院小児科勤務医の役割を再評価することが緊急の課題である。
地域母子関連スタッフに関する研究
1)小児保健医療における保健婦の役割
857名の保健婦中、小児科領域の臨床経験を有する保健婦は30名(3.5%)であった。また、過去5年間に担当した小児に対する業務内容は、家族訪問98.9%、来所相談66.9%、医療機関紹介66.9%、受診同行24.1%、福祉施設紹介47.8%、その他30.4%であった。
2)地域母子保健に関わる助産婦の役割
48名の助産婦が現在従事している活動は、保健所において、小児肥満教室71.4%、乳幼児健診64.3%、未熟児訪問指導57.1%、思春期相談42.9%、家族計画指導42.9%で、政令市において、新生児訪問指導89.5%、思春期相談78.9%、家族計画指導78.9%、乳幼児健診73.7%、母親・父親学級73.7%、市町村において母親学級86.7%、妊婦訪問指導80.0%、家族計画指導80.0%、授乳指導73.7%、新生児訪問指導66.7%であった。地域母子保健における助産婦の役割はなお確立していない。
3)地域母子保健における栄養士の役割
47都道府県の市町村栄養士の配置率は、平成8年33.6%であったが、地域保健法施行後の平成9年11月現在、市町村栄養士の配置率は40.5%、非常勤栄養士を含め51.2%であった。即ち、約半数の市町村で栄養士以外の職員によって母子栄養改善業務が実施されていた。市町村における栄養改善計画は、栄養士配置市町村の76.5%で作成されているが、栄養士未配置市町村の22.2%で作成されているに過ぎなかった。
結論
1) わが国の小児科医のworkforceの不足は様々の指標から見て明白である。特に病院小児科医のworkforceの不足は深刻であり、病院小児科の活性化はわが国の少子対策の重要な柱の一つとして位置付けられるべきである。
2) 病院小児科医のworkforceは、精神保健・心身医学、新生児・未熟児医療、救急医療において決定的に不足している。これら領域、とくに小児精神保健・心身医学の強化が病院小児科活性化の要である。
2) 病院小児科医のworkforceは、精神保健・心身医学、新生児・未熟児医療、救急医療において決定的に不足している。これら領域、とくに小児精神保健・心身医学の強化が病院小児科活性化の要である。
公開日・更新日
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-
更新日
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