家族性良性慢性天疱瘡(Hailey-Hailey病)の診断基準作成とATP2C1遺伝子解析に関する研究

文献情報

文献番号
201128286A
報告書区分
総括
研究課題名
家族性良性慢性天疱瘡(Hailey-Hailey病)の診断基準作成とATP2C1遺伝子解析に関する研究
課題番号
H23-難治・一般-108
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
橋本 隆(久留米大学 医学部・皮膚科学教室)
研究分担者(所属機関)
  • 鶴田 大輔(久留米大学 医学部・皮膚科学教室)
  • 辛島 正志(久留米大学 医学部・皮膚科学教室)
  • 濱田 尚宏(久留米大学 医学部・皮膚科学教室)
  • 石井 文人(久留米大学 医学部・皮膚科学教室)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患克服研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究費
11,304,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
家族性良性慢性天疱瘡(Hailey-Hailey病、以下HHD)は常染色体優性遺伝性角化症である。間擦部に疼痛を伴うびらん・水疱を認め、患者の日常生活は著しく障害される。病因はATP2C1遺伝子によりコードされるSPCA1と呼ばれるゴルジ装置のカルシウムポンプであることが明らかにされている。本研究ではHHDの症例について、それらの診療情報を詳細に検討すると共にATP2C1遺伝子検索を行い、得られた結果に基づいて診断基準作成と遺伝子変異の種類・部位と臨床的重症度との相関について明らかにすることを目的とした。
研究方法
32名のHHD患者について検討した。[診療情報] 家族歴・発症時期・皮膚病変の重症度などについて調べた。[ATP2C1遺伝子検査] 患者検体から抽出したゲノムDNAを用いて、PCR法・DGGE法・ダイレクトシークエンス法により遺伝子変異を検出した。さらに、患者皮膚から抽出したRNAやタンパク質の発現様式について検討した。[遺伝子異常の部位・種類と臨床的重症度との相関] 実験結果と臨床症状とを併せて検討することで遺伝子異常の部位・種類と臨床的重症度との相関について検討した。結果をとりまとめて診断基準(案)を作成した。
結果と考察
ほとんどの症例が青年期以降に発症し、間擦部に限局して小水疱とびらんを繰り返す臨床像であった。全身皮膚に多発する重症例と頚部にのみ皮疹がみられる軽症例が各1例ずつ認められた。ATP2C1遺伝子検査では、全ての症例において変異を検出し19個が新規のものであったが、変異には多様性があり、過去の報告と同様に遺伝子変異の部位・種類と臨床的重症度との相関は明らかにできなかった。患者皮膚におけるATP2C1遺伝子は発現低下が認められた。HHDの診断基準(案)を作成したが、今後さらに検討を行う必要がある。
結論
HHDは稀少疾患であるため、疫学や症状、治療などについて十分な検討がなされてこなかった。頑固な皮膚症状により日常生活は著しく障害されるが、本症の社会的認知度は低く、サポート体制も十分ではない。本研究ではHHD 32症例について、診療情報を検討するとともにATP2C1遺伝子検査を行った。結果をもとに診断基準(案)を作成した。正しい診断により、適切な治療が選択され、症状が速やかに改善すれば、本症にかかる医療費は軽減することが期待される。また、診断基準の公開で民間にも関心が高まり、支援や環境整備が進む可能性がある。

公開日・更新日

公開日
2013-03-27
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201128286C

成果

専門的・学術的観点からの成果
研究代表者らは、HHD患者のATP2C1遺伝子解析の結果を2008年に報告して(Hamada T et al. J Dermatol Sci 2008)以来、国内外の学会において追加発表を行ってきた(Hamada T et al. JSID 2011、松田光弘、濱田尚宏ら:第19回分子皮膚科フォーラム 2012、松田光弘、濱田尚宏ら:第111回日本皮膚科学会総会 2012など)。本研究では、HHD32症例を解析し、29個(新規を19個含む)の遺伝子変異を検出した。昨年度指定難病に選定された。
臨床的観点からの成果
HHDは慢性に経過する予後良好な遺伝性皮膚疾患のため、確定診断がなされず、繰り返す湿疹病変や皮膚表在性真菌症などとして一般医が経過観察している症例も多いと推測される。ATP2C1遺伝子検査とその結果は個々の患者に正確な診断をもたらし、稀な遺伝性皮膚疾患の症状・経過に対する適切な説明や遺伝カウンセリングをする「インフォームドコンセント」の理念に沿った医療提供を行うことを可能にできると考えられる。
ガイドライン等の開発
診断基準(案)を作成した。青壮年期に出現する間擦部の水疱・びらんを特徴的症状とするため、臨床的診断項目は容易に抽出できた。ATP2C1遺伝子検査は、確定診断のための重要な項目として組み入れた。しかし、皮膚におけるATP2C1遺伝子発現とSPCA1タンパク質の発現を調べるreal-time PCR法や免疫組織化学染色の有用性は未だ明確ではなく、これらを補助診断項目として診断基準に追加を考慮することは、収集症例が少ないことや全ての施設で簡便に施行できる検査ではないことから、今後検討を行う必要がある。
その他行政的観点からの成果
本研究成果をもとにして、個々の症例において適切な治療が選択され症状が速やかに改善すれば、本症にかかる医療費は軽減することが期待される。また、本研究を基盤として、病態生理の解明や新規治療法の開発が進めば、患者の健康・医療・福祉向上にも寄与することができ、行政および社会への貢献度は高いと思われる。これらを広く公開することで民間にも関心が高まり、重篤な皮膚症状に対する支援や環境整備が進む可能性がある。
その他のインパクト
研究代表者らの施設は、HHDばかりでなく魚鱗癬や表皮水疱症などの遺伝性皮膚疾患の診療と研究を精力的に行っている。
難病皮膚患者会主催のセミナー(第1回表皮水疱症アジア交流大会2012年7月21日・22日(九州支部会長の参加)、
魚鱗癬の会交流会2012年6月16日・17日)など、稀少疾患の現状について啓発活動を行っている。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
3件
その他論文(和文)
15件
その他論文(英文等)
59件
学会発表(国内学会)
71件
学会発表(国際学会等)
23件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2014-05-21
更新日
2016-05-26

収支報告書

文献番号
201128286Z