遺伝相談に関する研究

文献情報

文献番号
199701017A
報告書区分
総括
研究課題名
遺伝相談に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
青木 菊麿(女子栄養大学)
研究分担者(所属機関)
  • 藤田潤(京都大学)
  • 吉岡章(奈良医科大学)
  • 富和清隆(大阪市立総合医療センター)
  • 月野隆一(有田市立病院)
  • 小野正恵(東京逓信病院)
  • 朝本明弘(石川県立中央病院)
  • 田島貞子(群馬県保険福祉部)
  • 古山順一(兵庫医科大学)
研究区分
心身障害研究費補助金 分野名なし 事業名なし
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
0円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
分子生物学・技術の発展により、遺伝子の解析は遺伝性疾患の研究に大きく貢献し、様々な事実が明らかにされつつあるが、遺伝性疾患のハイリスク家族に対し、十分な情報が提供されているとはいえない。そのため、適切な遺伝相談専門のカウンセラーが遺伝相談について正しい知識を持ち、相談を必要とする人に適切なカウンセリングが提供可能な実施体制の整備・充実の方策を検討することは、重要な課題と考えられる。一方では遺伝相談には福祉の問題を伴うことも考慮しなければならない。そのために遺伝相談に対する全国的・地域的情報センターや遺伝相談に応じられる施設を整備し、国民の要望に応える組織化の具体的体制を検討することを研究目的とする。
研究方法
以下の項目についてそれぞれ検討する.即ち、現在遺伝相談を実施している施設の情報を知るために、全国の医療機関や保健所などにアンケート調査を実施してそれを集計分析し、遺伝相談の現状を把握する。遺伝相談施設を中心に遺伝相談並びに臨床遺伝学に関する情報の即時的提供を図るために、インターネット上に遺伝相談に関するホームページを開き、定期的な情報の提供や更新などを行う際の具体的な方法と経費の積算を行う。地域の中核センターとして、都道府県に1センターを設置する場合、その規模と規格並びに機能と経費をあらかじめ設定しておく必要がある。遺伝相談はプライバシーの保護がきわめて重視されるため、遺伝相談を実施するために設備の条件が求められる。カルテの保管も正しく行われている必要がある。地域に密着した一般病院での遺伝相談の内容の充実を図り、保険適用の基準となる内容を示す必要がある。また、遺伝相談の専門性を尊重するなら、ネットワークを確立する必要があり、それらの情報を各遺伝相談施設が入手できるようにしなければならない。遺伝相談を実施するための遺伝相談カウンセラーあるいはコーディネーターの養成が必要である.医師、保健婦の教育研修のみならず、今後様々な種類の専門職の教育も求められているので、何を教育するかを検討する必要がある。遺伝相談を福祉の立場から考えて、どのように情報を提供するかも改めて求められる課題である。また障害を持つ人やその家族は遺伝相談をどのように理解し、利用しようとしているかを知ることも重要である。また遺伝相談との関係において、出生前診断がどのように行われているかを明らかにしたい。遺伝相談は地域社会に潜在するので、その需要を出来るだけ明らかにし、遺伝相談サービスの普及と充実に資する必要がある。このような様々な問題点を分析する目的で、アンケート調査を中心にして研究した。
結果と考察
今回組織された研究班で、現在全国で実施されている遺伝相談に対しての様々な課題を調査し、検討した.過去20年間にわたって日本家族計画協会遺伝相談センターと日本臨床遺伝学会が中心になって継続してきた遺伝相談医師カウンセラーの養成の成果は必ずしも充分に満足できる状態とは云えないが、各地域において遺伝相談カウンセラーとして活動していることが明らかにされた。全国で300を越える施設が公式に遺伝相談を実施しており、既に地域におけるネットワーク化を計画している施設も存在した。遺伝相談を行っている施設で必要としている情報は、疾患別の遺伝相談施設リストや特殊な遺伝子診断の実施施設、地域の福祉施設、患者の親の会のことなど、実に様々な分野に及んでいた。遺伝相談には一人のカウンセラー、一つの施設では解決できない問題が含まれている場合が多く、そのためにもネットワーク化、それによる情報の交換などが非常に期待の高いものである。遺伝相談に対する需要の調査も重要な課題であり、保健婦を中心とした調査において、地域住民の人口1万人当たり5件前後の遺伝相談、あるいはそれを必要としている住民の存在が明らかにされた。潜在的な遺伝相談の需要はかなり多いものと想定された。従って今後も引き続き遺伝相談カウンセラーの養成、パラメディカルスタッフの教育、遺伝相談施設の充実が求められる。一方で、遺伝相談に対する地域住民の理解や認識は必ずしも十分とはい
えず、障害関係の施設における関係者の間でも認識が低いことが確認された。同様に出生前診断をどのように理解し、それを正しく実施していくための関係者間での検討も必要と思われた。
結論
遺伝性疾患の概念は拡大しつつあり、そのため遺伝相談は現在の医療体制の中で必要不可欠であり、遺伝相談を実施している施設の増加や内容の充実、カウンセラーの養成、地域の遺伝相談施設間のネットワーク化の推進は、至急に解決しなければならない重要な問題と考えられる。遺伝相談の内容は分子生物学の分野から福祉関係の問題まで広範囲に及んでいるため、様々な情報を提供する目的で地域のネットワーク化、全国に及ぶ中心的なセンターの設置は必要である。今回の調査で、全国の遺伝相談施設はかなりの範囲まで把握できたと考えられるが、調査の内容は日本臨床遺伝学会という一つの学会に偏ってしまった傾向は否定できず、遺伝相談の問題にも深く関係している日本人類遺伝学会の内容が汲み上げられていない懸念がある。遺伝相談の全国に及ぶ問題点の把握には、今後両学会が協力して調査研究を行う必要があるものと考えられる。

公開日・更新日

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