文献情報
文献番号
199701015A
報告書区分
総括
研究課題名
リプロダクティブヘルスからみた子宮内膜症の実態と対策に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
武谷 雄二(東京大学医学部)
研究分担者(所属機関)
- 寺川直樹(鳥取大学医学部)
- 田中憲一(新潟大学医学部)
研究区分
心身障害研究費補助金 分野名なし 事業名なし
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
0円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
子宮内膜症は良性疾患ではあるものの、女性に疼痛と妊孕能の低下をもたらすことにより、その社会生活に重大な障害を与える。これは患者個人の問題に留まらず、就労女性が増加し、少産化が進行している現代において、大きな社会的影響を及ぼしている。一方、近年、子宮内膜症は増加傾向にあると言われているが、これまでその実態は不明であった。そこで、分担研究「子宮内膜症の実態に関する研究」においては、(1)本邦において子宮内膜症患者数の実数はどの程度であるのか、(2)いかなる女性が本疾患に罹患し、具体的にどのような訴えがあるのか、(3)治療の実態はどうなっているのかという3点について、本邦における子宮内膜症の実態を把握することを目的とした。
また、子宮内膜症の確定診断は腹腔鏡検査によってなされるが、通常の診療においては、症状と診察所見および超音波断層法によって本症の診断がなされ、「臨床子宮内膜症」として取り扱われる。治療は薬物療法と手術療法に大別されるが、本症特有の疼痛と子宮内膜症性不妊症に対していかなる治療法が優れているか、いまだ解答は出されていない。そこで、分担研究「子宮内膜症の診断・治療に関する研究」では子宮内膜症に対して現在行われている診断・治療の予後調査から(1)臨床子宮内膜症の診断に際して最も適切な方法、(2)本症の治療にあたって最も優れた方法を導き出すことを目的とした。
さらに、子宮内膜症による不妊症の治療法は極めて多岐にわたっており、いかなる子宮内膜症の症例に、どの治療法をどのように適用していくかについては、明確な指針がないのが現状である。そこで、分担研究「子宮内膜症を有する不妊症の治療に関する研究」では、特に子宮内膜症に関連する不妊症の治療法の現状と、望ましい治療法について考察することを目的とした。
また、子宮内膜症の確定診断は腹腔鏡検査によってなされるが、通常の診療においては、症状と診察所見および超音波断層法によって本症の診断がなされ、「臨床子宮内膜症」として取り扱われる。治療は薬物療法と手術療法に大別されるが、本症特有の疼痛と子宮内膜症性不妊症に対していかなる治療法が優れているか、いまだ解答は出されていない。そこで、分担研究「子宮内膜症の診断・治療に関する研究」では子宮内膜症に対して現在行われている診断・治療の予後調査から(1)臨床子宮内膜症の診断に際して最も適切な方法、(2)本症の治療にあたって最も優れた方法を導き出すことを目的とした。
さらに、子宮内膜症による不妊症の治療法は極めて多岐にわたっており、いかなる子宮内膜症の症例に、どの治療法をどのように適用していくかについては、明確な指針がないのが現状である。そこで、分担研究「子宮内膜症を有する不妊症の治療に関する研究」では、特に子宮内膜症に関連する不妊症の治療法の現状と、望ましい治療法について考察することを目的とした。
研究方法
分担研究「子宮内膜症の実態に関する研究」においては、全国の医療機関10469施設より施設規模別に無作為に計787施設を抽出し、平成9年10月6日から10月31日の期間に初診、再診および入院したすべての子宮内膜症患者について調査票の記入を依頼した。これらの患者数から受療患者数を推定した。また、年齢、月経、妊娠分娩歴、現病歴、診断方法、治療方法に関する実態も解析した。
分担研究「子宮内膜症の診断・治療に関する研究」では、協力者の全国13施設において、あらかじめ作成した調査表に基づいて、術前に得られた自覚症状、診察ならびに検査所見と子宮内膜症診断との関連を前方視的に検討した。本研究成果の作成にあたっては、平成9年10月から12月までの3ヵ月間の集積症例を対象として解析した。子宮内膜症が存在した症例については、術後1ヵ月と12ヵ月の時点で自覚症状、診察ならびに検査所見を得て、行なわれた治療の有効性を評価することとした。
分担研究「子宮内膜症を有する不妊症の治療に関する研究」では、協力者の全国13施設において、平成6年1月から平成8年12月に施行された腹腔鏡で子宮内膜症と診断された不妊症症例を対象として後方視的解析を行った。腹腔鏡実施時、まず子宮内膜症の評価を行った後、術者の判断で各種の術式を施行した。術後は、ホルモン療法を適宜追加し、その後さらに必要に応じて一般不妊治療(排卵誘発十人工授精など)、体外受精・胚移植を行った。観察期間は腹腔鏡施行後より、1)臨床的妊娠の成立、2)患者側の治療打ち切り、3)平成9年12月のいずれかの時点までとした。
分担研究「子宮内膜症の診断・治療に関する研究」では、協力者の全国13施設において、あらかじめ作成した調査表に基づいて、術前に得られた自覚症状、診察ならびに検査所見と子宮内膜症診断との関連を前方視的に検討した。本研究成果の作成にあたっては、平成9年10月から12月までの3ヵ月間の集積症例を対象として解析した。子宮内膜症が存在した症例については、術後1ヵ月と12ヵ月の時点で自覚症状、診察ならびに検査所見を得て、行なわれた治療の有効性を評価することとした。
分担研究「子宮内膜症を有する不妊症の治療に関する研究」では、協力者の全国13施設において、平成6年1月から平成8年12月に施行された腹腔鏡で子宮内膜症と診断された不妊症症例を対象として後方視的解析を行った。腹腔鏡実施時、まず子宮内膜症の評価を行った後、術者の判断で各種の術式を施行した。術後は、ホルモン療法を適宜追加し、その後さらに必要に応じて一般不妊治療(排卵誘発十人工授精など)、体外受精・胚移植を行った。観察期間は腹腔鏡施行後より、1)臨床的妊娠の成立、2)患者側の治療打ち切り、3)平成9年12月のいずれかの時点までとした。
結果と考察
分担研究「子宮内膜症の実態に関する研究」では、195施設より3047名の子宮内膜症患者の報告を受け、そのうち2330名に関して調査票を回収した。その解析により、以下の結果を得た。
1)現時点における本邦の子宮内膜症受療患者は128,187人と推定された。
2)10歳~60歳の女性における受療率は人口10万対298人であった。
3)受療年齢分布において30~34歳の女性にピークが認められた。
4) 平均通院期間は660日であり、月に1~2回通院しているものが76%であった。2施設以上を受診した患者が半数に認められた。
5)受診患者の平均年齢は35歳であった。月経歴に異常を認めるものは少なかった。子宮内膜症患者のうち未経妊は51%、未経産は57%であった。
6)症状として月経困難症を訴えるものは88%であり、そのうち70%は鎮痛剤を必要とする程度であった。月経困難症を訴えるもののうち鎮痛剤を使用しても日常生活に支障を来す重症のものは18%であった。
分担研究「子宮内膜症の診断・治療に関する研究」では、腹腔鏡あるいは開腹により骨盤内が観察された451症例のなかで、子宮内膜症と確定診断された症例は167例(37.O%)であった。子宮内膜症の診断に際して重要な自他覚所見として以下のことが示された。
1)患者の背景因子として、年齢が若い、妊娠・分娩回数が少ない、不妊歴を有するが挙げられた。
2)子宮内膜症患者では、月経痛、性交病、排便痛、腰痛および不妊を主訴とするものが多く。自覚症状としては下腹痛、腰痛、性交痛および排便痛が挙げられた。なかでも、本症診断に際して下腹痛は最も有意な症状と考えられた。また、子宮内膜症の進行にともなってこれらの症状は増強することが示された。
3)子宮内膜症の内診所見としては、子宮可動性の制限、子宮後屈、圧痛、ダグラス窩硬結および卵巣腫大が挙げられた、なかでも、本症診断において圧痛の存在は最も有意な所見と考えられた。子宮可動性の制限、圧痛およびダグラス窩硬結を有する症例には、重症の子宮内膜症が存在する可能性が示された。
4)子宮内膜症の超音波診断には卵巣チョコレート嚢胞と子宮腺筋症所見が有用である。
5)子宮内膜症患者では血清CA125の陽性頻度が高い。
分担研究「子宮内膜症を有する不妊症の治療に関する研究」では、以下のことが示された。
1)初診から腹腔鏡実施まで(術前)の内膜症治療は少数例で、まず一般不妊治療を行い、これで妊娠しない症例で腹腔鏡を実施している場合が相当数みられた。
2)腹腔鏡下の卵巣内膜症性嚢胞の処置法については、放置が19.6%、吸引が18.6%、切開・蒸散が14.7%、エタノール固定が10.3%、嚢胞切除が36.8%と種々の方法が採られていた。
3)腹腔鏡から最終観察までの平均期間は14.O±10.8か月であり、この間の子宮内膜症治療としては、GnRHa、ダナゾールのホルモン療法が、23.6%の症例で追加されていた。
4)妊娠成立例は33.6%で、妊娠成立周期の治療は自然妊娠36.5%、排卵誘発12.7%、人工授精16.9%、体外受精33.9%であった。
5)腹腔鏡下手術手技と妊娠成績をみると、まず卵巣内膜症性嚢胞の処置では、嚢胞が存在しない症例と、存在するが放置した症例でそれぞれ周期妊娠率が2.42%、3.11%と差がなかった。さらに嚢胞の処置として、吸引、切開・蒸散、エタノール注入、嚢胞摘出の各術式後の周期妊娠率はそれぞれ、1.56%、3.79%、2.79%、2.00%と術式間において差を認めなかった。
6)卵巣・卵管周囲癒着の存在は、癒着がない場合に比して妊娠率を低下させるが、完全癒着剥離によって有意に妊娠率が改善した。腹膜の内膜症病巣でも同様に放置列に比較し完全焼灼例で有意に妊娠率が高値であった。
7)術後のホルモン療法の追加の有無と妊娠成績を検討すると、ホルモン療法施行例では、体外受精に拠らない妊娠率も体外受精の妊娠率もともに不良であった。
8)体外受精は、全体の33.4%に実施された。妊娠率は17.1%であり、本邦の体外受精全体の成績とほぼ一致していた。腹腔鏡後、通常の不妊治療を行った期間と、体外受精に移行してからの期間の周期妊娠率を比較すると体外受精実施期間の妊娠率が有意に高率であった。
1)現時点における本邦の子宮内膜症受療患者は128,187人と推定された。
2)10歳~60歳の女性における受療率は人口10万対298人であった。
3)受療年齢分布において30~34歳の女性にピークが認められた。
4) 平均通院期間は660日であり、月に1~2回通院しているものが76%であった。2施設以上を受診した患者が半数に認められた。
5)受診患者の平均年齢は35歳であった。月経歴に異常を認めるものは少なかった。子宮内膜症患者のうち未経妊は51%、未経産は57%であった。
6)症状として月経困難症を訴えるものは88%であり、そのうち70%は鎮痛剤を必要とする程度であった。月経困難症を訴えるもののうち鎮痛剤を使用しても日常生活に支障を来す重症のものは18%であった。
分担研究「子宮内膜症の診断・治療に関する研究」では、腹腔鏡あるいは開腹により骨盤内が観察された451症例のなかで、子宮内膜症と確定診断された症例は167例(37.O%)であった。子宮内膜症の診断に際して重要な自他覚所見として以下のことが示された。
1)患者の背景因子として、年齢が若い、妊娠・分娩回数が少ない、不妊歴を有するが挙げられた。
2)子宮内膜症患者では、月経痛、性交病、排便痛、腰痛および不妊を主訴とするものが多く。自覚症状としては下腹痛、腰痛、性交痛および排便痛が挙げられた。なかでも、本症診断に際して下腹痛は最も有意な症状と考えられた。また、子宮内膜症の進行にともなってこれらの症状は増強することが示された。
3)子宮内膜症の内診所見としては、子宮可動性の制限、子宮後屈、圧痛、ダグラス窩硬結および卵巣腫大が挙げられた、なかでも、本症診断において圧痛の存在は最も有意な所見と考えられた。子宮可動性の制限、圧痛およびダグラス窩硬結を有する症例には、重症の子宮内膜症が存在する可能性が示された。
4)子宮内膜症の超音波診断には卵巣チョコレート嚢胞と子宮腺筋症所見が有用である。
5)子宮内膜症患者では血清CA125の陽性頻度が高い。
分担研究「子宮内膜症を有する不妊症の治療に関する研究」では、以下のことが示された。
1)初診から腹腔鏡実施まで(術前)の内膜症治療は少数例で、まず一般不妊治療を行い、これで妊娠しない症例で腹腔鏡を実施している場合が相当数みられた。
2)腹腔鏡下の卵巣内膜症性嚢胞の処置法については、放置が19.6%、吸引が18.6%、切開・蒸散が14.7%、エタノール固定が10.3%、嚢胞切除が36.8%と種々の方法が採られていた。
3)腹腔鏡から最終観察までの平均期間は14.O±10.8か月であり、この間の子宮内膜症治療としては、GnRHa、ダナゾールのホルモン療法が、23.6%の症例で追加されていた。
4)妊娠成立例は33.6%で、妊娠成立周期の治療は自然妊娠36.5%、排卵誘発12.7%、人工授精16.9%、体外受精33.9%であった。
5)腹腔鏡下手術手技と妊娠成績をみると、まず卵巣内膜症性嚢胞の処置では、嚢胞が存在しない症例と、存在するが放置した症例でそれぞれ周期妊娠率が2.42%、3.11%と差がなかった。さらに嚢胞の処置として、吸引、切開・蒸散、エタノール注入、嚢胞摘出の各術式後の周期妊娠率はそれぞれ、1.56%、3.79%、2.79%、2.00%と術式間において差を認めなかった。
6)卵巣・卵管周囲癒着の存在は、癒着がない場合に比して妊娠率を低下させるが、完全癒着剥離によって有意に妊娠率が改善した。腹膜の内膜症病巣でも同様に放置列に比較し完全焼灼例で有意に妊娠率が高値であった。
7)術後のホルモン療法の追加の有無と妊娠成績を検討すると、ホルモン療法施行例では、体外受精に拠らない妊娠率も体外受精の妊娠率もともに不良であった。
8)体外受精は、全体の33.4%に実施された。妊娠率は17.1%であり、本邦の体外受精全体の成績とほぼ一致していた。腹腔鏡後、通常の不妊治療を行った期間と、体外受精に移行してからの期間の周期妊娠率を比較すると体外受精実施期間の妊娠率が有意に高率であった。
結論
子宮内膜症に対する全国規模の疫学調査は本研究が初めてであり、現時点における本邦の子宮内膜症受療患者は128,187人と推定され、10歳~60歳の女性における受療率は人口10万対298人であることが明らかとなった。また、平均31.1歳で発症し、平均32.5歳で診断を受け、受診患者の平均年齢は35歳であった。平均通院期間は660日、月に1~2回通院しているものが76%であった。
また、全国規模の多施設協同による前方視的研究において、手術症例を対象とした際の生殖年齢女性における子宮内膜症の頻度は37%と高率であることを初めて明らかになった。臨床子宮内膜症の診断にあたって、有意な症状、診察所見ならびに検査所見を提示することができた。
特に子宮内膜症を有する不妊症の治療として、まず腹腔鏡下に癒着剥離、病巣焼灼、腹腔内洗浄等の処置を十分に行うこと、腹腔鏡後はホルモン療法期間を置かずに早期に妊娠を積極的にトライすること、症例によっては早期に体外受精を考慮することが重要と考えられた。
本研究は現在も進行中であり、手術および薬物治療による本症の改善度判定は術後1年間の追跡調査によってなされる。その結果、どのような治療法が疼痛や子宮内膜症性不妊症を改善し、リプロダクティブヘルスの向上に役立つかを知ることができる。これらの研究成績は、子宮内膜症診断のガイドライン作成につながり、本症罹患女性のQOL改善に寄与するものと期待される。
また、全国規模の多施設協同による前方視的研究において、手術症例を対象とした際の生殖年齢女性における子宮内膜症の頻度は37%と高率であることを初めて明らかになった。臨床子宮内膜症の診断にあたって、有意な症状、診察所見ならびに検査所見を提示することができた。
特に子宮内膜症を有する不妊症の治療として、まず腹腔鏡下に癒着剥離、病巣焼灼、腹腔内洗浄等の処置を十分に行うこと、腹腔鏡後はホルモン療法期間を置かずに早期に妊娠を積極的にトライすること、症例によっては早期に体外受精を考慮することが重要と考えられた。
本研究は現在も進行中であり、手術および薬物治療による本症の改善度判定は術後1年間の追跡調査によってなされる。その結果、どのような治療法が疼痛や子宮内膜症性不妊症を改善し、リプロダクティブヘルスの向上に役立つかを知ることができる。これらの研究成績は、子宮内膜症診断のガイドライン作成につながり、本症罹患女性のQOL改善に寄与するものと期待される。
公開日・更新日
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