子どもの健康と栄養に関する研究

文献情報

文献番号
199701014A
報告書区分
総括
研究課題名
子どもの健康と栄養に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
足立 己幸(女子栄養大学)
研究分担者(所属機関)
  • 坂本元子(和洋女子大学)
  • 守田哲朗(川崎医療福祉大学)
  • 戸谷誠之(国立健康・栄養研究所)
研究区分
心身障害研究費補助金 分野名なし 事業名なし
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
0円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ライフスタイルや価値観の多様化や食環境の変化の中で、ひとりひとりの子どもが各々の生活の質(QOL)の向上につながる健康な食生活を営み、食生活習慣を確立することが望まれている。
本研究は,乳幼児の発育・発達に応じ、健康状態やライフスタイル、保育形態等に対応した栄養・食生活の在り方を検討し、その成果をふまえた実践的な食生活指導マニュアル(保育所給食を含む)並びに食教育の進め方(教材開発を含む)の枠組みの構築と実践事例の提案を行い、関連の行政施策や教育の資料に供する。
研究方法
次の4側面からの研究が計画された.総合討論で各研究のプロセスや成果を共有し合い、研究目的の中での各研究班の分担役割の確認を行いつつ研究を進めた。すなわち、
1.乳幼児の食生活習慣形成と食教育に関する研究(足立己幸)  
a. 乳幼児の食生活習慣形成のしくみを食教育や食環境との関連で明らかにし、その成果と現代社会における食教育へのニーズに対応した学習者参加の“楽しい食教育"の枠組を構築する。b.幼児,母親や家族、保育関係者等を対象とする食教育の実践事例(教材等)を分析し、対象や目的に合わせた食教育プログラムのマニュアルの基礎項目を抽出する。
2.乳幼児の栄養・食生活の在り方に関する研究(坂本元子)
栄養法別の離乳食の現状及び幼児の食物摂取の現状を全国数カ所の地域で調査し、幼児の食生活の現状を把握する。それに基づき、新しい幼児の身長別標準体重に添って、栄養所要量及び食品構成を策定し、特に保育所における給与栄養目標量を策定する現代の幼児の食の問題に対応した、食生活指導マニュアルを作成し、行政指導の資料に供する。
3.栄養法と健康,疾病に関する研究(守田哲朗)
? 国内外における母乳栄養の推進方策を検討し、わが国での活動に資する。?乳児栄養別に発育や罹患状況を再検討し、現時点における母乳栄養の有利性を検証する。?母乳中の有害化学物質について検討し、母乳の安全性を検証する。
4.アレルギー児の食生活指導の在り方に関する研究(戸谷誠之) 
我が国の母子保健ではこれまでに充分な指導指針等がみられなかった低体重児の発育に合わせた栄養補給の在り方、何らかの理由で身体・摂食障害を持つ児の食生活の評価や指導、或いはアレルギー児の食生活指導の在り方など、日常生活に密着した具体的な指導方針やそのマニュアル作成を目的として研究を行う。
結果と考察
1.乳幼児の食生活習慣形成と食教育に関する研究(足立己幸他):
食教育の食生活習慣形成に与える影響について発達学、教育学、食生態学の視点から同内容の文献や資料の分析により、「食教育」「食生活習慣」等の概念の検討をし、乳幼児期の特徴をふまえた幼児自身が食生活を営む力の形成を目指す、食教育の必要性と重要性が示された。
現行の食教育の報告書等214件の分析から、目的、方法、実施、評価等の内容があいまいでかつ一貫性がみられない例が多ことも明るみに出された。さらに保育所、幼稚園の保育関係者に対する食教育のニーズ調査(全園52園672名)から食教育への重要性の認識は非常に高いが、セルフ・エフィカシーと実践状況では低率でかつ対象とする食生活の視野が狭いこと、一方、食教育への関心が高い保育者は自己の食生活への態度においても積極性が高い傾向が示された。また、子ども主体の参加型の食教育への具体的な教育や研修へのニーズが高いことも示され、子ども自身、保育者自身の両面からの体系的な食教育の必要性が明らかになった。
2.乳幼児の栄養・食生活の在り方に関する研究(坂本元子他):
? 乳・幼児の食物摂取の状況について、保育園通園時、非通園時に焦点を当て、全国7ブロックを対象に調査し食事状況を把握した。?新しい幼児の身長別、標準体重に沿って、栄養所要量(エネルギー・たんぱく質)を策定し食品構成表作成の資料とするものである。?保育所における給与栄養量の課題に対し、給与の現状とその問題点や幼稚園における供与量と非通園時の摂取量についても検討した。
3.栄養法と健康、疾病に関する研究(守田哲朗他):
乳児栄養法と健康・疾病に関して、今日までの母乳哺育推進運動の流れを調査し、ついでアレルギー、身体発育値、外因性内分泌攪乱物質の面から研究を行った。?母乳栄養の推進に関する文献的考察を行い、この20年間の母乳率は45%前後と大きな変動がなく、これには社会環境因子の関与が大きいと考えられた。また、母乳育児サークルのアンケート調査では医療従事者側の問題点が指摘された。?乳幼児栄養調査やアトピー性皮膚炎実態調査の成績について、乳児期の栄養法とアレルギー体質の有無との関連を調査した結果、各月齢とも母乳栄養群が人工栄養群,混合栄養群よりアトピー性皮膚炎(または湿疹)を持つ者が有意に多かった。?国立岡山病院で出生して母乳栄養を継続でき、しかも当院以外(県外も含む)で乳児健診を受けた児と関西地区の病院で出生、乳児健診を受けた児の身体計測値は国立岡山病院の成績と大差なく、国立岡山病院の母乳栄養児を対象にした縦断的データから作成した乳児期の成長曲線は、今後、広く活用できることが示唆された。?母乳中に蓄積された外因性内分泌攪乱物質について文献的に調査し、問題点を明らかにした。また、母乳中の濃度を多成分同時に測定する方法を検討した。
4.アレルギー児の食生活指導の在り方に関する研究(戸谷誠之他):
本年度の研究課題は、1.低出生体重児の食生活指導マニュアルの作成に関わる研究、2.アレルギー児の食生活指導マニュアルの作成に関わる研究、3.身体活動の特に低い子どもの栄養素等の必要量の設定に関わる研究である。これらについて、9名の協力研究者とその共同研究者のご協力により低出生体重児の発育に適合した栄養給与目標と栄養と食生活についての一般用ガイドラインのとりまとめを計画した。また、本研究を遂行するための作業として基礎調査を行い修正月齢に見合った離乳の進め方について、アレルギー児の食事指導のポイントについて、摂食障害を持つ児の初期児指導のあり方等に提案した。
結論
以上本研究では、低体重児、身体・摂食障害を持つ児、アレルギー児等も視野に入れた乳幼児について、発育・発達に応じ、健康状態やライフスタイルに対応した「栄養・食生活の指導マニュアル」の必要性が、栄養法、食生活やこれらの形成の実態から明らかにされ、具体的な問題点が提示された。
この時期の食教育は幼児自身が発育・発達に対応した食生活を営む力を形成することを第一義的に検討することが重要である。このことに加えて保育者等への体系的な食教育の必要性も明らかにされた。

公開日・更新日

公開日
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更新日
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