文献情報
文献番号
199701013A
報告書区分
総括
研究課題名
乳幼児死亡の防止に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
田中 哲郎(国立公衆衛生院)
研究分担者(所属機関)
- 衞藤隆(東京大学)
- 宮坂勝之(国立小児病院)
研究区分
心身障害研究費補助金 分野名なし 事業名なし
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
0円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
わが国の乳児死亡率は世界で最も低くなったが、乳幼児の死亡数、死亡率は他の年齢階級に比べ低いとはいえない現状にある。その中で不慮の事故および乳幼児突然死症候群(SIDS)は乳児期の主な死因であり、保護者や保育園の保母などに対する啓発や健康教育により防止が可能とされている。このため、救急病院などに搬送された症例の調査や人口動態統計などを使用して実態を明らかにし、啓発・支援システムのあり方を検討することで、少子化社会における乳幼児死亡の低減を計るための基礎資料を得ることが本研究の目的である。
研究方法
SIDSに関しては、2つの全国規模の調査を実施した。一つは、乳幼児突然死症候群(SIDS)の疫学および育児環境(うつぶせ寝など)との関連を明らかにするため、総務庁より指定統計目的外使用許可(総承統333号)を得て、人口動態調査(指定統計第5号)の死亡票から約850例のSIDS死亡症例、出生票より同数の対照例を抽出し、平成10年1月、2月に聞き取り調査を実施した。同時に、SIDSの疫学的事項を検討するため、平成7年および平成8年の人口動態統計の磁気テープを使用し、解析を行った。また一方では、病院を基点とした突然死(SIDSを含む)および事故例について日本医師会、日本病院会、全日本病院協会の協力を得て、病院群輪番制に参加している病院および救命救急センターの3070施設に対して、平成9年11月から平成10年1月末までの3カ月間調査を行った。さらに、うつぶせ寝の生理学的意義の検討を行う前提で、神経病理学的、生理学的、疫学的手法による病因検討を行うと共に、徒に社会不安を助長することのない啓発の仕方や、現状で唯一の対応策と考えられる在宅呼吸心拍モニター開発の研究を行った。
また、SIDS調査研究と並行して、小児事故サーベイランスのあり方を検討するため、乳幼児健診時に自記式質問紙による小児事故の発生防止と事故体験に関する調査を実施し、乳幼児の生活の場での安全を中心に考察した。対象は、乳児健康診査、1歳6ヶ月児健康診査、3歳児健康診査に来所した乳幼児の保護者とした。板橋区では、乳幼児の事故防止を目的とした多面的な健康教育戦略として、乳幼児健診時の保健婦、環境衛生監視員の連携による健康教育、歯科健診、育児における保健婦による健康教育、児童館へ出向いてのミニ健康教育等が検討された。和歌山県においては、従来より実施してきた乳幼児健診における事故防止指導の内容の検討のため事故事例集を作成した。鹿児島県においては医師、保健婦等により構成される研究会を組織し、2市2町を介入群、他の2市6町を非介入群とした小児事故防止のための介入研究計画を策定し、昨年度に予備調査、本年度は介入前調査(全対象群)と保護者への安全チェックリスト、パンフレット、ステッカー等を用いて指導(介入群)を実施した。
また、SIDS調査研究と並行して、小児事故サーベイランスのあり方を検討するため、乳幼児健診時に自記式質問紙による小児事故の発生防止と事故体験に関する調査を実施し、乳幼児の生活の場での安全を中心に考察した。対象は、乳児健康診査、1歳6ヶ月児健康診査、3歳児健康診査に来所した乳幼児の保護者とした。板橋区では、乳幼児の事故防止を目的とした多面的な健康教育戦略として、乳幼児健診時の保健婦、環境衛生監視員の連携による健康教育、歯科健診、育児における保健婦による健康教育、児童館へ出向いてのミニ健康教育等が検討された。和歌山県においては、従来より実施してきた乳幼児健診における事故防止指導の内容の検討のため事故事例集を作成した。鹿児島県においては医師、保健婦等により構成される研究会を組織し、2市2町を介入群、他の2市6町を非介入群とした小児事故防止のための介入研究計画を策定し、昨年度に予備調査、本年度は介入前調査(全対象群)と保護者への安全チェックリスト、パンフレット、ステッカー等を用いて指導(介入群)を実施した。
結果と考察
平成7年のSIDSは579名で発生頻度は出生1000人対で0.49、平成8年は526名で発生頻度0.44となり、平成7年、8年共に乳児(0歳)死因順位の第3位であった。また、新生児期を除いた生後4週以降1歳未満の死因順位では、先天奇形に次いで第2位であった。SIDSは男児、複産、出生体重2500g未満、妊娠期間36週未満、母の年齢25歳未満、死亡月は12月から5月、死亡時刻は早朝4時から午前中、および第3子以降に多かった。また、保健婦による対面調査の結果、SIDSは対照児に比べ次の育児環境因子と関連が高かった。すなわち、寝かせ方についてはうつぶせ寝があおむけ寝に比べて多く、そのオッズ比は3.00、栄養方法については人工栄養児が母乳栄養児に比べて多く、そのオッズ比は4.83であった。喫煙については、両親共に喫煙していると多く、オッズ比は4.67であった。今回の調査結果より、SIDS児はうつぶせ寝、母乳栄養でない児、両親の喫煙により3.00~4.83倍多く発生すると考えられた。
上記と共に、神奈川県を対象に過去3年間の剖検率の推移およびSIDS発生の推移の検討を行ったが、この地区のSIDSの発生頻度は0.55であり、剖検率は年々増加して83%であるとの結果を得た。また、うつぶせ寝とSIDSの関連に着目して、名古屋市の1歳半健診時に、健康乳児の寝かせ方、体位の変化に関する調査を行った結果、寝返り可の乳児では、偶然にうつぶせ寝で発見される率が本来高いことが判明した。病因の検討では、うつぶせ寝がSIDSの危険因子となるかどうかが実験的に検討されたが、正常児の場合でも、わずかな咽頭刺激は口腔内への唾液の貯留や胃からの胃液逆流などで常に存在し脳幹機能と密接な関連を持つため、睡眠時の体位でどう影響されるかを検討することの有用性が示唆された。さらに、SIDS剖検例には、脳幹グリオーシスと呼吸中枢神経細胞科賦巣シナプスの発達遅滞があることが多いことから、上位の呼吸中枢の発達が検討され、SIDSの延髄の網様体、迷走神経核、中脳の中心灰白質にカテコラミン作動性ニューロンの機能低下が示唆された。また、上位の基底核のカテコラミン線維は生後2ヶ月以降のSIDS乳児で対照児より少なく、カテコラミン作動性ニューロンの上位への発達遅滞が示唆された。対応策の検討では、在宅モニターと救急蘇生教育との組み合わせが、当面は唯一の現実的な対応策と考えられた。
また、平成9年11月から3カ月間に病院で得られた6歳以下の未就学児の事故症例は14,612例(平成10年3月20日集計分)で、性別は無回答の100例を除いて男8,481例(58.4%)、女6,031例(41.6%)であった。傷病の程度は要入院が14,612例中476例(3.3%)で、入院期間は平均7.5日、重傷98例(0.7%)、死亡33例(0.2%)であった。後遺症の有無では、後遺症の可能性があるものは399名(2.7%)であった。今回の調査は傷病名、傷病部位、事故内容、発生場所、発生時の状況および保護者の状況等の項目について調査を行ったので、これらの結果を詳細に分析することにより、乳幼児の事故について、年齢別、場所別の実態とその防止策を検討して事故防止マニュアル等を作成すれば、年齢に応じた事故防止の保健指導が可能になると思われる。
健康診査を利用した事故のサーベイランスは、幼児では郵送費がかかるが、事故の発生情報のみならず保健指導上有用な情報を経時的に把握できると思われた。安全教育による介入方策としては、介入効果を短期間で評価することは難しく、総合的な事故防止対策の一環として安全教育を位置づけ、長期的に検討する必要があると思われた。効果的な支援システムのあり方については、1歳半健診受診児の保護者に対する調査から、浴室での事故は1歳を過ぎてからが圧倒的に多く、浴槽の高さが49cm未満の場合の方が50cm以上の場合より高頻度である等の特徴が認められた。実際の浴槽の高さは31~40cmにピークを認め、低い浴槽が普及している現状が明らかとなった
上記と共に、神奈川県を対象に過去3年間の剖検率の推移およびSIDS発生の推移の検討を行ったが、この地区のSIDSの発生頻度は0.55であり、剖検率は年々増加して83%であるとの結果を得た。また、うつぶせ寝とSIDSの関連に着目して、名古屋市の1歳半健診時に、健康乳児の寝かせ方、体位の変化に関する調査を行った結果、寝返り可の乳児では、偶然にうつぶせ寝で発見される率が本来高いことが判明した。病因の検討では、うつぶせ寝がSIDSの危険因子となるかどうかが実験的に検討されたが、正常児の場合でも、わずかな咽頭刺激は口腔内への唾液の貯留や胃からの胃液逆流などで常に存在し脳幹機能と密接な関連を持つため、睡眠時の体位でどう影響されるかを検討することの有用性が示唆された。さらに、SIDS剖検例には、脳幹グリオーシスと呼吸中枢神経細胞科賦巣シナプスの発達遅滞があることが多いことから、上位の呼吸中枢の発達が検討され、SIDSの延髄の網様体、迷走神経核、中脳の中心灰白質にカテコラミン作動性ニューロンの機能低下が示唆された。また、上位の基底核のカテコラミン線維は生後2ヶ月以降のSIDS乳児で対照児より少なく、カテコラミン作動性ニューロンの上位への発達遅滞が示唆された。対応策の検討では、在宅モニターと救急蘇生教育との組み合わせが、当面は唯一の現実的な対応策と考えられた。
また、平成9年11月から3カ月間に病院で得られた6歳以下の未就学児の事故症例は14,612例(平成10年3月20日集計分)で、性別は無回答の100例を除いて男8,481例(58.4%)、女6,031例(41.6%)であった。傷病の程度は要入院が14,612例中476例(3.3%)で、入院期間は平均7.5日、重傷98例(0.7%)、死亡33例(0.2%)であった。後遺症の有無では、後遺症の可能性があるものは399名(2.7%)であった。今回の調査は傷病名、傷病部位、事故内容、発生場所、発生時の状況および保護者の状況等の項目について調査を行ったので、これらの結果を詳細に分析することにより、乳幼児の事故について、年齢別、場所別の実態とその防止策を検討して事故防止マニュアル等を作成すれば、年齢に応じた事故防止の保健指導が可能になると思われる。
健康診査を利用した事故のサーベイランスは、幼児では郵送費がかかるが、事故の発生情報のみならず保健指導上有用な情報を経時的に把握できると思われた。安全教育による介入方策としては、介入効果を短期間で評価することは難しく、総合的な事故防止対策の一環として安全教育を位置づけ、長期的に検討する必要があると思われた。効果的な支援システムのあり方については、1歳半健診受診児の保護者に対する調査から、浴室での事故は1歳を過ぎてからが圧倒的に多く、浴槽の高さが49cm未満の場合の方が50cm以上の場合より高頻度である等の特徴が認められた。実際の浴槽の高さは31~40cmにピークを認め、低い浴槽が普及している現状が明らかとなった
結論
今年度の本研究班により、わが国でのSIDSの疫学および育児環境因子などの課題がほぼ明かになった。SIDS児はうつぶせ寝、母乳栄養でない児、両親の喫煙により3.0~4.8倍多く発生すると結論された。今後は、SIDSの病態の解明および家族や社会への育児関連因子の啓発方法等についてのより細かい検討が必要と思われる。
一方、平成9年11月から3カ月間に病院で得られた未就学児の事故症例は14,612例であった。調査は、傷病名、傷病部位、事故内容、発生場所、発生時の状況および保護者の状況等の項目について調査を行ったので、これらの結果を詳細に分析することにより、乳幼児の事故について年齢別、場所別の実態が把握できる。その上で、各事故の防止策を検討して事故防止マニュアル等を作成すれば、年齢に応じた事故防止の保健指導が可能になる。今後これらを乳幼児健診時に広く活用することで、より効果的な事故防止が可能であり、啓発にも役立つものと期待される。
一方、平成9年11月から3カ月間に病院で得られた未就学児の事故症例は14,612例であった。調査は、傷病名、傷病部位、事故内容、発生場所、発生時の状況および保護者の状況等の項目について調査を行ったので、これらの結果を詳細に分析することにより、乳幼児の事故について年齢別、場所別の実態が把握できる。その上で、各事故の防止策を検討して事故防止マニュアル等を作成すれば、年齢に応じた事故防止の保健指導が可能になる。今後これらを乳幼児健診時に広く活用することで、より効果的な事故防止が可能であり、啓発にも役立つものと期待される。
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