妊産婦死亡の防止に関する研究

文献情報

文献番号
199701012A
報告書区分
総括
研究課題名
妊産婦死亡の防止に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
武田 佳彦(東京女子医科大学)
研究分担者(所属機関)
  • 桑原慶紀(順天堂大学)
  • 村田雄二(大阪大学)
研究区分
心身障害研究費補助金 分野名なし 事業名なし
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
0円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
妊産婦死亡率は低下傾向にあるが、欧米諸国に比べて依然高率であり、分娩施設のマンパワーや検査機能の充実によりさらに低下させることが可能である。そのため、各都道府県の周産期医療体制を把握し、その地域の事情に適した周産期医療システムを整備するため、妊産婦死亡症例の登録管理システムを確立し、各都道府県の特性に応じた効果的な周産期医療の基盤整備を促進するため、周産期医療協議会を発足し、その役割を規定する。また、高齢妊娠の増加による合併症妊娠が増加しているため、血液、循環器疾患などの合併症を有する妊婦の妊娠、分娩管理方針を明らかにし、妊婦健診で行われている超音波断層法による胎児スクリーニング検査は周産期死亡率および罹病率の低下に役立っているかまた、ドプラーエコーの有効性について検討した。
研究方法
上記の目的を達成するため、分担研究班構成、すなわち(1)妊産婦死亡の登録管理の在り方に関する研究、(2)合併症妊娠の管理に関する研究、(3)胎盤形成障害と超音波診断に関する研究の3課題によって研究班を構成した。
(1)は、現在既に実質的に活動している各県の周産期医療協議会の産科責任者を中心に各都道府県の個別事情等を考慮した妊産婦死亡の登録管理のあり方いついて協議し、妊産婦死亡症例の登録漏れを減少させる方策、妊産婦死亡管理登録を総合周産期センターが実施することの是非、共通の妊産婦死亡調査用紙の作成について検討した。また、各都道府県の特性に応じた効果的な周産期医療の基盤整備を促進するために、周産期医療協議会の役割を検討した。(2)は主に血液疾患(特発性血小板減少性紫斑病、白血病、先天性凝固因子欠乏症)、循環器疾患(心疾患、頭蓋内血管病変)、内分泌疾患(糖尿病、甲状腺疾患)、腎疾患(腎炎、ネフローゼ、腎移植後、透析患者)、自己免疫疾患(全身性エリテマトーデス、慢性関節リウマチ、重症筋無力症)を有する合併症妊娠の転帰をretrospectiveに検討した。(3)は、妊娠中の超音波断層法による胎児スクリーニング検査項目のうち、妊産婦死亡の主要原因である母体出血をきたす前置胎盤に注目し、そのスクリーニング法、分娩時出血の予測、母体搬送のタイミングにつき検討した。
結果と考察
 1、登録から漏れる妊産婦死亡症例を少なくするため、地域特に保健所レベルで死亡診断書や人口動態統計を利用し検討することを提言する。また、将来的に総合周産期センターが全県に設置されたとしても妊産婦死亡の最終収容病院が必ずしも総合周産期センターではない可能性が高いが集積された症例の死に至るまでの過程を克明に調査することを主眼に置き、総合周産期センターの業務を充実し、社会の認識を広げることによって、妊産婦死亡の登録から漏れる症例の減少を計るべきと考えられた。
2、総合周産期センターが本登録事業の実施主体となるのが最も実践的且つ効果的であると結論された。この調査に関わる組織として、厚生省母子保健課が各都動府県の母子保健管轄部局に依頼し、各都動府県に設置済み、もしくは将来設置される周産期医療協議会が責任機関となり、各総合周産期母子医療センターに調査を指示するシステムが提言された。
3、本登録事業の遂行に不可欠な日本母性保護医産婦人科医会の協力を得るため、周産期医療協議会のメンバーとして産婦人科医会の代表者を加え、本登録事業の意義、重要性を認識してもらい、代表者を通じて産婦人科医会の理解と協力を取り付ける努力をすることとした。
4、症例の集積のために詳細なる母体死亡調査用紙を作成した。
5、周産期医療協議会の役割および機能を促進するための調査では、各都道府県の周産期医療協議会の設置状況は7都道府県に留まり全国規模の設置が早急に必要と考えられた。
第1に同じ県内にある周産期医療機関であっても設置母体の関係上、施設間に人員、設備の不均等がありこれらを調整し一定の医療水準を維持していく必要がある。特に総合周産期母子医療センターの指定基準は、人員、設備、病床数で決定されるがもう一つ重要なことに施設のQualityがある。周産期医療協議会において情報を収集し調査検討することにより施設のQualityを把握する必要がある。運営補助、総合周産期特定集中治療室管理料の適応などについても施設のQualityを加味して周産期医療協議会が柔軟に対応すべきである。
第2に都道府県の人口などを配慮して県内に均等に配置されるように複数の施設をセンターとして指定しその整備に援助することが必要である。
第3に周産期医療は、母体搬送、新生児搬送により行政区画を超えた医療圏が存在するので、隣県、近県の周産期医療協議会と密接に連携し広域な周産医療圏を確立する必要がある。
第4に周産期医療協議会設立が広がりをみせた時点で全国の代表者による全国レベルの周産期医療協議会を開催し共通の問題点を話し合う場を作っていくべきである。
6、合併症妊娠の管理に関する研究では、母体もやもや病などの頭蓋内血管病変、心疾患、腎透析、移植などの基礎疾患を有する婦人は、これまで妊娠は避けるほうが望ましいと考えられていたが、基礎疾患の管理、治療法また、産科的管理の進歩により継続する例が増えてきている。しかしながら、合併症妊娠は母児に対してハイリスクであり、妊娠を継続する場合には、患者からの十分なインフォームドコンセントを得る必要があり、妊娠管理は専門施設での管理が望ましく、例えば心疾患合併症妊娠に関しては、人口1000万あたりの高度循環器施設に周産期部門、NICUを加えた施設ェ必要と考えられた。
また、妊娠により初めて母体基礎疾患が発見されることもあり、適切な治療がなされなければ母体死亡になることもある。したがって通常の妊婦健康審査以外に、妊婦ドック的な全身チェックが行えるようなシステムも検討すべきであると考えられた。さらに、現在行われている妊婦健康審査では、見逃されやすい疾患があり、特発性血小板減少性紫斑病の発見のために、血小板数のチェックや、糖尿病に関しては、妊娠が負荷となって診断される例も少なくないため尿糖のみのチェクでは発見されないこともあり、血糖検査を行い、必要に応じて糖負荷試験を行うべきであると考えられた。
7、胎盤形成障害と超音波診断に関する研究では、経腹超音波断層法による前置胎盤のスクリーニングは妊娠継続期間を延長し、妊娠28週以前では、擬陽性の症例が存在し、妊娠32週以降では前置胎盤の診断が変更されたものはなかった。分娩時の出血量の検討では、前壁か後壁かにより帝王切開時の出血量に差はなく、帝王切開の既往がある前置胎盤では帝王切開時の出血量が多く2000mlを越える症例がほとんどであった。
前置胎盤の母体搬送のタイミングを帝王切開前の少量の出血(WB=warning bleeding)より検討するとWBの有無は帝王切開時の出血量とは相関がなくWBのあるもののほうが有意に早産になる率が高くなるため、WBのあるものはその時点で母体搬送するべきであると考えられた。
帝王切開時の出血量の予測にドプラーエコーとMRIの有効性を検討では、症例数が少なく出血量予測に対するスクリーニングの有効性は検討できなかったが、帝王切開時の出血量が多かった症例、特に癒着胎盤を合併していた症例では、内子宮口付近にlacna flowが観察された。また、MRIも癒着胎盤の診断に有用であと考えられた。
結論
妊産婦死亡の減少のために、各都道府県に総合周産期センターを早急に設立し、合併症妊娠などに迅速に対応できるように連携した広域な周産期医療圏を作り、総合周産期センターの業務を充実させその結果を医療行政に反映させる努力を行う。

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