ヘパリン起因性血小板減少症の診断基準確立のための研究

文献情報

文献番号
201128222A
報告書区分
総括
研究課題名
ヘパリン起因性血小板減少症の診断基準確立のための研究
課題番号
H23-難治・一般-066
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
宮田 茂樹(独立行政法人国立循環器病研究センター 輸血管理室)
研究分担者(所属機関)
  • 尾崎 由基男(山梨大学医学部 臨床検査医学)
  • 村田 満(慶応義塾大学医学部 臨床検査医学)
  • 松下 正(名古屋大学付属病院 輸血部)
  • 下川 智樹(帝京大学医学部 心臓血管外科)
  • 本川 哲(国立病院機構長崎医療センター 整形外科)
  • 伊藤 智範(岩手医科大学 循環器医療センター )
  • 宮城 直人(東京医科歯科大学医学部附属病院 心臓血管外科)
  • 河野 浩之(済生会熊本病院脳卒中センター 神経内科)
  • 宮田 敏行(独立行政法人国立循環器病研究センター 分子病態部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患克服研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ヘパリン起因性血小板減少症(HIT)では、ヘパリン投与が免疫学的機序を介してHIT抗体を誘導し、血小板、単球、血管内皮を活性化、トロンビンの過剰産生を来す。適切な診断、治療を行わなければ、発症患者の約50%が動静脈血栓塞栓症を来たし、約5%が死に至るとされる重篤な疾患である。HITの誤診断、特に過剰診断が患者予後に直結する重大な問題となっている。そこで、より的確な、特に特異度に優れた診断指針作成を目的とした。
研究方法
ヘパリンが多用される疾患群である、心臓血管外科、脳梗塞患者、整形外科患者症例を登録した多施設共同前向き観察研究の結果をシステマティックにレビューすると共に、HIT疑い症例の全国登録調査の結果も合わせて検討を行い、診断の特異度を向上させるための因子の抽出を行った。また、現在本邦で、HIT抗体検出のために一般的に行われている免疫学的測定法の特異度が低く、偽陽性が大変多いことが過剰診断を招く一因であることを踏まえ、より感度、特に特異度に優れた機能的測定法の確立を試みた。
結果と考察
4つの大規模臨床研究のデータ解析の結果、以下のような因子が重要であることが判明した。(1)免疫学的測定法による抗PF4/ヘパリン抗体のOD値がより高い症例(特にIgGのみを測定した場合)で、臨床的にHITらしい症例が多い(2)トロンビン・アンチトロンビン複合体などの凝固系マーカーの推移とヘパリン投与経過、血小板の推移、血栓症の発症を時系列で詳細に検討する(3)ヘパリン抵抗性による抗凝固作用不足の可能性を除外するため、APTTやACTが十分に延長しているか、アンチトロンビンが低下していないかどうかを検討する。
 これらの結果に基づき、感度を保ちながら、より特異度を向上させるHIT診断基準案をまとめた。また、HIT抗体により活性化された血小板から放出されるmicroparticleをフローサイトメトリーにて定量化する方法を開発した。今後、この機能的測定法を用いながら、診断基準案の妥当性をさらに検討し、確定させていく予定である。
結論
さまざまな臨床領域に渡る疾患群において実施された4つの大規模臨床研究の結果について詳細に検討し、より特異度を向上させる診断基準(案)を提案できた。今後、その妥当性についてさらに検討すると共に、関連学会に働きかけ、確定した診断基準を周知し、患者予後改善につなげる。

公開日・更新日

公開日
2013-03-10
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201128222C

成果

専門的・学術的観点からの成果
ヘパリン起因性血小板減少症(HIT)において、現在、過剰診断が患者予後に直結する重大な臨床上の問題となっている。その一因として、本邦で一般的に血清学的診断法として用いられている免疫学的測定法(2012年保険承認された)の特異度の低さが挙げられる。偽陽性が多いために、この方法に依存した診断は、過剰診断に直結する。本研究で、感度、特に特異度に優れた機能的測定法による診断法を確立できたことは、HITの適正診断につながり、患者予後改善に大きく貢献するものと思われる。
臨床的観点からの成果
HITの過少診断や過剰診断は、患者予後に直結する重大な問題である。本研究で、より特異度に優れた診断基準ならびにHIT抗体測定方法の確立に向けた成果を上げつつあることは、確度の高いHIT診断に直結する成果である。現在、HIT疑い症例の全国登録調査を実施しており、その中でHITに関するコンサルテーションにも対応している。2016年5月末までに全国370を超える施設から1050症例に及ぶコンサルテーションに対応しており、HIT疑い症例の予後改善に寄与している。
ガイドライン等の開発
従来広く用いられている臨床的HIT診断法である4T’sスコアリング法は、negative predictive valueに優れているものの、特異度が低いことが報告されてきた。本研究において、さまざまな臨床領域に渡る疾患群において実施された4つの大規模臨床研究の結果について詳細に検討した結果、特異度を向上させるHIT診断基準案をまとめた。本研究で、感度、特異度に優れたHIT診断法が確立できたことより、より確度の高いHIT診断基準の確立を目指し研究を進めている。
その他行政的観点からの成果
過去に、我々が中心となり実施した医師主導治験の結果を受け、2008年7月に本邦初のHIT治療薬として選択的抗トロンビン薬であるアルガトロバンが薬事承認された。さらに、2011年5月には、HIT患者の冠動脈インターベンションならびに血液透析の際の凝固防止薬として、適応拡大の薬事承認を得た。承認条件として全症例を対象に使用成績調査が求められている。本研究で実施している全国登録調査では、これに協力し、さらなる適正なアルガトロバン治療を推進している。
その他のインパクト
日本血液学会学術集会、日本輸血・細胞治療学会総会、TOPIC、日本透析医学会、日本心臓血管麻酔学会でHITに関する教育講演, シンポジウムを行い、日本麻酔科学会学術集会でもHITに関する話題を含んだ招待講演をおこなった。これらの講演等を通じ、適切なHIT診断、治療の啓蒙活動を継続している。また、国際血栓止血学会(ISTH)における国際的診断基準、治療指針の策定を目指したPlatelet Immunology部会のCo-chairmanを2015年から務めており、国際的HIT診断基準策定等にも携わっている。

発表件数

原著論文(和文)
1件
原著論文(英文等)
6件
その他論文(和文)
18件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
17件
学会発表(国際学会等)
8件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
2件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Aimoto M, Yamane T, Miyata S, et al.
Refractoriness to platelet transfusion in acute myeloid leukemia correlated with the optical density of anti-platelet factor 4/heparin antibodies
Int J Hematol , 98 (4) , 472-477  (2013)
10.1007/s12185-013-1427-4
原著論文2
Maeda T, Noguchi T, Miyata S, et al.
Impact of heparin-induced thrombocytopenia on acute coronary artery thrombosis in patients undergoing percutaneous coronary intervention
Thromb Haemost , 112 (3) , 624-626  (2014)
10.1160/TH13-11-0936
原著論文3
Okata T, Miyata S, Miyashita F, et al.
Spontaneous heparin-induced thrombocytopenia syndrome without any proximate heparin exposure, infection, or inflammatory condition: Atypical clinical features with heparin-dependent platelet activating antibodies
Platelets , 26 (6) , 602-607  (2015)
10.3109/09537104.2014.979338

公開日・更新日

公開日
2014-05-22
更新日
2016-06-13

収支報告書

文献番号
201128222Z