脳表ヘモシデリン沈着症の診断基準の構築と調査に関する研究班

文献情報

文献番号
201128218A
報告書区分
総括
研究課題名
脳表ヘモシデリン沈着症の診断基準の構築と調査に関する研究班
課題番号
H23-難治・一般-062
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
高尾 昌樹(地方独立行政法人 東京都健康長寿医療センター(東京都健康長寿医療センター研究所) 東京都健康長寿医療)
研究分担者(所属機関)
  • 百島 祐貴(慶應義塾大学医学部・射線診断科)
  • 山脇 健盛(広島大学大学院 医歯薬学総合研究科 脳神経内科学・神経内科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患克服研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
脳表ヘモシデリン沈着症は,感音性難聴,小脳失調,脊髄症状を主症候とし,脳表・脳実質のヘモシデリン沈着が原因不明に進行する疾患である.しかし,診断に至っていない症例も多いと推定され,研究班では,本症の既報告例をまとめつつ,診断基準を提唱し,その診断基準をもとに全国の施設へアンケート調査を施行,その上で診断基準を作成するとともにSHの実態を調査した.
研究方法
過去の学会報告,論文における症例報告に関し,網羅的検索を論文検索システムで施行し,研究者間で検討の上,臨床症候と診断に重要なMRI画像診断の種類,特に頭部あるいは脊椎MRIで,脳表における鉄沈着を示唆する所見の有無と部位,撮像シーケンス,機種,脊髄病変の有無,MRAによる脳血管病変の評価などを行った.他の検査所見として,一般採血,血清鉄,フェリチン,脳脊髄液の一般項目,鉄,フェリチンなどを検討し,班会議を開催し問題点を整理した後,暫定的診断基準(試案)を作成した.その妥当性を検討するため,全国大学医学部附属病院,主たる公的病院の神経内科,脳神経外科宛にアンケートを施行し,その上で本邦における実態を調査し,診断基準(指針)を作成した.研究期間が1年であり,年度内にデータをまとめ,日本神経学会で公表することを目標とした.
結果と考察
初発症状では小脳失調と感音性難聴が圧倒的に多く,続発症状として認知機能障害が多い.診断には,MRIによる画像診断が必須であり,その撮像条件としてT2,T2*は必須である.CTや低磁場のMRIでは診断に至らない可能性が高い.さらに,原因疾患として,脊椎・脊髄病変,特に硬膜病変が重要な役割を果していることも判明した.本症の原因として推察されている持続的なくも膜下腔への出血が確認されることは少ない.原因が判明し治療を行っても,一旦出現した神経症候の改善は困難で,効果的な内科的治療はないことから,診断基準(指針)による早期発見および,将来的には米国で導入されている鉄キレート剤投与の可能性も検討すべきであろう.また,剖検症例の検討から,鉄沈着に二次性の変化が加わり神経症候に関与する可能性も示唆されたことから,鉄と神経変性との研究への糸口となる疾患でもある.
結論
診断基準(指針)を提唱した.今後,本基準をもとに症例の蓄積と早期発見が期待され,治療介入の可能性も拡がるものと考えられる.研究班による報告を第53回日本神経学会総会シンポジウムで公開した.

公開日・更新日

公開日
2013-03-13
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201128218C

成果

専門的・学術的観点からの成果
脳表ヘモシデリン沈着症を,ヘモシデリンが小脳,脳底部,脳幹中心に沈着する古典型と,外傷などにより大脳の一部だけに沈着する限局型に区別した.MRIによる画像診断が必須で,診断基準(試案)を作成し,アンケート形式による診断基準の妥当性を検討した.特に原因として脊椎・脊髄病変,特に硬膜病変が重要な役割を果していること,一旦出現した神経症候の改善は困難であると考えられた.米国で導入されている鉄キレート剤投与の治療可能性が示唆され,稀少疾患であることも考慮し,本邦での投与可能性も検討されるべきであろう.
臨床的観点からの成果
脳表ヘモシデリン沈着症は,臨床的に古典型が多く主要な病態を占める.本疾患の確定診断には,MRIによる診断が必須であることから,画像診断に関して一定の撮像方法の指針を決定した.古典型の成因に関係する可能性のある脊椎・脊髄病変を精査することを盛り込んだことで,原因の発見,解明につながる可能性がある.剖検例の検索は1例にとどまったが,病理学的にも本疾患と神経変性や臨床症候に近づく成果を明らかにすることができた.鉄キレート剤を含めた治療要望があることを明らかにできた点も重要である.
ガイドライン等の開発
脳表ヘモシデリン沈着症は,明確な診断基準がなかった.特にMRIによる診断が重要であるが,特にその撮像方法の選択が適切でなければならない.その部分も診断基準(指針)に盛り込むことで,本疾患の診断率を今後向上できると考えられる.さらに,原因疾患の検索までも盛り込むことができ,今後症例の増加が予想される.
その他行政的観点からの成果
アンケート調査によると,多系統萎縮症や脊髄小脳変性症としてタルチレリン水和物が投与されている症例があった.そういった症例は特定疾患治療研究事業として申請されている可能性があるが,病態の類似性から治療の選択肢として考慮されるべきである.一方不十分な画像検査により,本症の診断に到達せずに,多系統萎縮症や脊髄小脳変性症と誤診されている症例が存在する可能性も否定できない.したがって,本診断基準により正確な診断に到達することで,小脳失調全般における適正な医療と医療費助成を含めた厚生行政に繋がる.
その他のインパクト
本症の原因として従来指摘されてきた,持続性のくも膜下腔への出血を確認できない場合も多いこと,剖検症例において,ヘモシデリン沈着部位の脳組織破壊が強く,かつタウやシヌクレインなどの沈着が認められることから,本疾患の症候には鉄沈着に伴う二次性変化の関与も示唆された.
本研究班の成果は,第53回日本神経学会総会(平成24年5月23日)や第55回日本神経病理学会のの鉄と神経疾患のシンポジウム(平成26年6月7日)において,本症も紹介し注目されつつある疾患である.

発表件数

原著論文(和文)
1件
原著論文(英文等)
8件
その他論文(和文)
5件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
1件
第52回日本神経病理学会
学会発表(国際学会等)
1件
第20回 国際神経学会
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
1件
第53回日本神経学会シンポジウム

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Masaki Takao, Shigeo Murayama, Youji Yoshida et al
Superfi cial siderosis associated with abundant tau and α-synuclein accumulation
BMJ case reports , 1-7  (2011)
原著論文2
高尾昌樹
Neuropathology of superficial hemosiderosis and neuroferritinopathy,脳表ヘモシデリン沈着症とNeuroferritinopathy の神経病理
臨床神経 , 52 (11) , 959-961  (2012)
原著論文3
Funabe S, Takao M,et al.
Neuropathologic analysis of Lewy-related α-synucleinopathy in olfactory mucosa.
Neuropathology , 33 (1) , 47-58  (2013)
10.1111/j.1440-1789.2012.01329.x

公開日・更新日

公開日
2014-05-22
更新日
2018-05-22

収支報告書

文献番号
201128218Z