GJB2変異による劣性遺伝難聴の全国的実態把握

文献情報

文献番号
201128213A
報告書区分
総括
研究課題名
GJB2変異による劣性遺伝難聴の全国的実態把握
課題番号
H23-難治・一般-057
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
伊藤 壽一(京都大学 医学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 北尻真一郎(京都大学 医学研究科)
  • 宇佐美真一(信州大学 医学部)
  • 四ノ宮成祥(防衛医科大学校)
  • 松尾 洋孝(防衛医科大学校)
  • 林野 泰明(京都大学 医学研究科)
  • 佐藤 宏昭(岩手医科大学)
  • 内藤  泰(神戸市立医療センター中央市民病院)
  • 暁  清文(愛媛大学医学部)
  • 大森 孝一(福島県立医科大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患克服研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
GJB2遺伝子変異による劣性遺伝難聴は、先天性難聴の主な原因と考えられている。本研究は日本人のGJB2遺伝子変異の種類と保因者頻度を全国レベルで確定する事を目的とする。
研究方法
全国の医療施設で、先天性難聴の遺伝子診断をインベーダー法により先進医療として行う際に、同意を得てGJB2遺伝子の全コーディング領域を直接シークエンス法で解析する。また、聴力正常な各地地域住民の健診において同意を得てGJB2遺伝子配列を解析し、日本人での各GJB2遺伝子変異の保因者頻度を確定する。
結果と考察
日本全国の両側感音難聴患者264例について解析した結果、約17%(46例)より変異が見出された。6歳未満に難聴と診断された群141例では38例(27.0%)にGJB2遺伝子変異が認められたが、6歳以降に難聴と診断された群100例では7例(7%)であった。これは、GJB2遺伝子変異による難聴は高度?重度難聴となるケースが多いことより、難聴の診断が早期になされるためであることが示唆される。見出される変異の内訳にとしてc.235delC変異が最も高頻度であり、日本人難聴患者におけるコモンミューテーションと成っていることが改めて示された。また、p.T8M、c.35insG、p.F106Y、c.511insAACG、p.C174Sの5種類の、先進医療のインベーダー検査に含まれていない新規遺伝子変異を見出した。欧米での変異のスペクトラムと日本人難聴患者における変異のスペクトラムは大きく異なっており、欧米人で最も頻度の高いc.35delG変異は1例も認められなかった。
健診時に得られた地域住民151例中、GJB2遺伝子変異の保因者は6例であった。この中で4例は既知の難聴変異である。他の2例はp.D2Nとp.E110Gという新規の変異であり、難聴の原因かどうかは結論できない。よって保因者頻度は4-6/151(2.6%?4.0%)と推定される。ただし151例の解析では不十分であり、これまでに収集した約800例の解析を現在進めている。
結論
全国の両側感音難聴患者264例のうち、約17%(46例)にGJB2遺伝子変異が見出され、日本人難聴患者における主要な原因であると確認された。日本人でのGJB2保因者頻度に関しては、今回検討できた範囲では約3%前後と推定されたが、さらに解析例を増やす必要がある。

公開日・更新日

公開日
2013-03-12
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201128213C

成果

専門的・学術的観点からの成果
難聴患者の解析により、p.T8M、c.35insG、p.F106Y、c.511insAACG、p.C174Sの5種類の新規遺伝子変異を発見した。また全国の両側感音難聴患者264例のうち、約17%(46例)にGJB2遺伝子変異が見出され、日本人難聴患者における主要な原因であると確認された。日本人で見いだされた変異の種類は欧米人のそれと大きく異なっており、高い民族特異性が示された。
臨床的観点からの成果
日本人において、GJB2遺伝子変異が難聴の主要な原因であることが示された。また、同じGJB2遺伝子の中でも、変異の種類によって難聴の程度は大きく異なっていた。最も高頻度で認められたc.235delC変異では高度?重度難聴であったのに対して、p.V37I変異では軽度?中等度の難聴であった。すなわち、難聴の原因診断としてGJB2遺伝子検査が有用であること、それにより見いだされる変異の種類により難聴の予後が予測できることが示された。
ガイドライン等の開発
GJB2遺伝子変異は日本人での先天性難聴の主要な原因であり、その変異の種類は予後判定に有用である。またGJB2遺伝子変異による難聴は人工内耳での聴覚獲得成績がよく、介入方法を決定する上でもGJB2遺伝子検査は有用と考えられる。本研究の結果をふまえて、先天性難聴の診断におけるGJB2遺伝子検査の推奨を議論してゆく。
その他行政的観点からの成果
先天性難聴者に対して、インベーダー法によるGJB2遺伝子を含む10遺伝子47変異の検索は、すでに先進医療として開始されていたが、今年4月に保険収載されるに至った。このように遺伝子検査の有用性を示す上で、本研究のデータは大いに貢献した。また本研究ではインベーダー検査に含まれない新規のGJB2遺伝子変異を5種類も見いだした。これらのデータにより、医療として行うGJB2遺伝子検査において検索する変異の種類をより最適化できる。
その他のインパクト
先天性難聴者に対する、GJB2遺伝子を含む遺伝子検査の有用性が認められ、今年4月に本検査が保険収載されるに至った。これにより低い患者負担で、遺伝子検査が広く行われるようになると見込まれる。これは社会的に大きなインパクトとなる。

発表件数

原著論文(和文)
2件
原著論文(英文等)
2件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
3件
学会発表(国際学会等)
1件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
1] Moteki H, Naito Y, Fujiwara K, et.al
Different cortical metabolic activation by visual stimuli possibly due to different time courses of hearing loss in patients with GJB2 and SLC26A4 mutations.
Acta Otolaryngol. , 131 , 1232-1236  (2011)
原著論文2
Usami S, Nishio S, Nagano M,et.al
Simultaneous Screening of Multiple Mutations by Invader Assay Improves Molecular Diagnosis of Hereditary Hearing Loss: A Multicenter Study.
PLoS one ,  (2) , 1-8  (2012)
原著論文3
宇佐美真一
難聴の遺伝子診断
日本臨牀 , 69 , 357-367  (2011)
原著論文4
宇佐美真一
難聴の遺伝子診断
Audiology Japan , 54 , 44-55  (2011)

公開日・更新日

公開日
2014-05-22
更新日
2016-06-13

収支報告書

文献番号
201128213Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
6,500,000円
(2)補助金確定額
6,500,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 3,385,587円
人件費・謝金 0円
旅費 130,980円
その他 1,483,457円
間接経費 1,500,000円
合計 6,500,024円

備考

備考
決算利息と解約利息が発生したため、差異が生じた。

公開日・更新日

公開日
2015-06-10
更新日
-