先天性ゲノムインプリント異常症8疾患と生殖補助医療の影響に関する研究

文献情報

文献番号
201128210A
報告書区分
総括
研究課題名
先天性ゲノムインプリント異常症8疾患と生殖補助医療の影響に関する研究
課題番号
H23-難治・一般-054
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
有馬 隆博(東北大学 大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 松原洋一(東北大学大学院医学系研究科)
  • 八重樫伸生(東北大学大学院医学系研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患克服研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
生殖補助医療(ART)の普及により、特定の一部のゲノムインプリント異常疾患の発生頻度の増加が世界中で注目されている。ARTが、ゲノムインプリンティングが確立する時期の配偶子を操作する事が原因であると推察されている。本研究では、インプリント異常症8疾患に関する実態に関する疫学調査とメチル化異常の頻度、程度に注目し、ART 治療内容との関連性について評価、関連がある場合は、そのリスク要因を明らかにする。Beckwith-Wiedemann 症候群(BWS)、Angelman 症候群(AS)、Prader-Willi 症候群(PWS)、Silver-Russell 症候群(SRS)、偽性副甲状腺機能低下症タイプIb (PHP1b)、クロム親和性パラガングリオーマ(PGL)、網膜芽細胞腫(Rb)
研究方法
療育センターや重症心身障害者施設を含む全国多施設の協力下、インプリント異常症8疾患に関する疫学調査(臨床像、治療内容、治療経過、合併症等)に加え、22領域のメチル化解析を行った。その結果を基に、発症機序と病態、治療実態について疾患毎にART 治療内容との関連について評価した。
結果と考察
調査対象施設総数3153のうち、1376施設から有効回答があり(有効回答率43.6%)、8疾患の報告患者総数は2837人であった。そのうちBWS、SRSの疾患は、それぞれ8.6%、9.5%が不妊治療を受け、平成17年度のIVF+ICSIの出生率0.86%を考慮すると、約10倍リスクが高い事が判明した。また75%以上の症例は体外受精(IVF)あるいは顕微授精(ICSI)によるものであった。DNAメチル化異常の頻度が、BWS60%、SRS 43%と高率で、またメチル化異常が複雑なパターンを示すことから、受精以降の異常であることが推測された。
結論
今回の解析では、ARTとの関連が深い疾患はBWSとSRSで、いずれもエピ変異の異常を示す症例が多く、メチル化異常が関わる事が判明した。また、複数領域のメチル化の解析から、複雑なメチル化異常のパターンが認められ、これらの異常は、配偶子形成過程の異常より、むしろ受精以降の異常が示唆された。つまり、受精卵培養や培養液、胚操作にリスク要因があると予想されるが、少数例のART患児と非ART患児の比較であり、今後、さらに症例を増やし、ARTによる疾患発症リスクについて評価し、結論付けたい。

公開日・更新日

公開日
2013-03-04
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2013-02-04
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201128210C

成果

専門的・学術的観点からの成果
我が国における不妊治療(ART)とインプリント異常症との関連を評価した。さらに、メチル化インプリント領域を明確にし、ARTによる患児の特徴を明らかにし、発症機序とARTリスク要因について考察した。これらの成果は、国内だけでなく、国際学会や国際的な雑誌に投稿し、掲載された。また、診断に用いるための、新規メチル化解析システムを開発し、国際特許の出願を行った。
臨床的観点からの成果
ARTとインプリント異常症の臨床症状を比較した。その結果、明確な違いは見られなかったが、非ART患者に比べ、ART患者は症状が多彩であった。ARTにより発症した患者の場合、典型的な症状とは異なり、軽微な異常も見られるため、新たな診断基準と治療法を設ける必要がある。ARTに関しては、現時点でリスク要因を特定する事はできない。しかし、受精卵培養や培養液、胚操作について、再考察すべきである。
ガイドライン等の開発
各疾患における診断基準に関して、ARTと関連する場合は、網羅的なメチル化領域の解析を行い、異常のパターン解析が必要である。申請者らは、診断に用いるハイスループット系新規メチル化解析法を開発した。多数例の解析結果より、ガイドライン、特にART出生児に関する診断基準の作成が急がれる。一方、ARTの治療内容についても、培養液、培養法、など再考が必要である。
その他行政的観点からの成果
ART と疾患との関連性、それに基づくリスク要因の特定は、今後のART 技術の向上に繋がり、比較的高額な不妊治療に加え、児の健康問題に不安を抱える患者に高度な医療を提供し、社会的にも意義は大きい。これらの資料を早急に集め、行政の資料として提示する。一部は、厚生省に報告している。日本生殖再生医療学会や日本不妊カウンセリング学会においても公開した。患者団体からも、資料の提示、相談を受け、患者の会にも参加している。
その他のインパクト
マスコミでは、2011,12,24体外受精児の追跡調査として、インタビューを受け、新聞掲載された。公開シンポジウムは、国内(第28回日本医学会総会(シンポジスト)、第11回学術集会日本不妊カウンセリング学会(特別講演)、日本生殖再生医学会・第7回学術集会(指定講演))また、非公開のセミナーとして、2回講演依頼され、発表した。国際学会にもシンポジストとして講演した。また、知的財産として、PCR-Luminex法による新規メチル化解析システムとしてPCT出願を行った。

発表件数

原著論文(和文)
5件
原著論文(英文等)
10件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
4件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
1件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Hitoshi Hiura, Hiroaki Okae, Naoko Miyauchi et al
Characterization of DNA methylation errors in patients with imprinting disorders conceived by assisted reproduction technologies
Human Reproduction , 27 (8) ,  2541-2548  (2012)

公開日・更新日

公開日
2014-05-22
更新日
2016-06-29

収支報告書

文献番号
201128210Z