偽落屑角膜内皮症の実態把握と診断基準確立のための研究

文献情報

文献番号
201128208A
報告書区分
総括
研究課題名
偽落屑角膜内皮症の実態把握と診断基準確立のための研究
課題番号
H23-難治・一般-052
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
大橋 裕一(愛媛大学 大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 井上幸次(鳥取大学 大学院医学系研究科)
  • 外園千恵(京都府立医科大学 大学院医学系研究科)
  • 天野史郎(東京大学 大学院医学系研究科)
  • 布施昇男(東北大学 大学院医学系研究科)
  • 相馬剛至(大阪大学 大学院医学系研究科)
  • 宮田和典(宮田眼科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患克服研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
落屑症候群:Pseudoexfoliation (PEX) syndromeによる角膜内皮細胞減少(偽落屑角膜内皮症:PEX内皮症)の実態についてはまったく解明されていない。本研究の目的は、日本におけるPEX内皮症の実態を調査し、診断基準を確立し、治療方針を提案することである。
研究方法
研究方法は、1)PEX内皮症の実態調査として、a)原因不明の水疱性角膜症の患者数に関する実態調査を行い、個々の症例の臨床・検査所見、診断と治療に関する情報を入手しレトロスペクティブ解析を行う。b)白内障術前患者の内皮細胞数を計測し、内皮細胞減少者の頻度・原因についてプロスペクティブな解析を行う。2)PEX内皮症の病態の解明に関する研究として、生態共焦点顕微鏡による組織学的検討を行う。
結果と考察
1)内皮症の実態調査において、a)病因別では内眼手術(41.5%)が最も多く、レーザー虹彩切開術 (LI)後(22.6%)、原因不明(14.5%)、感染、炎症(8.3%)、ジストロフィ(7.5%)、外傷(5.6%)であった。原因不明症例とされていた症例は30症例(14.4%)あり、その内で偽落屑症候群が認められた症例によるものは半数の15例(7.2%)を占めていた。b)内皮症の実態調査では、内皮障害(角膜内皮密度2000以下)を認めた症例は12例であった。原因別に分類すると、虹彩レーザー切開術後3例、コンタクトレンズ使用2例、炎症感染後2例、原因不明5例であり、原因不明症例中3例がPEXであった。2)内皮症の生態共焦点顕微鏡による組織学的検討では、角膜知覚:PEX眼、Fellow眼、正常眼はそれぞれ47.8±5.6mm、53.7±4.9mm、55.6±4.7mmであった。PEX眼はFellow眼(P =0.005)、正常眼(P <0.0001)より有意に低下していた。Fellow眼は正常眼より有意に変化はなかった(P = 0.378)。細胞密度では、PEX眼の上皮基底細胞、実質、内皮細胞の密度は有意に減少していた。
結論
PEXが角膜内皮細胞減少の原因となることが証明され、組織学的検討によりPEXは角膜内皮細胞のみならずすべての角膜組織に影響していることが明らかとなった。今後、大規模な検討が必要である。

公開日・更新日

公開日
2013-03-04
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201128208C

成果

専門的・学術的観点からの成果
PEX角膜内皮症の実態調査のためレトロスペクティブおよびプロスペクティブな解析・検討を行ったところ、原因不明とされていた内皮細胞減少例の約半数がPEXであることが判明した。また組織学的検討を行ったところ、角膜内皮のみならず、角膜全層にわたって偽落屑物質の沈着を認めたほか、角膜上皮、実質、内皮細胞のすべてにおいて細胞数が減少し、神経線維叢にも形態変化をきたしていることが明らかとなった。これらの結果より、PEX角膜内皮症の病態解明が一歩前進したといえる。
臨床的観点からの成果
正常眼に比較してPEX眼の角膜内皮細胞数が減少しており、これまで原因不明とされた水疱性角膜症の約半数をPEX角膜内皮症が占めることが判明した。これらの成果は専門領域の学会等で発表され、全国の眼科臨床医に対して、PEX角膜内皮症の存在を啓発した。PEXに伴って角膜内皮細胞が減少する危険性を周知することにより、本疾患の早期発見、早期治療に大いに貢献をしたといえる。
ガイドライン等の開発
本研究により、PEX眼における角膜所見の特徴が明らかとされ、特に、PEX眼における角膜内皮障害の重要性が浮かび上がった。ただし、本研究は小規模な試験的調査であったため、今後は大規模な調査の中でさらなるエビデンスを集積し、PEX角膜内皮症の的確な診断基準の策定が望まれる。
平成25年度厚生労働科学研究費補助金(難治性疾患克服研究事業)においてPEX角膜内皮症診断基準案を提唱した。
その他行政的観点からの成果
PEX角膜内皮症は進行すれば水疱性角膜症に陥るため、全層角膜移植(角膜内皮移植)しか治療法はない。本研究によりPEXに伴う角膜内皮障害が広く眼科医に周知され、PEX眼診察時における注意喚起が図られ、早期発見、早期治療、角膜移植症例の減少を通じて、医療費削減の視点から行政面でも貢献するものである。
その他のインパクト
PEX角膜内皮症に関する報告は過去に海外でわずか認められるだけであったが、今回の研究により、本邦においても広く本疾患が周知されることとなり、すでに専門学会などにおいてもいくつかの施設から報告がなされるようになった。本研究の報告・公表を通した地道な活動によりPEX角膜内皮症に対する眼科医の認識が高まり、眼科診療レベルの向上に多大な貢献をしたといえる。

発表件数

原著論文(和文)
2件
原著論文(英文等)
9件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
11件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Zheng X, Inoue Y, Shiraishi A, et al.
In vivo confocal microscopic and histological findings of unknown bullous keratopathy probably associated with pseudoexfoliation syndrome
BMC Ophthalmology , 22 (12) , 17-20  (2012)
10.1186/1471-2415-12-17

公開日・更新日

公開日
2014-05-22
更新日
2016-06-13

収支報告書

文献番号
201128208Z